《異世界から日本に帰ってきたけど、やっぱりダンジョンにりたい! えっ、18歳未満は止だって? だったらひとまずは、魔法學院に通ってパーティーメンバーを育しようか》26 鈴の危機

鈴に大変な出來事が……

この日の放課後、雅がこれから生徒會室に向かおうとする鈴に聲を掛ける。

「西川さん、昨日の魔法は本當にお見事でしたわ。もしよろしければお互いの魔法に関する換をいたしませんか?」

「東十條さん、ありがとうございます。お話ししたいところなんですが、これから生徒會室に向かわなくてはなりませんので別の機會にってもらえるでしょうか」

自分のいに対して何の疑いも持たずに丁寧に頭を下げる鈴の姿を、雅は瞳の奧に冷たいを宿しながら見下ろしている。だがせっかく罠を仕掛けているのだから、目の前の獲を逃がすわけにはいかない。

「それほどお時間は取らせませんわ。間もなく夏休みになってしまいますし、休み中の課題として西川さんの式を研究したいと考えていますの」

「そうですか… あまり長くは時間が取れませんが、それでもいいでしょうか?」

「ええ、こんな大切な機會ですから、この先にも繋がるようにお近づきになれれば幸いです」

鈴は頼まれると中々斷れない格。だからこそ生徒會副會長などという忙しい役職を引きけてしまっている。しかも他人の悪意を間近にじた経験がないので、上辺だけは丁寧な雅言いにすっかり騙されている。

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「それではどこでお話ししますか?」

式に関わることとなると迂闊に他人に聞かれては不味い容もおありでしょうから、なるべく誰もいない場所がよろしいかと。よろしかったら私のとっておきの場所にご案いたしますわ。見晴らしがよろしくて、街並みを一できますのよ」

「そうですか… では、そこでいいです」

「それではご案いたします。どうぞこちらへ」

カバンを手にした鈴と雅は連れ立って教室を出ていく。

この二人の會話をやや離れた場所でカレンは聞き耳を立てて聞いていた。二人が連れ立って教室を出ていく後ろ姿を橫目で確認すると、彼も席を立って階段に向かう二人を追う。

(まさか今日のうちに本當に行に移すなんて、これでは西川さんに警告する暇もないじゃないの)

の行が予想以上に早すぎてカレンは心の焦りを隠せない。雅の話の容だと、鈴を追い出すために相當悪辣な罠を仕掛けている可能が高い。かといって、カレン自が助けにるわけにはいかない。彼は回復魔法が専門で、大した攻撃手段を持っていなかった。もし大人數に囲まれたら、鈴を助けるどころか自分までとばっちりで大ヤケドを負いそうな狀況なのだ。

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(こうなったら、一番頼りになる人に…)

カレンはスマホを取り出すと誰かに電話を掛ける。だがいくら呼び出し音が鳴っても、通話相手は一向に出る気配はなかった。

(もう、なんでこんな大事な時に出ないのよ。また會議中なのかしら?)

カレンはスマホをブチ切りしてポケットに仕舞い込むと、一旦鈴と雅の追跡に集中する。生徒玄関を出ると、どうやら二人は話し通りに裏山の方面に歩き出す様子が目にる。

(どこに連れていくのか場所を確認したいけど、それでは手遅れになる可能が… もし西川さんに萬一のことがあったら、あの二人を止められない)

カレンが頭に思い描いているのは聡史と桜の兄妹コンビの姿。なぜか彼は、これまで全く関わりがない兄妹のことを知っている様子。クラスも違うし會話などわした機會もない例の兄妹をなぜカレンが知っているのだろうか? しかも、『二人を止められない』という意味深なフレーズ… まるで二人の強大な力まで承知しているかのような呟きであった。

(こうなったら追跡は後回しにして直接事を説明しに行くしかない。 面識がない私の話を信じてもらえる保証はないけど… でも絶対に何とかしないと)

裏山方面に向かおうとした足を止めると、踵を返してカレンは學生食堂に向かう。しかも、確信に満ちた足取りで。まるで雙子の片割れの行パターンを知しているかのようだ。

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慌てた様子のカレンが學生食堂のり口に飛び込んでいく。そこには生徒はまばらで、探している相手の姿はすぐにカレンの目にった。その人は一緒にいる友達にこんな話をしているのが耳にってくる。

「明日香ちゃん、先日ダンジョンで、オーク2、グレーウルフ4、グレーリザード1を仕留めましたから、お財布がとっても元気になりました。今は諭吉さんが3人もいますから今日は私のおごりですよ」

「桜ちゃん、いただきますよ~。それにしても簡単にお金が稼げて羨ましいです」

「そのうち明日香ちゃんも、いっぱい稼げますから安心してください。私がバッチリ鍛え上げますわ」

「ほどほどにしてもらえないと、稼ぐ前に私が死んじゃいますよ~」

周囲の様子など全く気にせずに、のほほんとこのような會話をしている。

カレンは気を引き締めて、桜と明日香ちゃんが座っている席に向かう。

「あの、お楽しみ中失禮します。私はAクラスの神崎カレンと申します」

「はい、何でしょうか?」

桜が、生クリームがたっぷり乗ったスプーンを手にしてカレンに振り向く。その隣では、明日香ちゃんが鼻の先にクリームをつけたままで、突然聲を掛けてきたカレンに見っている。

「大事なお話なので、ちょっと耳を貸してもらえますか」

「はいどうぞ」

カレンが桜の耳に口を寄せると、誰にも聞かれないように細心の注意を払いつつ用件を告げる。

「西川さんが狙われています。つい今しがた、裏山に連れ出されました」

「間違いありませんか?」

「この目で確認したので、間違いありません」

桜の目が氷のような冷たさを湛えてスッと細められる。それはどこからどう見ても暗殺者の表。たったそれだけで食堂の気溫が10℃くらい一気に下がったような気がする。

「明日香ちゃん、今から恒例行事に向かいますわ」

「ええ、桜ちゃん。また校舎裏ですか?」

付き合いが長い明日香ちゃんには『恒例行事』の一言で、意味が通じたようだ。何しろ中學時代から校舎裏でヤンキーとバトルを繰り返していた桜だ。明日香ちゃんがそのお供で連れ出された機會も數知れず… だからこそ明日香ちゃんは『校舎裏ですか?』と即答している。

桜は明日香ちゃんが食べ掛けていたフルーツパフェを取り上げると、アイテムボックスに仕舞い込む。大好をいきなり取り上げられた明日香ちゃんは涙目になっているが、渋々立ち上がって桜についていく。

「カレンさん、裏山といってもかなり広いです。大まかな方向はわかりますか?」

「この先から登っていく後ろ姿を確認しました」

的な場所はわからないんですね?」

「はい、わかりません」

桜は目を閉じると、スキル〔気配察知〕と〔広範囲索敵〕を同時に発する。野生並みに強化された桜の聴覚に裏山の上から枝が折れるポキンという音と人間二人の足音、それに加えて息遣いなどが聞こえてくる。

「こちらの方向、約500メートル先ですね。急ぎましょう」

「「はい」」

桜が先頭に立ち、明日香ちゃんとカレンが続く。明日香ちゃんの足取りは、度重なるレベルアップと桜の訓練のおかげでもうEクラス最弱とは呼べないほどに長している。むしろ最後から登っていくカレンが息切れを起こしているくらいだ。

こうして三人は桜のスキルを頼りに鈴たちのあとを追跡していくのだった。

◇◇◇◇◇

桜たちが追跡しているとは知らない鈴と雅は、裏山のかなり高い場所まで登ってきている。あまり時間に余裕がない鈴は、一どこまで登るのかとやや不安を覚え始める。

「東十條さん、まだでしょうか? ずいぶん高い場所まで來ましたが…」

「あと1、2分です。ほら、見えてきました」

が指さす先には見晴らしがいい場所などどこにも見當たらない。ただただ杉の大木が林立しているだけの、一向に変化がない裏山の景が続いているだけ。

の考えがわからずに、鈴の不安と生徒會室に向かわなければならない焦りが徐々に募っていく。

ピッ

その時、鈴の耳には短い口笛のような音が聞こえてくる。まるで何らかの合図のように…

その口笛の音を耳にした雅は、得も言われぬいやらしい笑みを顔に張り付かせながら鈴に振り返っていく。その瞳には、今まで鈴に話し掛けていた穏やかさを裝う欺瞞を取り払ったかのように、暗くて怪しげなを湛えて…

「ようこそ、西川さん。ここがあなたを招待したかった場所です。々楽しんでくださいませ」

パチンとひとつ雅が両手を打ち鳴らすと、杉の木のからニヤニヤした薄気味悪い表の數人の男子生徒が姿を現す。彼らは全員東十條家の息がかかった系のる生徒。しかも顔に見覚えがない點からして、どうやら上級生のよう。

いつの間にか雅は立ち位置を変えて、生徒たちの後ろにいる。その様子は手下を従える王様のような雰囲気を醸し出している。

(もしかして、騙された?)

鈴の脳裏には嫌な予と、どうやってこの窮地を切り抜けようかという考えが一瞬の間に錯する。

(魔法を使う… いや、それでは相手を死なせてしまう)

鈴の脳裏にはファイアーボールを食らったゴブリンの手足がバラバラに千切れて吹き飛んでいく景が浮かんだ。この一瞬の逡巡が、鈴にとって命取りとなる。彼の背後にはこれまで隠形のによってを隠していた東十條家お抱えの本職の師が四人、その不気味な姿を現す。

黒裝束にを包んだ本職の師は足音を立てずに鈴の背後に迫ると、左右から鈴の腕を拘束する。さらにひとりが重ね合わせた鈴の両腕を手首の辺りで粘著テープをグルグル巻きにする。

鈴の両手の自由を奪ったところでトドメに口にテープを張り付けられると、鈴は聲すら出せない狀況に追い込まれる。

この間、あっという間であった。あまりに手慣れた黒裝束のきにレベルが16あって人男子でも押さえ付けられる鈴であっても全く抵抗できなかった。いわゆるプロの手口というのであろうか? なんとも鮮やかな手際といえよう。

無抵抗な姿にされた鈴を雅は一段高い場所から余裕の表で見下ろしている。

「まあ、西川さん、どうにも殘念な姿になりましたわね。抵抗ができるならどうぞご自由に」

小憎らしいほどの表鈴に対して余裕を気取る雅、対して鈴は聲も出せずに首を左右に振って必死に何かを訴えようとしている。だがそんな鈴の態度は雅の嗜心を刺激するだけ。

「さあ、そこのに向いて好きなようにしなさい。寫真はしっかり撮っておくんですよ」

鈴の元にニヤニヤ顔の上級生が無言で近づいてくる。逃げ出そうとしても両腕を後ろ手で一括りにされて黒裝束の男二人から抱え込まれているので、どうにも逃げようがない。鈴の脳裏には自分の最悪の未來が思い浮かんで、その瞳からは恐怖と無念がり混じった涙が流れる。

「さあ、たっぷりと楽しんでやるぜ」

ひとりの男子生徒が言葉を発しながら鈴のブラウスのボタンを引き千切るように雑に引っ張ると、鈴の肩と部の中程まではだけて、あられもない姿を曬してしまう。

(いやぁぁぁぁぁぁ、誰か助けてぇぇぇぇ! 聡史君! 桜ちゃん!)

聲を出そうにも口を塞がれて言葉にならない。それでも必死に首を振って足をバタバタさせながらなんとか抵抗を試みる鈴。だが上級生はさらに力を込めて、ブラウスを暴に引き千切ろうとする。

最悪なことに別の上級生は、制服のスカートに手を掛けて徐々に捲り上げようとしている。

鈴の中に鳥が立つ。それは、これから始まる恐怖に耐え切れない鈴の本能が引き起こしたのかもしれない。

その時…

ビシッ

「ウッ!」

ビシッ

「クッ!」

ビシッ

「ガッ!」

ビシッ

「ゲオ!」

何か目に見えないが飛んできて、頭を撃ち抜かれた黒裝束の男たちはその一撃で頭部を塗れにして地面に倒れ込む。わずかに患部が陥沒しているところを見ると、頭蓋骨が割れている可能もある。陥沒した部分に銀の金屬が顔を覗かせているところを見ると、どうやらパチンコ玉を撃ち込まれたようだ。

「ムグムグ」

聲にならない聲を出しながらの自由を取り戻した鈴がその方向に振り向くと、そこには近付く者は全て斬り捨てると言わんばかりの憐悧な刃のような表の桜が立っている。

「いいですわね。私の友達に手を出した以上全員地獄に送って差し上げますから、覚悟はよろしいですね」

その聲は、正真正銘地獄から這い出してきた死を運ぶ使者のような、人の心を凍えさせる響きを孕んでいるのだった。

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