《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第十三話 魔討伐①
今日は書下ろし分多め
第十三話
十八の槍が天を突くように整列し、槍を抱えた兵士たちはじっと前を見據える。
見據える先には森が広がっていた。
固唾を飲んで森を見據えていると、森から梢をかき分ける音が聞こえ、小や小鳥が逃げ出す姿が見える。
森から黒い影が飛び出る。一瞬兵士たちがを固めたが、すぐに仲間の姿だと気づく。
馬に乗り森から飛び出してきたのは、囮を任せたアルだった。
森を突っ切ったため木の枝や葉っぱをに張り付かせ、まっすぐにこちらに向かってくる。
アルより遅れて數秒後、森からさらに黒い影が五つ飛びだしてきた。
巨を蹄で支えて突撃してくるのは、魔化した豬だ。
背中に縦縞の模様を持つ豬たちは、巣を攻撃したアルに激怒し、わき目も振らずに追いかけてくる。
「アルが逃げる場所を空けて」
整列していた兵士二人に命じて後退させ、陣形にをあけると、馬に乗ったアルがそのを駆け抜ける。
すぐにを塞ぎ、兵たちが豬を待ち構える。
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文字通り豬突猛進する豬は、私たちを見ても方向転換をしない、まっすぐにこちらに向かってくる。
私は距離を測り、十分に豬を引き付ける。
「倒せ!」
私の號令と共に、立てていた槍が一斉に振り下ろされ槍衾が形される。豬たちは方向転換もできず、自分から槍に突き刺さりに來る。
まるで崖から落ちてくる落石のような豬たちを、兵士たちが槍でけ止める
私なら到底支えきれぬ重量と速度を、兵士たちはわずかに後退するも支えきった。
豬の巨大な質量と速度の前に、何本かの槍が跳ね返されたが、集した槍に三頭の豬が串刺しとなり即死する。殘り二頭は致命傷とならず、槍の側にり込み首を振り、槍を跳ね返す。
だがそばにいた二人の兵士が見事な連攜を見せ、同時に槍を放つ。イノシシは逃げ場がなく、槍に貫かれる。殘りの一頭も兵士が慌てることなく槍を引き、突き刺して殺していく。
よし!
私は兵士たちのきに満足した。敵の突進にも怯まず、抵抗されても冷靜に対処できている。
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初陣からこれで四度目の実戦。経験を経て練度が上がってきている。
五頭の豬を皆殺しにした兵たちを見て、そばで馬に乗っていたレイが前に出たそうにしていた。
「落ち著いてください、レイ。戦いたいでしょうが、貴方には私を守ってもらわないと」
豬の突撃に騎兵は役に立てない。それに護衛としてだけではなく、何かあった時のためにも、手元に戦力は必要だ。
「そうだぜ、レイ。本番はここからだ」
囮として駆け抜けてきたアルが、馬を返して戻ってくる。
「やはりいましたか?」
「ええ、でっかいのが」
倒された豬たちを見る。すでに大人の豬と同じかそれ以上の巨だが、その背中には縦縞がある。
つまり、これでもまだ子供なのだ。
「レイ、手綱を頼みます」
私は馬から降り手綱をレイに渡し、腰のベルトに著けたポーチから丸いを取り出す。
それは布にまかれた球で、布を外すと奇妙な文字の札がられていた。札をはがすと、素焼きの球があらわになる。
落とさないように慎重に一つを右手に持ち替え、予備として左手にもう一つを握り締めておく。直後、靜かだった森が轟音と共にぜた。
兵士たちが轟音にをすくめてぜた森を見ると、枝や土、石が空に舞い散するなか土煙をかき分けて、黒い巨が姿を現す。
それは馬車ほどの巨を持つ豬だった。
全を針金のような獣でおおわれ、真っ白で巨大な牙が天を突くようにそびえたっている。漆黒の顔には殺意にまみれた赤い瞳で私たちを睨むと、數十本の角笛を同時に吹き鳴らしたような咆哮を上げる。
今倒した魔の母親だ。
私たちを見つけ、そして足元に転がる子供たちの軀を見た魔は、ただ殺意と怒りの塊となる。
「出た、三つ足!」
アルがぶ。言葉の通り、巨大豬には右前足がなく、三本でその巨を支えている。
以前、猟師が鋼鉄の罠を仕掛けたとき、その罠にかかったそうだが、件の豬は自分の足を引きちぎり逃走したという。
野生下で足を失えばふつう生きてはいられないが、三つ足は信じられない生命力で生き殘った。三日前には罠を仕掛けた猟師の家を突き崩し、家族全員を食い殺した。
子供たちを殺された三つ足が巨に似合わぬ速度で突進してくる。子供たちが落石なら、あれは崖を転げ落ちる巨石。いくら槍を並べても止められない。
だが私は逃げず、兵士たちは三つ足の巨に驚いてはいるものの、逃げない。
私は呼吸を合わせ、迫りくる三つ足に向かって右手に持っていたものを投擲した。
放線を描き空中を舞うのは、支給された虎の子の裂魔石だ。
魔石が突進してくる三つ足の頭部にぶつかる。陶が割れて黒い魔石の中が見えたと思った瞬間、衝撃で魔石が発し三つ足の頭部を吹き飛ばした。
発の衝撃で三つ足の突進が斜めにぶれ、そのまま地面に激突するように倒れこむ。
が浮くほどの衝撃がここまで伝わる。
倒れた三つ足に兵士たちから歓聲が沸き起こるが、喜ぶのはまだ早い。
「まだです、とどめを」
裂魔石が頭部の左で発し、三つ足の頭は皮が吹き飛び頭蓋骨まで出しているが、強固な頭蓋骨はひびがった程度で、脳は破壊されていない。発と衝撃で脳震盪を起こしただけだ。
今のうちにとどめを刺すように指示を出したが、直後、私の橫を一頭の馬が駆け抜ける。レイだ。
「レイ、ダメです」
び聲をあげながら、レイが槍を構えて突進する。だが音に意識を取り戻したのか、三つ足が突如目を開けて起き上がり、首を振り、巨大な牙でレイの槍を振り払う。
馬が驚き前足を上げて立ち上がり、はずみでレイが落馬する。
いけない。
予備の裂魔石を右手に持ち直すが、あの位置ではレイを巻き込んでしまう。
落馬し、餅をつくレイに三つ足が見下ろす。
「レイ!」
アルが飛び出し、三つ足に向けて槍を繰り出す。三つ足がアルに気づき、牙で槍をける。
アルが全の力を籠めるが、三つ足の首の一振りで、槍が弾き飛ばされる。
だがアルの行は無駄ではなかった。その隙に隊列を組んでいた兵士たちの中から、數人がいち早く飛び出し三つ足に向かう。
先行するのは二人の兵士。まるで鏡合わせのようにき、三つ足の左に回り込むと左前足の腕の付けに槍を突き刺す。
上手い!
あえて臓を狙わず、足の付けを突き刺したのは好判斷だ。臓や急所を貫いても、三つ足の生命力を考えれば、死ぬまでの間どれだけ暴れまわるかわからない。三つ足は右前足がなく左前足だけでの上を支えている。左前足の付けを突き刺され、勢が崩れた。
そこに遅れてやってきたのは、ずんぐりとした格の兵士だった。背は小さいがつきはがっしりとしており、全の力で三つ足のわきの下を突き刺す。
心臓のある位置を突き刺され、三つ足が痛みの咆哮を上げる。さらに続いて兵士たちが殺到し、いくつもの槍が臓に突き立てられた。
山の向こうまで聞こえそうな斷末魔を上げて、三つ足はその最後を迎えた。
明日も投降します。連休の暇つぶしにしてください
その次はちょっと休憩。三日開けます
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