《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第二十話 彼らの黃金時代
第二十話
資金難にうなりながらをそらせると、鈍い痛みが走った。
「癒し手もそろえないと」
戦闘での負傷はまだ治りきっておらず、時折鈍い痛みが走る。
あの後、大きな町に移し、傷を治す癒し手に治療をしてもらったが、腕が悪く完治はしなかった。本格的な治療をけたいが、腕のいい癒し手にかかると高額な費用を請求されるので、我慢できるところは我慢するしかない。
と頭を悩ませていると、窓の外から音が聞こえてきた。
太鼓に喇叭の音が響き、突撃のかけ聲が合わさり、怒號と足音が続く。
丘の上では、兵士たちが演習を行なっていた。
砦の兵を全て使えるようになったので、自由に使える兵力は百人ほどに増えた。
百人の兵士が二手に分かれてぶつかり合う。
みんなが同じ裝備をしているので、遠目にはどちらがどちらか分からなくなるが、一箇所だけ、戦にあってもまとまり、相手を寄せ付けない部隊があった。
一人の兵士が先頭に立ち、相手の部隊を圧倒している。遠目にもアルだと分かった。
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私と同じく治療をけたが完治せず、まだ片腕が満足にかないというのに、元気よくき回り、敵の前衛を打ち破る。
そしてアルがこじ開けたに、すかさず數の部隊が切り込み陣形を突破する。切り込み隊を率いているのはレイだった。グランとラグンの兄弟を率いて切り込みをしかけ、風のように突破する。
開いたをオットーとカイルが広げ、相手が二つに分斷される。
相手も陣形を立て直そうとするが、片方をアル、オットー、カイル達が押さえ、レイが他の者達を率いて殘りの片方を包囲し殲滅する。
あっという間に半數がやられ、戦いの趨勢は決した。
あの戦いの後、覚醒したアルとレイはさらに力をつけ、引っ張られるように隊の何人かも覚醒し、力を強めている。ほかにも覚醒の兆しを見せている兵がいるので、さらなる戦力の上昇が見込まれる。
うれしい誤算という奴だが、それ故に危険かもしれなかった。
「…………」
今は不安を切り捨てて、視線を窓から書類に戻し頭をひねる。
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數が増えたのはいいが、その分かかる金も大きくなる。金がないのなら、有るところから持ってくるしかない。
やはり商人達と話をつけるしかないか。
兵達の訓練の音を聞きながら、小さく息をついた。
書類仕事を終えて中庭に出ると、丁度兵士達も訓練を終えて戻ってくるところだった。
誰もがくたびれていたが、まだまだ元気な部隊が一つだけあった。先頭を歩いているのはに包帯を巻いたアルだった。
「ロメ隊長。訓練は終了致しました」
アルがを張って報告してくる。最近アルは私のことを隊長隊長と呼んでくる。初めの頃の生意気な口ぶりが懐かしいぐらいだ。
「そうですか、結果はどうでしたか?」
「はっ、我らロメ隊の圧勝です」
アルの報告に、後ろの兵士たちもを張って誇らしげだ。
最近アル達は、自分たちの隊のことをロメ隊と名乗っている。
本人達がそれでいいならいいかと放置しているが、そのせいか士気が高く、他の隊と比べてきがいい。古參兵の部隊と戦っても互角以上のきを見せる。
「そうですか、ご苦労様です。皆さんも頑張りましたね」
ねぎらいの言葉をかけると、兵たちは喜びを張る。
彼らの長は著しく、特にアルとレイの長はめざましい。
アルは本能的に相手の弱い部分を見つけ、一気に突き崩す発力がある。
レイはまだまだ並みの兵士と同じぐらいだが、その剣は鋭さを増し日に日に実力を高めている。そして何より兵を指揮する能力を開花させた。
頭の中で兵士たちのきを理解しており、自軍だけでなく、相手の部隊までも自在にっているかのような用兵を見せる。
さらに両者共に魔法の力にも目覚め、頭一つ抜き出た存在となっていた。
脇を固める仲間達も、アルとレイに負けていられないと、訓練を怠らず、日々長している。
遠目に見ていても分かる。彼らは輝き、黃金のような時をいま生きている。
喜ばしいことだが、それだけに憂いもあった。
旅をしていたときの王子もそうだったからだ。
旅に出た當初は失敗の連続で、苦労する事も多かった。
共に苦難を乗り越え、學び努力し、長していった。
努力が実を結び、困難を乗り越えたときのあの達と充足。思い出すだけでもがかきむしられるほどにいとおしい、しい時間だった。
だが功は同時に魔を呼び込むこととなった。
ある時から王子は功することに慣れ、當然のことと考えるようになった。自分は神にされている。それどころか自分が神だとすら思うようになってしまった。
私はに目が眩んでいたのか、王子の変化になかなか気付けなかった。
変わってしまったと気付いた時點で、王子の下を離れるべきだったのだが、もし『恩寵』の効果が無くなり、その結果王子が命を落としたらと考えると、ついズルズルと王子のあとをついていってしまった。
もう二人目の王子を作るわけにはいかない。
現在『恩寵』の効果はそれほど強く働いていない。
おそらくだが、『恩寵』は私がする者に対して強く働く傾向がある。旅の途中、王子とほかの仲間たちでは、大きく違う気がしたからだ。
『恩寵』の効果は素晴らしいが、あまり頼りにすべきではない。言葉にはできないのだが、何か不吉な予がする。用は避け『恩寵』なしでもやっていけるようになるべきだ。
「……あなた達には次の任務があります。しかし私はここに殘ってやらなければならない仕事がありますので、あなた達だけでやってもらうことになります」
私の言葉に全員が大きく頷いた。
「はい、お任せください」
兵士たちは、私の期待に応えようとを張っている。
その顔を見るとが痛んだ。だがこれは怪我の痛みではない。
私が期待しているのは彼らの失敗だ。勝利と功が続き、慢心してしまわないように、彼らの敗北を願っている。場合によっては誰かが死ぬかも知れないのに。
これ以上の裏切りはないな。
死後に天國か地獄かを決める裁判があるのなら、問答無用で有罪と地獄行きの判決を下されるだろう。
「? それで、どのような任務でしょうか?」
「ええ……場所はギリエ渓谷。あの地に巣くう魔の討伐です」
ギリエ渓谷はここから三日ほど行ったところにある、巖ばかりの荒れ地だ。多くの魔が住み著き、これまで何度も討伐兵を出しているが、數の多さに敗走する結果となっている。
「かなり長期間の討伐になると思いますので、先発隊として赴き、橋頭保となる砦を築いてください。私もこちらの仕事をすませ次第、増援を連れてそちらに向かいます」
「はっ、お任せください」
兵士たちが力強く敬禮する。その姿を見てまたが痛んだが、私は気付かないふりをした。
明日も出來れば更新します
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