《星の家族:シャルダンによるΩ點―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困する外科醫の愉快な日々ー》けれ準備
葬儀の翌日は、弁護士に連絡をしたり、子どもたちを引き取るにあたって必要な家や雑貨を思いつく限り手配した。
休日の部下たちにも協力を仰いだが、これはなかなかに大変な作業だった。
突然の俺の決意で、部下たちに反対された。
「部長! 無茶ですよ。部長は多忙もいいとこじゃないですか!」
電話で俺の右腕の副部長である一江がそう言った。
院長の蓼科文學にも報告すると、同様なことを言われる。
「お前のような人間が、子育てなどできるわけないだろう!」
全員の反対を押し切った。
無理を言って、部下の何人か、そして大學時代からの友人である花岡さんに家に來てもらった。
一江も文句を言いながらも來てくれた。
「一江、もう決まったことだ。グダグダ言うな」
「部長! お金はある人ですけど、が無いじゃないですか!」
「お前! 言っていいことと悪いことがあるだろう!」
「私たちみたいに毆ってたら、子どもの格ひねくれますよ!」
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「俺はいつも優しくしてるだろう」
「前に便に顔突っ込まれましたけど!」
「アハハハハハ!」
「……」
酷いことをする奴がいるもんだ。
どうでもいいことだが、うちの病院は普通の會社のように「部長」という役職がある。
第一外科部長というのが現在の俺の肩書きだ。
実際にはもう20個ほどもあるが、理事以外には病院外の肩書きだからあまり使う機會もない。
「石神くん、ダニエルの擔當者が午後に來てくれるって」
家の手配を頼んでいるのは、薬剤部の花岡さんだ。
薄い茶髪の長いストレートので、170センチを超える高長と整った顔立ちはスーパーモデルと周囲から評されている。
が大きい。
すごい。
病院でもファンは多い。
大學時代からの友人であり、何度か彼の自宅に行ったことがある。
実家が裕福だろうことはすぐに分かるが、部屋の落ち著いた家のセンスに心した覚えがある。
だから彼に頼んだ。
ダニエルというのは、橫浜に本店を置く高級家メーカーだ。
俺が勤める病院の近くに支店ができてから、結構利用している。
歐風の気品のある風合いが気にっているのだ。
この家を建てた時は別の調度品をれているが、今回は子どもたち用に、ダニエルを使うつもりだった。
「石神くんの家ってすごいよね。一何億円使ったの?」
「どうでもいいでしょう」
俺は苦笑いで応えた。
俺の寢室兼書斎の家はもっと凄い。
地下の音響裝置なども見せたことはないが、この家と同じくらい金を使っている。
「玄関の下駄箱なんかはスチールですけど、なんかカッコイイですよね」
第一外科部の部下・斎藤が花岡さんに言った。
斎藤はまだ醫者になって間もない二十代の男だ。
「あれはUSMという、世界的に有名なスイス製の高級家なのね」
花岡さんはよく知っている。
「食なんかは必要ないでしょうね。もう山ほどありますから」
ベテランの部下の大森が食棚をいくつか確認してそう言った。
彼は斎藤と同じ大阪大學醫學部卒で、斎藤の先輩に當たる。
「でも大森先生、今度來るのは小學生と中學生の子どもたちでしょう。石神くんの家のウェッジウッドとかクリストフルなんかでいいのかしら」
「そういえばそうですね。部長はどう思います?」
「そうだな。まあ、ちょっと子ども用に買い足すか。大森、三越の外商に連絡して、適當に見繕ってもらってくれ」
「分かりました!」
「ああ、あまりきちんと揃える必要はないぞ。子どもたちが來たら一緒に買いに行って、好きなものを選ばせてもやりたいからな」
「おーけーです」
大森は165センチほどの長で、大分太い。
重は90キロ程度か。
道部だったそうで、左右に揺れるような歩き方のせいもあって、迫力がある。
一江の親友でもある。
醫者としての能力はすこぶる優秀で、斎藤の教育係を任命したのは彼を信頼しているためだ。
外商の件も、問題なく説明してくれるだろう。
「ところで部長、腹が減りませんか?」
斎藤が遠慮なく言ってきたので、一江が頭を引っぱたいた。
俺はニコリと笑う。
俺の隣で外商と電話している大森の顔が、若干青くなった。
「そうだな。鰻でもとるか?」
「いいっすねぇ!」
大森の顔が更に青くなる。
目線で斎藤に何か訴えていた。
「花岡さんも鰻でいいかな」
「ええ、お願いします」
電話をしていた大森が後ろ向きのまま、震える指でOKサインをしてきた。
電話が終わったら注文するということだ。
やはり大森は優秀だ。
「ああ、俺と斎藤は二重天井にしてくれ」
注文を終えた大森が、スマホの畫面をいじくりだした斎藤の耳を持って、どこかへ連れ去った。
バスン、バスンと音が聞こえる。
斎藤が俺の前に來た。
「調子に乗ってすみません」
俺が獰猛に笑うと、斎藤の顔が引き攣った。
斎藤には主に荷の移をやらせた。
うちは13LDKという一人暮らしでは考えられない広い家だが、その分俺の様々な大量の品で、ややもすると手狹になりかけている。
一番多いのは書籍だ。ここに引っ越す際に引越し業者が面白半分に數えてくれたら、8萬冊もあったらしい。その後もどんどん買い漁っているので、今では10萬冊を超えている。
その他に映畫も好きなので、DVDやブルーレイなどのソフトが1萬ほど、音楽CDとレコードが合わせて5萬ほど。クラシックが多いが、ジャズも數千はあるだろう。
また服も多い。
服の専用の部屋があり、玄関のUSMの特注シューボックスには、200足の靴が収められている。
さらに品も數多くある。リャドとブラマンクの絵畫を中心に、平野遼やその他の日本の畫家。
またエミール・ガレなどのアールヌーボーの作家たちの作品や、マイセンの人形も結構ある。
池契月などの日本畫や、山岡鉄舟の書畫もある。
ある程度は整理して置いているつもりだが、何しろ一人暮らしで好き勝手に配置していたのだから、これから子どもたちと暮らすにあたって大移は必至だった。
ちょっとは隠さなければならないものもあったりする。
早く四人を呼んでやりたい。もうちょっと待っていてくれ。
亜紀ちゃんの泣き顔と笑顔がちらつく。
読んでくださって、ありがとうございます。
面白かったら、どうか評価をお願いします。
それを力にして、頑張っていきます。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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