《異世界から日本に帰ってきたけど、やっぱりダンジョンにりたい! えっ、18歳未満は止だって? だったらひとまずは、魔法學院に通ってパーティーメンバーを育しようか》16 専門実技演習

聡史と鈴が二人っきりで何やら……

基礎実技の時間が終了した。

もちろんランニングだけではなくて筋力を高めたり瞬発力アップを目的としたトレーニングの他、幹強化やジャンプ力、握力に至るまで、それぞれの生徒の課題に応じた細かいメニューが用意されている。

聡史と桜は、他の生徒には過酷に映るトレーニングメニューを終始鼻歌じりの余裕の表で終えている。というよりも、むしろランニング同様にどうにも足りなくて自主的に數を増やしたり、腕立て伏せの時に互いを背中に乗せたりと、ランニング時と同様に周囲を驚かしていた。

基礎実技が終わると専門実技演習の時間となる。

専門実技演習は各自が取り組みたい項目を自由に選択できる。剣の腕を上げたかったら同じような目的の生徒が集まって打ち合いをしてもよいし、ひたすら素振りを繰り返しても構わない。自分で課題を見つけて取り組むという生徒の自主に任されている。

中でも生徒に最も人気なのは魔法技能の習得と向上であった。練習仲間と一緒に魔法の使用が可能な屋演習場に向かう姿が多數みられる。

そんな中…

「お兄様、私は、明日香ちゃんをマンツーマンでビシッと鍛えますので別行をいたします」

「ああ、わかった。行ってこい」

桜は明日香ちゃんがバテバテになって茹で上がったカエルのように芝生の上に倒れている場所に歩いていく。その表には一切の慈悲などありはしない。心を鬼にして明日香ちゃんを鍛え抜く所存のよう。鍛えられる側の明日香ちゃんとしては迷この上ない話であろう。

聡史の眼から見ても、これから2時間明日香ちゃんには耐えがたい試練が待っているのは明白。すでに力が盡きているところにもってきて、この後さらに桜による拷問のようなシゴキが待っている。聡史はいまだ立ち上がれない明日香ちゃんに向かって、ご愁傷様ですの思いを込めて心の中でそっと手を合わせるしかできない。

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聡史が桜と明日香ちゃんから視線を移すと、こちらに向かって歩いてくる鈴の姿が目にる。午前中とはいえ初夏の日差しの中で2時間トレーニングに費やしたおかげで、鈴は汗だくの様子。

「聡史君、汗でビッショリだから一度著替えてくるわね」

「水分の補給を忘れるなよ。第1屋演習場のり口で待っている」

聡史の忠告に鈴は力なく頷いて更室へ向かっていく。明日香ちゃんほどではないにしろ相當バテている鈴の後ろ姿に、聡史は自販機でスポーツドリンクを購してアイテムボックスに放り込んでおく。

「聡史君、お待たせしました」

「いや、大して待っていないから気にするな」

Tシャツを著替えて顔を洗ったことでちょっとだけ復活した鈴は、聡史に向かって微笑み掛ける。実は聡史と二人で魔法の練習をするというだけで昨夜からが高鳴っていた。

「それじゃあ、行こうか」

「でも第1演習場は魔法の練習をする生徒で混雑しているわよ」

「心配しないで大丈夫だよ」

聡史は、鈴を連れて屋第1演習場のり口をくぐっていく。その先にある頑丈な扉を開くと、多くの生徒が魔法の練習を始めている演習フィールドが広がる。だが聡史は扉には向かわずに地下へと向かう階段を降り始める。

「えっ、聡史君、施設の地下は生徒の立ちりが止されているのよ」

「普通の生徒はそうかもしれないけど、これは特待生の特権だよ」

聡史はポケットからカードキーを取り出すと、第1演習場よりもさらに頑丈な扉のロックを解除する。重たい扉を押し開けると、そこにはコンクリート打ちっ放しで見るからに武骨な造りのスペースが広がっている。

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「編試験の時にちょっとしたトラブルがあって、俺と妹が練習をする時はこの第ゼロ演習場を使うようにと言われているんだ」

聡史が言う「ちょっとしたトラブル」とは、もちろん桜の太極破によって第3演習場が半壊した一件を指している。あのような事故が発生しないように、學園側は核シェルターとしても使用可能な2メートルの厚さのコンクリート製の壁に囲まれたこの場所を練習場所として指定していた。

「まずは、あそこのベンチに座ろうか」

「ええ」

聡史は鈴を座らせると、アイテムボックスからスポーツドリンクと謎の小瓶を取り出す。さらにマグカップも取り出して謎の瓶にったを50㏄ほど流し込むんでからスポーツドリンクで薄める。謎の瓶の中は異世界製のポーションに他ならない。

「これを飲むと疲れが取れるぞ」

「な、何なの? このは?」

「特ドリンクだよ。まあ、飲んでみろ」

鈴は、恐る恐るマグカップに手をばして口に運ぶ。一度ゴクリとが鳴った途端に彼は顔を顰める。

「苦くてなんだか生臭~い。想像以上に酷い味ね」

「良薬は口に苦しだよ。すぐに効果が出てくるはずだから全部飲むんだ」

鈴は聡史に言われるままにマグカップの中を飲み干す。しばらくの間口から舌を出して苦そうな顔をしていたが、そのうち自分の調の変化に気が付く。

「あれ? 本當に疲れが取れているわ」

「魔法の薬だからな。効果は俺ので何度も試しているからバッチリなはずだ」

不思議そうな表をしたまま、鈴は聡史の顔をまじまじと見つめている。彼の口から出た「魔法の薬」というフレーズになんだか高い信憑じてしまっているよう。

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「魔法でこんな薬ができるの? もしかして聡史君が作ったの?」

「俺は作り方を知らないんだ。知り合いが作って持たせてくれた品だよ」

そのビンの中のより正確な正は、異世界で聡史と桜がパーティーを組んでいた大賢者特製のポーションであった。作った人が人なので回復効果抜群の上級ポーションに相當する。

「さあ、力が回復したところで、魔法の練習を開始しようか。まずは鈴が発可能な魔法を見せてもらえるか」

「まだファイアーボールしか出來ないのよ。ひとまずやってみるから見ていてね」

鈴はコンクリート打ちっぱなしでブルーのラインが雑に引かれているだけのフィールドに立つと、20メートル先にある合金製の的を見つめる。そのまま神を集中しながら、頭の中で式を反芻。そして発音がはっきりした大きな聲で…

「ファイアーボール」

その右手から弱々しい炎が飛び出すと、的に向かって小學生のキャッチボール程度のスピードで飛翔する。炎は合金の的に當たると飛散して消え去っていく。的の表面には何ら変化はなかった。

「聡史君、どうだったかな?」

「これはさすがに評価のしようがないな」

聡史の評価基準は、魔に対してダメージを與えられるかという點に重きを置いている。今見た鈴の魔法ではゴブリンでさえいとも簡単に避けてしまうであろう。そのような意味で「評価できない」と、敢えて厳しい言い方で答えている。

「やっぱりダメかぁ…」

鈴、ひとつ質問していいか?」

「なに? 聡史君」

「Aクラスの生徒の魔法ってこんなレベルなのか?」

「そうね。全員大こんなじかな」

「ということは式の構築方法自に問題があるな」

日本で魔法の存在が明らかになったのは今から5年前。當時は魔法が発しただけでも涙を流して喜ぶ大騒ぎであった。その頃の人々を第一世代だとすると、より使いやすい形に式を改良している鈴たちは第二世代と呼べるかもしれない。

だが、日本の魔法界にはエポックメーキングと呼べるような畫期的な発見や新たな方法の開発は未だに生まれていなかった。悲しい事実ではあるが、第一世代が開発した式の改良を進めるに留まっている段階といえよう。

聡史は意気消沈している鈴に敢えて厳しい口調で聲を掛ける。

鈴、俺のファイアーボールを見てくれ。ああ、そうだった。耳を押さえておくんだぞ。鼓がやられる恐れがあるからな」

鈴は聡史の警告の意味も分からないままに、両手で耳を押さえて開始戦に立つ彼の姿を見つめる。

聡史は編試験の反省から威力を5分の1に抑えるように設定した式を頭の中に思い浮かべる。そして…

「ファイアーボール」

先ほど鈴が放った魔法とは別の正真正銘威力と破壊力をめたファイアーボールが飛び出して的にぶつかる。

ドガーン

耳を押さえていても、激しい発で生じた大音響と空気を震わせる振鈴には伝わる。もちろんその威力に彼は信じられない表で目を丸くしている。

「なにコレ? 凄い威力…」

自分の魔法とは別の聡史の魔法… それは彼に魔法界全の革命のような衝撃を齎している。

だが聡史の表はこの程度は當然と言わんばかり。嫌味のように映るかもしれないが、聡史は誰に対してもスパルタで臨む方針を貫いている。そして聡史よりもさらに厳しい超スパルタなのが桜といえる。今頃明日香ちゃんはどうなっているのか、ちょっと心配だ。

鈴、この程度で驚いてもらっては困るぞ。もう一度同じ魔法を放つから、鈴は自分のスキルを用いるんだ」

「えっ、私のスキル?」

鈴には聡史が何を言いたいのか理解できてはいない様子。自分のスキルと言われても、何をどうしようというのか見當がつかない。反対に聡史は昨夜見せてもらった鈴のステータスを完璧に把握していた。中でもこのスキルは魔法の習得に役立つと判斷している。

このような判斷が可能なことこそが、彼が異世界で得た數値には表れない経験値の賜であろう。

「自分のスキルはきちんと把握しておこうな。鈴には式解析のスキルがあるだろう。俺の魔法を解析してみるんだ」

「えっ、えーと、今まで使用してこなかったから、どうすればいいのかよくわからないんだけど…」

「せっかく持っているスキルを利用しないのは損だぞ。いいか、心の中で式解析のスキルが発するように念じるんだ」

「は、はい」

鈴は、聡史に言われたままに心の中で念じる。すると目に魔力が集中する気配をじる。

(これが私のスキルなのかしら? なんだか不思議な覚)

鈴、スキルは発したか?」

「ええ、なんだか目に違和じるわ」

「それで大丈夫だ。ゆっくり発するから、可能な限り解析してくれ」

「はい、聡史君、お願いします」

ついつい敬語になってしまったのは、自分のためにわざわざ見本を見せてくれる聡史の気持ちに対する謝ゆえの鈴の思い。

聡史は鈴の返事を確認すると、わざとゆっくり手の平に魔力を集める。すでに聡史の式は発しており、その右手に螺旋を描くかの如くに絡みつく魔法式を鈴の眼は追っている。

(すごい高度な容。魔力の集中方法に始まって、炎とへ変換する的な命令が細かに記載されているわ。発時は表面のみが燃焼して、的にぶつかってから部が瞬間的に燃え上がるように魔力に対してより的な指示を出しているのね。威力を設定する箇所はここかしら? 魔法に込める魔力の量を調整しているみたいだわ)

「ファイアーボール」

聡史の魔法が先ほどと同様に宙に飛び出していく。鈴の眼が解析できたのは式の一部であって、その全像はたった一回の実演では理解できなかった。

「聡史君、もう一度お願いします」

「いいぞ、全像が解析が出來るまで何度でも撃ってやるから遠慮するなよ」

再び聡史は同じ魔法を発する。鈴の眼は今度は魔法式の別の部分に著目している。

(威力の設定までは理解したから、次は飛翔の命令と距離や方向が書き込んである部分ね。あら、 これは何かしら? 視線と同調せよという意味みたいだけど…)

魔法が的に炸裂してから、鈴は式の気になった箇所に関して聡史に質問する。まるで先生にわからない部分を聞く生徒のような表。聡史はその鈴の様子を自分に重ねて『俺にもあんな時期があったな』と苦笑を浮かべる。

「聡史君、距離や方向の設定を視線と同調に置き換えているのかしら?」

「ほう、もうそこまで解析したのか。初めてにしては優秀だな」

スパルタが上の聡史にしては珍しく鈴を褒めている。だがこれはお世辭などではない。聡史自が彼の解析能力に実際に舌を巻いているとは、鈴はまだ気が付いてはいない。

「距離や方向を的に數字を力して設定する方法もあるが、視線に同調させたほうが簡単なんだよ。式構築の手間も省けるし」

「そういう理由だったのね。確かに大幅に手間を減らせるわ」

鈴はひとりでしきりに心しているが、異世界ではこのようなやり方が現在は主流となっている。これは聡史が彼の魔法の師である大賢者から聞いた話であった。

こうして聡史が何度も同じ魔法を放って、鈴が細かな部分まで自分の眼で解析していく作業が繰り返される。回數が10回を超えたときに鈴は目にちょっとした変化をじる。

「聡史君、なんだか今までよりもはっきりと式の細部がわかるようになったんだけど、一どうしたのかしら?」

「ああ、それはたぶん鈴のスキルのレベルが上がったせいだよ。使用すればするほどスキルはレベルアップしていくんだ」

「本當なの、それは知らなかったわ」

鈴がステータス畫面を開いて確認すると、確かにランク4だった式解析がワンランク上昇している。むしろ最初からランク4のスキルを持っていた鈴こそが、大きな才能の持ち主だといえよう。

このような形で何度も聡史の魔法を解析しているうちに鈴は奇妙なことに気が付く。聡史は常に一瞬で式を構築しているのだ。鈴のように丹念に魔法式の一個一個を作り上げるのではなくて、式そのもの1セットが瞬時に現れてくる。

「聡史君はどうやって式を構築しているの? いくら何でも早すぎないかしら?」

「ああ、これは式自をイメージとして捉えて丸覚えしているんだ。威力の部分だけその場で書き換えれば簡単なお仕事だろう」

「そんな方法があるなんて…」

鈴はまさに目からウロコがボロボロ落ちる思いをじている。一回ごとに式を構築するのではなくて、出來合いの魔法式の必要な部分だけ書き換えるこの方法は、聡史の言葉通りに合理的であった。その分頭の中に魔法式全のイメージを植え付けるという作業を必要とするが、慣れてしまえば圧倒的に発が早い。

「さて、解析は充分みたいだから、今度は鈴が実際に魔法を放ってみようか」

「同じように出來るかどうか不安だけど、やってみるわ」

鈴は頭に殘っている魔法式を呼び出す。その細部まで間違いがないか確認すると、大きく一つ頷いてから発聲する。

「ファイアーボール」

聡史のものに比べれば10分の1程度の魔力しか込められていないが、それでも最初のヘロヘロ火の玉とは見違えるような鮮やかなオレンジの炎が飛び出す。

ドーン

そして狙い通りに的にぶつかって小さな発を生じた。この結果に聡史は満足そうに頷いている。

ワシが育てた! とでも言いたげなドヤ顔がなんとも小憎らしい。

「聡史君、やったわぁぁ」

魔法が功した鈴は満面の笑みを浮かべて聡史の傍までやってくると、そのまま彼の首に腕を回して抱き著く。人目も気にする必要がない場所で心のままに聡史にしがみついて、鈴はそのまましばらくの間離れようとはしなかった。

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