《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫21.拳法稽古 ④

「おい!そこの二人!稽古中にサボるんじゃない!」

広場にロム師範の怒聲が響いた。のぞみを含め、全員がそちらを向いた。そこにはクラークとフォランがいて、二人は稽古をせずに師範の方を見てへらへらと笑っている。その手には各々のマスタープロテタスが握られており、何か調べものでもしているのか、遊んでいるのかという風だった。

クラークが師範に向かい、生意気に言った。

「先生、この授業の稽古、つまんないぜ。俺の所屬門派の方がよっぽどレベルが高いからよ~?」

敬意をじられないクラークの言に、師範の目は三角になる。

「自由に技を使ってもいいと言ったが?それでも足りないのか?」

「ん~、できれば真剣勝負がやりたいのさ」

初歩的な授業などけていられない、というように、クラークは手を投げだして笑った。

「基礎拳法演習にはそのような練習メニューはない」

「じゃあこの授業の意味ってなんなのさ。二學期には恒例闘競(バトル)も解放されちまうからよ、それまでにできる限り実戦の経験を積みたいって、みんな思ってんじゃねぇのかな」

ロム師範は教諭用のマスタープロテタスを持ち出し、クラークの心苗(コディセミット)報を調べた。たしかに彼は名門の『鎌星拳(かませいけん)』門派に所屬しているようだ。『鎌星拳』は、カマキリのきに著想を得た拳法の門派である。師範はクラークに告げる。

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「そこまで言うなら俺がバトルしてやろう。実力と技量を見せてみろ」

師範は迷いなく、條件を突きつける。

「もしお前が俺にダメージを與えられれば、今すぐにでも単位をやろう。そうすればこの授業にはもう出なくてもいい。どうだ?」

「良いのか?」

「この學院では、実力が全てだ」

行きを見守っていたフォランは二人のそばから退く。クラークは16枚の石板を取り、師範に挑む。

から膨大な量の源気が湧き出し、を包む黃緑のが炎のように揺れた。ロム師範は、そんなクラークを相手に一切、源気をじさせない。

違和に気付かないまま、クラークは先手必勝とばかり飛び出す。足技で師範の急所を狙い、次に回転三段蹴りを繰り出す。

「へへっ、クラーク連弾はよく効くだろ~?」

『鎌星拳』門派とは無関係に、格好良さを追求して獨自に練習を重ねた蹴りの決め技には手応えがあった。

師範は避けることもなくクラークの技を食らったが、足に鉄柱でも刺してあるように、一ミリたりともいていない。ダメージはゼロといってよかった。

「貴様、あれだけの大口を叩いて、この程度か。期待させておいて、話にならん!」

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予想を遙かに超えた弱さと品位のなさ、そして、実力もないのに授業をサボタージュする怠惰さは、ロム師範にとっては禮節を欠く言だった。

師範は徐々に怒りのボルテージをあげていくように、全を真っ赤に燃えあがらせ、赤い鬼の面でも付けたようにすさまじい怒りを滲ませる。

「お、おいおい……噂どおりじゃねぇか……」

師範の変化していく様子に、クラークは戸う。

どう反応することが正解かもわからないまま、本能的に構えた。

師範が軽く手を振る。蠅叩きでもするような軽い平手打ちは、クラークのをロケット弾のように長距離飛行させる。ドンッ、という大きな音と衝撃波が広がり、広場の壁にクラークが打ちつけられた。

瓦礫の中にめりこんだクラークは意識を失い、顔は塗れ、歯も何本か折れてしまっていた。

ロム師範が『赤面の戦鬼』という異名を持つことは、心苗全によく知られている。実際、授業態度の悪い者や、の曲がった者への指導は手加減しない鬼師範なのだ。

「聞け、お前たち!ここにいる世間知らずのように、授業をけたくない、単位さえもらえれば出たくないと思う奴は、いつでも挑戦する権利があるからな!」

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心苗たちが騒然とするなか、救急機元(ピュラト)が場へとり、擔架を展開する。機元からび出した機械アームが倒れたクラークを擔架に乗せると、速やかに運び去っていった。

クラークと一緒に授業をサボっていたフォランは、無殘にも破れたクラークの姿に、目玉がぽとりと地面に落ちてしまいそうなほど目を見開いたまま、ロム師範に訊ねる。

「ロム先生、僕の組手練習はどうしたらいいですか……」

急にしおらしくなったフォランに、師範は笑いかける。

「そうだな。先輩と組み直せ。それとも俺と組むか?」

恐ろしい提案にフォランは震えあがった。

「あ、じゃあ、先輩に聲をかけてみます」

「ははっ、遠慮しなくていいぞ」

クラークとの一件などなかったかのような厚遇にゾッとしながら、フォランは師範の前から慌てて立ち去った。

目の前で繰り広げられた罰に、心苗たちは言葉を失う。同じクラスの心苗として、クラークのような者がいたことを恥じる共能力の高い者もいれば、コミルのように天罰が下ったのだと笑っている者もいる。

クラークのみどおり、実戦をけたロム師範の強さを目の當たりにし、のぞみは頭が痺れるような恐怖をじた。この授業はとくに気を抜かないようにしないと……と心の中で要注意のマーカーを引いた。

おののく心苗たちを見ると、師範は何事もなかったかのように続きを促す。

「どうした?手が止まってるぞ?」

心苗たちは、いつ自分が第二の犠牲者になるかという恐ろしさから、練習にを出す。

クリアと蛍(ほたる)も、攻守を代しながら組手の練習を繰り返していた。クリアが技を打ち出すと、蛍が俊敏な手足のきでそれをけ止める。格闘技が得意な二人は阿吽の呼吸で打ち合う。その様子はさながら、自由闘競のようだった。

今度は蛍が両手を組んでクリアのハイキックをけ止め、すぐさま蹴りで押し戻す。クリアは蛍の反撃を掌でけ、食いとめた。

後ろの足で地を蹴って退くと、蛍は構えを解いて言う。

「クリア、技の反応、前よりよくなったんじゃない?」

「まぁね。『天門(てんにょもん)』で先輩たちのレベルに追いつくために相當鍛えたのよ。中距離なら武アイテムを使えばいいけど、接近戦になると、回避の敏捷さやに繋がるカウンター技が重視されるからね」

「ふ~ん、たしかにその回転系なら、攻撃と回避がたやすいわね」

宿(じょしゅく)・天寶華門(てんにょほうかもん)】、通稱『天門』は、武・格闘技・舞踏・スポーツなど、五部三十二門の流派に分類される武恒武連盟の一つだ。創設者は前世紀の日本神道や中國の道教、インドのバラモン教を學んでこの門派を設立したと言われている。

地球(アース)界から伝來したこの武は、男子よりも圧倒的に子の弟子が多いのが特徴の外家武の門派である。速さだけでなく、と協調が求められ、新のような躍、ヨガのような、そしてバレエのような回転系のきが多い。弟子たちはつねにを意識し、優雅さを保ったまま攻めることを學ぶ。珠、チャクラム、鉄瓶、カタール、短剣等を使った攻撃は、相手に夢幻のごとき舞踏を見せ、魅了する。相手が骨抜きになっているところを絶命させるのが、この武の真髄といえる戦闘スタイルだ。

組手練習を再開すると、蛍は再度、構える。

「よーっし!続き、いくわよ!」

「ね、あれ、見てみなよ。あいつ、稽なきね」

クリアの指差す方を見ると、のぞみとヌティオスが組手をしていた。明らかに攻めののぞみが弱く、テンポが遅い。攻撃を終えると構えも崩れ、弱點が丸出しになっている。

蛍は軽蔑するような笑いを浮かべた。

「何あれ、剣は多できるみたいだけど、は門外漢なのね。ふん、あれで私に宣言闘競(ディクレイションバトル)を申し出るなんて、戦う前から勝敗は決まったようなもんね」

クリアと蛍は、亀の歩みを眺めるウサギのような心持ちで、のぞみを嘲笑った。

「よ~し!時間だ!三分間の休憩後、再び組手に戻れ!」

「はい!!」

全員が聲をあげて応える。打ち合い途中の者たちは區切りの良いところまで続けるようだったが、戦闘の構えを解き、休憩を取る者もいる。

を楽にさせたのぞみだが、その息は荒い。日頃、あまり使わない筋に負荷がかかり、疲れが出てきていた。

ヌティオスが問いかける。

「もう、疲れたか?」

「はい……。すぐに慣れると思いますが、想像以上に辛いですね……」

「それなら『気癒(きゆじゅつ)』を使ったらどうだ?力が回復するし、筋痛もしは楽になるぞ」

ヌティオスのアドバイスを聞いて、のぞみはなるほどと思った。士(ルーラー)の思考パターンにはない源(グラム)の使い方を思い出し、頭の中でリン、と鈴でも鳴ったような気がした。

「そうですね、『気癒』はそんなふうにも使えますね。やってみます」

のぞみが深呼吸しての裏側から源気(グラムグラカ)を引き出し、全に循環させると、わずか數秒で疲労は消えていった。

『気癒』は、に保たれている力と、消化によって得られたスタミナを有効に循環させる方法だ。このスキルのレベルを上げると、自然環境下にある源を、呼吸によって自分の源に変換することもできる。そうすれば、戦闘中であっても怪我や疲労狀態から復活することが可能だ。

しかし、『気癒』は闘士(ウォーリア)に適したのため、士、魔士(マギア)、騎士(レッダーフラッハ)にとっては効率の悪さからあまり使われていない。彼らの多くは、『気癒』と同様の効果が得られる別のを使っている。

「ふ~~、これならもうし稽古を続けられそうです」

「おお!お前、回復スピードが速いな!」

「よくわかりませんが、そうみたいですね。ところでヌティオスさんは、どうして上の二本の腕を使わないんですか?」

回復したおかげでし調子を取り戻したのぞみは、ヌティオスに疑問をぶつけた。

ヌティオスはよくぞ聞いてくれましたというように筋を盛りあげ、見せつけるようにして言う。

「この二本の腕はな、命がけの戦でしか使わないんだ。俺の門派の師匠からの教えでな。だから、こんな安全第一の授業では使わないって決めてるんだぜ」

「そうだったんですか。師匠の教えを大切にされているんですね」

「尊い方だからな!それに師匠から、教えを守れない奴には奧義は教えないって言われてるからな」

早めに門派を決めなければ稽古時間が空白になるというティフニーの助言を思い出し、のぞみはヌティオスに問う。

「ヌティオスさんは、どの門派に所屬しているんですか?」

「オレは『雷豻門(らいかんもん)』の所屬だ」

各門派の紹介文を思い出しながら、のぞみが言う。

「『雷豻門』……。【井宿(せいしゅく)・雷豻八極門(らいかんはっきょくもん)】ですね?たしか、地球界の八極拳という拳法がルーツの……」

「おお、お前よく知っているな」

『雷豻門』も、れっきとした名門だ。のぞみは悩みながらもヌティオスに訊ねる。

「私、どの門派にろうか考えているんですが、『雷豻門』は、私でもれますか?」

「『雷豻門』はいつでも門大歓迎だぞ。実技対戦バトルの門試験に合格すれば誰でも弟子になれる!」

門歓迎ということは、門試験といえども、ある程度は格闘技の初心者に優しいかもしれない。のぞみは思い切ってヌティオスにお願いをする。

「私、ぜひその試験をけたいです。ヌティオスさん、その門派、紹介してください!」

のぞみの願いを聞いたヌティオスは、爽快な笑顔で頷く。

「いいぞ!兄妹弟子になるのが楽しみだ!」

門試験にかるためにも、稽古をつけていただけますか?」

真剣な表ののぞみは、戦闘の構えを再開する。

「おう!次はオレからいくぜ!」

目標ができ、さらに集中したのぞみを激勵するように、ヌティオスは『雷豻門』では常套手法である、親指を天に向け、拳を打ち出す鉄槌打ちを繰り出した。

つづく

ここまで読んでくれてありがとうございます。

し気にってくれならうれしい。もし、ブクマ、想、評価をいただければ幸いです。

次回は、のぞみは門試験をける回です。しばらくのぞみは難続きですが、彼長を見守って続けると、弱々しい雛鳥はいつか凰に化けることをきっと保証します。では、來週の次回更新もお楽しみに待ってください。

引き続きも進いたします、よろしくお願いします。

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