《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第十八話 セルベクの誤算
第十八話
地方代のセルベクは、自室にある鏡の前で自の顔を見つめていた。
顔には管が浮き上がり、目は怒りに燃え、顔は憎悪に歪んでいた。
全ては一月ほど前にやってきたあの小娘が原因だった。
伯爵令嬢だかなんだか知らないが、突然やってきてやりたい放題。私を脅し兵と食料を奪っていった。
八つ裂きにしても飽きたらず、なぶり殺しにしてやりたいところだったが、何とか理で衝を抑え込んだ。
あのを殺すことなど簡単なことだ。
長年手塩にかけて作り上げたこの砦は、もはや私の王國に等しい。兵士は私に絶対の忠誠を誓い、領民達は皆が私の下僕だ。
たとえ伯爵の娘でもどうとでもできる。そもそもあのは親に見捨てられ、この地に流されてきたのだ。親族が訪ねてくるわけでも無いし、都に戻ることもない。
殺した後は、病死したことにしてもいいし、代わりのを見繕い幽閉してもいい。
だが奴が摑んでいる証拠の原本が問題だった。あれを奪わない限り、あのを殺すことは出來ない。
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その問題の原本だが、すでに奪う算段はついている。
兵を貸すことと引き替えに、あのには原本が公開されないように、手紙を書くこと承諾させた。その手紙はもちろん中を確認してある。
中は暗號で書かれていたため、そのまま出すしかなかったが、手紙を配達しているのは、子飼いの兵士の中でも手練れの腕利き。配達された手紙を追い掛け、原本を持つ者を見つけだし、必ずや奪取するはずだ。
原本さえ押さえれば、あとはどうとでもなる。問題はそれまでの間、原本を奪おうとしていることを、悟られてはいけないと言うことだ。
「落ち著け、落ち著くのだ。セルベクよ」
鏡の中の自分に言い聞かせる。このような兇相を浮かべていては、殺意があると相手に教えているようなものだ。
「笑うのだ、セルベクよ、笑え」
心にある怒りを隠し、へつらいの笑みを浮かべるのだ。
鏡の中の自分の顔が、徐々に和となり、丸みを帯びていく。
「そうだ、それでいいセルベクよ。こびへつらうことは恥ずかしいことなどではない。心の怒りと復讐する気概さえ忘れなければそれでよいのだ。連中は私を蔑むだろうが、笑わせておけばよい。連中が笑っている間に、策を練り準備を整えて機をうかがうのだ」
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下級役人の息子として生まれた私は、頭を下げてばかりの父を見て過ごした。
父は頭を下げるだけで何も出來ない腰抜けで、最後には汚職の濡れを著せられ、処刑された。
父の死後、汚職役人の家族として辛酸をなめ、母も兄弟もゴミのように扱われ、殺されるように死んだ。
私は生きるためにそれこそ何でもやった。家畜同然の扱いをけ、この世のあらゆる暴力と侮辱をけた。それでもなお私はこびへつらいの笑みを浮かべ、ゴミのような食事を恵んでもらい命をつないだ。復讐するためには、生きていなければできないからだ。
私は徹底的に無害を裝い、自分を踏みつけ見下した者たちを油斷させた。そしてだまし、罠にかけ、寢首をかいた。邪魔者を葬り去りライバルを失腳させ、この地位にまで昇り詰めた。
だがここが終點ではない。自分はこんな片田舎の代で終わる人間ではない。
私は飛躍する。ここで財を集め中央に働きかけ、この國の中樞に食い込み、今まで私を見下してきた奴らに復讐してやるのだ。
「そうだ、まだまだ私には先がある。未來がある。ここで終わりなのではない。これは試練なのだ。さぁ、笑え。笑うのだ、セルベクよ」
心を隠し、完璧なへつらい笑みを浮かべるのに功した。
笑いつつ、けなさをじさせる表。長年訓練することで作り上げた、見る者に優越を與える笑顔だ。
この笑顔を見せれば、どんな者も私を侮り、油斷と隙を見せる。
そして私を無視するようになった頃に、のど笛に食らいついてやるのだ。
それに、聞けばあの、魔の討伐に出かけて、大きな損害を出したと聞く。
死者こそ出ていないものの、半數が負傷し、自も深手を負ったとか。
やはり。軍事行など出來るわけもなく、たかだか魔の討伐に手間取り損害を出した。
自分でやると言い出して、このザマとは笑える。
兵達ものわがままに付き合わされて、いい迷だろう。
しかしこの狀況は使える。
ここは逆に、失敗して帰還した連中をめてやろう。わずかな戦果と武勇を大げさにたたえてやれば、意気消沈してきたはそれで機嫌を直すだろうし、兵達も私に忠誠を誓うはずだ。いざあのを殺すときには、兵達に任せるのもいいかも知れない。
事が見した折りには、連中に責任を押しつけることも出來る。
鏡の中の私がにやりと笑顔を浮かべると、扉の外から伯爵の娘と兵達が帰還する先ぶれの報告があった。
仕方がないが、ここは城門まで出向き、迎えてやるべきだろう。
どうせ敗戦故に足どり遅く、時間があるだろうとゆっくりと砦の中を散歩するように歩いていると、城門が開く音が聞こえ、帰還してきた兵達の足音が聞こえてきた。
「ん?」
その足音を聞き、すぐに異変を察知した。
行軍の足音が、一つしかしないのだ。ただし大きい。規則正しく、まるで太鼓を鳴らしているように行軍の足音が一つにしか聞こえなかった。
慌てて窓から中庭を覗くと、すでに帰還した兵士たちが中庭にってきていた。
戦闘で負傷した報告に偽りはなく、兵達は何人もに包帯を巻き、治療のあとが見える。
しかし二列縦隊の行軍にれはなく、兵士の歩幅ときは計ったように一定。掲げられた槍の穂先にすらブレは無く、まるで全員のが繋がっているかのようだった。
慌てて中庭にでると、兵達は大地を踏みしめ手足を止める。
目の前で見ると、稲妻でも鳴っているかのようだ。
先頭では、伯爵令嬢が馬から下りる。
「回れ右」
が小さく號令すると、兵士たちが一斉に足を引いて反転。こちらを向いて大地を踏みならし槍を掲げる。
「休め」
また小さく號令すると、腳を肩幅に広げ槍を持ち替える。
そのきは素早くもれはなく、行を終えたあとは微だにしない。怪我をし、負傷している兵がいるにもかかわらずだ。
中庭には他の古參兵がいたが、皆目を見開いて帰還した兵達を見ていた。
あり得ない、小娘に與えたのは今年った新兵ばかり。練度は低く度も足りない連中だったはずだ。
しかしそれがどうだ、行軍の練度は兵の練度。これではまるで鋭部隊ではないか。
顔つきも、歴戦の古參兵のように引き締まっている。
いったい何があったのだ? 一ヵ月もかけず、新兵を鋭に作り替えたとでもいうのか?
何をすればこうなるのか、まるで想像がつかない。ただ一つ言えることは、相手を見誤っていたということだけだ。
この、侮れぬ。
戦慄とともに認識を新たにしていると、のそばに見慣れない顔があることに気づいた。
役人の服を著た一人の優男。その左右には。砦のものではない兵士を二人従えている。
何者か分からなかったが、とにかく今は目の前のだ。ここは馬鹿のように従い、持ち上げ油斷させる。このがただ者ではないと分かった以上、念に策を練り準備を整える必要がある。
「これはこれは、ロメリアお嬢様」
へつらい笑みを浮かべながら、伯爵令嬢に近づこうとすると、男の後ろにいた見慣れぬ兵士が歩み寄った。
「セルベクだな」
優男とともに兵士たちが私に歩み寄ると、突然腕をひねり上げ拘束した。
「何をする貴様ら」
藻掻くが腕は萬力のような力でねじ上げられ、かない。
捕らえられた私を見て、砦にいた兵士たちがこうとしたが、伯爵令嬢が手を挙げると、二十人の兵士たちが一糸れぬきで方陣を作り上げ、鉄壁の陣形を構築させる。
まとまりに欠ける兵士たちは、近づくことすら出來ず遠巻きに眺めるばかり。
「靜まれ」
伯爵令嬢と共に來た男が、丸められた書狀を広げて聲を上げる。
「セルベク・ロメス。貴様を國家反逆罪および橫領の罪で逮捕する。手向かうものが有れば一味と見なし逮捕、拘束する。控えい」
男は書狀を私に突きつける。逮捕狀には國王の印章が押されていた。
すぐさま私は武裝を解除され、縄にかけられる。砦の兵士たちはもはや抵抗すらあきらめ、主である私が捕らえられていくのを黙ってみていた。
「馬鹿な、話が違うぞ」
私は伯爵令嬢を睨んだ。兵を貸せば公表はしないという約束だったはずだ。
しかし伯爵令嬢は屠殺場に連れていかれるでも見るように、溫度のない瞳で私を見下ろしていた。
「貴方は抜け目ない危険な人間です。いずれ必ず私を裏切る。だからその前に私が裏切る」
その言葉を、いや淵の底を覗いたような目を見て、私は自らの不覚を悟った。そして笑った。
「ハハハハハッ、私が裏切るまで、相手が裏切らないと考えたのは確かに悠長に過ぎた。この私としたことが、こんな小娘にしてやられるとは。私もこの世の辛酸を味わいつくしたと思っていたが、お前はどんな地獄を見てきた、どれほどの地獄を潛り抜ければそうなるのだ」
私はの忠犬となりはてた、新兵達を見る。
どいつもこいつも姫を守る騎士のように、使命と忠義に瞳が輝いている。
「お前達も気をつけるがいい。このは怪だ。このに信じるべきものなど何もない。お前達はそのに忠義と忠誠を捧げているかも知れないが、にとっては敵も味方もすべては無意味だ。必要であるから作り、必要なくなれば切り捨てる。お前達もいずれこうなる」
締め上げられ、ひねり上げられても、私は言ってやった。笑ってやった。
たとえ牢獄に押し込められようとも、処刑場で首を切られる直前であろうとも、私は笑ってやる。言ってやる。
この汚れを知らないふりをしたの腹が、何も見えないほど真っ暗だということを。
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