《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第三十五話 ダカン平原での決戦④

第三十五話

ライオネル王國の北西に位置するダカン高原。

この地で魔王軍五萬に対し、十萬のライオネル軍が対峙していた。

ガレ將軍は高臺に本陣を置き、戦場を見下ろす。

鬨の聲を上げて陣形を組んだ歩兵が前進し、萬の矢が飛びい騎馬が土煙を巻き上げる。

戦端が切られてからすでに三日が経ったが、攻防は一進一退を繰り返し、膠著狀態が続いていた。

人間の軍勢は盾を連ね、今日も防を固めている。こちらの部隊が防壁を突破すると、後方の予備兵が投されて、即座に出を防ぐと同時に防壁を再構築する。そのきは水際立ったものだが、決して攻勢には出ずに守りを固め続けている。

「あーもう、なんだよ、攻めてくるんなら來いよ。じれったい!」

本陣ではガリオスが頭をかきむしり、でかい聲で喚く。

だがガレを筆頭に居並ぶ將校は何も言わない。お目付け役のギャミもうるさいガリオスをたしなめたりはしなかった。

確かに敵軍は消極的な戦を取り、防戦一方で攻めてこない。

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しかし臆病と侮るつもりはない。ガリオスのように喚くつもりもなかった。

敵の行は兵法としては定石だ。防を固くしてこちらの出方を見ているのだろう。防衛線にはつなぎ目があるし、均質化に努力しているとはいえ、部隊には強弱が存在する。

時間をかければ指揮の癖や格も見て取れるので、現在は探りをれている段階なのだ。

それにこちらは本國との連絡が途絶え、兵站は十分とは言えない。もちろん兵糧は十分に備えているが、時間をかけても敵側に損はない。長期戦を匂わせるのも揺さぶりの一つ。消極的というよりは、基本に忠実な戦法と言えた。

「おい、ガレ、いいから突撃しようぜ、俺が先頭で蹴散らすからよ」

ガリオスがまた喚いたが、これも無視する。

し兵法をかじっていれば分かることなのだが、ガリオスにこの手の戦は全く理解できない。

頭が悪いという以前の問題だった。

し目を下に向けると、本陣を守備する兵の中にひときわ巨大な一団が見えた。

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赤いほうき星の旗の下に集う兵たちは、たった三百人しかいない部隊だった。だが五萬の兵に埋もれることなく、その威容は文字通り頭が突き抜けている。

巨軀の者ばかり集められた、ガリオス率いるガリオス兵団だ。

別名巨人兵団。その力は見た目通りの怪力無雙にして勇猛果敢、どれもこれも一騎當千の猛者ばかりだ。どの軍団でも將軍を任せられるほどの者が、三百人も集まっている。

この兵団をガリオスが率いれば、勝てる相手はいない。どんな強力な騎士団と相対しても、正面から鎧袖一に打ち破れる。

も何も必要はなく、ただぶつかれば勝てるのである。小手調べの牽制や心理的な揺さぶりなど、理解出來ようはずもなかった。

めが。

その力は認めていたが、ガレにとってガリオスはどこまで行っても力自慢の子供でしかなかった。

そして哀れでもある。

戦いの申し子として生まれ、闘爭を好み戦爭をしているのに、こいつは戦場の面白さを何もわかっていない。

勝利の酒を浴びるほど飲んでいるがゆえに、その真の味を未だに知らないのだ。

戦爭は何を置いても搦手が重要である。

兵法を知り、経験かな敵將は正面からの攻撃では倒せず、必ず裏を突く必要がある。

しかし相手もそこは警戒しているので、単に裏をとろうとしても、とれるものではない。

様々な策を講じ、虛実をえた攻撃で翻弄し、初めて心理的盲點、死角を作り出すことが出來る。そこを討つのだ。

もちろん、頭で考えたように戦場がくことはない。

萬を超える兵士がれ、経験かな將兵や才能かな參謀が心を注ぐ戦場で、思い通りに行くことの方がない。

戦爭はままならず、ままならないのが戦場だ。

だからこそままならぬ戦場を思いのままかしたとき、あらゆる酒にも勝る勝利の味を楽しめるのだ。

ガリオスの力が比類なきことは認めるが、盤上の中にあっては、ただの強い駒でしかない。

升目の中で吠え猛る獅子。かわいらしくもあり、哀れでもあった。

ガレの見るところ、今回の相手はなかなかの指し手と言えた。

將たる者、常に最後の一手を隠し持っているものだ。それが読めない。

防戦一方ではあるが、決して攻め気を失ってはいない。格的には前線での戦いを好む猛將なのだろう。しかし気を抑え、こちらの手を読ませないほどには老獪だ。

長期戦を意識させつつ、こちらが気を緩めれば一気に打って出て、本陣を狙ってくるかもしれない。

なかなか楽しめそうな相手だ。

「ガレ將軍、お願いがあります」

戦場を眺めていると、巨の戦士がやってきた。確かどこかの分隊長だったと思う。

「なんだ? 持ち場に戻れ」

「お願いがあります、將軍。どうか私をガリオス様の部隊に異することをお許しください」

兵の嘆願を聞き、またか、とため息がれる。

ガリオスが近くにいると士気が上がるが、反面この手のやつが増えて困る。

「わかった、好きにしろ。ガリオス。こいつがお前のところにりたいそうだ」

「ん? そうか、いーよ。ただし、條件はわかってるよな」

ガリオスが拳を見せた。

ガリオス兵団は巨ばかりを集めているが、決して団條件に格制限があるわけではない。

條件は単純にして唯一。ガリオスの拳骨を食らい、立っている事。それのみだ。

「わかっています」

兵がうなずき手を後ろに組む。足を広げて歯を食いしばった。

「んじゃ、いくぜ」

ガリオスの拳が巖のように固められたかと思うと、その巨がさらに一回り巨大化した。

はちきれんばかりだった筋がさらに膨張し、信じられないほど膨れ上がる。に著けている鎧がきしみ、つなぎとめている鋼鉄の鎖が悲鳴を上げた。

ガレでさえ息をのむほどの力の凝。魔王様すらガリオスの力には一目を置き、そのめられた破壊と暴は、太古の祖先竜さえも彷彿とさせる。

「ヒッ」

威圧に當てられ、先ほどまで覚悟を決めていた兵士が恐怖にすくみ、腰が引けてわずかに一歩下がる。

馬鹿が。

心の毒づきに、がひしゃげる音が重なった。

後に殘ったのは、顔がつぶされ首の骨が捻じ曲がり、顔の原形をとどめていない兵士の姿だった。

恐怖におびえず、全の力で対抗すれば、まだ耐える目もあったものを。

「なんだ、死んだの? たいしたことねぇなぁ」

ガリオスは死んだ兵士をつまらなそうに見下ろした。

「お前の拳骨に耐えられる奴はそうはおらん」

すでにかれこれ十人目だ。しかも採用されるどころか、生き殘ったやつすらいない。

「いい加減にしろ、ガリオス。兵が減って敵わん」

こんな採用方針を取っているせいで、あたら優秀な兵がいなくなって困る。

「しゃーねーじゃん。りたいっていうんだから。それに、弱えー奴が何人いても一緒だろ?」

なんでも簡単に考えるガリオスの思考に、あきれながら戦場を眺める。

「ん?」

こちらにもきがあった。敵の陣形が変化し始めた。

何か策があるらしい。相手の打つ手に、ガレはわずかに頬を緩ませた。

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