《異世界から日本に帰ってきたけど、やっぱりダンジョンにりたい! えっ、18歳未満は止だって? だったらひとまずは、魔法學院に通ってパーティーメンバーを育しようか》22 武選び

明日香ちゃん回です。

翌日は學科の授業だったため特筆する出來事は起こらず迎えた放課後、第3訓練場では暑さにも負けずにEクラスの生徒が自主練を行っている。

「聡史に稽古をつけてもらうようになってから、なんだか腕が上がったような気がするんだよ」

「それはいいことだな。俺ももっとスピードを上げていいか?」

「いや、待て待て待て! そ、そ、そんな急に鋭い攻撃をしてくるなぁぁぁ! 痛たたたたたぁぁぁ!」

剣を合わせる頼朝の肩口を袈裟斬りに、聡史の木刀が完ぺきな一本を決める。プロテクター越しでもその衝撃は相當なもので、頼朝は顔をしかめて蹲る。聡史が稽古のレベルを上げても大丈夫と判斷する程度に、頼朝をはじめとしたEクラスの生徒たちは剣の腕を上げているのだった。

「ふひぃぃ… 効いたぁぁ~」

現在頼朝は芝生の上に大の字になって痛みと戦っている真っ最中。青痣は確定だが、骨には異狀ない程度に聡史は加減している。さもなかったら今頃病院に直行する羽目に陥っていただろう。

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そこに…

「お兄様、どうもごちそうさまでした。とっても味しいデザートでしたわ」

「桜ちゃんは食べすぎです。お兄さんのお財布が、あっという間にカラになっちゃいますよ~」

ホームルームを終えると兎のごとく食堂に急行した桜と明日香ちゃんのコンビが、初めて自主練に顔を出している。その話し振りからすると、聡史の財布から相當な金額が翼を生やして空へ飛び立ったよう。も涙もない仕打ちを平然と仕出かす妹に、聡史は悄然として佇んでいる。

すると桜が何かに気づく。

「おや? 義経はそんな日向でのんびりと晝寢ですか?」

「桜、惜しいぞ、それは弟のほうだ」

「間違いましたか? ああ、正解は弁慶ですね!」

「それは家來だろうがぁぁぁ! いい加減覚えろ、こいつは頼朝だぁ~」

「まあ、興味ありませんから、どうでもいいでしょう」

この時、頼朝の頬を一筋の涙が伝ったのは誰にも緒。唯一の目撃者である聡史も武士のけで見ないフリをしている。

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「ところで桜たちは何の用だ?」

「お兄様、そうでしたわ。これから明日香ちゃんの神鍛錬と、武を決めようと思いまして。あちらの隅をお借りしますね」

「ああ、わかった。あまり人騒がせな真似をするんじゃないぞ」

聡史は桜に一聲掛けると、ようやく涙を拭って立ち上がった頼朝を相手に立ち合いを再開する。頼朝よ、桜のオモチャにされながらも、どうか強い男を目指して頑張ってもらいたい。

そんな兄たちは放置して、桜と明日香ちゃんは訓練場の片隅にやってきている。

「桜ちゃん、武を決めるなんて、なんだかワクワクしてきますよ~」

「お言葉ですが、明日香ちゃん、今まで何の武も持とうとしなかった明日香ちゃんのその態度こそが、大問題だと自覚してもらいたいですわ」

「実は、桜ちゃん。かに心に決めている武があるんですよ~。桜ちゃんは々と武を用意してくれると言ってくれましたから、私が希する一品があるかどうかとっても楽しみなんです」

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明日香ちゃんはなんだかいつもにも増していい表。3時のおやつを食べてさらに武まで決まるとなったら、それは上機嫌になるのも無理はなかろうというもの。この笑顔がいつまで続くのかは、保証の限りは全くないのだが…

「明日香ちゃん、一応聞いておきますけど、その心に決めている武とは?」

「はい、マジカルステッキですよ~」

「はっ? もう一度聞いてよろしいでしょうか?」

「もう、桜ちゃんったら。いいですか、よく聞いてくださいね。私の第1希は、マジカルステッキなんですよ~」

「すぐにおもちゃ屋さんに行ってこいぃぃぃ! 本當に… 私が誠心誠意突っ込むのは明日香ちゃんだけですわ」

「ええぇぇ、桜ちゃんは用意してくれなかったんですか? 親友だから私の気持ちを分かってくれていると思ったのに…」

「そもそも明日香ちゃんには、魔法系のスキルがないですわ。當面は理で頑張るしかないんですの」

「なんだか急にテンションが下がりました。もうヤル気がないですよ~」

こんな明日香ちゃんをよくも桜は気長に面倒を見ているものだ。だが桜も伊達に長い付き合いではない。気を取り直して明日香ちゃんを正面から見る。

「まあ、いいでしょう。一旦武の件は橫に置いて、まずは神鍛錬から開始しましょう」

「桜ちゃん、何をするんですか?」

「そうですねぇ… 明日香ちゃんは芝生の上に座ってください。危険なので(ボソッ)」

「わかりました」

何も知らずに明日香ちゃんは芝生の上に座る。これからどんな目に遭うかなど、想像もしていない表だ。

「それでは參りますよわ。ハッ!」

「ヒィィィィィ!」

桜が明日香ちゃんに向かって放ったのは正真正銘の殺気であった。レベル600オーバーの生の殺気をモロにに浴びた明日香ちゃんは、白目を剝いて芝生の上に倒れている。突っ立ったままでは頭を打ち付ける可能を考えて、桜は明日香ちゃんを座らせていたよう。そして気絶している明日香ちゃんの耳元で桜は貓で聲でそっと囁く。この娘、やはり人の皮を被った悪魔に違いない。

「明日香ちゃん、いいんでしょうか? そのまま寢ていると、また苦い薬を流し込んじゃいますよ~」

「ハッ、何が起きたんでしょうか? とっても恐ろしい何かが襲ってきたような…」

明日香ちゃんは「苦い薬」に反応して條件反で飛び起きていた。あの味がよほどのトラウマになっているよう。

「それでは、もう一度行きますよ~。ハッ!」

「ヒィィィィィ!」

このような人権を丸っと無視した過酷な訓練を繰り返すこと10回、桜は明日香ちゃんのステータスを確認する。

「やはり私の予想通りでした。明日香ちゃん! ほらここに〔神耐レベル1〕のスキルが加わっていますわ」

「予想通りじゃないですよ~。目の前に大きな川が滔々と流れていたんです」

「ああ、それは間違いなく三途の川ですわ。明日香ちゃんは、実に逞しいです。よく生きて戻ってきました」

「死にますぅぅぅ! 今度こそ絶対に死にますぅぅぅ! もう終わりにしましょうよ~」

明日香ちゃんの口から悲痛なびが零れ落ちるが、そんな儚い願いを葉える桜ではない。斷じてない。

「それじゃあ、このスキルがレベル2になるまで頑張りましょう」

「ヒィィィィィ」

桜の地獄のような神鍛錬は続いていくのだった。

ようやく桜の鍛錬が終了すると、今度は明日香ちゃんの武を決める番がやってくる。桜は、芝生の上にアイテムボックスから取り出した目ぼしい武を次々と並べていく。

その種類は、ナイフ、短剣、ロングソード、スタッフ、ロッド、斧、槍、とまあ、このように各種に渡る。

気絶を繰り返して顔面の表が完全に抜け落ちていた明日香ちゃんも、この景に何やら興味を示している。立ち直りが早いのが、この子の最大の特徴といえる。

「ふむふむ、マジカルステッキがないのは殘念ですが、桜ちゃんはんな武を持っているんですね」

「これは趣味で集めたようなものですから、明日香ちゃんが気にったものを手に取っていいですわ。一つだけ注意してもらいたいのは、剣や槍は全部本ですから取り回しには注意してください」

「ええ、本なんですか。全部斬れたりするんですか?」

「ええ、斬れます」

さすがに明日香ちゃんの表が引き締まる。聡史がゴブリンやオークジェネラルの首チョンパしたシーンが蘇って、迂闊に並んでいる武れようとはしない。しげしげと並んでいる武を見て回るだけの明日香ちゃんに、シビレを切らした桜が聲を掛ける。

「何か気になるはありましたか?」

「そうですねぇ… この槍は先がフォークみたいで可いですよ~」

明日香ちゃんの言葉にその槍は青くり出す。あたかも手に取ってもらいたいとアピールするかのごとくに。

「ほほう、明日香ちゃんはその槍を選びましたか」

桜はひとりで訳知り顔で頷いている。実はこの槍は、桜が異世界のとあるダンジョンのラスボスを倒した折に寶箱から出てきた品で、その銘は〔トライデント〕と打たれている。

ギリシャ神話で知られているポセイドンが手にする三叉槍、異世界においてもそのポセイドンに相當する神が手にしたという伝説が殘されている神話級の槍であった。仮にどこかの王國に獻上されたならば寶庫の最奧に厳重に保管されるような品を、明日香ちゃんは「フォークみたいで可い!」と、言ってのけちゃった。この娘はなんてことを口にするんだろう。罰當たりにもほどがある!

さて話は逸れるが、このような神話にまつわるクラスの武には魂が宿ると言われている。ただのでしか有り得ない槍が、何らかの意思を持ち始めるのだ。実はこのトライデント、ダンジョンの最下層で數千年の長きに渡って人の手にれられずに息をひそめて過ごしていた。

一度は桜の手に握られてようやく活躍の機會が訪れたかと期待したのも束の間、再びアイテムボックスに収納されてしまい放置が続いた。

槍は飢えていた。人の手に渡って活躍の場を得ることをその意志として願っていた。仕舞いには、もうこの際だから、イヌでもネコでもいいから誰か使って… という合に、絶賛槍自のバーゲンセールを展開中であった。

そして、久しぶりにトライデントを手に取ったのは、よりによって明日香ちゃん。なんという運命の巡り合わせ! 普段ならば絶対に明日香ちゃん如きを主人とは認めない神槍が「お願いだから私のご主人様になって」狀態。

「桜ちゃん、手に持ってみると、ずいぶん軽い槍ですよ~」

「そうでしたっけ? かなりズッシリしていたような気がしますが…」

トライデントにとっては二度とないかもしれない就活。この機を絶対に逃すものかと必死の様相。槍自らが重力をって、明日香ちゃんが手にしたを軽くしている。これだけ必死な神槍は見ていて結構気の毒だったりする。

「それから、先っぽがバチバチ火花を散らしているみたいですよ~」

「ああ、その槍は雷雲を引き起こして、嵐を呼び起こすと言われていますから」

「そうなんですか。ちょっと試してみましょうか。えいっ!」

明日香ちゃんは、ふざけて東の空に向かって槍を突き上げる。「すわ出番が來たか」とトライデントは俄然張り切ってしまう。槍の部から溜めに溜め込んだ力を東の空へ思いっきり放出開始。

「桜ちゃん、なんだかあっちの空が急に暗くなりましたよ~。まあ、偶然でしょうけど」

「あんまり空に向けないほうがいいですわ」

何事にもじない桜の額から、あろうことか一筋の汗が流れている。次第に雷雲は発達して、真っ黒に染め上げた東の空に雷鳴が轟く。

その間にもいよいよトライデントにとって運命のジャッジが下されようとしている。

「明日香ちゃん、その槍でいいですか?」

「そうですねぇ… 軽いし、なんだか私に使ってくれって言っているような気もしますから、この槍を武にしましょうか」

キターーーーーー! そんな聲がどこからか聞こえたような気がするが、明日香ちゃんは知らんぷりのまま。「もう、このご主人様はツンデレなんだから」槍が小聲で呟くような気がしなくもない。

兎にも角にも、こうして明日香ちゃんの武が決定した。本人は知らないが、本の神話級の槍である。果たしてこの先明日香ちゃんとトライデントは、どのような運命を辿るのかは、誰にも知る由はない。

そして本日の自主練を終えた明日香ちゃんは、自室に戻りテレビのスイッチをれる。ちょうどニュースの時間で、アナウンサーが原稿を読み上げる。

「本日の午後4時頃に、神奈川県北部と多南西部に記録的なゲリラ豪雨が発生しました」

「ふーん、そうなんだ」

明日香ちゃんは、何事もなかったように著替えを始めるのだった。

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