《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》34

「つまり、こちらの向がクレイトスのジェラルド王子に伝わってるかもしれない――ってこと……!?」

カミラの確認にジルは頷く。ロレンスの辺についてはクレイトスで見たということで勝手に誤解してくれるはずだ。

カミラは天を仰いだ。お説教にる前のカミラの仕草だ。

「あのね、ジルちゃん。どうしてそういう大事なこと黙って――」

「でも、手は出さないでください。彼、お姉さんがいるんです。クレイトスの南國王の後宮に連れて行かれたお姉さんが」

クレイトスの南國王。その意味がわかったらしいカミラは気の毒そうに眉をひそめた。ロレンスの指摘どおりだ。

「それって……クレイトス南方にあるっていう、國王陛下の非公式の?」

「こっちでも有名なんですね。そうです。放置する分には安全、手を出すと暴れるクレイトスの南國王。ロレンスは出世してお姉さんをなんとかその後宮から取り戻すために、ジェラルド殿下の部下になったんです」

「……同はするけど、それはそれ。これはこれよ。フェイリス王はジェラルド王子に黙って和平にきたって話のはずなのに、それが噓か、そうでなくてもジェラルド王子の結局掌の上だってことじゃないの。ゲオルグ様のうしろにはジェラルド王子がいるかもしれないのに」

「でも、だからこそ彼はクレイトスに生きて帰ろうとします」

険しい顔をしていたカミラが、まばたいた。

「ジェラルド王子の手のを知っている可能の高い、有能な人です。しがみついて巻きこんでください。そうすれば彼は自分が生き殘るためにきます」

「……はあ……なるほどね。そういう使い方をしろってこと」

「そしてクレイトスに帰してあげてください」

「そっちが本音?」

カミラの問いにジルは答えられなかった。だってジルは知っている。

結局ロレンスは間に合わなかった未來を。

(だからって今、必死でやってるあいつを止めていい理由にはならない)

まだ數年ある。そして自分がここにいる以上、ロレンスはジルの副にならず、以前と同じ道は歩まないだろう。進む道が変われば、間に合うかもしれない。なくともジルがクレイトスで軍功をあげない分、狀況は大きく変わるはずだ。

を引き結んだところで、いきなり頬にぐいっとカミラの人差し指が沈められた。

「方向はわかったわ。でもねジルちゃん」

そのままぐりぐりとまわされる。

「そういうことは、早く、言いなさい? お姉さん怒るわよ?」

「す、すみません、言わなくてもカミラもジークもわかってくれるだろうと思って……!」

実際、カミラ達はロレンスから目を離さないでいてくれる。そう伝えると、元部下の中で気配りにかけては一級だったカミラは、指の腹で頬を押すのをやめてくれた。

「それなら許してあげるけど。報連相は大事よ。ま、いいわ、方針は了解」

「あっカミラ。ソテーたちはどこに?」

「大丈夫、ここよ。ほら」

ぽんとカミラが馬の鞍にさげた荷袋を叩くと、全的にヒヨコらしさが失われつつあるソテーが何事かと顔を出した。その足元に、くまのぬいぐるみの頭も見える。

「いざというときは使ってくださいね」

「わかっ……え、それはソテーも? ソテーも使っていいの?」

「くま陛下に刺激を與えないように、ソテー。起したら大変だから、今は待機だ」

ソテーはぴよっと鳴いて引っこむ。なんだか最近會話できているような応答が続くのは、気のせいだろうか。

荷袋とジルを互に見たカミラは、疲れた顔で今度は背後に回っていった。うしろからつけられていないかの確認に行くのだろう。

「僕のお嫁さんは々考えててすごいな」

ジルの頭に軽く顎をのせる形で、ハディスがささやく。ジルはちょっと首を持ちあげた。

「そういう陛下はわたしのすることをあまり止めませんね。どうして?」

それがハディスの意にかなっているから、などとジルは思っていない。金の目をした綺麗な竜帝は、いつだってジルを見ている。

おしく、観察するように。

そんなジルの懸念を、ハディスはあっさり肯定した。

「そうだなあ、君を見てたいっていうのが大きいかな……あんまり縛りたくないというか」

「わたしの打ってる手が間違いだとか、そういう不安は」

「ないよ。だって誰が裏切っても、結局最後に立っているのは僕だ」

運命や決意ではなく、ただの事実を告げる言い方だった。実際、かつてはそうだった。

兄を、姉を、叔父を父を弟を妹をすべて喪って、それでもこの皇帝は最後までひとりで立っていた。

(陛下はこの先で、誰が裏切ってもおかしくないと思ってる)

ぎゅっとジルはを引き結ぶ。忘れてはいけない。

この男をひとりぼっちで立たせないために、ジルは今、ここにいるのだ。

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