《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫2.始業日の朝 ②

扉を開けると、目にるもの全てが雪を被っている。ミュラは前庭を通って、30メートル先のゲートへ向かう。10段の階段を上がった臺の上に、円形の転送ゲートがある。

冷たい風が吹いた。細長い耳がいて、風の音を聴く。それから、風をるように手をばした。

「風に命が宿っている……。もうすぐ春が來るわね」

ミュラは深呼吸をすると、遠くの風景を眺める。転送ゲートのある臺は斷崖に臨んでいる。ここは空に浮かぶ島だ。周辺には同じくらいの大きさの島が30島、點在している。それらは海の上空に浮かんでいた。ミュラが見下ろすと、海とつながる大陸の岬に、円形の屋があった。屋は1本の大きな塔と、その周りを囲むようにそびえ立つ六本の鋭い塔からなっている。それはこの寮・シャビンアスタルトのセントルホールだ。高さはおよそ300メートル。につけたスキルでここから飛び降り、地面に著地できる心苗もいるが、できない者は転送裝置を使ってホールへ下りる。アトランス人にとって転送技を使うのは日常的なことだった。

ミュラが景を眺めていると、空の向こうから、運送用の小型飛空艇『テュルス』が島の上空へと飛んできた。飛行艇は突如、進行方向を変え、下降する。気流が起こり、ミュラのフードが後方に飛ばされると、艶の良い白髪が長く風になびいた。

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飛空艇はフクロウのように丸みを帯びた長いの後ろに荷臺を持ち、ロールケーキ形の箱を運んでいる。古の時代には鳥類型の獣が使者として郵便を運んでいたが、飛行艇の技が発展した今は、四つの翼を持つこの小型飛行艇で、大きな荷も運ぶことができる。飛行艇は地面から1メートルほどの高さを浮遊し、ミュラに近づく。ロールケーキ形の箱は自的にスライドして開き、中から出てきたタコの手足のような手が、四つの包裝された箱をミュラのいる臺の上に置いた。

ミュラは首にかけていたネックレスから寶石を取る。青い寶石はミュラの源に反応すると、一枚の水晶札に変形した。それは心苗の分証明証であるとともに、多用途マスタープロテタスである。充電の必要はなく、使用者の源で作するな機械―機元(ピュラト)である。學園のセーフティーシステムは幾つかのレベルエリアが分けられており、管制エリアにると、自分のマスタープロテタスを提出する。権限のない者はハイレベルエリアに立ちることができない。ほかにも買いをはじめ、日常的にも使用頻度の高いものなので、普通、心苗はこれを必ずにつけていなければならない。

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ミュラはマスタープロテタスを使って、それぞれの荷の表に寫されているバーコードをスキャンする。すると、水晶札からある荷確認畫面が投影された。

無人の飛行艇は屆け人の分が間違いないと確認すると浮上し、他の島へと去っていった。ミュラは無人であるとわかっていたが、飛行艇に向けて、丁寧に挨拶をした。

「ご苦労様でした。さて、ロロタス、荷運びをお願いしますね」

執事は無言でお辭儀をすると、全ての荷をいっぺんに持ち、寮の中へと運んでいく。

ミュラが意識してさらに遠くの音を聴くと、二人の男が稽古をしているびが聞こえてきた。島には、ハウスと呼ばれる寮を挾むように前庭と裏庭がある。彼は元來た道を戻り、前庭を通ってハウスの脇の芝生道を歩く。金屬紋様のある木製ゲートを抜けると、そこが裏庭だ。

黒髪と金髪。二人の年が戦闘の練習をしている。二人は10メートルの間合いを取り、戦っていた。二人は弾戦ではなく、源(グラム)を使って攻防を繰り広げている。

黒髪の年の名は楊(ヨウ)鴻昊(コウコウ)。長170センチ。白と青のスーツを著ている。襟にった蒼と鮮やかな柄の線が、至って普通の格の彼に個を與えている。彼が源で作りだした者は、全に蒼い鱗のある人間型をしており、悍なつきの上半には鎧を裝著している。頭には先端に向かって徐々に細くなる枝のような四本の角。両手には長い戟を持ち、振りかざしている。式神のように立つそれは、ランプの霊のように空に浮かび、下半は霞んでいる。

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ベリーショートの金髪が輝く年は、ガリス・オリエンス。楊よりも長が20センチほど高く、そのわりに筋の薄い細長いをしている。彼の服は楊のものとほぼ同じ仕様をしているが、襟の部分は赤く、マントのようなジャケットを著ている。彼の周りには七つの円盤狀をしたが高速で回転していた。それとは別に、機械でできた恐竜の頭のようなものが宙に浮かんでいる。その顔には目が六つあり、やはり下半は霞んでいた。円盤狀のはガリスの意思によって、楊を攻撃する。

「飛べ!ホルト・ハンザー」

ガリスが攻撃を命ずると、迎え撃つように楊がんだ。

「竜王敖潤(りゅうおうごうじゅん)よ!奴の攻撃を撃ち返し、そのまま直撃しろ!」

楊の源で召喚された竜王は長戟で円盤の攻撃を全て撃ち返した。そのまま直進し、ガリスを攻める。

「隙ありだぜ!ガリス!」

「やらせないよ!」

ガリスが平然と言う。危機的な狀況とは裏腹な、落ち著いた聲だ。

の機械がガリスを守るように立ちはだかり、先に撃ち返された円盤は、そのうちの三つが左右の肩に組み合い、特に右側のものは大きくなり、盾となった。竜王の持つ戟の攻撃はこの盾に防がれる。ガリスの戦い方は、自分の源で作った機械に命令をするというものだった。

「ヨウ君、こんな単発の攻撃、僕には効かないよ。ハンガキスト、攻撃を押し返せ。そのまま反撃しよう!」

恐竜の頭をモチーフにしたハンガキストは背部に裝備してあるブーストバッグを展開し、出した推進力で、竜王の長戟を押し返した。その間にも右側の円盤が高速回転し、エネルギーを集めている。3秒後、狀のエネルギーリッパが出。同時にハンガキストの元にある恐竜の口が開き、円盤よりも激しくエネルギーをチャージしはじめる。

迫り來る狀のエネルギーリッパを怖れず、楊は闘士(ウォーリア)を燃やすようにんだ。

「敖潤よ!」

竜王敖潤は手に持つ大きい戟でエネルギーリッパを切り散らせた。

「ヨウ君、僕の攻撃はまだ終わってないよ!」

恐竜の口が楊に向かい、一瞬で巨大な弾が打ち出す。

「敖潤よ!そいつの無禮な攻撃を押し返せ!」

敖潤は長戟を高速回転し、弾をけ止めたかと思うと、そのまま上空に打ち飛ばした。

ガリスは上空から聞こえる轟音と地鳴り、発する弾を見て思わず聲をあげる。

「なっ、ハンガキストのエルニングバスターを弾き飛ばすなんて!?」

楊は涼しい顔に笑みを浮かべて答える。

「ガリス、お前の攻撃パターンは、連撃には強いが技自が弱いんだよ!そんな攻撃で、俺と先祖代々がけ継ぎし契約の神霊を倒せると思うなんて、無禮にもほどがあるぜ。海の竜神の力を舐めるなよ!」

「まさか……、完全召喚ではない狀態で、もうあんなに強いのか?」

「さて、敖潤よ、奴が作った機械恐竜(メカニックダイナソー)を討ち取れ!」

「クッ。僕だって負けない!」

楊とガリスの命に応じ、竜王敖潤(ごうじゅん)の長い戟とハンガキストの円盤狀の盾が打ち合う。雙方の力は拮抗しており、どちらも勝利を譲らない。

と、そこに現れたミュラが、笑顔のまま、叱るように二人を呼びかける。

「二人とも!一何をしているのかしら?」

二人がミュラを振り向くのと同時に、二人が源で作った者たちも彼を見た。

ガリスが先に返事をする。

「ミュラ姉さん?」

楊が、當然というようにミュラの問いかけに答えた。

「何をしているって?見りゃわかるだろ。俺たちはフリーバトルの組合練習をしているんだ」

「言ったはずよね?裏庭でバトルの練習をするときは、発系の技は止になっているのよ?」

「ああ。あの技は俺が出したんじゃない、ガリスがやったことだぜ」

楊が笑って言うと、ガリスはむくれて返事をする。

「ちょ、ちょっと!責任を丸投げするなんて酷いじゃないか。攻めこみ過ぎたのはヨウ君でしょう?」

「敖潤のはただ普通の槍の攻撃だろ?ガリスこそ、急に決めワザ撃って來やがって。お前の膽力が弱過ぎるせいじゃねぇか?」

二人が責任の押しつけあいを始めてしまったので、ミュラは呆れ、優雅な口調で言った。

「ロロタス」

ロロタスはミュラの前に這い出ると、筋骨隆々の型に変化する。その存在に気圧された二人が反応できなかった一瞬のうちに、ロロタスは拳で楊とガリスをそれぞれ一発ずつ毆り、決著をつけた。

卒倒した二人の前にミュラは改めて立ち、落ち著いた口調で言い放った。

「責任の押しつけあいなんて、恥を知りなさい」

橫になった勢のまま、腫れた頭をってガリスが苦らす。

「どうして僕まで……。意地が悪いのはヨウ君でしょう?」

うつ伏せになったまましばらくけないでいる楊は、さきほどまでの威勢の良さがまるでないしょぼくれた聲を出した。

「ミュラさん……。だからって、何も言わずに急に毆るのは酷くないか?」

淡々とした口調ながら、ミュラはさらに二人を叱責する。

「何を仰いますか。男児たる者、いえ、だって、責任転嫁はいけません。それにあなたたち、今日に始まったことじゃないでしょう。ここは空島よ。発を起こせば大慘事になることくらい、いい加減おわかりですよね?」

楊は勢を直し、暴な仕草で胡座をかくと、自分の頭をでながら言い返した。

「でもさ、たとえ建が破損したって、明日の零時にはまた回復するんだろ?」

それを聞いてミュラはし厳しい表になった。

「その考え方はいけません。學園(セントフェラスト)のシステムに恵まれているせいだわ。破壊してもすぐに直るなんて思っていたら、いざというときに対応できない人間になってしまう。それに、相応の償いだって必要でしょう?」

いつの間にか正座しているガリスが口を挾む。

「それって、等価代償のこと?」

それを聞いて楊が引き継ぐ。

「なるほど、ミュラさんが言っているのは、建の損傷回復罰稅のことか!それなら大丈夫さ、俺、結構お金貯めてるんだぜ!」

「ヨウ君、そうじゃないんだ。この空島を含めて、寮が破損したときは、住んでいる心苗(コディセミット)全員で分擔することになるんだよ」

「そうか、連帯責任ってことか」

ガリスが言う。

「そうさ。イリアスに怒られ、ミナリさんと神崎さんに泣かれるだろうな」

「うっ。それは面倒臭いな……。イリアスはいつもうるさいけど、ミナリさんと神崎さんには悪いなあ。うーん、罰稅を俺一人で支払えるなら、まったく問題ないのになあ」

「ヨウ君、責任を全部一人で背負うからって、悪いことをするのは最低よ。何をするにもし、周りのみんなのことも考えなさい」

ミュラの言葉を聞いて、楊はガリスに聲をかけた。

「悪いな、ガリス。俺たちのバトルの決著は別の場所でつけるしかないみたいだ」

ガリスはフリーバトルの勝敗など、もうどうでもいいと思っていたが、はっきりと言い出せず語尾がもごもごと小さくなる。

「そうですね。でも……」

ガリスの反応を見たミュラは、ニヤリと薄い笑みを浮かべ、ロロタスに命令した。

「ロロタス」

命に従い、ロロタスはまた変化する。筋はさらに強大になり、上半の服はボタンが弾け、砕した。筋力増強したロロタスは両手を合わせ、ハンマーアタックで楊を撃った。打撃の威力は甚大で、楊は土に半分埋まり、意識が飛ぶと、召喚していた竜人の姿も消えた。

完全にきを止めた楊の姿を見て、ガリスは苦笑しながら言う。

「ミュラ姉さん……。さすがにこれは、やり過ぎじゃない?」

ガリスが源(グラム)の集中を和らげたため、ハンガキストもの粒子となり、水が蒸発するように消えた。

「これくらいでちょうどいいのよ。ガリス君は優し過ぎるわ。やりたくない時ははっきりと拒絶しないと」

立ち上がりながら、ガリスは頷いて応じる。

「うん、わかった」

「ロロタス、ヨウ君をハウスに運んでください。しヒーリング処置が必要ね」

元の姿に戻ったロロタスは、ミュラの指示通り、楊を肩に擔いで寮へと向かう。その後ろを歩いていたミュラは、途中で何か思い出したように踵を返し、言った。

「ガリス、そろそろ朝ごはんが出來ているわ」

「はい!」

ガリスは大聲で返事をし、嬉しそうな笑顔を見せながら、ミュラの後を追いかけ、寮にった。

つづく

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