《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第三十一話 流通がどれだけ大事かを話した

第三十一話

ガンゼ親方が出て行ったのを見た後、ミアさんが控えめに私に質問した。

「あのう、ロメリア様。金は出なくてもいいのですか?」

さっきの會話が腑に落ちないのだろう。

「まったく出ないのは困りますが、それほど大量に出なくても困りはしません。それよりも港の方が重要です」

金鉱山はここに街を作り、人を集めるための方便だ。港を作る足掛かりとして、多は出てもらわなければ困るが、港が軌道に乗れば必要はない。

「金より港の方が重要、なんですか?」

ミアさんは理解できないといった様子だった。そのしぐさが可く、ちょっと先生のまねごとをしたくなる。

「いいですか、ミアさん。お勉強のお時間です」

存在しない架空の教鞭をふるう。

教鞭を振るうクインズ先生は凜々しく、私の憧れだった。先生のまねごとをしていると思うと、自然鼻が高くなった気がする。

「まず金脈というものは、とればとるほどなくなるものです。増えたりはしません。金を取りつくした後は、ここはどうなると思いますか?」

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「それは……さびれますね」

一時賑わいを見せた鉱山や近隣の宿場町が、鉱脈が枯れると同時に寂れ、廃墟となるのはいくらでも例がある。

「そういうことです。カシューの永続的な繁栄のためには、持続可能で長可能なものでなければいけません。それは何だと思いますか?」

「それは……農業とかでしょうか?」

確かにハズレではない。

「畑は毎年実りをもたらしてくれる天の恵みですね。しかしという點では、大きなものは見込めません。耕作可能な土地が十分に殘されていれば別ですが、すでに開発があらかた終わっている場所や、山ばかりで農地を確保できないカシューのような所では、発展は見込めません。料や種の品種改良といった方法もありますが、すぐに効果が出ませんから、これも期待薄です。ではそれ以外では?」

「うう、わかりません」

ミアさんは白旗を上げた。そのしぐさは何とも可い。

「それは、流通です」

「流、通?」

「そう、の行き來、そしてそれを支える道や橋、港こそが黃金以上の価値を持つのです。道や橋、港は金鉱山の様に枯渇したりはしません。永続的に価値を生み出す利益の源泉です。ギリエ渓谷に港を作ることが出來れば、それは枯れることなく、百年先にも利益を生み出すことが出來るでしょう」

「そう、なのですか?」

私の熱弁に、ミアさんはまだピンときていない様だった。

「現在王國に海はなく、川を下って海外に資を運んでいますが、ここに港が出來れば、もう川を下る必要はありません。王國の東で生み出された商品のほとんどがカシューに集まります。當然同じ量の資が外國からもってきます。をやり取りすればその差額から、大きく儲けることが出來ます。それがどれほどの利益になるか想像がつくでしょう? それにが集まる場所には人も集まります。彼らが寢泊まりする場所や食事も必要となり、大量の荷馬車がここにやってくるでしょう。その馬が食べる飼料も當然莫大な量となります。しかもこれらは金鉱山のように盡きることはありません。わかりますか? ミアさん。さらに稅を優遇して商人を集めれば、相場や金融業も盛んとなるでしょう。うまく発展すれば、王國有數の、いえ、王國一の商業都市となってもおかしくはありません」

長し発展し続ける都市を夢想すると、思わず握る手が強くなってしまう。

しかしミアさんを見ると、茫然として、なんといっていいのかもわからない様子だった。

「……あーゴホン。まぁ、そのようなじで、アレしてコレするわけです。簡単な話、ここに港を作ると、すごく儲かる。ということです」

誰にでもわかりやすく話をまとめると、ミアさんは納得がいったようにうなずいた。

「なるほど、そうなんですね」

多分わかっていないだろうけれど、それで良しとする。クインズ先生たちなら、一晩中でも盛り上がれる話題だと思うのだけれど。

「しかしロメリア様はやっぱりすごいですね、私にはとても理解できません」

ミアさんは自分を卑下するが、そういう態度はよくない。

「そんなことありませんよ、勉強すればわかることです」

自分を過小評価して、あきらめの理由としてはならない。

ミアさんが理解できないのは、ひとえに教育のせいだろう。

平民の間には教育が行き屆いておらず、貴族であっても、賢いというのは、どうにもウケはよろしくない。

貴族のにとっての教養とはダンスや詩の朗読、音楽などだ。平民に期待されている教養は聖書を読めることぐらいで、それすら文盲の男には敬遠される。

そのせいでクインズ先生ほどの學識のある人が評価されず、副業の家庭教師や、役所でただいわれたことを書き記す、記係なんかをやっている。

もし先生が男だったなら、今頃は出世街道をのぼり、末は大臣となって國を変えていただろう。

そう考えればおかしな話だ。ただ生まれた時の別の違いで、生き方や評価が変わってしまうのだから。

「なんにしても、ここの開発をうまく進めなければいけません。金がそこそこ出てくれて、港の設置がうまく行けば、資金が増えます。そうすれば、軍備をもっと増強できる」

「まだ兵士は足りないのですか?」

「ええ、足りません。もっともっと必要になります。怪我人も増えますから、貴方にも頑張ってもらいますよ?」

「はい」

ミアさんが張した面持ちで答える。

時間はあまり殘されていない。

西にある王都と、そして魔王軍の本隊を思う。

そろそろき出すころだった。

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