《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫4.出會い

シャビンアスタルト寮は聖學園(セントフェラストアカデミー)の東南端にある半島の、海岸斷崖地に建設された、中央學園エリア所屬の場所だ。ハイニオス學院は中央學園よりも西のエリアで、臺地と盆地と緩やかな山地が組み合わさった地域にある。寮からハイニオス學院のホワプロシス行政棟までを直線で引くと、およそ35キロメートルの距離がある。覚としては新宿から八王子あたりまで出るようなイメージだ。

のぞみが手に持つマスタープロテタスをライトアップすると、學園のマップが宙に投影される。広い學園のマップには、たくさんの區畫がある。細かく書かれているところもあるが、グレーゾーンになっていて見ることのできない場所もあった。心苗、一人ひとりに合わせ、提供する報がそれぞれ異なるため、のぞみに立ちり権限のない場所はグレーゾーンで示されている。

進行ルートを確認すると、のぞみはに源を発した。薄い椿を纏う。これは一年生が得すべきスキルの一つで、を鍛えるための『活化(かつか)』と呼ばれる。の機能を活化させることで、として、源(グラム)を放出・吸収といった基本スキルを活かす狀態を長時間にわたり維持できる。それでいてはリラックスした狀態なのが特徴だ。また、活化の狀態にしておくと、技への展開も容易い。

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のぞみはさらに自分の源を調整する。源を筋と臓に集め、の筋骨を強化させる。これは闘士(ウォーリア)にとって基礎スキルの一つ、『雲(うんしんけんたい)』という。このスキルを使えば、重力の負擔が軽減でき、速さとジャンプ力を二倍に強化できる。まるで羽を著ているようにが軽くなり、跳躍力が上がる。

し真剣な表になったのぞみは、『雲』の狀態で走り出す。階段などなかったかのように飛び降りるとくるりと前転しながら著地し、低い壁もなんなく跳びこえ、フェンスを上り、建の玄関屋を伝うように飛び移る。パルクールのようなきを次々に繰り出し、素早く進んでいく。

は『飛行腳(ひこうきゃく)』のような飛び技をまだ使いこなせない。手腕、手指の力も足りないせいで、幾重にも重なる水道橋や高い塔のある建を登ることができない。また、彼は扱いとしては一般の心苗なので、學園には立ちりできない區畫が多い。飛び技が使えないこと以上に立ちり制限が多いこともあって、平面の道路や低い屋を移するよりほかなかった。とはいえ、アトランス界の重力は地球界の三分の一しかないので、スキルを活かせば長時間の移が可能という強みはあった。

のぞみはこの調子で一時間かけ、ようやくハイニオス學院のエリアにたどり著いた。マスタープロテタスが示す時間を見てから、呟く。

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學院手続きまではまだ早いなぁ。これから毎日通うキャンパスだし、ちょっと散歩でもしようかな」

ハイニオス學院のキャンパスは、教室棟を始め、道場と闘技場が建ちならび、その間にはいくつもの広場がある。

はどれも大きいが、所有面積も広いため、視野は開けている。緑の茂る木々や芝生、小さな人造渓流が、建の區域を綺麗に分けている。遠くを見渡すと、高い樹木の後ろには心苗(コディセミット)の能力を鍛錬するための強化訓練施設があった。

ハイニオス學院は創立當初から変わらず、九つの『カレッジ』に分かれている。それぞれ九つの方向を意味し、カレッジの名前にはかつての英雄の名が刻まれている。カレッジごとに制服のデザインが若干異なるが、帯をモチーフしたベルトは共通している。のぞみが學するのは第三カレッジの、アテンネス・カレッジというところだ。

のぞみが通過するエリアには、たくさんの広場と室外のバトルステージが設置されている。あちこちの広場には朝稽古をする心苗の姿が見られる。拳法の型の鍛錬のため、んでいる聲が聞こえる。バトルステージの上では打ち合いをしている者もいる。のぞみは、同じ制服を著た子心苗や、道著のようなものを著た人々とすれ違う。刀を鞘に収めている者、大きな武を背負っている者など、いろんな心苗がいた。前學期まで通っていたフミンモントル學院とは雰囲気が違い、気な印象をける。

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他學院に出りする心苗も多いが、今年二年生になるのぞみは、あまりハイニオス學院に來たことがなかった。キャンパスをきょろきょろと眺めていると、ふと、優しい音楽が耳にった。鬱々とした気持ちは晴れ、怠け者でもやる気が出るようなしいメロディーが聞こえてくる方へと、のぞみは歩みを進める。耳を頼りに一つのバトルステージにると、誰も使っていないのか、石の積み重なる観覧席に、一人のが座っている。エメラルドグリーンの髪と純白のドレスが朝のに映えていた。近づくと、の首の後ろから、六本の覚化した羽がびているのが見える。近くの壁の上には一羽の白い梟が止まっている。のぞみが近づいていっても、その梟はの子を見守るかのようにその場をかない。

は太ももに水晶石で作られた皿狀の楽を置いて、手はまるでハンドドラムを奏でているようにらかにく。音楽が止むと、のぞみは拍手した。は顔をのぞみに向けると問いかけた。

「お姉さんはあたしが演奏した曲を聞いたの?」

「はい。すごく綺麗な音ですね。なんという名前の楽ですか?」

「クリトンドラムだよ!あたしの國の特別な楽なの」

「へぇ~。初めて見ました。お嬢さんは、このイトマーラの住民ではないの?」

「ううん、違うよ。リリアスはヌテンロンムから來たの」

アトランス界の人間であるタヌーモンス人は、長い年月をかけて多元文化教育を実施してきた。社會を多角的に発展させるため、個や興味を注視する。子供たちは6才から三年間の基礎教育をけた後、家業の修業を始め、旅の修行、源の基礎修業といったさまざまな勉強法を通して、自分に見合った力を得ていく。その方針は実を結び、心苗が個々に得た経験から、幾多の個的な力が開発された。

10才くらいに見えるリリアスだが、彼もまた旅の修行をしているのだろうと、のぞみは心する。

「すごいですね。ヌテンロンムのような遠い國から、どうしてイトマーラに來たんですか?」

フェイトアンファルス連邦は、タヌーモンス人が遠い昔から建設してきた國で、現在は49の國を持つ巨大な連邦國となっている。ヌテンロンムはイトマーラからは遙か遠く、西南に位置する國だ。リリアスが興味津々な表で言った。

「リリアスは旅をして、このクリトンドラムの音を世界中の人々に聞かせたいの。イトマーラの闘士を見たいから」

アトランス界では一年は640日ある。現在イトマーラがある場所は、200年前ほど歴史を遡ると、とても強盛なアズオンツュマンという帝國だった。この帝國の闘士は総じてヌオハルコン金屬のように丈夫なを持ち、溶巖のように熱神を持つ戦士だった。アズオンツュマン帝國の強盛が1000年以上という長い年月を保つことができたのは、彼ら闘士たちがいてこそだったろう。

リリアスというは、おそらくこの歴史に興味を抱き、遠いヌテンロンムから、イトマーラまで出てきたのだ。

「なるほどね」

「でも、ちょっとがっかりしちゃった……。リリアスが奏でる曲、ここにいるお兄さんお姉さんたちには興味ないみたい……」

「そうなんですか。私も闘士全のことはわからないけど、士(ルーラー)か魔導師(マギア)の方が、音楽に興味を持つ人が多いですよ」

「制服を著てるってことは、お姉さんも闘士なの?」

「私は転校したばっかりで、なんというか、まだ実がないですね」

(私ってば、どうして子供にこんなことを言ってるんだろう。でも、こんなに小さな子が一人で旅してるなんて、きっと侮れない子ね)

「そうですか」

リリアスが、よく分からないという表をしているので、のぞみは話を戻した。

「イトマーラの北にあるフミンモントルとか、東のアイラメディス、それか、センター學園の商店街の方が聞く人が多いと思いますよ」

「わかった、お姉さんありがどう」

リリアスがポケットから白の機元を持ち出して、上のボタンを押すと、小さな寶箱がたんすのように開いた。これはアトランス界で旅によく使われるポケット納屋というアイテムだ。クリトンドラムをポケット納屋の中にれて閉じる。リリアスは楽しそうな笑みを浮かべて言った。

「お姉さん、また會おうね」

リリアスが立ち上がると、壁の上にいた梟が羽を広げる。羽ばたきに合わせて一瞬、吹雪が起こった。

それは奇妙な現象だった。のぞみは手でその雪をってみたが、冷たくない。よく見ると、源が化けた小さな白い玉の嵐だった。源の嵐が止まると、目の前にいたはずのリリアスの姿はもうなかった。

「消えた?不思議な……、あの子もしかして、ウィルターの子供なのかしら?」

両親が優秀なウィルターなら、その子供も優れた才能に恵まれている可能が高い。両親に憧れ、旅をして自分の目で闘士を見にくるというのもおかしいことではないだろう。

リリアスのいなくなったバトルステージから出ると、のぞみはまた學院を見て回る。気づけば知らず知らずのうちにどこにいるのか分からなくなっていて、マスタープロテタスのマップを調べても、未開示の文字が映されているだけだ。まだ學院手続きをしてないせいで、報が更新されていないらしい。彼は自分の狀況を認識した。

「ここはどこ?まさか私……迷子になっちゃった……?」

立ち止まり、解決方法を考える。

「ホワプロシスは確か、ピラミッドのような三角錐で、山のように大きな建だって……。うーん、でも、そんな建このあたりにはなさそうだし、高い建ばっかりで見通しが悪いなぁ。ちょっと高いところから探したほうがいいかな」

のぞみが頭上を仰ぐと、一つのビルが目にった。そのビルは三階までが広大な土臺階になっていて、その上に六棟の高層ビルが放狀にそびえたつ。ビルとビルの間は60度の空間があり、ビル同士はドーナツ狀の空中回廊で繋がっている。空中回廊の下には、明な球が埋め込まれたように、丸くが空いていた。

この建は普通の教室棟で、一般の心苗は広場や階段など、建の外にある施設には自由に立ちりできる。

のぞみは一階の道路から二階の連絡通路までジャンプし、さらに三階の臺に移り、別の建の外壁の上にある細い踏み臺に沿って歩くと、また土臺階の屋に跳び移る。建の反対側にある外壁に辿り著くと、大通りを見つけた。

視野は広がったものの、雪が降り始めているせいで遠く景が白く煙っていて、何も見えない。

「どうしよう……、誰に聞いてみようかな?あっ、あの子、制服が同じ!」

のぞみは下の大通りの様子を見て、屋の下、連絡通路に、のぞみと同じ制服を著た心苗のの子が歩いているのを見つけた。のぞみはそのの子に呼びかける。

「すみません!あの、ちょっと待ってください!!」

聲に気づいていない様子で歩いていく心苗に、のぞみはもう一度呼びかける。

「すみませ~ん!」

通りを歩く人々はのぞみの存在を気づきはじめたが、呼ばれたそのの子は、呼びかけを無視するように歩くスピードを上げ、小走りで去っていく。のぞみは源(グラム)の集中を高めると、しスピードを上げて後を追い、の前に立ちはだかるように屋から飛び降りた。

降りた先の路面は凍結していて、著地するはずがってしまい、餅をつく。

「きゃっ、痛いっ……」

腰をさすりながらものぞみが頭を上げると、は手に源で作った甲刀を翳している。刃の切っ先は20センチほどの距離でのぞみのを捉えている。のぞみはいきなり武を向けてきたに、命の危険よりも驚きを隠せなかった。

「えっ?刀?!」

が仄かに青くる刀は、微だにしない。髪飾りなどもつけず、艶のある黒髪を腰までばし、深紅の瞳をしたは鋭い目でのぞみを睨みながら問いかける。

「こそこそうちのこと尾けて、喧嘩売ってんの?」

突然の臨戦態勢を示す言にのぞみはし恐怖をじ、直してしまう。のぞみらしからぬ下手くそな笑みを浮かべ、慌てて言った。

「そ、それは誤解です」

「さっきからずっと、うちのこと狙ろてたやろ」

のぞみは両手を上げ、投降の仕草での誤解を解こうとした。

「お、落ち著いてください。私、そんなつもりじゃありません。ただ迷子になって、道を訊ねたいだけなんです。とにかく、その刀をおろしてから話しませんか?」

のぞみの無害な表を見ると、は刀から手を放す。青くる甲刀はさらりと消えた。彼は目線を伏せ、のぞみの制服を見て言った。

「しゃあないな。今回はその制服に免じて許したるわ」

の著る制服の、肩の上の二重袖と、赤いをした襟の線は、のぞみが著ているものと同じだ。のぞみは彼の言葉の意味が理解できず、問い返す。

「はい?」

「あんた、見ぃへん顔やな、名前は?」

のぞみは立ちあがり、名乗る。

「神崎のぞみです。今日、転したばっかりですけど」

のぞみが転生だとわかっても、の、虎が獲を狩るような獰猛な目つきや態度は変わらない。

「そうなん。どっから來たんか知らんけど、一個だけ言うといたげるわ」

「はい」

厳しさのこもるの言葉をのぞみは真摯にけ止める。

「ハイニオスでは、うちら闘士(ウォーリア)はいつでもどこでも自由闘競が認められてるねん。尾行とか襲撃みたいなマネしたら、喧嘩売ってるも同然やね。やからさっきみたいに急に近づいたら、相手が兇暴な闘士やったら即返り討ちにされてたと思うで」

のぞみにはそんなつもりはなかった。ハイオニスでの規則を知らなかったのぞみは反省し、に謝る。

「ごめんなさい、気をつけます……。それで、あの、ホワプロシス行政棟には、どうすれば著きますか?」

「ホワプロシス?こっからやとちょっと離れてるな……」

し考えると、を反対側に向け、指を差した。

「この道をバーッと行くと、でっかい通りが見えるねん。そこで左に曲がってダーッと行ったら中央筋街道っていうところに出るから。そっから浮遊船の線路に沿って下っていったら、ホワプロシスが見えてくるはず。大っきい建やから、遠くからでもよう見えるで」

「そうですか……。案ありがとうございます」

「ほな、道中気ぃつけて」

黒髪を風雪にたなびかせながら、はクールな言葉だけを殘し、去っていこうとする。

「あの、あなたのお名前も教えてくれますか?同じカレッジ所屬でしょう?」

は歩みを止め、振り返らずに言った。

「風見綾(かぜみれい)」

はそのまま歩き去る。

(すごく真面目な人ね……。闘士は自己防衛意識が高いって聞いたことがあるけど、まさかこんなに敏に反応されるなんて……。もっと用心しないといけないのね)

のぞみは歩き出す。風見の案に沿って行ったのぞみは、大きな通りに差しかかると右に曲がり、目的地から外れたどこかへと向かっていった。

つづく

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