《異世界から日本に帰ってきたけど、やっぱりダンジョンにりたい! えっ、18歳未満は止だって? だったらひとまずは、魔法學院に通ってパーティーメンバーを育しようか》23 仲間の意義

兄妹は二人で何を……

この日の夜、兄妹は豪華な學生寮で二人っきりの靜かなひと時を過ごしている。

ソファーに腰掛けて寢る前の時間を冷たい麥茶を片手に、日本に戻ってきてからの慌ただしい日々を振り返っているよう。聡史はジャージにTシャツのラフな姿、桜は子熊の柄が細かくプリントされたパジャマ姿で、兄妹二人だけで會話をわしている。

「お兄様、こうして二人っきりだととても靜かですわ」

桜は、晝間の顔とは打って変わって穏やかな微笑みを湛えている。こうしていると、まるで別人のようなおしとやかなに見えてくるから不思議だ。

「そうだなぁ。なんだか靜かすぎて足りないくらいだ。學院に學してみたら結構忙しかったからかな? それにしても、鈴と明日香ちゃんに出會えて本當に良かった。運命の神様の粋な計らいかもしれないぞ」

「お二人と一緒にいると、とても楽しいですよね」

桜の瞳には、めったに見せない優しげなが浮かんでいる。まったく環境が違う學院に編して、不慣れな生活が始まった。いかな聡史や桜にとっても、殊に人間関係において一抹の不安をじて當然といえるような周囲の変化があった。にも拘らず、たまたま偶然そこに気を許せる知り合いがいたというのは、何よりも心強いはず。

「楽しいか。それは良かったな」

「お兄様、ずいぶん冷靜なの言い方ですね。楽しくないのですか?」

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「いや、もちろん楽しいぞ」

「クールなフリなど、お兄様には似合いませんわ。もっと素直に喜べばいいのに」

桜は、聡史の痛いところを突く。本當は桜以上に喜んでいる自分の面を努めて隠そうとしている聡史の態度は、桜から見ると挙不審の一歩手前に映っている。雙子ならではの、互いの心を理解する心のきが働いているのかもしれない。一卵雙生児ではないが、この二人にもある程度の以心伝心が存在している。

「それよりも、桜はクラスには慣れたか?」

自分の話にはれたくない聡史は慌てて話題を逸らす。妹に自らの面を見かされているような気もしてくるが、照れと男のつまらない意地で可能な限り心のを悟られないようにポーカーフェースを保っている。

もちろん桜にはそんな聡史のミエミエの薄っぺらい心などすっかりお見通しなので、いまさら何を隠しているのかと突っ込まれるのがオチであろう。だが桜は兄の顔を立てて、その件にはまだれないように言葉を選ぶ。

子の皆さんとは、何人かお話しできる方がいらっしゃいますわ。男子で名前を憶えているのは、信長くらいでしょうか」

「頼朝だからな。桜が名前を間違えるせいで、あいつは涙目になっていたぞ」

「今度はしっかり覚えましたから、二度と間違えませんの」

桜は両コブシをギュッと握って力強く宣言する。ようやく頼朝も浮かばれる可能が出てきたが、桜のことなのでまだまだ予斷は許さないであろう。

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「それよりも、お兄様こそクラスには慣れましたか?」

「うーん、そうだな~… 男子とはよくしゃべるぞ。特に自主練仲間とは、すっかり打ち解けているな」

子とはいかがなんですか?」

「明日香ちゃん以外は、ほとんどしゃべっていない」

「はあぁぁ… 相変わらずダメなお兄様です」

桜の指摘に聡史はグウの音も出ない。馴染の鈴と顔見知りの明日香ちゃんがいてくれて一番助かっているのは、他ならぬ聡史なのかもしれない。

「ところで桜。これから先も、明日香ちゃんを鍛えていくのか?」

「ええ、明日香ちゃんが音を上げるまでは頑張ってもらおうと思っておりますわ」

「一緒にダンジョンにるためにか?」

「もちろんですわ。だって明日香ちゃんと一緒だと、とっても楽しいじゃないですか」

この夜一番のいい顔で桜が答える。口ではなんやかんや言ってはいるものの、桜は本當に明日香ちゃんが大好きで心から信頼している。もちろんこんなことを真顔で本人に伝えると、調子に乗った明日香ちゃんがどこまで飛んで行ってしまうかわからないので、敢えて口に出すことはしないいままだろう。

「お兄様、お聞きしますが、ダンジョンにる仲間として最も大切な條件は何ですか?」

「うーん… やっぱり信頼できる人間かどうかだな。自分の背中を預けるわけだし」

「その通りですわ。だからこそ私には明日香ちゃんが必要なんですの。見た目は頼りないんですが、ああ見えて明日香ちゃんはなかなかしぶとい子なんです。きっと私たちに最後までついてきてくれると信じています」

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桜は、普段はあまり表に出さない心の思いのたけを、こうして聡史と二人っきりとなるとストレートにぶつけてくる。一番信頼している兄だからこそ、こうして何もかも打ち明けているかのよう。

「そうか… 鈴も俺たちについてきてくれるかなぁ~」

鈴ちゃんこそ、お兄様が信じないでどうするんですか。本當に何もわかっていないんですね。ほとほと呆れました」

桜に思いっきりダメ出しされて、聡史はズズーンと効果音が発生するレベルでへこんでいる。その額には3本の青い線がっているかのよう。

桜としては兄に「俺についてこい!」といった合でキリリとした態度を鈴に示してもらいたいのに、肝心の聡史がこのたらくでは発破を掛けたくなるのも無理はない。颯爽とをリードする凜々しい兄の姿を見たいのだ。

「お兄様、私の勝手な思い込みで明日香ちゃんを巻き込んでいるのは重々承知です。でも、明日香ちゃんなら必ず応えてくれると信じています。それこそが、本當の友達であり仲間なんです。だからこそお兄様も、もっと鈴ちゃんを信じてください」

「今日はどうやら桜に一本取られたみたいだ。俺ももっと鈴や明日香ちゃんを信じてもいいんだな」

「當たり前ですわ。お兄様は異世界で一緒に旅をした皆さんのことを、もうお忘れですか?」

「いや、忘れてはいないぞ。本當にみんなには世話になったし、勇気づけられた」

鈴ちゃんや明日香ちゃんも、一緒ですの。私たちの大切な仲間です」

「うん、桜が言いたいことはわかった。俺ももっと周囲の人間を信じよう」

桜は、一見傍若無人な格のように見える。もちろんそのような言がままあるのを否定できないが、それは彼の一面に過ぎない。その裏側では本當に仲間を大切にするし、自分の命を懸けても仲間を守ろうとする。

そんな桜は鈴と明日香ちゃんをすでにパーティーの仲間として見做しているよう。対して聡史はどうかというと、まだ守るべき対象として二人を見ている甘っちょろい事実に気が付いた模様。

二人っきりになるとこのようなじで聡史が桜にやり込められる場面が、この兄妹の間ではしばしばある。ひょっとするとこの兄よりも妹のほうが、魂の奧底の本質的な部分でしっかり者なのかもしれない。

「さて、ずいぶん遅くまで話し込んでしまいました。お兄様、そろそろ寢ましょう」

「そうだな、明日は実技実習の日だし、しっかり睡眠をとっておこう。明日も午後はダンジョンへ行くんだろう?」

「もちろんですわ。鈴ちゃんと明日香ちゃんはお兄様にお任せいたしますので、よろしくお願いしますね」

「ああ、わかったぞ。それじゃあ、おやすみ」

「おやすみなさいませ」

こうして兄妹は自分の寢室にって、この夜は過ぎていくのだった。

◇◇◇◇◇

翌日の午前中は、鈴は聡史とともに新たに獲得した魔法屬の練習を行う。だが火屬魔法とは違って無屬魔法や闇屬魔法は式の定義自が大変難しく、鈴の式解析のスキルをもってしてもそうそう簡単にはいかないようで、今後とも難航が予想されている。

一方の明日香ちゃんは、桜の指導の下で木槍を手にしての練習を積んでいた。桜は普段拳で戦い武を持つケースはほとんどないのだが、明日香ちゃんを指導する程度にはあらゆる武の扱いに通している。おかげで明日香ちゃんは〔槍スキルレベル1〕を手にしている。だがその分訓練は厳しいもので、2回ほどポーションのお世話になって明日香ちゃんが抱えるトラウマがさらに悪化する副作用があった。

午後になって、四人は本日も大山ダンジョンへと向かう。

鈴と明日香ちゃんは今日は學院支給のヘルメットとプロテクターをに著けている。聡史と桜は、アイテムボックスに必要品が全てっているので、相変わらずの手ぶらでダンジョン管理事務所へっていく。

「今日は2階層で、鈴と明日香ちゃんに実戦を経験してもらうぞ。それから桜は一人で別行になるから、実質的に3人で行する件を承知してくれ」

「「はい!」」

実は、桜は一人で下層に向かって、ある程度値の張る魔を仕留めてくる予定なのだ。これは主に、桜のデザートに関する浪費が原因となっている。このままでは兄妹揃って、財布が非常に厳しくなる深刻な事が絡んでいる。

この困難な経済事解消のために、桜はひとりで一攫千金狙いに出るのだ。もっともレベル600オーバーの桜にとっては、至極お手軽なミッションといえるであろう。

そのまま四人揃って2階層まで降りると、ここから先は桜とは別行となる分かれ道に到著する。

「それでは、明日香ちゃんにはこの槍を渡しておきますね。どうか頑張ってください」

「桜ちゃん、任せてください。ゴブリンなんて、一撃で倒しちゃいますよ~」

気軽に槍を手にする明日香ちゃんを見て、聡史は一瞬我が目を疑った。聡史自初めて目にする槍だが、どう見てもそれはアーティファクトレベルの武にしか見えないのだ。

「桜、念のために聞いておくが、この槍はお前が明日香ちゃんに渡したのか?」

「お兄様、なかなかお目が高いですわ。明日香ちゃんも手に馴染んでいいじに扱えるようになりました」

「そ、そうなのか。いい槍だから、明日香ちゃんも良かったな」

「はい、お兄さん、この槍でグングンレベルアップですよ~」

あまりに怖いので、聡史はこれ以上追及するのを斷念する。まさかこの槍が伝説の武〔トライデント〕であるとは、彼自も知らない。本當に恐ろしい予がして、桜に聞けなかったのだ。

「それでは皆さん、行ってまいります。ご武運をお祈りしておりますわ」

「桜ちゃんも気を付けてくださいよ~」

「はい、わかりました!」

こうして桜は下層へ降りていく階段がある方向へと向かう。さて、ここからが鈴と明日香ちゃんの出番がスタートとなる。

「それじゃあ、こっちの通路を進んでいこう。遠距離の敵は鈴の魔法で、20メートル以に接近を許したら明日香ちゃんが槍で対処するんだ」

「「はい、わかりました」」

今日は本當に自分の力でゴブリンを倒すと決めてきただけに、二人とも日頃に増して引き締まった表となっている。聡史の目から見ても、彼たちの様子は中々頼もしいものとして映っている。

今日は桜がいないため、聡史がパーティーの先頭を務める。桜には及ばないまでも、聡史ももちろん気配察知のスキル持ちであり、そのスキル自ゴブリンの気配を摑むには十分な能をめている。そして通路を歩くとすぐに、聡史は何らかの気配を摑んだ。

「この先に何かいるな。鈴は魔法の発準備に取り掛かってくれ」

「聡史君、オーケーよ」

聡史の指示で鈴がスタンバイしているのは、もちろん最も自信があるファイアーボール。今回はダンジョンの部という環境を考慮して、演習場でぶっ放す時よりも注する魔力を半分に減らしている。だがそれでも、ゴブリンを相手にするには十分以上の威力であろう。

「ギギ、ギギャ」

枝道から出てきたのは、予想通り単のゴブリンであった。すでに鈴は視線で照準をつけている。

「ファイアーボール」

の右手からは、聡史直伝のオレンジの炎の塊が飛び出していく。避けようがない速度で宙を飛んだファイアーボールは、狙いを逸らさずにゴブリンに命中する。

ドーン

威力抑えめの発ではあるが、それでもゴブリンのがバラバラに吹き飛ぶには充分。だが鈴は、油斷せずに次の魔法の準備にっている。先日のオークを仕留めそこなった経験が生きているよう。

鈴、もう大丈夫だ。魔法を解除してくれ」

「ええ、1発で倒せてよかったわ」

鈴さんの魔法は、凄いですよ~。私も、いずれは覚えたいです」

「明日香ちゃんにも、必ずできるようになるわよ。それまでは地道に訓練を続けていきましょう」

「はい、そうします! 目指せ、魔法ですよ~」

明日香ちゃんは、お得意のキラキラな瞳で鈴に今後の努力を誓っている。桜が言う通り今のところ大した才能がない明日香ちゃんは口ではサボりたがってはいるものの、努力だけは出來る子なのだ。

「さあ、今度は明日香ちゃんの番だぞ。ほら、次の角からすぐに出てくるからな」

「よーし、行きますよ~」

明日香ちゃんは手にする槍をしごきながら、聡史が指さした曲がり角を見つめている。そしてその言葉通りに1のゴブリンが姿を現して、パーティーに向かって牙を剝き出しにして威嚇してくる。その醜悪な表に、今までであれば明日香ちゃんは目を背けていたかもしれない。

だが、この場に立っているニュー明日香ちゃんは、昨日までとは一味も二味も違うのだ。

「ギギギギャァァ!」

棒を振り上げて襲い掛かるゴブリンの前に、明日香ちゃんが立ちはだかる。その瞳に恐怖を宿していないのは、桜によって半ば強制的に神耐のスキルをに著けていたおかげであろう。

「えいっ!」

桜から習ったとおりに、明日香ちゃんは手にする槍でゴブリンの棒を払う。ようやく活躍の場を見出したトライデントは、喜びに打ち震えるかのように青いを放ちながら、槍自の能力を発揮して明日香ちゃんの攻撃を側面から支援している。的には、攻撃の威力が2倍以上になっているのだ。

これこそが、異世界で神槍として伝説の中にだけ殘されていたトライデントのめられた能力の一部である。

「これで止めですよ~」

グサッと三叉槍がゴブリンの首元に突き刺さると、バチバチっという音を立てて槍自がその穂先から強力な電流を流し込む。その威力はあまりに強烈で、ゴブリンの目玉が発生した熱で蒸発してしまう恐ろしい効果を発揮した。だが明日香ちゃん自は、この隠れたトライデントの活躍にはまったく気付いていない。

中から白い煙を立ち昇らせながら倒れ込むゴブリンが霞のように消え去ると、その場には魔石が落ちている。

「やりました。初めて自分の手でドロップアイテムを獲得しましたよ~」

明日香ちゃんは、これ以上ないキラキラ顔で魔石を拾うと、大事そうにポケットに仕舞い込む。

槍に対する十分な手応えをじ取って、小さな自信と、さらに膨らんだ魔法に対するより前向きな夢を、そのに抱く明日香ちゃんであった。

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