《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》15

ロレンス・マートンとジルが出會ったのは、ジェラルドが対ラーヴェ帝國戦のために作った士學校にし前だった。

ジェラルドの婚約者になったジルはまず妃教育をけたが、ジェラルドは半年ほどで「君は淑より軍人に向いている」とさっさとジルの仕を決めた。ちょうどジェラルドは正規の軍の他に、王太子直屬の魔力の高い遊撃隊をしがっていて、その部隊長になってほしいと言われたのだ。そのときに副候補として、ジェラルドの部下だったロレンスと引き合わされた。

一緒に士學校へ學し、一年ほど叩き上げられて従軍した。異例の早さでの従軍は、開戦を見込んだジェラルドの意向である。

今思えば、ロレンスはジルの監視も兼任していたのだろう。ジルには――いや、誰に対しても一線引いたところがあった。

だがジェラルドの読み通り、卒業後一年とたたずラーヴェ帝國と開戦し、初陣と幾度かの戦場、死線をくぐりぬけながら部隊を作りあげた頃には、名実ともにジルの副になっていた。

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剣の腕はそれなりでも魔力量が平均値以下のロレンスは、クレイトスでは落ちこぼれだったが、魔力のなさを補ってあまりある知能と知識があった。いつも穏やかで人當たりのいい和な笑顔を浮かべながら、なかなか腹のを見せないロレンスに、貍軍師とあだ名をつけたのはジークだったか、カミラだったか。

それでもあの六年後の未來、ジェラルドよりジルを選んでいてくれたという確信がある。

だがそれはあくまでジルが彼と信頼関係を築いた未來の話であって、今は間違いなくジェラルドの部下だ。

その彼が今、ここにいるということは――。

(こいつ、間諜まがいの仕事までしてたのか! ジェラルド様の部下だったときの話、しくらい聞いとけばよかった……わたしの部隊、上過去を問わずだったから……)

ラーヴェ帝國出のカミラとジークの過去も、最近やっと知ったところだ。ちょっと大雑把すぎる人事をしすぎたかもしれない。

だが、後悔してもしかたない。そもそもこの主義で、一癖も二癖もあるこの男が聞いて素直に教えたとも思えない。

むしろ、ジルがロレンスの正を知っている分、有利に立ち回れることを考えるべきだ。

「ジル、か。確か、サーヴェル辺境伯のご令嬢が同じ名前なんだよ。知ってる?」

――いや、そうとは限らないかもしれない。

「へ、へー! そうなんですね、知りませんでした! ところで、他の方は?」

目線を泳がせながら答えたジルに、ロレンスは笑う。

「ああ。俺は一月ほど前の団なんだけど、最近めっきり誰もこなくなったな。そういう君はひとり? 他のひとは?」

「呼ばれてるひとはいましたが……やっぱりこれ、ふるい落としでしょうか?」

「小さいのに勘がいいね。でもちょっと違う。――時間だし、見回りに行こう」

噴水広場にある時計を見あげ、本を持って立ちあがったロレンスは、先に歩き出した。追いかけるジルに歩調を合わせながら、話を続ける。

「竜と相がいいと判斷された見習いは、竜の世話係を始めるんだ。一方、適が今ひとつと思われた見習いは、こうして街の警邏をさせて、土地に馴染ませる」

「土地に……馴染ませる?」

「これは座學もまじえた俺の持論だけど、竜の存在はラーヴェ帝國の領土問題だ。竜神ラーヴェの加護がある空の下でこそ竜は産まれ、育つ。魔力を嫌うって話だって、神話上は敵國のクレイトスに魔力の強い人間が多いから、防衛本能でそうなってるだけだろう。竜の火は魔力を焼き払うんだから怖がっているわけではないし、逆に言えば魔力がないからといって好かれるわけでもない」

「確かに……」

魔力のないお前が実際ここにいるしな、とは言わないでおく。

「だからこの街を守りたい、この帝國を守りたいという想いが強い人間――おそらく竜神ラーヴェの思想に近い人間に、竜はなつきやすい」

「はあ、なるほど、だから街の警邏なんですね」

ひとの顔を見て、街に著を持てば、竜との相も変化する可能があるということだ。

「持論だからあまり信頼度は高くないよ」

「いえ、わかりやすかったです。つまり國心の問題なんですね」

そうなると、ラーヴェ帝國の間諜にきたロレンスが、竜と相が悪いのは當然だ。

(まさか、わたしが嫌われるのもそのせいか? 別にラーヴェ帝國を攻めようとか思ってないが……過去やったことも関係してるとしたら……あー心當たりありすぎる)

何頭も毆りまくって撃墜したし、ラーヴェ帝國にも攻めった。エリンツィアが死亡し後継者爭いで混したこの城塞都市を占拠したことも、取り戻しにきたラーヴェ帝國軍と爭ったこともある。

すべて今はなかったことになっているが、ジルの記憶には殘っている。

「難しいですね……」

「君はやっぱり竜騎士になりたいんだ?」

「というより、金目の黒竜がしくて」

目を丸くしたあとで、ロレンスが弾けるように笑った。

「それはすごいな。まずさがすのが大変だ。ラーヴェ皇族でも會えるのかどうか」

「そういえば今、帝都のほうが騒がしいみたいですが」

世間話の素振りでそれとなくさぐりをれてみる。ロレンスはあっさり頷き返した。

「ハディス・テオス・ラーヴェが偽帝だっていう話だろう? 天剣が偽だとかで。諸侯は真偽を問いただすためにハディス・テオス・ラーヴェを目下捜索中だそうだが、実際はどちらにつくか決めかねて日和見するだろうね」

「えっそうなんですか?」

周辺諸侯はゲオルグの手に墮ちたとばかり思っていたジルに、ロレンスは苦笑いを浮かべる。

「みんな気にしてるんだ。ハディス・テオス・ラーヴェの二十歳の誕生日に、ゲオルグ前皇弟殿下が死になるか否か」

「あ……」

それは、クレイトス王國でハディスの呪いを噂でしか知らなかったジルにとっては、思いがけない視點だった。

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