《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫9.アテネンス・カレッジ 2年A組

アテネンス・カレッジはハイニオス學院の東エリアに位置し、中央學園キャンパスに一番近いカレッジだ。二年生の校舎棟―ハストアルは、ホワプロシスから徒歩でおよそ3キロメートル。校舎棟の後ろには緩やかな山地と森があり、西側には人工湖、東側には演武練習の広場が設置されている。

カレッジの校舎棟は、つるつるの白石と水晶ガラスを8:2で使用した巨大な建だ。十階建てのビルと同じくらいの高さがあるが、実際の階層は五階までしかない。直方をしており、その四つ角と壁には複數の柱がある。それらの柱は、地上階となる一階の土臺ステージから屋までび、神柱のように屋を支えている。平たい屋には複數の小さなガラスのピラミッドがあり、屋の四辺には細い尖塔が連なっている。このピラミッド狀の部分には発熱システムが蔵されているため、雪が降っても積もらない仕組みになっている。真正面のり口はホワプロシスの扉と同じ設計になっているが、しこぢんまりとしており、柱も六本しかない。鈍角三角形の屋にはハイニオスの紋様が施され、り口の両側にはアテネンス・カレッジの紋章(エンブレム)のった旗が風になびいている。

A組の教室は西側四階の一番裏にあった。

教室は階段式になっており、劇場の観客席のように、立方の空間に七つの階段がアーチを描いている。それぞれの段には八つの席がある。心苗の席は扇子型に獨立している。同じ階段にある機は左右の席を組み合わせることも、分離させることもでき、自由に調節ができた。一番端の通路は2メートル、一番高い段では、奧行きが6メートルある。後ろの壁には幾つの的が設置されている。前方には半円型の講義用ステージがあり、教卓の前の床に大きな円が描かれている。前の壁には黒晶石で作った黒板に、が反していた。

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この教室には14才の可憐なもいれば、つやは30代だが、老人のような髭をばす者もおり、青いに四本の腕を持つ男、白金の髪から鋭く長い耳をばしたなんかもいた。そう、ここでは年齢や人種、別は問題ではなかった。學に必要なのは実力のみ。それが、聖學園(セントフェラストアカデミー)という場所だ。

ところで、地球(アース)界とは異なり、人間のタヌモンス人の社會では99.9%の者が源気(グラムグラカ)を使うことができる。源気は、日常生きていくのに不可欠なスキルなのだ。それでもここ、聖學園に學できる者は、それぞれの國の中でもおよそ5%ほどの、源を使いこなせる鋭たちだけだった。

一方、地球人は、個格が鮮明なだけでなく、の変が激しい。源(グラム)を使う者は初心者の頃には大きな力を持つこともある。ところが、それぞれの価値観の枠に収まり、力をばすための苦労をしない者は長しないという特徴があった。それでも、學試験をける者はタヌモンス人の方が多いにも関わらず、合格者の割合はタヌモンス人と地球人が約6:4となる。地球人の方が合格率が良いのが現狀だった。

一年生の初めには、源の使い方や、強化鍛錬法などの基本スキルを學ぶ。學園は専門鋭化を教育方針としており、一年の三學期からは心苗(コディセミット)をそれぞれの適や素質の鑑定データによって、闘士(ウォーリア)、士(ルーラー)、騎士(レッダーフラッハ)、魔導士(マギア)等を四つの學院に分け、それぞれ基本のスキルを學ばせる。學院を問わず、鮮やかな同級生たちと授業をけるクラスは、タヌモンス人の社會の図のようだった。

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教室では、落ち著いて読書をしている人がいるのはもちろんのこと、ナイフでジャグリングをする男、床に胡座をかいて源を鍛錬するや、機の上に腰掛けて足を組み、ガールズトークをしながら手で鉄釵(サイ)を振り回す、居合いの構えをし、六本の木の幹の節に向かって試し切りをしている男までいる。教室はまるで鮮やかな花々の咲きれる庭のように、賑やかな個の集まりだ。

藍可児(ラン・コール)は、試し切りをする男の稽古を見學していた。ライはクラスメイトの年と碁を打っている。

教卓には、ちょっとした人だかりができていた。その中心で、ヌティオスと一人の心苗が腕相撲をしている。周りを取り囲む10人は男じった心苗たちで、両方に応援とも野次ともつかない言葉をかけている。

ヌティオスは右下の手を使って筋に源を集中し、歯を噛みながら力んでいる。相手の男はポンポン・ベックル。赤いをしており、長い茶髪を無數の細い三つ編みにして流し、上腕筋と首にれ墨がある。インディアンのようなその男は、巖のようなを見せつけるかのように、上半はベストだけを著ている。服に収まりきらない筋のせいで、ベストはとても小さく見えた。

彼は歯を見せて余裕のある笑みを浮かべたまま、ヌティオスとの激しい腕力の渡りあいをしている。ヌティオスはあと1センチというところまでは力が勝つのだが、なかなか教卓にポンポンの手をつけることができない。

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ポンポンが大きな聲でんだ。

「どうしたどうした?ヌティオス・ブラザーヨーロ!これがお前の全力か?もっと、ガツンと押してこないと勝てないヨーロ!!」

一瞬、赤土が輝き、ポンポンの腕が風船のように膨らんだ。負けそうになっていたはずのポンポンが、一気に腕を逆側に倒す。ボギリ、と嫌な音がして、ヌティオスは腕が折れた痛みにんだ。

「くおお!!」

「ベックルさんの勝ちヨン!」

腕相撲の判定を擔っているは、狐の耳と青い眼、艶のある金茶のロングヘアをばしている。おのあたりには、モフモフしたものがび、たまに揺れる。

腕相撲大會で連覇中のポンポンは、両手を上げ、高揚してんだ。

「よーっし!またまたオレの勝ちだヨーロ!」

ヌティオスは折れた右手を左手で支え、無念そうに言う。

「また俺の負けなのか?惜しいところまでいったのに……」

ポンポンが周りで野次を飛ばしていた連中に向かって問う。

「まだほかに、オレに挑戦したい奴はいないのかヨーロ?」

先ほどまでの熱い聲援はどこへやら、心苗たちはサッとポンポンから目線を逸らす。クラスでの績が上位9位のポンポンとでは、腕相撲であっても勝ち目がない。

そこに、一人のが聲を上げた。

「ぼくがけてたつよ」

立っていたのは、ラトゥーニ・シタンビリト。長168センチ、グレーグリーンのミディアムショートを肩より2センチほど短くばしている。ポンポンは振り向きざまに彼を見ると笑みを浮かべて言った。

「ほう?シタン・シスターか?その細い腕が折れても知らないぞヨーロ?」

「大丈夫!へーロクレースの筋を継ぐぼくは負けないから!お互い、ベストを盡くしてやろう!」

ラトゥーニは袖を捲りあげ、ほっそりとした腕を機に置く。グレイブルーの瞳は、勝利に飢えた強い気迫で輝いている。ラトゥーニの言葉に興したポンポンが、楽しそうに笑顔を咲かせた。

「そうこなくちゃな。おかげでオレも燃えるヨーロ!」

ポンポンも腕を機に置き、ラトゥーニの腕とわし合う。雙方、準備は整った。

ラトゥーニはポンポンの目を見つめながら、判決人に呼びかける。

「いつでも良いよ!メリルさん!」

狐の耳を持つは、ラトゥーニとポンポン、両方の準備が整い、不正がないことを確認すると、試合の始まりを告げた。

「位置ついて~!用意!はじめヨン!!」

新たな戦いに、歓聲が沸きあがる。ラトゥーニは凄まじい源をその細い腕に注ぐ。先ほどのポンポンのように大させるのではなく、筋細胞自を強化するように源を使う。本人も自覚しているように、筋柄、質に恵まれたラトゥーニは、ポンポンとの腕相撲でもなかなか渡りあっており、力は拮抗していた。

ラトゥーニとポンポンの勝負の行方に沸く賑やかな軍団と同じ教室の中で、綾(れい)はおとなしく自分の席に座し、瞑目して戦いのイメージトレーニングを行っていた。

同時刻、同じ教室にいた無骨な男は、金髪をダックテイルにした男に聲をかける。

「クラーク、今朝のバトル、蛍ちゃんがカイムオスに負けたってのは本當か?」

ダックテイル頭の男の名はクラーク・ティソン。彼に聲をかけたのはフォラン・ザック。フォランはミルクチョコのようなに、坊主頭、耳には針のピアスを刺している。二人は友人同士のように見えるが、績評価は38位と39位。微妙なライバル関係である。

「本當だぜ~。良い勝負と思ったんだけど、ちょっと意外な形で負けちまったのさ」

「何が起こったのさ?いつもプリティでキューティーな蛍(ほたる)ちゃんが、朝からなんかプスプスしてねぇか?」

「バトルの途中に部外者がりこんじまって、勝負を邪魔したのさ」

「何?興味深い話だな?詳しく聞かせろ」

「それがな……」

闘競(バトル)の結末を語ろうとしたクラークとフォランの間に、狀のチャクラムが高速回転しながらりこんできた。二人は驚き、機から飛び退く。チャクラムは工房のエンジンカッターのように、さらに數秒間、高速回転すると、持ち主である子心苗の元へと戻る。チャクラムが荒々しく削り取った機には、切り跡が無殘に殘った。

フォランはその子心苗に向かって啖呵を切る。

「おい!危ないじゃねぇか!」

クラークも、いつも通りのへらりとした口調で問いかけた。

「クリアちゃん、どういうつもりだ~?」

自分の機の上に座り、クリアは不愉快満面で言い返した。

「それはこっちのセリフ。他人のバトルに口突っ込んでんじゃないわよ」

フォランはクリアの様子から、逆にその話が気になってしまった。太い腕を自分の元に置き、バトルに負けた張本人である蛍に問いかける。

「蛍ちゃんらしくない話じゃねぇか。ほら、一何があったんだよ?大事な蛍ちゃんのためなら、このオレが敵討ちしてやるぜ?」

蛍はフォランを見もせず、何も言い返さない。バトルでの醜態はまだ頭にこびりついていた。フォランの無神経な質問がさらに気分を損なわせる。蛍はむしろ顔を背けた。気分が悪く、メラメラと心の中で悪い炎が燃えていた。

クリアは蛍の気持ちを汲み、二人を蹴散らす。

「うっさいのよあんた達!どっちにしろ関係ないんだから、土足で踏み込まないでちょうだい!」

闘士は基本的に、男問わず皆、ライバル関係である。闘士はことさらにプライドが高く、ホミ同士の関係ではない場合、異から協力をけるというのは恥に値する。相対的に力の強い男から助力をけるのは、自分の無力を認めるようなものだからだ。

さらに、彼達の多くは、自分より弱い男を同じ闘士として認めない。クラークやフォランはまさにそのような対象で、良く言えば赤の他人、悪く言えばゴキブリ以下の存在という扱いで認識されていた。

「森島!闘競がどうした?」

明るい男の聲を聴くと、蛍とクリア、クラーク達は一斉に顔を扉の方に向ける。聲の主が現れると、先ほどまで頑なに黙っていた蛍が聲を発した。

「不破(ふは)くん?」

不破修二。腰に収めた剣を左足の前に垂れさせているが、そんなことよりも、紫と黃の混ざるアフロ系のウルフ頭がどこにいてもよく目立つ。格は普通ながら、派手な頭と大げさな振りが、良くも悪くも彼の認知度を高めている。不破は歯を見せて笑い、蛍たちに向かって挨拶した。

「オォーッス!」

不破の大ぶりな仕草を見て、蛍は恥ずかしくなり、目線を逃がす。

「森島、もしかして負けちまったのか?ドンマイドンマイ!次のバトルでリベンジすれば良いじゃん!」

蛍は何も言えず、の前で両手をぎゅっと握りしめ、逃げようと思った。

「ちょっと!あんた、もうし言葉を選びなさいよ!」

「いや~、そう言われてもなぁ」

蛍は、不破にだけは自分の負けを知られたくなかった。気になる異に失態を曬したくないのはどこの世界でも同じだろう。恥ずかしさに耐えきれず、自分の席からそろりと抜け出すと、教室から出ようと思った。

その時、り口に立っていた義毅(よしき)が、蛍の行き道を塞いだ。急に現れた義毅に驚き、を引いた蛍が言った。

「トヨトヨ猿?!」

「今はホームルームの時間だぞ。どこへ行くつもりだ?森島」

「自主訓練よ。どうせ全員揃うわけじゃないでしょう?無意味なホームルームなんかに時間を費やすより、自分の技を磨く方が重要でしょ」

「そうか。悪いが、こいつの自己紹介を聞き終わるまでは參加してくれ。その後はお前は自由にしてくれていいぞ」

「自己紹介って、まさか……」

蛍は義毅の後に付いてくるのぞみを見て、呼吸が止まった。 のぞみもびっくりしたように蛍を見つめている。闘競を邪魔したことをまだ気に病んでいたが、まさか同じクラスの心苗(コディセミット)だとは思わなかったのだ。

不機嫌の元兇であるのぞみの、きらきらとまっすぐに向かってくる目の力に、蛍は苛立ち、目線を逸らす。

「席に戻ってくれるか?」

「分かったわよ……」

ちっ、と舌打ちをした蛍は、踵を返す同時に、のぞみを目だけで睨んだ。のぞみは敏にそれに気付き、申し訳ない気持ちと、何も言えない心苦しさで目線を伏せた。

教卓で腕相撲をしている二人の勝負の行方が決まりかけていた。

ポンポンは先に余裕を失い、全力を出すように顔をガチガチにさせた。腕の筋が大きく膨らんでも、ラトゥーニの腕は全く押し倒せない。次の一瞬、渾の力を込めたラトゥーニが、ドンッと一気に勝ちを取りにいった。外見には全く変わらない細腕で、ポンポンの太腕に討ち勝ったのだ。

それでも、勝つことは當然だというように、ラトゥーニは気な笑みを浮かべて言った。

「フフーン!ぼくの勝ち~」

ポンポンは素直に相手を褒める。一度の負けで挫折するようでは、クラス9位にまで這いあがることはできない。

「俺の負けか。お前、すげぇじゃねぇかヨーロ!」

ドヤ顔のラトゥーニは、両手を腰に當てて自慢げに言う。

「フフフーン、大英雄の筋ってのは、ダテじゃないのさ!」

男子心苗が大聲で言う。

「まさか、ベックルがシタンビリトに負けるとはな!」

「流石、怪力を持つだな!」

子心苗も心したように続く。

「力比べで言えば、ラトゥーニちゃんはうちのクラスでは子のナンバーワンだもの」

「そうよ!パワーがあって、本當に素敵!」

勝者となったラトゥーニは周りを見回して聲をあげる。

「ぼくに挑戦したい人はいる?!」

そのとき、義毅が教卓にやってきた。腕相撲の結果を知り、ラトゥーニに聲をかける。

「おう、腕相撲やってんのか?俺とやろうぜ?シタンビリト」

観戦していた男子心苗が気安いじで言う。

「何だよ、トヨ猿か」

先ほどまで笑って観戦していた可らしい子心苗も、急につまらなさそうな口調になって言った。

「無理だわ、ネズミボウズと腕相撲なんて、勝ち目ないじゃん」

近くにいた綺麗な子心苗は、義毅を見ると罰ゲームで嫌がらせをけた思い出が蘇ったのか、ドン引きしたような表で言った。

「腕相撲なんてしたら、トヨトヨ猿のバカが染っちゃいそうでヤだわ」

「ハハ、なんだ。オレは仲間はずれか?さ、ステージを空けてくれ。我がクラスの新メンバーを紹介するぜ!」

心苗たちは義毅の言葉を聞くと教卓から退いた。義毅の存在が強すぎるせいで、隣に立つのぞみの存在に今さら気づいたように、心苗たちが一斉に顔を向けた。

つづく

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