《やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中》37
場所こそ野営だが、いつもどおりハディスにぎゅうぎゅう抱きつかれながら寢て、いつもどおりハディスが作ってくれた朝ご飯を食べた。お晝ご飯だっていつもどおり。
ハディスは何も言わないし、ジルも何も言わない。すごいことだとジルは思う。
(陛下はたぶん、いつもどおりにするのがどれだけ大変なことか知ってる)
そしてそれを持続することがどれだけ困難か。
視界の悪い森を抜けると、いきなり木も何もない、土と石だらけのくぼんだ地面へ出た。ひらけた視界に戸っていると、先頭で案をしていたロレンスが振り返って言う。
「ここは以前、大きな川だったらしいですよ。でも川上の方角に竜の巣ができてから、せき止められて干上がったそうです。川の水がどうなったのかは竜の巣にらないとわからない。神ですよね」
観案のような説明をするロレンスに、リステアードが顔をしかめる。
「竜の巣はラーヴェ帝國にとって神聖な場所だ。勉強熱心なのは結構だが、観気分で近づくのは心しない」
Advertisement
「わかってますよ。今からこの乾いた川を竜の巣の方向へむかってのぼります。その先が合流地點になりますので、急ぎましょう。ここは遮るものが何もないので、できるだけ川岸にそって、木のに隠れるように移してください」
ロレンスの案で端によりながら、馬を進める。竜の巣はかなり高い場所にあるのか、乾いた川道は勾配になっていた。ジルはハディスに背中を預けてこっそり話しかける。
「陛下も竜の巣に行くのはだめって言われてましたもんね、ラーヴェ様に」
「本當は竜帝だから問題ないはずなんだけど……ラーヴェは過保護なんだよ。僕はちょっと新しい料理に挑戦したいだけなのに」
「わたしも挑戦してほしいですが、ラーヴェ様的にはだめでしょうね……」
「君も絶対だめだって言ってるぞ、ラーヴェが。おそろいだな」
ハディスはにこにこしている。ついジルも笑ってしまった。
「陛下とおそろいならしかたないです。竜の巣に乗りこんでの金目黒竜狩りは控えます」
「うん、ラーヴェが絶対るなってさっきからうるさい――」
ふとハディスが空を見上げた。遅れて、森側の木々がいっせいに斜めに揺れ、木の葉と大きな影が舞う。
「竜……エリンツィア殿下!?」
聲をあげたジルに、一行の足が止まる。ジルたちに気づいたらしいエリンツィアたち竜騎士団一行が合図のように一度旋回し、し離れた川上に竜をおろそうとしている。
昨夜、ノイトラールに向かって竜が飛んでいった報告はジルも聞いている。何かあったのかもしれないという張はすぐに周囲にも伝わった。
「目立たないように竜は使わないんじゃなかったのかよ。小隊できてんじゃねーか」
「それを看過する何か急ぎのことがあったんでしょ。――この先と合流するな、とか」
低いカミラの聲に、馬からおりたリステアードが言う。
「あれだけ竜がいると馬が脅える。ここに置いて近づくぞ」
「カミラとジーク、ロレンスは馬を見ててください。陛下はリステアード殿下たちと一緒にいてくださいね。わたし、先に行って話を聞いてきます」
遮蔽はないが、ここからでは聲も屆かない。馬から飛び降りたジルは、斜面を駆け出す。
豆粒ほどの大きさだったエリンツィアがすぐ見える位置になった。その背後にずらりと竜が並んで川の橫幅を塞いでいる。そこでいったん平らになるのか、背後は青い空が見えるだけだった。
懸念どおり、エリンツィアの険しい顔を前にして、ジルの背筋がびる。
「何かありましたか」
「ああ。……突然、すまない」
「いえ、昨日そちらへ竜が飛んでいったのは知ってます。ひょっとして――」
いきなり腕をつかんでエリンツィアに抱きあげられた。
瞠目している間に、首元に腕を回され、長剣の刃が押し當てられる。
「なっ――」
「ジル!?」
「くな、ハディス、リステアード!」
人質にされたのだ、とはっきり自覚したのは、エリンツィアたちの竜がいるうしろから兵が、そして川岸側の木々の中からも兵が出てきたときだった。
――囲まれている。
エリンツィアの腕を手でつかみ、ジルは今できる力一杯の魔力をこめる。だがばちりと音を立てて、弾かれてしまった。エリンツィアはラーヴェ皇族だ、魔力を持っている。以前のように不意をつけなければ、振りほどけない。
「……エリンツィア殿下、どういうことですか!」
「すまない、ジル。……本當に、すまない。でもわたしは……」
「何を謝る、エリンツィア。お前は正しいことをしているのだ」
うしろから真橫を通りすぎて歩く人に、ジルは顔をしかめる。
(ゲオルグ・テオス・ラーヴェ! じゃあ……昨日の赤竜は、まさかこいつ!?)
深紅のマントを川上からくる風になびかせ、ゲオルグが白銀の剣を振りかざした。銀の魔力が溢れる、本と見間違うような、しい偽の天剣。
それを振り下ろし、ぶ。
「全軍、突撃。この國を病ませる偽帝を捕らえよ!」
「陛下!」
んだ瞬間に、兵たちが雄びをあげてたった數人の集団に向かっていく。手をばそうとしたジルを抱きかかえて、エリンツィアが竜の鞍にまたがった。
「おとなしくしてくれ、無駄なを流したくないんだ」
「――っあそこにいるのはあなたの弟ですよ! それなのに」
「リステアードは殺されない! 叔父上は説得すると言っていた!」
「じゃあ陛下は!? 陛下はどうなるんですか! それともこれは、何かの作戦なんですか!?」
んだジルに、エリンツィアがを噛む。
その目が答えを、裏切りを、雄弁なまでに語っていた。
「すまない」
いつも読んでくださって有り難うございます。
ここからは日をあけての更新はやきもきするかなーと思うので、次回更新の水曜日からある程度きりのいいところまで毎日更新したいと思います。
ラストまで10日分ほど、ほぼほぼ休みなしになりますが、最後までおつきあい頂ければ幸いです。宜しくお願い致します~!
ドーナツ穴から蟲食い穴を通って魔人はやってくる
チェンジ・ザ・ワールド。 世界を変えたい! 若者達の強い想いが國を変えていく。虐げられていた亜人種が國を取り戻すために立ち上がる物語。 物語の舞臺は世界の最果てに浮かぶ大陸アニュラス。人間と亜人種が暮らす大陸である。 闇の集合體──突如、現れた時間の壁により大陸は分斷される。黒い壁は人々の運命まで変えてしまった。 ディアナ王女もその一人。他國王子と婚約儀の後、帰國できなくなる。 宿営中、盜賊に襲われ、従者のユゼフは王女だけ連れて逃げることに。同時に壁の向こうで勃発するクーデター。王女は魔物にさらわれて…… 成り行きで同行することになった元貴族だが、今は浮浪者のおじさんと共にユゼフは王女を助けに行く。
8 92キチかわいい猟奇的少女とダンジョンを攻略する日々
ある日、世界中の各所に突如として謎のダンジョンが出現した。 ダンジョンから次々と湧き出るモンスターを鎮圧するため、政府は犯罪者を刑務所の代わりにダンジョンへ放り込むことを決定する。 そんな非人道的な法律が制定されてから五年。とある事件から殺人の罪を負った平凡な高校生、日比野天地はダンジョンで一人の女の子と出會った。 とびきり頭のイカれた猟奇的かつ殘虐的なキチ少女、凩マユ。 成り行きにより二人でダンジョンを放浪することになった日比野は、徐々に彼女のキチかわいさに心惹かれて戀に落ち、暴走と迷走を繰り広げる。
8 180真の聖女である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】
【Kラノベブックス様より四巻が8/2発売予定!】 【コミカライズ、パルシィ様にて好評連載中】 「偽の聖女であるお前はもう必要ない!」 私(エリアーヌ)は突如、婚約者でもありこの國の第一王子でもあるクロードに國外追放&婚約破棄を宣告される。 クロードはレティシアこそ『真の聖女』であると言っていたが、彼女と浮気していたことも知ってたし、こちらから願い下げです。 だが、結界を張りこの國を影から支えてきてきた『真の聖女』である私を追放してしまって本當にいいのでしょうか? 多分……明日からドラゴンとか上級魔族が攻め入ってくると思うけど……まあ知ったことではありません。 私は王國を見捨てて、自由気ままに生きることにした。 一方真の聖女を失ってしまった王國は破滅への道を辿っていった。 ※日間総合1位、週間総合1位。ありがとうございます。
8 124異常なクラスメートと異世界転移~それぞれの力が最強で無雙する~
川崎超高校にある2年1組。人數はたったの15人?!だがみんながみんなそれぞれの才能があるなか主人公こと高槻 神魔は何の才能もない。そんな日常を過ごしている中、親友の廚二病にバツゲームで大聲で廚二病発言しろと言われた。約束は守る主義の主人公は、恥を覚悟でそれっぽいこと言ったらクラス內に大きな魔方陣?!が現れた。目覚めた場所は見知らぬ城。説明をうけるとここは異世界だと判明!!そのあとは城で訓練したりだの、遂には魔王討伐を言い渡された?!
8 130召喚された元勇者はこの世界に適応する
今まで平凡に生きてきた主人公『夜神明人』は、今日も朝から遅刻間際にクラスへと入った。そこで、待ち受けていたのは、異世界への召喚だった!召喚された世界では、魔王と言う絶対支配者に侵略されていない平和な世界だった。そこで、色々ハプニングなどありの異世界ファンタジー物語である。
8 115永遠の抱擁が始まる
発掘された數千年前の男女の遺骨は抱き合った狀態だった。 互いが互いを求めるかのような態勢の二人はどうしてそのような狀態で亡くなっていたのだろうか。 動ける片方が冷たくなった相手に寄り添ったのか、別々のところで事切れた二人を誰かが一緒になれるよう埋葬したのか、それとも二人は同時に目を閉じたのか──。 遺骨は世界各地でもう3組も見つかっている。 遺骨のニュースをテーマにしつつ、レストランではあるカップルが食事を楽しんでいる。 彼女は夢見心地で食前酒を口にする。 「すっごい素敵だよね」 しかし彼はどこか冷めた様子だ。 「彼らは、愛し合ったわけではないかも知れない」 ぽつりぽつりと語りだす彼の空想話は妙にリアルで生々しい。 遺骨が発見されて間もないのに、どうして彼はそこまで詳細に太古の男女の話ができるのか。 三組の抱き合う亡骸はそれぞれに繋がりがあった。 これは短編集のような長編ストーリーである。
8 161