《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》6.迷子と闘競(バトル)観戦 ②
ヌティオスが自分に都合の良い返事をしないので、クリアは舌打ちした。
「ちッ!使えない奴ね」
頭の回りが鈍いヌティオスは、人間の論爭や競爭が理解できない。だから、なるべくその件についてはれたくないのだ。
二人の論爭などどこ吹く風といった様子の小柄のは、ステージで闘競を続けている蛍のきを見つめて言った。
「あっ、森島さんがき出しましたよ!あれは決め技に繋がるきですね!」
その頃、のぞみは木々が茂ってできた自然のトンネルからステージに踏み込み、二人の戦いを間近で見ていた。
「あの子!一方的にいじめられているのかも。助けないと……」
この學園には、につけた力を使ってルール違反を行う心苗がなからずいる。こんなふうに人けのない場所で暴力を振るうというのは、のぞみにとってはあるまじきことだった。のぞみはそっとき出す。観覧席にいるライが、のぞみの姿に気づいて言った。
「あの人、いつからそこに居た?」
クリアはライの視線の先に闖者を探す。親友のバトルを邪魔する者が目にり、腹立ちまぎれに言った。
「勝手に闘競にするなんて!あの、誰よ!?」
ダックテイル頭の男が大聲で呼び掛けた。
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「お~い!!そこの不良娘(バッドガール)ちゃん!バトル中のステージは立ちり止だぜ~!?」
しかし、蛍とホルスの戦いは激しく、ステージの土塊が破壊される発破音が耳をつんざき、のぞみには彼の聲が屆かない。
「ダメだな、聞こえねーんだ」
小柄のは青ざめた表で言った。
「あのお姉さんを止めないと、とんでもないことになりますよ」
どんな闘競でも、一旦始まると、心苗は誰もステージに上がることは許されない。もし闘競中、特別な事態に陥ったとしても、介するのは學園の教諭か、または一部の、秩序・治安を守る権限が許された生徒會幹部にしか認められていない。だから、ステージに踏み込んだのぞみをなんとか退けたいと思っていても、彼らはステージに上がることは出來ない。
その時、蛍の元へと刺々しい鉄球が飛んできた。それを避け、一瞬のうちに跳躍する。土塊の上を左右に飛び移り、そのきに合わせ、源で作った手裏剣を振り続ける。ホルスは手裏剣を生でけ、耐えながら、蛍のきを捉えんとしていた。彼の源の気配をしっかりじ、首を仰ぐ。蛍はホルスの上空から降りてきて、全ての源を右足の先端に集め、重力を頼りにバトルブーツで蹴りを食らわせる。
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のぞみは蛍から20メートルほど離れた土塊にを隠しながら二人の様子を覗いていたが、蛍の方が不利な戦況であることに気づいた。
「大変、あの子、やられちゃう!」
蛍はその技でホルスを倒すつもりだったが、彼は巻いたチェーンを纏っている右腕で攻撃を防いだ。両足でしっかりと地面に踏んばり、蛍の攻撃の大部分が相殺される。その反で地面には直徑3メートルはあろう、大きな割れ目が現れた。
「うそでしょ?!私の雷刃蹴りが効かないなんて!」
嘆くような蛍の聲を聞き、ホルスはんだ。
「決め技ってのは、この程度か?淺過ぎて笑っちまうぜ!」
「くっ、なら、もう一丁お見舞いするまでよ!」
ホルスは源を手腕に集中すると、筋を増強させ、蛍の蹴りを押し返す。空中に飛ばされた蛍は、3番目の決め技が効かないことに焦りつつも、空中で勢を立て直す。落下しながら足に源を発し、落下の速度を上げる。地面に接近するとを垂直に一回転させ、右手から、雷のように閃く何かを振り落とした。よく見ると彼の右手には、源で作った脇差しが握られている。
間一髪、チェーンハンマーを引き戻したホルスは、その鉄球で雷のように閃く蛍(ほたる)の攻撃を止めた。よく見ると、ホルスは自分の源を鉄球に注いでいる。蛍は目を白黒させて言った。
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「なんで稲妻斬りが効かないのよ!?」
ホルスが笑った。
「テメェ、途中で気がれただろう?その程度でオレと互角に渡り合おうなんて、隨分舐めたこと言ってくれるよなぁ?!」
ホルスは怪力を活かし、蛍ごと、鉄球を投げ飛ばす。蛍はけが取れず、そのまま二、三の土塊を打ち破り、先にあった巖壁に激突する。その衝撃で落石が起こり、蛍は巖壁の崩れる轟音と土煙の向こう側に姿を消した。
ホルスは、はしゃぐような大聲を出した。
「どうした!貴様の実力はそんなものか?オレのカレッジにも忍びの技を修業する奴はいるが、遙かに及ばねぇぞ!?
その時、風見(かぜみ)綾(れい)が観覧席に現れた。彼は観覧席の階段から降り、観戦している五人の元へと近づいてくる。
綾の姿に気づき、小柄のはそちらへ向かって歩みを進め、話しかけた。
「風見さん、あなたと同じ第三カレッジの、2年D組のフォンス=エルドさんとの闘競(バトル)は終わったんですか?」
「売られた喧嘩を買ったまでや」
ライは綾の制服をよく見てから、座ってままで話しかける。
「その様子を見ると、また無傷で勝ち取ったようですね」
「弱い犬ほどよぅ吠えるわ」
綾はこともなげに言ってのける。ライは落ち著きはらった笑みを浮かべて言った。
「予想通りだ」
小柄のがニコリと笑って言った。
「流石、うちのクラスのトップ軍団に居座るエリート心苗(コディセミット)ですね」
綾は平然とした表のまま、問いかける。
「藍にライ君まで、森島の闘競を見に來たんか?珍しいな」
小柄なの名は藍可児(ラン・コール)。藍は二つに結い上げた団子頭を振って頷いた。
「とても勉強になります。冬休み前と比べて、森島さんは強くなりましたね」
綾は闘競の話題に変えた。
「ほんで、森島とカイムオスのバトルはどないなってる?」
「あっ、そうです、大変なことが起こりました。ステージに誰かが侵しているんです」
「侵!?」
綾はステージを眺め、のぞみの姿を見ると驚いて言った。
「迷子の子や……。なんでこんなとこに……?」
數秒の後、蛍は石礫の山から立ち直った。負傷していたが、衝撃の前に源(グラム)を全に展開していたため、大怪我は免れたようだった。蛍に殘っているのは怒りと負けたくないという気持ちだけ。その気力だけで立ちあがったようなものだ。
「テメェ、まだ続けんのか?」
「くっ!馬鹿にしないでちょうだい!」
蛍は手首を見る。そこには判定のための數値や時間がの文字で示されている。ダメージ數値がまたし上がっているが、カウントダウンまではまだし時間がある。なんとか自分がけたよりも甚大なダメージをホルスに與えることができれば、まだこのバトルを勝ち取れるチャンスはある。そう思った蛍は大聲で言い返した。
「當然でしょ!あんたに負けるようじゃ、クラスの笑い者になっちゃうわ!」
「ほぅ?そこまで言うなら全力で潰させてもらうぜ!」
ホルスは右腕に纏めているチェーンを全て取り離し、頭の上で回転を始める。チェーンハンマーのスピードをしずつ上げ、チェーンが空気を切る低い音が徐々に高まり、まるで大型の扇風機が作したような音になった。ホルスはチェーンハンマーを使い、ステージにある土塊を次々に打ち壊す。全ての土塊が崩され、ステージが剝き出しになる。
蛍はこれまでのような、ステージの特を生かし、高速移でホルスを目する戦い方を封じられる。土塊を盾に隠れることもできず、逃げ場のない平ステージに立たされた。
先ほどの衝撃で右足を負傷していたためきが鈍くなり、反撃どころか鉄球の攻撃を避けるだけで一杯だった。蛍は絶絶命のピンチに陥っていた。
反撃の隙がないまま、蛍はでんぐり返しをして鉄球の直撃を避ける。そのまま立ち上がろうとしたとき、足が攣った。立ち上がれずきが取れないまま、気力だけでホルスを睨む。
「ハハ、オメェの足、もう使えねぇのか?悪いが白星は俺がもらうぜ!」
ホルスは蛍へ狙いを定め、容赦なく鉄球を打ち出す。もう逃げられないと観念した蛍は目を閉じ、殘りの源を振り絞るようにして鉄球が直撃するのを防ごうと試みた。
その瞬間、のぞみが立ちあがり、んだ。
「やめて下さい!」
ホルスは意識を蛍に集中させていたため、のぞみの存在には全く気付いてなかった。突然、目の前に現れたのぞみを認めると、驚愕した。
「何?!」
部外者が介したとき、闘競を行っている雙方は、技を収めなければならない。が、彼は突然の出來事に対処できず、ギリギリで手を止めることはできても、鉄球のコントロールまでは間に合わない。
刺々しい鉄球が眼前に迫るのを見定め、のぞみは両手をばし、全に源を発する。源によっては燃えるほど熱くなる。のぞみは源を前方に打ち出した。
「はあ~!!!」
のぞみは凸レンズ型のバリアを創りだし、鉄球の衝撃を阻む。
「うわ!!」
のぞみは頭を抱え、けの姿勢を取る。ホルスの攻撃は止められたものの、バリアは割れ、散してしまった。足を踏んばって衝撃に耐えると、けを解き、勢を立て直す。
いつまでも攻撃が來ないことに疑問をじた蛍がそろりと目を開ける。そこには栗の長い髪と、のものらしい背中があった。は振り向き、蛍の様子を見ながら問いかける。
「大丈夫ですか?」
蛍は想定外の出來事に、目をぱちくりさせて言った。
「だ、誰よ?あんた!」
チェーンハンマーを手に引き戻しながら、ホルスはまだ驚愕の表をしたままで言った。
「オレのレオトスターグラシャが防がれただと……?!」
ホルスは手に持った鉄球を見て、不思議に思った。それから、のぞみに視線を向ける。目線を向けられたのぞみは、叱るような口調で言った。
「彼がもうけないとわかっていて、どうして戦い続けるんですか?イジメはいけません!」
諭されたホルスは、呆れ顔になって言い返す。
「イジメ?……俺がか?オメェ、何、勘違いしてんだ?」
足の痙攣が治まった蛍は立ちあがり、両手でのぞみを突き飛ばす。
「あんた邪魔よ!さっさとステージから離れなさい!」
押されたのぞみは仕方なく間合いを取る。なぜ助けたはずが邪魔者扱いされているのかわからず、驚いて言った。
「え?!あなたはあの男に暴力を振るわれ、この僻地に追い込まれたんですよね……?」
のぞみの勘違い甚だしい弁明を聞いて、蛍は苛立ち、怒鳴った。
「はっ?何それ、馬鹿馬鹿しいこと言わないでよ。あんた、人の闘競を妨害してるだけじゃない!」
蛍の言葉を聞いて、のぞみは今更になってまずいことをしてしまったと気がついた。
「こ、ここは、闘競場(バトルフィールド)なんですか……?」
そのとき、「タイムアウトしました」という機械音が聞こえ、機元(ピュラト)が勝負の判定を告げた。
<勝者、ホルス・カイムオス>
蛍(ほたる)の手首に、負けを知らせる文字が現れた。勝負の判決は、ホルス対蛍=5619対7857。蛍のけたダメージの方が多かったので、機元はホルスの勝ちを判定した。
バトルは終了した。チェーハンマーを右腕に纏めながらホルスがやってきて、蛍に向かって話しかける。
「Ms.森島、白星はオレのものだな!」
判定は明らかだった。しかし蛍は、負けたことへの恥辱よりも、部外者による邪魔がったことに対する怒りの方が大きく、抑えきれなかった。
「なによ!このの邪魔さえなければ、さっきのカウンター技で、まだ勝算はあったわ!」
「おいおい、オレが勝ったのは事実だろう?さすがに見苦しいぞ!」
負けたうえ、さらに相手に説教までされたことでイライラがつのり、蛍は怒りに任せて吠えた。
「何ですって?!」
「あの……、悪者だって勘違いしてしまって、すみません」
おずおずと謝るのぞみに、ホルスは気持ち良いほどの大聲で笑って言った。
「ハハ、気にすんな!この顔だからな、よく勘違いされちまうんだ!ところでオメェ、ただの闘士(ウォーリア)じゃねぇな?」
のぞみは驚き、ホルスに問う。
「はい。どうしてわかるんですか?」
「さっきのバリアだよ。がっちりシールドの型をさせてただろ?オレたち闘士にゃ、普通はそんな細かい武作れねぇ。お前、素質は士(ルーラー)だろ?」
闘士の源(グラム)の特は、強化的、発散的である。源を一定の形に集めるためには、相當な修業が必要だ。だから闘士が源を使って武を現化しようとすると、普通、やエネルギーが揺らいだような不安定な狀態になる。集中が解けると直ぐに水蒸気のように散らばってしまう。
基本的に闘士は戦闘を重視するため、例え源を武の形にさせても、士のように細かい造形はしない。それよりは、質を化させ、近にあるものを武化したり、武そのものを化させることで攻撃力を上げるような使い方に長けている。
「元々そうですが、今日からハイニオスの心苗(コディセミット)になりました」
「ほう、士が俺のハンマーの直撃を防いだってのか。オメェ、名前は?」
「神崎のぞみです」
「そうか、覚えておこう。ハハ。アテンネス・カレッジに、また面白い奴が現れやがった。ますます愉快だなぁ!」
のぞみの名を聞くと、ホルスは蛍とは目も合わせず、勝者らしい自慢げな顔をして、荒々しい態度でステージを去って行った。
ホルスがステージから見えなくなると、蛍は顔を真っ赤にし、両手を組んでのぞみを睨めつけた。
のぞみがした瞬間は、蛍にとっては反撃のラストチャンスだったのだ。ほとんど負け戦だったことは棚に上げ、蛍は不名譽な黒星を押しつけられた責任をのぞみに丸投げして言った。
「ちょっと!新學期の初めにこのバトルで勝って、心機一転しようと思ってたのに!あんたのせいで負けたじゃないの!」
「ごめんなさい……闘競(バトル)だとは、気がつきませんでした……」
「冗談じゃないわ!口で謝って済むとでも思ってるの?!」
つづく
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