《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第一話 魔王を倒したら婚約破棄された

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第一話

「ロメ、いや、ロメリア伯爵令嬢。君とはもうやっていけない。君との婚約を破棄する。國に戻り次第別れよう」

アンリ王子にそう切り出されたのは、念願の魔王ゼルギスを打倒し、喜びの聲も収まらぬ時であった。

よりにもよって今と言うか、だからこそというか、婚約破棄を切り出したアンリ王子のそばには、救世教の聖エリザベートと帰らずの森の賢者エカテリーナ。東方からやってきた剣豪の呂姫が並び立ち、同じ視線を私に向けていた。

私はしあきれた。魔王を倒したといっても、ここは敵地のど真ん中、悠長に話していい場所ではない。

だが幸か不幸か、今の私たちにはその余裕がしある。なら話すのもいいだろう。わだかまりを殘したままでは危険かもしれない。

「しかし王子、別れるもなにも、念願の魔王を倒した今、王都へ戻るだけなのでは?」

十年前、魔王を名乗るゼルギスの軍勢が我々のアクシス大陸に侵略してきた。

竜の末裔を名乗る彼らは、自分たちこそが大陸の覇者にふさわしいと、人類諸國家に対して宣戦布告をして侵略を開始した。

ゼルギスが出現して七年。強力無比な魔王軍により數多の國が滅ぼされ、戦火は我がライオネル王國にも迫った。

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このままでは王國は滅びると、十五になり、人の儀を終えたアンリ王子は単魔王討伐の旅へと旅立った。私は王子の婚約者として、止める両親の手を振り払い、王子に付き従い共に旅をした。

三年に及ぶ長い旅の果て、いくつもの山を越えて海を渡り、魔族が支配する魔大陸ゴルディアに足を踏みれた。そしてついに魔王を討ち果たした。

これで魔王軍は崩壊する。

魔王を倒すという悲願を達した以上、あとは國に、王都に凱旋するだけだ。

「そうだ、だが君を連れて王都に戻るつもりはない。國に戻れば我々は英雄として迎えられるだろう。そのために戦ってきたわけではないが、それだけの苦労を僕達は乗り越えてきた。でもロメ、君は何もしていないだろう?」

「そうよ、戦えず、ただ王子についてきただけのくせに」

「そうだ、足手まといだったくせに、いつも後ろからあれしろこれしろと、いい加減うんざりだった」

「伯爵令嬢だか何だか知らないけれど、今まで王子にどれだけ迷をかけてきたと思ってるの?」

王子の言葉を皮切りに、殘りの三人も一気に文句を垂れ始める。

半分ぐらいは事実だ。ここに來るまで私の仕事は渉や補給。進路の確認や確保が主だった。戦場で華々しく戦う四人のような力は私にはない。

王子からしてみれば、自分たちこそが英雄であり、私のやったことはわき役の仕事だったのだろう。

それに旅の最中は、口うるさく注意したので、嫌われていることには気づいていた。

「私たちの一存で、勝手に婚約を破棄していいのですか?」

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王族の結婚は政治的、軍事的なバランスの上に結ばれる。もちろん本人の意向もある程度は通るが、だからと言って勝手に判斷していいものではない。

そのことを指摘しようとしたが、聖のエリザベートが聖らしからぬ聲を上げた。

「はっ、そんなの親が勝手に決めたことでしょ。それに王子は以前の王子じゃないの。魔王を倒した英雄よ? 國の冴えない伯爵令嬢なんかじゃ釣り合わないって分からないの? 最後ぐらいを引きなさいよ」

がなにかを言っていたが、私は反応せず、ただ王子だけを見つめていた。

「王には殿下からこのことは話していただけるのでしょうか?」

「う、ああ。もちろんだ。重臣や國の者たちも、私から直接話そう」

王子の言葉に、私は素直にうなずいた。

正直、旅の途中から王子との心の距離は離れていた。

エリザベートが仲間になったころからそれは顕著であり、エカテリーナや呂姫が仲間に加わったころには決定的なものとなっていた。

もはや家を飛び出した時の熱は無かったが、それでもついていったのには理由がある。

「しかし、魔王を倒したとはいえ、王國には侵略のために遠征してきた魔王軍が殘り、魔王の魔力により兇暴化した、魔も多く殘っています。それらの討伐に私も同行しなくてよろしいのでしょうか?」

私がこの旅をつづけたのは、ひとえに村を焼かれ、殺され、奴隷とされた人々を救うためだ。

「はぁ? 何の役にもたたないあんたが?」

「荷持ちはもういらないの。いい加減に分かってくれない?」

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「貴方になにが出來るっていうのよ!」

三人がまくしたてるが、私は王子だけを見て返答を待った。

「大丈夫だ、心配されなくても、僕たち四人でやっていける。魔王だって倒したんだからな。魔族や魔なんて怖くもない」

魔王を倒した戦果を誇るが、果たしてうまくいくかな?

心の中で私は付け加えた。

私はなにも、殿下に対する心だけで旅についていったわけではない。もちろん最初はそれもあったが、足手まといになるぐらいなら、たとえが切られるような不安にさいなまれたとしても、耐えることこそ婚約者の務めだと考えている。

ただ王子が旅立つと知ったその夜。王子のために教會でお祈りをしていた時、天から荘厳な聲とともに一つの奇跡を與えられたのだ。

奇跡の名は『恩寵』。その効果は周囲にいる私の仲間に幸運と好調をもたらし、逆に敵対する者には不運と不調をもたらす。

自分自にはなに一つ効果を発揮しないが、王子たちは常にこの『恩寵』の恩恵にあずかっていた。

最初のころはの調子がいいことに驚いていたが、數日もすればそれが當たり前となり、気にもしなくなっていた。

しかし『恩寵』の効果は侮れない。

王子たちはすでに好調な狀態に慣れきっているが、敵対している相手にしてみれば、突然の不調に覚がついていかず、ミスが重なり本來の力を発揮できない。逆に好調続きの王子たちは勢いづき、結果として戦いの流れを引き寄せることが出來た。

その勢いにのまれ、魔王軍の歴戦の將軍や幹部、そして魔王ゼルギスでさえも抗いきれなかった。

だが私は『恩寵』のことをだれにも話していなかった。

『恩寵』の能力を考えれば話すべきではなかったし、何より力を授かった時、人に話すと能力が失われると天からの聲に念押しされたからだ。

「わかりました、王子がそう言われるのなら、國に戻り次第婚約は破棄しましょう。ただし、まずはここから出することです」

ここは魔族がひしめく魔大陸のど真ん中。首尾よく魔王を倒せたが、すべてはここから出できたらの話だ。婚約破棄の愁嘆場などしている場合ではない。

「王子は魔王の首を切り落としてください。倒した証明に持って帰る必要があります」

「あ? ああ」

首を持ち帰るという言葉にエリザベートが嫌悪を示すが、首級を持ち帰るのは當然のことだ。

鱗で覆われ、巨大な牙が並ぶ魔王の首を王子が切り落とす。

首だけになっても、竜の末裔に相応しい威容だ。しかし自を竜の末裔としておきながら、なぜ竜王ではなく魔王を名乗ったのかは不思議だが、何か理由でもあったのだろうか?

王子が首を切り落とす間、私は魔王がいた部屋をあさり、機から書類やら使っていたと思しき日用品を次々に袋にれていく。

「何あんた略奪なんかしてるの、そんなことしてる場合じゃないでしょ」

エリザベートが文句を言うが、している場合だ。

「貴方たちも手伝ってください。ああ、エカテリーナ。その魔王が使っていた杖は持って帰りましょう」

ゼルギスは魔王の名にふさわしく魔法をよく使い、巨大な杖を持っていた。骨をつなぎ合わせたような気持ち悪い杖だが、この世に二つとない造形だ。

ほかにも石のようなものや奇妙な道など、かさばらないものなら片っ端から詰め込んでいく。

「なぜこんなものを?」

「もちろん魔王を倒したことを印象付けるためです」

話しながら今度は魔王のをあさる。戦いのさなか転げ落ちた王冠や、ごつごつした指にはまっていた指、首飾りなども奪っておく。

「倒した証明など、この首一つで十分だろう?」

アンリ王子が話すが、私は首を振った。

「いいえ、そうはいきません。國の人間は魔王の顔を知らないのですよ? どうやってそれが魔王のものだと証明できるのです?」

「証明する必要などない。私が噓を言うわけがないだろう」

王子は人を疑うことを知らない。そして疑われるということも知らない。

「國の人間は王子の言葉を信じるでしょう。ですが魔王の死を広く外に示す必要があります」

魔王を倒しただけではだめなのだ。國の人間のみならず、國外の列強各國。アクシス大陸に侵攻してきている魔王軍にも魔王の死を伝えなければ意味がない。

首をさらすのは確かに効果的だが、すべての魔族が魔王と面識があるわけではない。地位の高い將軍ならば顔も知っているだろうが、大半の兵士は遠くから見たことがある程度。首級が本かどうかなどの真贋はつかない。

魔王のサインがった書類や手紙などはいい材料となるし、用の品があれば説得力が出る。

魔王の死をあさっていると、首から小さな袋を下げていることに気が付いた。袋の中には小さな印璽がっていた。

これは幸運。公式の書類に押す印璽ではないだろうが、離さず持ち歩いているということは、急を要する命令書や手紙。數多い書類を処理するための略式の印璽だろう。印璽としての格は正式のものと比べて落ちるが、その分使用頻度は高く、目にした者も多いはずだ。

印璽も奪っておき略奪完了。

「では逃げましょう」

私が満足すると、他の四人はやっとかと目を向ける。

確かにぐずぐずしている場合ではないが、幸いにも時間があった。

を抱えて奇妙な建部を進む。本當に奇妙なところだった。

り口付近まで移する間も、魔王を守る兵士とは一切會わなかった。

ここは魔王が住む城ではない。ゼルギスが建立した神殿の部だ。

魔王は時折この神殿に籠るらしかった。一度籠れば何日も出てこないこともあり、しかもその間、何者も近づけない。

魔王を暗殺するには絶好の機會といえた。

しかもゼルギスは昨日ここに籠り始めたばかり。魔王の死が気づかれるまで運が悪くとも數日、運がよければ一週間は気づかれないかもしれない。

その間に魔大陸から出してしまえば、追っ手を振り切ることが出來る。

すべては魔王の奇妙な行のおかげだ。てっきり神殿の奧底で怪しげな儀式を行い、邪神にでも祈りをささげているのかと思ったが、ここはとても宗教施設には見えなかった。むしろこれではまるで……。

考え事をしていると、前を走っていた王子と呂姫が、神殿の角で立ち止まり、手で示して注意を促す。耳をすませば角の向こうから足音が聞こえてきた。

敵兵!

敵の存在に心臓が高鳴る。巡回の兵士? 來たときはいなかった。だが兵士たちは奧まではらず、踵を返して戻ろうとする。

やり過ごせたことにほっとをなでおろしたが、なぜか王子と呂姫が刃を抜き互いにうなずきあっている。

ちょっと、待って。

止めようとしたが遅く、二人は飛びだし巡回の兵士たちに襲い掛かる。

魔王を守る鋭の近衛とはいえ、敵がいるとは思っておらず油斷していた。さらに王子と呂姫の剣の腕はまごうことなき一流、しさすらじる剣裁きで切り伏せ、二人組の兵士を音もなく瞬殺した。

「な、ばっ! どうして殺したのです!」

私は責めずにはいられなかった。

「何よ、倒したんだからいいでしょ?」

王子も呂姫も、不思議そうな顔をして糊を払う。

見つかったのならまだしも、巡回の兵士はこちらに気づいていなかった。うまくやり過ごせたし、場合によってはエカテリーナの魔法もあった。なのになぜ殺したのか。これでは私たちがいることがばれてしまった。

巡回の兵士が戻ってこないことに、他の兵士はすぐに気づくだろう。捜索が行われ、死を見て侵者がいると知り、當然すぐに魔王の安否を確認する。そうなれば魔王の死が見し、包囲網が作られる。

なぜそれがわからないのか。

王子もそうだが、特に呂姫は剣で事を解決しようとする。

敵がいればとりあえず斬り、倒してから考える。

瞬間的な判斷を必要とする戦場ではそれも一つの才能かもしれないが、斬ってしまうこと自が問題になる時は、この考え方が大問題になる。

だが今更言っても始まらない。とにかく一刻も早くこの場から立ち去らなければいけなかった。

「急いでここから――」

逃げようと言いかけたがもう遅かった、鳥の鳴き聲のような言葉が聞こえたかと思うと、爬蟲類の顔をした魔族が、私たちを見つけび仲間を呼んでいる。

ざっと見て十人以上の兵士たちだ。

持っていた槍を構え、集団になって突撃してくる。

「私に任せて!」

突然魔法使いのエカテリーナが杖を構えて前に出る。杖にはの玉が生まれ激しく発する。

お願い、裂魔法だけはやめて!

こちらも止めようとしたが間に合わず、願いは音にかき消された。

帰らずの森の賢者と呼ばれるエカテリーナは、高い魔力を持ち、強力な魔法を駆使する。

その威力は素晴らしく、十人の兵士を一度に吹き飛ばし、音は地平線のかなたにまで屆いただろう。

「楽勝♪」

踴るように杖を振り回す。

「それはいいから、早く無の魔法(セロファ)の魔法をかけてください」

エカテリーナは強力な魔法を使いこなすが、しかし彼の中で最も重要な魔法は、火を放つ灼熱魔法や電撃がほとばしる雷撃魔法ではない。

を魔法の力で包み込み、周囲から見えなくなる明化の魔法だ。

「なんでよ?」

「なんでって、あれを見ればわかるでしょう?」

私が指さす方向には、神殿の外から數百人の魔王軍の兵士がこちらに向かってきていた。発音を聞きつけやってきたのだ。

エカテリーナはいくつもの魔法を習得しており、その魔力も膨大だ。しかし森に籠り、実戦経験がこれまでなかった彼は、魔法の選択をしばしば誤る。

あんな大きな音を出せば、警備の兵だけではなく、周辺の兵士がここに集まることはし考えたらわかるはずなのに、なぜそのしを考えてくれない。

「ばれてしまっては仕方がない。僕があの敵を切り伏せる。さぁこい魔族共! 魔王を倒したこの私が相手だ」

王子はマントをぎ捨て、煌びやかな鎧を太に反させて剣を掲げる。

その姿はまさに神話に語られる英雄のごとき神々しい姿だったが、敵地に潛し、暗殺しに來たのに目立ってどうする。

それに私たちの姿を見せなければ、敵対していた魔族が魔王を暗殺した可能が殘ったのに、これで人間がやったこともばれてしまった。

私はすぐにマントを後ろからかぶせたが、もう遅いだろう、エカテリーナに指示する。

「早く魔法を。ここから逃げるんです。王子」

それでもなお戦おうとする王子を無理やり説得し、私たちはこの場から逃げ去った。

次回更新は三日後二十九日を予定

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