《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》26

話はわかりました、と冷靜に応じたのはリステアードだった。

「ですがそのために、クレイトス王たるあなたがハディスに嫁ぐと?」

ひとまず話を軌道修正したリステアードに、フェイリスが頷く。

「それが最善と考えました。でなければまた爭いが繰り返されるでしょう」

「だが、さっきから話を聞いていると、あなたの獨斷のように聞こえる」

まだ神のだのなんだのという話に理解が追いついていないだろうに、リステアードは會話の流れをきちんとつかみ報を引き出してくれる。

「おっしゃるとおりです。わたくしは、兄がいない隙を狙って國から出てきました。兄が、ジルさまを追いかけてベイルブルグに向かった直後に。おそらく兄は今頃、わたくしをさがしているでしょう」

「あなたは病弱で、まだい。よくひとりで決斷なされたものだ」

リステアードは心する素振りで、さぐりをれている。だが、フェイリスはやましさのなさを証明するように、じない。

「はい。お察しのとおり、わたくしを手引きしてくださった方がおります。エリンツィアさまもご存じなので、近いうちにご紹介致しますね」

ジルの脳裏に、元部下の顔が思い浮かんだ。

(……ちょっと待て。ロレンスは今、ジェラルド殿下の部下のはず……)

正直、どこまでフェイリスの話を信じていいのかわからない。その間にも話は進む。

「このお話をけていただけるなら必ず兄は説得致します。――というか、そうせざるを得ない狀況にしてしまえばよろしいのです。たとえば、わたくしがハディス様と婚約することを先に公表してしまう」

そう言ってフェイリスはゆっくり手を前に出した。

なくとも、クレイトスと手を組んだのかと帝都ラーエルムは必ず揺します。その隙を突けば無駄なを流すことなく、無開城も可能なのではないですか?」

「そうなるとハディスは自國を敵國に売った皇帝という誹りを免れない」

「よき隣人。隣國ですわ、リステアードさま」

「あなたはしっかりなさっているからはっきり言わせていただこう。僕は叔父上の一件、クレイトスが――あなたの兄上が噛んでいるのではと疑っている」

ただの勘だがね、というリステアードにジルも心で同意する。だがその懸念も、フェイリスはあっさりけ流した。

「そうだとわたくしも思います」

「なら、ますます話がわからなくなるな。あなたは、兄上と対立なさるつもりなのか」

「止めにきたとおっしゃってください。兄がどこまで今回の件に関與しているかわたくしにはわかりません。ですが、ゲオルグさまを焚きつけたのが兄ならば、わたくしが出向けば必ず止まってくれます。兄はわたくしが敗殘者の婚約者になるなど、決して許しません。それはすなわち、ハディスさまを敗殘者にしないということです」

苦々しい気持ちになるが、ジルはフェイリスの言葉の意味を理解できた。

ジルの処刑を決めたときと同じだ。ジェラルドはフェイリスの名譽を穢さないことを最優先にしてく。ハディスとフェイリスが婚約すれば、ジェラルドはフェイリスを敗北した男の婚約者にしないためにく、ということだ。

「リステアードさまのおっしゃるとおり、兄がゲオルグさまの背後にいるならば、兄は即座にゲオルグさまから手を引くでしょう」

「……ではもし、クレイトス王國やジェラルド皇子が叔父上の背後にいなかったら?」

「それこそ兄がゲオルグさまを潰しにかかるでしょう、わたくしのために」

にこやかに伝えるフェイリスの話を、リステアードが不可解なものを見る表になる。エリンツィアが口を挾んだ。

「何より、叔父上は今のように強気でこれなくなるはずだ。兵力の差という、ハディスに対する圧倒的優位がなくなるのだから」

「それは……わかるが……」

「私は、フェイリス王の申し出を引きけるなら、喜んでハディスに味方をしたいと考えている。いちばん犠牲が出ずにすむからだ」

「返事は今すぐでなくてかまいません。わたくしも時間があるわけではありませんが、今、切迫しているのはみなさまのほうだと思いますので」

ですがと大人びた一呼吸を置き、王の顔でフェイリスは皆を見回した。

「今のみなさまの狀況と、わたくしの狀況、そして未來を解決する最善の手段だとわたくしは考えます。神のであるわたくしと、竜帝であるハディスさまが結婚すれば、うまくことをおさめられるのではないでしょうか。おわかりでしょう、ハディスさま。神の狙いは代々の竜帝――今この時點においては、他でもないあなたなのです」

ハディスはを引き結び、視線を斜めに向けて答えない。

気にした様子はなく、フェイリスは続けた。

「わたくしが信じられないという気持ちはわかります。わたくしたちはあまりにも互いにを流しすぎました。――ですが、だからこそ、ここで止めねばなりません。そうでなければ、いつまでも終わらない」

「だが……その、あなたはまだい。なのに政略結婚など……それでいいのか」

から出ただけであろうリステアードの質問に、フェイリスはよどみなく答えた。

などなくてもよいのです。わたくしのしあわせはそこにはないのですから」

神クレイトスの加護をける王とは思えない言い草だ。それとも、神だからこそ言える理なのか。

「そうだろうな、馬鹿馬鹿しい。帰る」

「おい、ハディス」

エリンツィアの引き止めなど歯牙にもかけず、ハディスが立ちあがってしまった。

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