「…………ふーー」

ソフィアの部屋を出てアランは深く息をついた。

それから先程、彼自から呼んでほしいと言われた四文字を、改めて言葉にする。

「……ソフィア」

の辺りで、じんわりと溫かくて、優しい覚が到來する。

だけではない。

顔の溫度さえも微かに上昇していた。

その事実に、アランは険しい表をする。

「…………」

今まで名前で呼ばなかったのは、意図的だった。

名前が持つ力は強大だ。

人と人との距離をめる手段の中でも、名前で呼び合うというのは強い部類にる。

故に、ソフィアと必要以上に距離を詰めないよう、呼稱を“君”としていた。

していたが、ああやって泣きそうな顔で懇願されると……斷る事など出來なかった。

そもそもの話。

「予想以上に、強くなってきているな……」

ソフィアに対する思いれの強さが、である。

ソフィアの一挙に、ひとつひとつの言葉に、どんどん惹かれていっている自分がいる。

まだ彼が來て二日しか経っていないのに、だ。

人間の壽命なんぞ比べにならないほど長い時を過ごしてきたが、これほどまでに自分のがされるのは、アランにとって初めてのことで。

戸いを隠せない、というのが正直なところだった。

「これは……よくない兆候か」

アランが自分自に課した掟。

“ソフィアを、本気で好きになってはならない”

その掟が、早くも揺らごうとしている。

それはアラン自、予想外のこと。

何百年という時をかけて強固なものになったはずの己の理が、ソフィアを前にするとひとたびスポンジケーキのようならかさになってしまうなど……。

──を持っている以上、好きという気持ちはそう簡単に抑えられるものじゃないのよ。薄々気づいているでしょう？

脳裏に過ぎる、シエルの言葉。

それを追い出すように頭を掻いた。

今はもう、これ以上考えないようにした。

「気を引き締めねば」

自分に言い聞かせるように言った、その時。

「何やらお疲れのようですね、アラン様」

不意にかけられた聲に顔を上げる。

黒いスーツを著こなした、ブロンドヘアの男。

額の上からびた鋭い一本ツノ、腰にはふさふさな尾。

「モーリス」

「次のご予定がございますので、お迎えにあがりました」

そう言って、ユニコーンのモーリスは恭しく頭を下げた。

思い返せば、彼がアランの書として仕えてからも長い時間が経つ。

それこそ、人間の壽命ひとりぶんくらいには。

「…………」

し考えてから、アランは口を開く。

「モーリス、お前に仕事を頼みたい」

「なんなりと」

「ソフィアに関する事なのだが……」

アランが口にした仕事の容に、モーリスはどこか楽しげな表を浮かべる。

「かしこまりました。お任せくださいませ」

「頼む」

阿吽の呼吸のようなやりとりに、アランは小さく頷くのであった。

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