《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫25.空席のある夕食 ②

楊(ヨウ)、ガリス、イリアスの三人は、のぞみの姿を見てショックをけた。

「カンザキさん?!」

楊が大聲で呼びかけたが、のぞみは無反応だ。

ガリスが深刻な表になり、イリアスも、「これは酷いわね……」と呟いた。ガリスがミュラに問いかける。

「カンザキさんに何があったんですか?」

「ちょっと頑張りすぎてしまったみたいね」

朝、元気いっぱいで出かけていったのぞみがボロ雑巾のようになっているのを見て、そのあまりの変わりように、ガリスは混していた。自分にできることはないだろうかと深く考えてみるものの、揺してしまい、妙案は浮かばない。

楊は、事故で重となり施室へと運ばれていく友人に、無償でを分けるような気持ちで申し出る。

「ミュラさん、俺は神崎さん源気(グラムグラカ)を分けるぜ。士(ルーラー)同士なら、源(グラム)の質も同じだろ?」

「ダメよ、ヨウ君」

ミュラは楊をたしなめるように言った。

「ミュラさん、止めないでくれよ」

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「のぞみちゃんを助けたい気持ちはわかります。でも、楊君とのぞみちゃんは男と。気持ちを汲んであげることも大事でしょう?」

心苗(コディセミット)やウィルターが互いの源気を換したり注することは、基本的にはボディータッチやハグのように、仲間同士でのスキンシップと捉えられている。しかし、中にはそれを、行為に近いものとして捉え、忌避する者がいるのも事実だった。

一方で、ウィルターが重となったとき、源を注するというのはとても重要なことでもある。十分な源がに保たれていれば、たとえ出多量であっても命の反応を持続させることができる。

源気の注は非常に大きな効果があると同時に、施者が未だと、雙方にとって後癥などのリスクも伴う。気絶狀態にあり、自由意思のない狀態で源をけることに抵抗を持つ人もいる。そのためが低く、本人の意思が確認できないときの源の提供・注行為は法的にじられていた。

今回ののぞみの場合はを要さないため、施けるのであれば、醫療機関でヒーラーの診斷に基づき、輸送機元(ピュラト)での治療処置をするのがましい。

「だけどよ、神崎さんがっ!」

「落ち著きなさいヨウ君。のぞみちゃんは命に別狀があるのではなく、ただの過労です。クラスメイトとの実力差に焦ってしまい、無理してしまっただけでしょう」

「……そうなのか?」

楊はもう一度のぞみのことを見て、思わず溜め息がれた。

「のぞみちゃんのケアは私とミナリちゃんに任せて。あなたたち三人は先に夕食を食べてください」

「わかりました。ヨウ君、行きましょう」

ミュラの指示をけ、ガリスは戸う楊の両肩に手を置き、ダイニングへと向かわせようとする。

のぞみのケアに協力できない楊は、苛立ちを抑えるように言う。

「……わかったぜ」

ガリスは優しい聲音でミュラに聲をかけた。

「ミュラ姉さん、もし何か協力できることがあれば、遠慮なく僕たちに言ってください」

「そうですね。のぞみちゃんが深夜に起きて困らないように、夕食を殘しておいてください」

「わかりました」

ガリスは頷き、即答した。

ダイニングへ向かう途中、イリアスが楊の腕を肘でつつく。

「ヨウ君、ほんとはさっき、いやらしいこと考えてたんでしょ?」

楊の顔が一瞬で真っ赤になる。

「ばっ、バカ言うんじゃねえよイリアス。そんなわけねぇだろ!」

イリアスは楊の目を真正面から見る。楊は上気した顔を見せまいと、顔を背ける。

「ほんとかなあ~?この前だって、わざわざ子のお風呂の時間に、バルコニーに干してあった服を取りこんだの知ってるんだからね。あれ、覗きでしょ?」

「あれは、よ、夜風が気持ちよかったからで!誤解だぜ!」

「あの日は氷點下だったのに~?怪しいな~」

イリアスは頬をり、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。

「怪しくねぇよ!ガリスが服を取ってくれっていうからやっただけだぜ」

「そうです、あれは僕のミスですよ。そんなにヨウ君をからかわないでください」

ガリスの弁明に耳を傾けることなく、イリアスは言いたい放題だ。

「ふふん、だって、いつもツンツンなヨウ君が慌ててるの、可いんだもの」

「くだらねぇ!」

真っ赤な顔をイリアスに向けないままで、楊が言った。

ガリスは二人の微妙な関係を、苦笑いしながら見守ることしかできなかった。

リビングに殘っていたミナリとミュラは、を痛めながらも、のぞみの回復に挑んでいた。

「ミナリちゃん、のぞみちゃんの傷を治せますか?」

「任せてニャー!うおうお~、メディカルフィッシュになれ~!」

ミナリは源を集中する。緑と黃の玉がいくつか宙に浮かび、その玉が魚へと変化した。魚たちは宙を泳いでのぞみのを這うと、點在する傷口にキスをする。黃の魚は菌や汚れを吸い出し、緑の魚は炎癥を抑え、破壊された細胞を修復していく。

魚たちの甲斐甲斐しいケアは15分にわたり、のぞみのから傷や汚れが消えた。

「ミナリちゃん、よく出來ましたね」

「のぞみちゃんためなら、このぐらいならお安い用ニャー」

「そうね、二人は學したときからずっと一緒ですものね」

一年生の一學期、まだ學院分けがされていない頃に知り合った二人は、フミンモントル學院に決まってからも、同じカレッジ、同じクラスの所屬になった。學院でも同じ、寮でもルームメイトの二人には、何か深い縁があるようだ。とくにミナリは、のぞみに依存的な好意を寄せている。

「ミナリちゃん、私たちにできることはもうありません。これでのぞみちゃんはもう大丈夫ですよ。さ、先に夕食を食べてきてください。私が看病してますから、後で代しましょうね」

「はい、分かりましたニャー」

ミーラティス人は生まれつき獻的で、命のケアをするのが得意な分だ。ミュラはハーフだが、それでもけ継いだは天のものといえる。し扱いにくいところのある男子たちを含め、ミュラはこの第28ハウスの寮母のような存在だった。

つづく

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