《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第二十一話 カレサ修道院①

第二十一話

兵士たちが渓谷へと向かっていくのを見送ったあと、私もカルルス砦を発ち、馬車で東へと向かった。

商人達と話をつけるためだが、真っ直ぐ街には向かわず、寄り道をしてカレサ修道院に足を運んだ。

「ここがカレサ修道院か」

初めて來たところだが、しい所だった。

湖畔の前に立つ小さな修道院。小さな畑があり、家畜小屋が一軒。大きな木がしっかりとを下ろし、ロープで作られたブランコがあった。

すべて話に聞いていた通りだ。

初めて來たところだというのに、郷愁のような覚がから湧き上がってくる。

しばし甘い陶酔に浸り、十分に堪能した後で周囲を改めて見回す。

カレサ修道院は辺境の小さな修道院で、し前まではこの地に住む人たちでさえ、その名前をほとんど知らない全く無名のところだった。

しかし修道院の小さな建の前には、周辺からやってきた住民達が列を作り、長い尾となっていた。

列を作る住民達は、皆がに包帯を巻き、咳をして痛みに苦しんでいた。

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このカレサ修道院は、今や地方唯一の診療所と変貌していた。

病人や怪我人の間を、新米の修道士達が駆け回り、怪我や病気の重さを判別している。

列の前で待っていると、若いの修道士が、私たちに気付き駆け寄ってくる。

「こんにちは。私はグラハム伯爵家のロメリアと申します」

「伯爵家の方でしたか、その、當カレサ修道院に、何か用でしょうか?」

分を名乗ると修道士は驚いていた。まぁ、伯爵家の令嬢がこんな所にいるのは不思議なのだろう。

「ここの責任者である、ノーテ司祭にお話があって參りました。お取り次ぎをお願いします」

「す、しお待ちください」

取り次ぎを願うと、慌てた修道士が走って修道院に向かっていく。しするとまた走って戻ってきた。元気な子だ。

「ノーテ司祭はお會いになるそうです。ですが、今は病人や怪我人の治療に手が離せず、すみませんが、手が空くまで、お待ちくださいとのことです」

伯爵令嬢の訪問に対して、待てと言うことに、若い修道士はおびえていた。下手をすれば打ち首になるかも知れないからだが、もちろん私はそんなことはしない。

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「分かりました、待ちましょう」

初めからこうなることは分かっていたので、待つ準備は出來ている。

「ですが、その……なんと言いますか。凄く待たされることになりますよ?」

若い修道士はさらにすまなさそうに事実を告げる。もちろんそれも分かっている。

怪我や病気の程度が重い者から順に見ているのだから、怪我も病気もしていない私たちの順番は當然最後。この分だと日暮れかそれ以降まで待つことになるだろう。

「構いませんよ、いくらでも待ちます」

伯爵家に連なる者として、強引に病人やけが人を追い散らし、順番を前に進めることも出來るが、それは控えた。

これから會うノーテ司祭の経歴を考えれば、行儀良く待っているのが一番だろう。

事前に予想していたので、いくつか持ってきた仕事を片付けることにする。

馬車の中で書類と格闘していると、気が付けば日暮れとなっていた。

見れば病人達の列もだいぶ短くなり、取り次ぎに來た若い修道士がこちらにまたやってきた。

「お待たせしました、司祭様がお會いになられるそうです」

「取り次ぎ、ありがとうございます」

丁寧に禮を言うと、恐される。

供を連れて一緒に歩くが、新米修道士の足どりには力がない。疲れていることは一目瞭然だった。そもそも今日一日中、ほとんど休むことなくやってきた患者の対応に追われていたのだから當然だ。

「貴方もお疲れだったでしょう」

ねぎらうと、さらに恐された。

「いえ、そんな。私なんてただの雑用係です」

「それでも、頑張っていると思いましたよ」

雑用でも、誰かがしなければならないことだ。

そしてどんな仕事でも、一生懸命出來る人は良い人間だと思う。

褒められることになれていないのか、新米修道士は顔を赤くして照れていた。

「そんな、私なんて全然です。もう三か月も練習しているのに、癒しの技がししか使えなくて、同期はもう怪我人の治療を始めているのに、私は才能がなくて落ちこぼれで」

三か月で、し、ね……

私は心でしあきれた。

確か教會が癒し手を育するために作った治療院では、一人前の癒し手を育するには最低五年の歳月がかるとしていて、最初の一年などろくに癒しの技が使えず、苦労していると聞く。

たった三か月でしでも使える時點で、十分すぎることだと思うのだが、どうやらこの新米修道士は、本場の現狀を知らないらしい。

努力していればいずれ報われますよと聲をかけておくと、大きな聲で返事をされてしまった。

最近思うのだが、私は結構たらしだ。まぁ、これでこの新米修道士がやる気を出して、腕をあげてくれれば、周りの人にとってはいいことなので、勵ます行為はこれからもやっていこうと思う。

されるままに修道院にり、祭禮を行う集會所を抜けて橫に作られた司祭室へと案される。

司祭室は思った以上に広く作られていたが、棚が壁中に置かれ、窮屈さをじるほどだった。狹いのは別に構わないが、棚に置かれている品々は、目を見張った。

「あのぉ、ここでお待ちくださいと言われているのですが、いやですよね、集會所の方でお待ちいただいても」

修道士は一度案した司祭室から、集會所の方を見るが、私はここで構わなかった。

「いえ、ここで待たせてもらいます。なかなかいい趣味をされてらっしゃる」

棚にあるものを一つ一つ眺めていく。

「は、はぁ、では、しお待ちください」

若い修道士は何とも言えない返事をして、司祭を呼びに行ってくれた。

ゆっくりと棚を見學していると、すべてを見終わったころに足音が聞こえ、使い古された司祭服を著た初老の男がやってきた。

「大変お待たせして申し訳ありません。急患が舞い込んだものですから。私がこの修道院を預かるノーテと申します」

「いえ、こちらこそ、急な訪問に無理を言って申し訳ありませんでした」

軽く挨拶をして椅子に座り話をする。

「それで、伯爵家のご令嬢が、このような修道院にどのような用でしょうか?」

「まずは地域住民のため、治療にあたってくださっていることに対して謝を」

私はノーテ司祭の活を丁重にねぎらった。

「いえいえ、私はただ神のお導きと、癒しの子の教えに従っているだけです。それに私こそお禮を言わなければなりません。兵たちを率い魔の脅威にさらされている村々を救って回っている、伯爵令嬢のうわさは私にも屆いております」

「いえ、私はただついて回っているだけのでしかありません。兵士の方々のように戦うこともできず、司祭様のように癒しの技も使えません。真に稱えられるべきは、前線で戦う兵士や、人を救う皆様のような方々です。これは僅かばかりですが、活資金としてお使いください」

持參した金貨がった小袋をテーブルに置いた。

うちも臺所事は厳しいが、それはここも同じ。いや、ほかに収の當てがある私たちより、よっぽど厳しいはずだ。

地方の修道院。教會本部から與えられる資金などないに等しく、かといって貧乏な農民たちが治療費を払えるわけもない。

治療の対価としてもらえるのは、せいぜい畑でとれた野菜などの農作ぐらい。資金はいくらあっても困らないはずだ。

ノーテ司祭は斷らず、ありがたくいただいておきますとけ取ってくれた。

「私はかねてより、救世教の醫療制度。癒し手の在り方には疑問をじておりました」

この國で広く信仰されている救世教會は、民衆の治療と救済を目的とした治療院を設立し、癒しの技を使う癒し手を育している。

その技は傷薬よりも確かで、傷の治りは早く、練の使い手は失われた手足すら再生させる。まさに奇跡の技と呼ぶにふさわしいが、今の教會にとって癒しの技は金もうけの道に過ぎない。

「拝金主義にまみれ、高額の謝禮や寄付を要求する教會には嫌気がさしていたのです。司祭のような方が、癒し手を育し、このように治療を施してくれることに、謝の言葉しかありません」

「いえ、私は治療に際して癒しの技を使ってはおりません。また、修道士たちに手ほどきも行なってはおりませんよ。ただ怪我をした友人に傷薬を塗り包帯を巻いただけです」

ノーテ司祭は噓をついた。いや、これは方便という奴だろう。

救世教會は癒し手の育を治療院だけに限定し、治療院以外での癒し手の育じている。さらに無許可で癒しの技を使った治療を認めてはおらず、許可を得た場合、毎年高額の認可料を支払わなければならない。必然、治療費は高額となり、庶民が治療をけることはできなくなる。

ノーテ司祭がやっていることは、教會に知られれば破門間違いなしの行である。よってここには癒し手などはおらず、治療行為も行なっていない。

ただし怪我をした友人を治療するのは、個人の善意の範囲であり、文句を言われることでもない。というのが、教會に対する建前なのだろう。

「わかりました、そういうことにしておきましょう」

私はこの話題はここで打ち切ることにした。

今回は変更點はほとんどないです

ただ一つだけ、登場人別をとしました

それぐらいです

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