《異世界から日本に帰ってきたけど、やっぱりダンジョンにりたい! えっ、18歳未満は止だって? だったらひとまずは、魔法學院に通ってパーティーメンバーを育しようか》20 隠し部屋での戦い

どこかに転移させられて……

転移のに包まれて一瞬の浮遊の後に、周囲の景が実化してくる。

ドスドスン

ダンジョンでの転移に慣れている聡史と桜は何事もなかったかの表で床に立っているが、このような経験は初めてであった鈴と明日香ちゃんは、もちをついて目から火花が飛び散っている。

「痛たたたた、おが痛いですよ~」

「はぁ~、ビックリしたわ。あら、どんな恐ろしい場に行くのかと思っていたら、意外と普通の場所なのね」

周囲を見回している鈴の目に飛び込んできた景は、赤茶のレンガが敷き詰められている床と壁に囲まれたバスケットコート2面分程の空間であった。特にこれといった目ぼしいはないが、唯一空間の最も奧まった箇所には、祭壇を模しているかのような木組みのテーブル狀の臺が置かれている。

「お兄さん、桜ちゃん、元の場所に早く戻りましょうよ~」

「明日香ちゃん、どこに出口があるんですか?」

「あれ? そう言われてみると、どこにも出口が見當たりませんねぇ。どうしましょうか?」

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桜の指摘に明日香ちゃんは不安げな表を浮かべている。この空間は確かに出りする通路がどこにも繋がっていない不思議な場所であった。自分が置かれた狀況をようやく自覚してどうやって元に場所に戻ればよいのか、お花畑の住人である明日香ちゃんも不安を覚えたようだ。

その時…

「あれは何かしら?」

祭壇の手前に黒い靄のように魔力が集まり、何かを形作るかのように蠢き始める。そして次第にが実化するように、郭がはっきりとしてくる。

「ま、まさかあれは。オーク?」

鈴がその方向を指さして聲を上げてから慌てて口を押える。學院の生徒はオークを倒すほどの実力を持っている者はいない。もしダンジョンでオークに出會ったら『武を放り出してでもその場から逃げ出せ』と、口を酸っぱくして教えられている。5階層までに出現する最強の魔こそがオークなのである。

「や、やっぱり普通の場所じゃなかったですよ~」

明日香ちゃんはそうぶと、ヘナヘナと床に崩れ落ちて白目を剝いて気を失った。よくもまあ、こんなで魔法を目指せるものだ。

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鈴、あれはオークではないな。上位種のオークジェネラルだ」

「ええぇぇぇ」

聡史からさらなる絶的な宣告が下されると鈴の顔は真っ青になる。だが桜の反応は、鈴の考えの斜め上をブッチギッていた。

鈴ちゃん、怖がる必要はありませんわ。あそこにいるのは単なるですの」

「えっ?」

「単なるですから、どうぞご安心を」

そう言い殘すと桜はオークジェネラルに向かって突進を開始する。その後ろ姿に向かって、何らかの考えがあるのか聡史が聲を掛ける。

「桜、2仕留めて1はこちらに回してくれ。鈴はファイアーボールを準備しろ」

「お兄様、承知いたしましたわ」

「聡史君、わ、私がやるの?」

「ああ、鈴の魔法に期待しているぞ」

聡史に勵まされて、鈴は教えられた通りにファイアーボールの式を準備する。その間に桜はと言えば…

「観念して、になりなさいませ」

無鉄砲にも単で3のオークジェネラルに向かって突っ込んでいく。

桜を迎え撃とうとするオークジェネラルは長が2メートル強。イノシシを擬人化したようなフォルムで筋骨隆々としたそのは通常のオークよりも一回り大きい。さらに全を包む革鎧と革製の兜、右手にはロングソード、左手には革を張った盾を構えている。このような強敵に対して桜は臆することなく真正面から突っ込んでいく。

直進してくる桜のは、オークジェネラルの目の前。飛び込んでこようとする獲に向けて、3が一斉にロングソードを振り上げる。

だがその瞬間、桜の姿がオークジェネラルの目の前から消え失せた。真っ直ぐに突っ込むと見せかけて直前で左側にカットアウトすると、3の中で左に立っている1の真橫に瞬時に移している。

桜の目の前にはがら空きのオークジェネラルの脇腹。當然のように手加減なしのストレートが目に捉えられない速度で放たれる。

「ブモオォォ」

僅か1発のパンチでオークジェネラルの肋骨は砕され、臓や心臓、肺までが破裂した。有り余るパンチの勢いはそれだけに止まらずに、その個を吹き飛ばしてミサイルのような勢いで隣の個にぶつかっていく。

「ブモオー!」

更に玉突きになって、そのまた隣の個にもぶつかる。

「ブモー!」

こうして僅か1発の桜によるパンチで3のオークジェネラルは折り重なるように倒れ込む。こうなると逆にその巨が災いして中々起き上がれなくってしまう。まだ息のあるオークジェネラルは、なんとかして起き上がろうと地面でもがき合うが、そんな隙だらけの様子を桜は絶対に見逃さなかった。

「やはりになる運命でしたわね」

きを止めている最初の1の下敷きとなって、なんとか抜け出そうと足掻いている個の首に踵を落とす。

「ブモオォォォ」

斷末魔のびを上げるとオークジェネラルは息絶えていく。聡史の指示通りに2を仕留めた桜はそのまま気配を消してオークの後ろ側に佇む。ひとたび彼がこうして気配を絶つと、そこに居るのかどうかすらわからなくなる高度な気配の消し方だ。

地面に転がされた3のうちで、最も右側にいた個は比較的ダメージが軽かった。訳が分からぬ間に自らをこのような目に遭わせた相手を探そうと周囲を見回すが、気配を絶った桜をその目で発見できなかった。だが前を向けば三人の人間がいる。しかもそのうちのひとりは倒れたままで、抵抗できないようである。

絶好の獲を発見したとばかりに、再び床を踏みしめて立ち上がる。は若干フラ付いてはいるが、闘爭本能はいまだ健在のよう。

鈴、魔法だ」

「は、はい」

鈴の右手からはスタンバイを完了していたファイアーボールが飛び出していき、オークジェネラルののど真ん中に著弾する。

ドーン

閉ざされた空間に発音が響き、直撃をけたオークジェネラルはその衝撃で後方に飛ばされる。

「やったわ」

鈴の表は魔法が無事に命中した安堵に包まれる。だが…

「ブモオォォ」

オークジェネラルは剣を手に立ち上がる。雄びを上げたその姿は湧き上がってくる怒りにを震わせているかのよう。オークジェネラルは確かに魔法の直撃をけていた。だが革鎧越しであったために致命傷となるようなダメージではない。元々オーク種は生命力が強いのだ。

復活の雄びを上げるオークジェネラルの姿を見た鈴は、全直してき一つできない。魔法の効果が無かったショックとオークジェネラルの本能的に恐怖を呼び起こす姿に、神が負けてしまっている。

「仕方がないな」

その小さな聲を殘して鈴の隣から黒い影が疾走する。右手はミスリル製のロングソードに持ち替えて雄びを上げるオークジェネラルに音もなく接近していく。

「悪いな、死んでくれ」

その言葉とともにミスリルの剣を一閃すると、オークジェネラルの首がからズルリとズレる。次第にそのズレが大きくなって頭がから転がり落ちると同時に、オークジェネラルの巨は真後ろに倒れていった。

この景を見屆けた聡史はゆっくりと鈴に振り返る。

鈴、魔法が當たったからといって油斷すると命取りに繋がるからな」

「は、はい、聡史くん、ありがとう。助かったわ」

鈴はこのオークジェネラルとの一戦で大きな教訓を學んだ。最後の止めを刺すまでは、絶対に油斷できないのが魔との戦いなのだ。そして白目を剝いて倒れている明日香ちゃんは、何も學んでいなかった。

「お兄様、をゲットですわ」

桜がホクホクして木の皮に包まれたオークのブロックを抱えてくる。その他に魔石を3個、気絶している明日香ちゃんに代わって回収している。

「聡史君、魔なんて本當に食べられるのかしら?」

「ああ、高級黒豚と遜ない味だぞ」

鈴ちゃん、特にトンカツにするととっても味しいですわ」

兄妹が力強くその味しさを説くが、鈴にはどうにも半信半疑な様子。異世界ではオークというのは定番中の定番ではあるが、日本においては馴染みが無いのは當然であろう。

「それよりも、そろそろ明日香ちゃんを起こしてやらないのか?」

「そうでした、すっかり忘れるところでした」

桜はオークをアイテムボックスにしまうと、続いて小ビンを取り出して中のを明日香ちゃんの口に流し込む。

「桜ちゃん、まさかそれは」

鈴ちゃん、魔法のですから苦さで目が覚めますわ」

揺すって起こせばよさそうなものだが、桜はわざわざ明日香ちゃんにポーションを飲ませている。実に友達思いの格。やがて明日香ちゃんのがゴクリと音を鳴らすと…

「うへぇぇ、苦いですよ~」

ポーションには気付け薬としての作用はない、明日香ちゃんは、えも言えないその味に我慢できずに目を覚ましただけ。

ようやく立ち上がった明日香ちゃんは相変わらずポーションの苦さに顔をしかめっ放し。だがいつまでもグズグズしていられないので、この空間で唯一の手掛かりとなりそうな祭壇に向かって四人は歩き出す。

近付いててわかったのだが、その上には長細い木の箱が置いてある。

「特に罠が仕掛けてある様子もないですわね~」

桜が無造作にその箱を開けると、中にはネジくれた木の頭の部分をくり抜いて黒い石を嵌め込んだ杖が出てきた。

「まるで仙人が用いるような杖ですわ」

桜はその杖を手に取ると興味なさげに聡史に渡す。け取った聡史は一旦アイテムボックスに仕舞い込む。

「聡史君、さっきからんなを出したり仕舞ったりしているけど、どういう仕組みなのかしら?」

「ああ、これはアイテムボックスだ。スキルのひとつだな」

「なんだか便利なスキルね」

鈴の言葉通り非常に便利なスキルである。何でも放り込んで持ち運べるうえに、アイテムボックスの部は時間が停止しているので、生ものでもいつまでも保存がきく。更にインデックス機能が付いており、仕舞った品の名稱がわかる。さすがに鑑定スキルのように用途までは調べられないが、インデックスに〔ミスリルの剣〕といった合に表示される。

「わかったぞ、どうやらこの杖は〔黒曜石の杖〕という名前のアイテムだ。おそらく魔法に関係のあるアイテムだと思うが、あとでゆっくりと調べてみよう。それまでは俺が預かっておく」

こうしている間に何もなかった空間の床に魔法陣が現れる。どうやらこの杖を手にれると出現する仕組みのよう。

「オークが手にりましたし、お寶もゲットしましたわ。それでは戻りましょうか」

「桜ちゃんのおかげで酷い目に遭いましたよ~」

こうしていまだにボヤキが止まらない明日香ちゃんを勵ましながら、四人は魔法陣の中へと消えていくのだった。

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