《異世界から日本に帰ってきたけど、やっぱりダンジョンにりたい! えっ、18歳未満は止だって? だったらひとまずは、魔法學院に通ってパーティーメンバーを育しようか》7 來訪者
ピンポーン
「はい、どなたですか?」
玄関のチャイムが鳴って母親がドアを開けてみると、そこには見知らぬが立っている。そのは、いかにも事を知っているかの態度で母親に用件を告げた。
「忙しいところ失禮する。私は魔法學院の學院長を務める神崎という者だ。お子さん二人の進路についてお話をしたい」
「ハ、ハイ… どうぞ中に」
神崎と名乗ったそのの有無を言わさぬ態度に只ならぬ雰囲気をじ取った母親は、抗うもなく彼を家に招きれる。
そして、母親に続いてリビングにってきたを見た瞬間、聡史の本能が最大限の警戒を要するアラームを鳴り響かせた。
(強い! この人は間違いなく強い)
聡史は、いきなり自宅に登場した強者の雰囲気を漂わせるに舌打ちする思いだ。萬一にもこの場で戦いでも始まったら、同席している母親に危害が及ぶ可能がある。だが…
「楢崎聡史君だね。そんなに構えなくてもいい。君にとって有意義な提案をするために來たのだからな」
神崎と名乗ったは顔の表面に張り付いたような笑顔を聡史に向けた。普段から厳しい表が板につきすぎて、笑い顔が実にぎこちないのだ。
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聡史としてはこの言葉を信用するしかないと、警戒する態度を解く。
「改めて自己紹介しよう。君は魔法學院という名稱を聞いたことはあるか?」
「はい、名前だけなら聞いています」
「私はその魔法學院で學院長を務める、神崎真奈という。以後よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
この時點で聡史はある程度の事に勘付いている。
自分たちが日本に帰った翌日に魔法學院の一番偉い人が自宅に來訪した。これが偶然などと言えるだろうか? 答えは否だ! つまり目の前にいるこの人は、自分が異世界から戻ってきた事実に関する何らかの事を知ってこの場に現れたと判斷せざるを得ない。
「さて、前置きなしに本題にる。昨夜観測された尋常ではない魔力と君が今朝ダンジョン管理事務所に持ち込んだ常識を逸した魔力を含有する魔石、雙方を鑑みると結論はひとつだ。君は… いや君たち兄妹は、異世界に渡ったな?」
「どういう意味かよく分かりません」
いきなり核心を突かれた聡史は一瞬驚きの表を浮かべ掛けるが、ギリギリで踏み止まり表面上はとぼけて相手の反応を窺おうとする。
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だが次の言葉は彼の一切の反論を許さなかった。明らかにこのような駆け引きにおいては、學院長が一枚も二枚も上手なのは間違いないよう。
「安心しろ。は守ると約束する。なにしろ私も、異世界を経験した人間だからな」
「ほ、本當ですか」
それは聡史にとってあまりに意外な真実であった。自分たち以外に異世界召喚を経験した人間がいる。自分と妹だけが想像を絶する特殊な験をしたと思い込んでいたが、他にも同様の経験をした人が存在するなど聡史の想像力の埒外であった。
「私にはある程度相手のレベルや魔力量が把握可能だから誤魔化しは効果ないぞ。正直に答えろ」
ここまで追い込まれると聡史には反論の余地は殘されていなかった。認めるしかないと心の中で腹を括る。
「はい、異世界に召喚されて昨日戻ってきたばかりです」
「素直に認めたか。そこでだ、魔法學院に學しないか? ああ、今は學期の途中だから編という形式になるか」
「今から魔法を學ぶんですか? 俺も妹もあまり魔法は得意じゃないんですが」
聡史は初級魔法を使用可能であるが、桜に至っては理オンリーで戦ってきた。それを今更改めて魔法を學ぶのは遠回りというか、どうにも無駄な気がしてくるらしい。
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「どうやら魔法學院を誤解しているようだな。正式名稱は〔ダンジョン調査員育並びに魔法研究者養アカデミー〕だ。君たちに求めているのは今更魔法を學ぶことではない。即戦力としてダンジョンの調査に當たってもらいたい」
「ダンジョンは18歳にならないとれないと聞きましたが?」
「ダンジョン調査員を育するんだから、魔法學院の生徒ならば自由にダンジョンにはれるに決まっているだろう」
「ちょ、ちょっと待ってください」
聡史は席を中座して階段を駆け上がると桜の部屋のドアを開く。そこにはニート宣言をして、マツケンさんに見っている妹の姿がある。
「お兄様、ノックもしないで部屋にるのはマナーに反しますよわ」
「そんなのはどうでもいいんだ。桜、ダンジョンにれるぞ!」
「なんですって! お兄様、それは本當ですか?」
つい今まで力なくベッドに橫たわっていた桜は目をクワっと見開いて、ガバッと起き上がる。その様子にはどこにも合の悪そうな點は見けられなかった。
「魔法學院に學すればダンジョンにれるんだ。今そこの學院長が來ているから、桜も一緒に話を聞いてくれ」
「すぐに參りますわ。お兄様、だしなみを整えますから先に降りてください」
ニート宣言をしてベッドに寢転がっていたので、桜の髪はグシャグシャであった。ブラシの一つも掛けるのが、年頃の子としての最低限のマナー。
聡史は一足先に階段を降りてリビングに戻っていく。そこには魔法學院に関する説明を聞いている母親の姿がある。
「どうもすみませんでした。すぐに妹が降りてきますから、二人で話を聞きたいと思います」
母親もえて學院の概要を聞いていると、階段を降りてくるバタバタという音が聞こえてくる。その音の直後に慌てた様子で桜がリビングに登場した。
そして一言…
「魔法學院に學いたしますわ」
何も聞かないうちに即決してしまうとは、いかにも桜らしい行。むしろこの機會を逃したらダンジョンにる権利を失うとばかりに、鬼気迫る表で桜は宣言する。異世界でも度々やらかした暴走超特急ぶりをこの場でもいかんなく発揮している。
こうして桜の強引極まりない意向によって學の方向で話が進んでいく。
「一応編試験をけてもらう。明日保護者と一緒に本校に來校してもらいたい。施設見學も兼ねて試験を実施する。合格したら特待生待遇を用意する」
「試験は難しいんですか?」
「君たちの実力ならば、問題はないだろう」
「お兄様、難しいかどうかなどこの際問題ではありません。全力を挙げて合格を勝ち取るのです。さすれば、ダンジョンへの道が切り開かれますわ」
完全なる神論ではあるが、桜の並々ならぬ決意が伝わってくる。ダンジョンに懸ける熱が高じるあまり何かしでかさないかと、聡史の心で心配する気持ちが強くなるのは言うまでもない。
「それではこの書類に必要事項を記して明日持參してもらいたい。私からの話はこれで終わりだ。何か質問はあるかね?」
「寮生活だなんて、なんだか憧れますね。お兄様」
「自分のことは自分でやるんだぞ。掃除とか洗濯とか」
「それはお兄様にお任せします。一人分も二人分も一緒ですから」
この妹は面倒なことは何もかも兄に押し付ける気満々だ。外見と人當たりがいいから家族以外には気付かれていないが、家事一切何もできないダメな子であった。
こうして桜のニート生活は2時間で終わりを迎えて、この日は過ぎていく。
そして翌日…
「ここが魔法學院か」
「お兄様、セリフが在り來りすぎます。もっとヒネリを加えないとダメですわ」
「どんなじにヒネるんだ?」
「フフフ、たった今より、この魔法學院を深淵なる恐怖のドン底に…」
「ストップだ。それ以上続けなくていいから」
「せっかくいいところだったのに、止められてしまってガッカリですわ。次の機會には最後まで言わせてくださいませ」
「そんな機會が永遠に來ないといいな」
このようなとても編試験を目前に控えているとは思えない態度で、兄妹に加えて母親もえた三人は魔法學院へとやってきている。
魔法學院は神奈川県の伊勢原に設置されており、首都圏最大の大山ダンジョンに隣接している。広大な敷地には校舎、學生寮、屋、屋外の各種演習場、食堂やジム施設など、通常の公立高校では考えられない豪華な施設が完備されている。
學院の職員に案されて各所を見學して回る兄妹。殊に學生食堂で桜の目がキラッキラに輝いている。
「お兄様、カフェテリア式で食べ放題なんて、まるで私のためにあるような學生食堂ですわ」
「ああ、気が済むまで食べてくれ」
こうして最後に案されたのは學生寮であった。通常の寮は男別棟になっており、二人部屋が基本である。だが、兄妹が通された研究棟の最上階にあるその部屋は…
「お兄様、まるでホテルのスイートルームのようですわ」
桜はさっそく寢室のベッドにダイブしている。今日は今まで通學していた高校の制服を著ているので、短いスカートが捲れあがってピンクのパンツが丸見えだ。対して聡史は…
「こんな広い部屋は、掃除が大変そうだな」
眉をひそめて呟いている。掃除擔當者としての現実的な想だった。
特待生に用意されているのは、キッチン、リビング、バストイレ付きで寢室が三部屋ある、超豪華な寮であった。もちろんこんな豪華な設備がいくつも用意されているわけではない。たった一部屋しかないこの部屋を、兄妹が獨占して使用してよいのだ。
これは學院長の作戦でもある。目の前にニンジンをぶら下げて兄妹のヤル気を最大限に引き出そうという思が働いているのは言うまでもないだろう。
この作戦にまんまと乗せられているのは他ならぬ桜に相違ない。
「お兄様、食べ放題の食堂と豪華なスイートルームが懸っています。絶対に合格しましょう」
「すでに目的を見失ってるぞ。ダンジョンにりたかったんじゃなかったのか?」
「それはそれ、これはこれですわ。どちらも力盡くで勝ち取るのが私の生き方ですから」
ダンジョンの件だけではなくて、目の前にぶら下がった味しそうな餌にはパクっと喰い付くのが桜の格。快適で満腹な生活のために全力を盡くそうと、他人からも丸見えの勢いで燃え上がっている。
「事件が起こらなければいいんだけど…」
そんな妹を橫目に、心配の種が盡きない聡史であった。
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