《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第二十三話 カレサ修道院③

第二十三話

私がとりだした木彫りの聖印を見るなり、ノーテ司祭は顔を変えて問いただした。

「こ、これをどこで?」

ノーテ司祭がこれにすぐに気づいたことはうれしかったが、一方で今から告げることを考えると、気が重く、口をかすのがつらかった。

「王子と旅をしている時に、魔王軍に襲われた村々を助けて回る、遍歴の癒し手と出會いました。彼は無償で多くの人を癒して回っていましたが、魔王軍に襲われた村を見て、逃げ遅れた民衆を守るために立ち向かい、あえなく……」

彼の行は、まさに聖人にふさわしいものだった。

あの人ほど素晴らしい人を、私は見たことがない。

「お知合いですか?」

「そ、その者は、私の弟子です。ああ、なんということだ。やはり手元から離すべきではなかった。私のようなおいぼれが生き殘り、若鳥が命を散らせてしまうなど」

ノーテ司祭は嗚咽とともに涙をこぼした。二人がどれほど深い結びつきであったのか、泣き聲を聞いただけでが締め付けられる思いだった。

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「彼とは旅の最中に出會い、し一緒に旅をしました」

ノーテ司祭が落ち著くのを待って、私は彼との出會いを話した。

その時にはもうエリザベート達が仲間になっており、癒しの技は不要であったが、行く先が同じだったため、行を共にした。

「その時に、彼はいろんな話をしてくれました。尊敬する貴方のことも」

旅の最中に聞かせてくれる話や知識は興味深く、私はすぐに彼のことが好きになった。

ほかの皆は退屈して聞いていなかったが、彼の話は斬新で野心に満ち、可能の輝きを帯びていた。

「旅をしている間、彼は多くの人を助け、そして私も助けてくれました」

ある街に寄った時のことだ。エリザベートにお使いを頼まれ、仕方なく言われたものを購して宿に戻ると、王子たちはすでに旅立った後だった。

エリザベートたちの畫策で、疎ましい私を置き去りにしようとしたのだろう。

途方に暮れていると、事を知った彼は私と一緒に王子たちを追いかけてくれた。

王子に追いつくまで、彼と旅をした數日間は、私の人生にとって重要な數日となった。

もしこの時の期間がもうし長ければ、あるいは王子に追いつけなければ、私たちの未來は今とはもっと違ったものになっているはずだった。

當時すでに私と王子の間には距離ができていたし、理想を語り、

人々を助ける彼に私は魅かれていた。

だが置き去りにした私に後ろ髪をひかれていたのか、それとも単に冒険がうまく進まなかったのか、王子たちには數日で追いついてしまい、彼との旅はそこで終わってしまった。

「彼は素晴らしい人でした。私の生き方を変えてしまうほどに」

彼と別れるときは本當に心揺れた。このまま王子と別れ、彼についていこうかと考えたが、魔王を倒すことの重大さを話し、説得したのも彼だ。

別れの夜、彼は私にだけを語り、師から教えられた思想を口にした。

彼が語った言葉は私の固定観念を大きく揺さぶり、新たなひらめきを與えてくれた。

私たちは互いのに思いをめながらも、それぞれの旅をつづけようと別れた。

だがこの時、私たちは別れるべきではなかった。

「私たちと別れた矢先に、彼の向かった先で魔王軍による大規模な戦闘が起きました。急いで救援に向かったのですが……」

渋る王子たちを説得し、救援に向かった先にあったのは、滅ぼされた町や村。そして積み上げられ、なぶられた死。その中に彼のを見つけた時、私は半をもがれたような痛みと喪失を覚えた。

今なおその景は目に焼き付き、思い出すだけで痛みと悲しみがこみあげてくる。

「私は死んだ彼の志をけ継ぐつもりです。彼の代わりに人々を救いたい。ノーテ様。私にどうかお力をお貸しください」

「……わかりました、あの者が信じたあなたになら、協力を惜しみません」

ノーテ司祭はうなずいてくれた。

「まずは癒し手をお貸しください。私は手始めにカシュー地方から、魔と魔王軍を追い出すつもりです。そのためには強力な軍隊と、負傷者を治療する癒し手がどうしても必要なのです」

戦爭に負傷者はつきもの。強力な癒し手は何人いても足りない。

「ですが、ここもあちこちから集まる怪我人で手が一杯です」

「わかっています。現段階では一人二人で構いません。ただし、今後、多くの癒し手が必要になります。ノーテ司祭には癒し手の育に努めていただきたい」

ノーテ司祭はすでに癒し手の育の手法を確立しており。數か月から半年の訓練で結果を出している。

もちろん一人前となるにはまだまだ時間がかかるだろうが、それは回數を重ねればいいだけのこと。

そして戦闘が起きれば、練習相手には事欠かない。

「わかりました、しかし、教會に対してはどうするつもりですか? あまり派手にやると、それこそ教會を敵に回してしまいますよ」

「わかっています。しかし教會に対して、苦々しい思いをしているのは、何も私たちだけではありませんよ」

王都にいる貴族や司教たちはわからないだろうが、地方や辺境に行けば教會に批判的な人は多い。

癒し手は地方に飛ばされることを恥と考え、腕がいい癒し手ほどいつかない。必然辺境では癒し手の數が足りず困っているが、教會はそれでも當然のように寄付金を要求してくる。

商人たちも、何かと寄付を要求してくる教會をよく思ってはいない。

さらに教會を支える信者や民衆も、教會には疑念を抱いている。

や魔王軍の被害を食い止めるため、國中で若い男が兵役に駆り出されていた。だが國のために戦い、重傷を負った者たちにすら教會は金を要求してくる。

國難にあって人を救わない教會の行に、民衆への求心力は低下している。

教會から獨立して新派を作る、などと言えば問題になるが、現狀の在り方をし変えるべきだという主張なら、彼らの支持を得られるはずだ。

そのためにはまず行することが大事。行し結果を殘す。

強力な軍隊を作り上げ、魔や魔王軍を一掃し、人々を救って回る。それが出來て初めて國民はついてきてくれるだろう。

「あと……じつはもう一つお願いがあるのですが……」

私はここに來た本當の目的を切り出すことにした。これを言うのはし恥ずかしいのだが、どうしても聞いておきたい。ノーテ司祭にしか頼めないことだった。

「改まって聞かれるとなんだか怖いですね、いったい何ですか? 私にできることでしたら、援助は惜しみませんが」

「その……彼のことを、ここでどんな風に過ごしていたのか、し教えてもらえませんか?」

私が視線をそらしながら尋ねると、ノーテ司祭は破顔した。

「ええ、いいですよ。ただし、私にもあの者の話を教えてください」

「もちろん。いくらでも」

そうして夜遅くまで、私と司祭は語り明かし、話題が盡きることはなかった。

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