《【書籍化・コミカライズ】竜神様に見初められまして~げられ令嬢は霊王國にて三食もふもふ溺付きの生活を送り幸せになる~》第44話 とんでもないちから

「わっ……」

火の水晶が、目を瞑っていてもわかるほどの輝きを発した事にソフィアは驚いた。

思わず水晶から手を離してしまう。

見ると、水晶はモーリスの手の上で太にも負けない勢いでピカピカピカーと輝いていた。

「あ、あの……」

あんぐりと口を開けてポカンとしているモーリスに、ソフィアは尋ねる。

「これは……その、適があった、という認識で良い?」

「えっ……? ああ、そう、ですね」

我に帰ったモーリスが慌てて眼鏡を持ち上げて言う。

「これほどの輝きは、今まで見たことがございません。ソフィア様は間違いなく、火の霊の適が高いと言えるでしょう」

「よ、よかったぁ……」

に手を當て、ほうっと息をつくソフィア。

とりあえず適無しの無能判定はされないようで、ソフィアは心の底から安堵していた。

とはいえ。

(火の、適かあ……)

ちょっぴり複雑な心境ではあった。

火ってなんとなく、扱いが難しくて危険なイメージがあったから。

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自分の格的には向いていないのでは、と思う部分もあった。

「いや、それにしてもとんでもない輝きですね……このレベルだと、王城に仕える火の霊魔法士並み……いえ、下手したらそれ以上の力を持っているでしょう」

「そ、そんなに……?」

昨日の一件と同じ、言われてもピンと來なかった。

ただただ困の聲をらすソフィアに、モーリスはどこか興した様子で提案する。

「一応、他の屬の適も調べてみますか」

「ええ、お願いしたいわ」

前のめりにソフィアは言う。

もしかすると、あと一つくらいは他にも適の屬があるかも……?

(流石に、それは無いか……)

自分の中に湧き出た期待をすぐに打ち消す。

期待はしない。

期待した結果、今まで何度も裏切られた來たのだと、ソフィアは自分にい言い聞かせた。

「クラリス、頼む」

「は、はい、ただいま」

一連の流れをぽかんとした様子で眺めていたクラリスが、次は白い水晶……風の水晶を持ってやってくる。

「ではお願いします、ソフィア様」

先ほどと同じように、水晶を持つモーリスにソフィアはこくりと頷く。

先程よりかは迷いのない作で、ソフィアは手を水晶に添え……。

ビカビカビカビカビカーン!!

「きゃっ……」

火の水晶の輝きと同じくらい、眩い輝きを放ち始めソフィアは仰天する。

「なっ……こ、これは……!?」

一方のモーリスは目をガン開いた。

「風にも適がある、という事でいいのかな……?」

「ええ、バッチリ適がございます。これで二種類ですね!」

「それって、結構すごい事?」

「本當に凄いです、ソフィア様! 適があるだけならまだしも、どちらもこれだけの輝きとなると……國でもそうそうおりませんよ……!!」

「そ、そうなの……そうなのね……?」

やはりピンと來ていないソフィアであったが。

どうやら二種類は適はありそうだと、嬉しい気持ちになって……。

(あれ……でも昨日、水の霊魔法は割とうまくいったような……)

ということは、もしかして、もしかすると。

「では次、水の水晶を……」

「こ、こちらになります」

モーリスもクラリスも、何やら言葉を震わせながら水の水晶を準備する。

また、同じように手を當てて、ソフィアは霊力を流し込……。

ビカビカビカビカビカビカビカビカビカビカーン!!!!!!!!!!

「これまでの數々の非禮をお詫びしたい。どうやら貴は稀代の天才のようだ」

とんでもない輝きを放つ水晶を手に頭を下げるモーリスはなんというか、とてもシュールな景であった。

「え、ええっ? 非禮なんて今までなかったような……」

今この時まで、モーリスが心でソフィアに対しどのような印象を抱いていたかなんて知る由もなく困するソフィア。

一方で、驚きを一周回って冷靜になったモーリスは、ソフィアに対し尊敬と畏怖の念を抱いていた。

(このほどの逸材……現時點でエルメルにいるだろうか……)

三種類に適がある者は、數人存在する。

しかしそれぞれの適がこれほどまでに強い者は……怪しい。

何はともあれソフィアは、エルメルの中でも替えの効かないとんでもない才能の持ち主、という事は確定的だった。

──ソフィアは莫大な霊力を持っていて、霊魔法に関してはとんでもない才能を持っている。

アランの言葉に対する疑いは、とうの昔に霧散していた。

(アラン様が私に、この大義を與えてくださった理由が……わかりました)

が、震える。

武者震いというやつだ。

これほどの才能を生かすも殺すも自分次第。

もちろん生かす方向に全力を盡くすが、ソフィアほどの霊力の持ち主なら、この先のエルメルに歴史を殘す存在になることは間違いない。

その確信があった。

「あの……一応、調べますか?」

クラリスが最後の水晶……土の水晶を差し出してくる。

「調べるだけ、調べてみますか……その必要はないでしょうけど」

流石の流石に三屬で打ち止めだろう、とモーリスは高を括っていた。

「四種類の適を持つなんて、聞いたことがありません。四屬の適があるというのは歴史を振り返って見ても時代に一人いるかいないか……それこそ“世界樹の巫”くらいですから……」

(世界樹の巫……?)

耳馴染みの無いワードに首を傾げるソフィア。

一方でクラリスは、その単語にごくりとを鳴らす。

(いやでも……まさか、ね……)

モーリスの背中に冷たい汗が伝う。

あり得ない。

そんなわけがない。

(そう頭では思っていても……もしかすると、ソフィア様なら……)

そんな予が、モーリスの脳裏に過った。

クラリスから土の水晶をけ取って、ソフィアに向ける。

「これが最後の一個です。よろしくお願いします」

「え、ええ……わかったわ」

ごくりと、息を呑む音が三人分聞こえる。

先ほどとは打って変わって尋常じゃないほど迫した空気の中。

ソフィアは水晶に手を當てて、霊力を流し込む。

──瞬間、ソフィアのに懐かしいような、溫かいような、心地よい覚が湧き出たかと思うと。

ぴかっと、先ほどとは比べにならないほどの、いや、もはや閃が弾けた。

悲鳴をあげる間もなく、ビシビシビシイッ!! と水晶に亀裂が走り。

「うおっ……!?」

「きゃっ……!!」

ばりんっと、真っ二つに砕けた。

モーリスの掌から、二つになった水晶が地面に落下する。

あまりに予想外の事で、モーリスは目の前で起きた出來事を現実と認識できず絶句した。

「ソフィア様!? 大丈夫ですか、お怪我はありませんか……!?」

「え、ええ……大丈夫よ」

すぐにクラリスがソフィアのそばにやって來て、手に怪我はないかを見回している。

幸い、ソフィアもモーリスも無傷だったが……。

「…………」

「…………」

「…………」

人は本當に驚く出來事が起こった時、聲を上げるのも忘れて黙ってしまうらしい。

その場にいた三人、誰一人としてしばらく言葉を発する事が出來なかった。

「……ご、ごめんなさい。高い品を、壊してしまったわ……」

最初に口を開いたソフィアのズレたコメントに、モーリスはずっこけそうになる。

を持ち直して眼鏡を持ち上げた後、狀況を整理する。

今まで眩いを発するだけだった水晶が、真っ二つに弾けた。

つまりそれは、ソフィアから流れる霊力に水晶が耐えられなかったという事。

俄には信じがたい。

水晶自の故障……も可能として考えたが、王城にて厳重に保管された一級品に限ってそれは考えにくかった。

起こった事をそのままけ止めるとつまり、これが意味する答えは……ソフィアは四屬全てに適がありかつどれも強大な力を持っていて、その中でも土の霊との適があり得ないくらい強い……などという、報告書に書いて提出したら「夢でも見てたのか」と怒鳴り返されそうなだった。

どこか震えた聲で、モーリスは尋ねた。

「ソフィア様は一……何者ですか?」

「さ、さあ……?」

國家の命運が掛かるほどの力を証明したにもかかわらず、どこにでもいそうなのような仕草をするソフィアに、モーリスは「どうしたものか……」と天を仰いでしまうのであった。

「面白い」「続きが気になる」「ソフィアちゃん……おそろしい子……!!」など思ってくださりましたら、ブクマや↓の☆☆☆☆☆で評価頂けると勵みになります!

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