《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》37.剣・試し斬り
午後になり、小雪が降りはじめた。度は0パーセントに近く、雪雲はゆっくりと流れ、その隙間からまばゆいほどの日が差しこみ、一瞬、雪が金のように空を舞った。
ここは、第三カレッジ、アテンネスキャンパスの中でも、二年生棟のハストアルからし離れた弘峯奇門(ビークケルトン)武道館。のぞみは基礎兵演習をけるため、ここへやってきた。
朱塗りの柱と白壁で組み立てられたこの建は、り口の巨大な扉の表や柱、梁の金に水晶が埋めこまれている。半開放式となっている八角形の屋には竜の鱗のように瓦が並べられており、荘厳な印象を與えた。
屋の八の頂點からはそれぞれ線が引かれ、それぞれの突端からは先の尖った柱が聳えたっている。柱に囲まれた天井には、厚みのある遮水晶ガラスが嵌めこまれ、今は閉めきられていた。
この武道館では、『アレティス大會』をはじめ、様々な祭典イベント闘競が行われている。
心苗たちは必修単位として、兵をける。兵には、刀、剣、打神鞭等の刀剣類や棒をはじめ、槍、戟、矛、なぎなたといった長のものまで多種多様に振り分けられるが、基礎兵演習では刀剣と長だけを扱い、どちらを選ぶかは心苗が判斷できる。
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授業をける全員が同じ場所に集まる拳法稽古の授業と違い、兵では刀剣と長で稽古場が異なる。そのため、各稽古場に集合する心苗は、拳法稽古の授業よりもなくなる。
のぞみは多、心得のある剣を磨こうと、刀剣を希したため、剣法・剣の基礎を學ぶ稽古場に來ていた。
バスケットボールのコートが16面も取れるほどの空間に、A・F・G組の三組の心苗が集まり、剣法・剣基礎演習の授業をけている。素振り、剣法の型の練習、の試し斬りという三つの項目に分かれ稽古をし、時間が來るとローテーションで場所の移を繰り返す。
授業では、太刀をはじめ、寶剣、甲刀、ツーハンドソード、ブロードソード等、心苗たちが各々気にった刀剣で稽古をけることができる。
A組の心苗は、の試し斬りの作法を教わっていた。この日はどんな刀剣であっても、一刀のみという縛りがある。
石を組み合わせて作られた四つの大ステージの真ん中に、それぞれ一人ずつ立っている。事前に機元端(ピュラルム)でダミー的の數、材質、反応速度、きのパターンなどを設定することができ、心苗が自分の稽古容に合わせて自由に変更してよい。
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あくまで剣演習の授業という名目ではあるが、自分の技量を面前で披するという意味合いもあり、試し斬り大會のような、妙な空気の重たさがあった。
初音が一臺のダミー的に向かい、居合いの構えで抜刀する。と、わずか數瞬の間に、的は三連に斬り落とされた。初音は殘心もしく、見事な所作で刀を収める。カチリと鞘にはまる音以外には、無音のきであった。一本目は空振りに終わったが、的のきを予測し、二本目と三本目での修正で完全に的のきを止めた。息のリズムもよく、初音の試し斬りには安定があった。
完璧とは言わないまでも、基礎の所作について、同年代の心苗から見れば上出來だった。しかし、及第點をしっかりと超える初音の稽古は、その三人後に稽古をしたのぞみによって、見た者の記憶から奪われることとなった。
ハイニオスに転した士(ルーラー)であり、生家で習得した剣が得意と自負する彼の稽古は、他のクラスの心苗だけでなく、観客席にいた上級生たちや教諭陣からも注目を集めていた。無論、宣言闘競(バトル)を申し出たライバルである森島蛍も、報収集を兼ねてのぞみを睨みつけている。
ただの基礎演習授業とは思えないほどのプレッシャーを與えられても、のぞみは案外、落ち著いていた。い頃から生家の神事でよく巫舞など披していたのぞみにとっては、観客の詰め寄せる環境下で何かを披することに慣れていた。
のぞみは自分の源気(グラムグラカ)で刀剣を生み出し構える。それは、刃と鍔、柄の全が一化した、65センチはあろうかという太刀であった。巧な月のモチーフが銀のを反している。
正面、左、右にある三臺のダミー的を見據え、のぞみは両手で刀を握り、八相の構えをする。
さっと両手を上げ、左側のダミー的を斬るかに見せたが、すぐさま振り向き、右側の的を逆袈裟に斬り上げた。そのまま一気に正面の的を水平に斬り、刀を左の腰あたりで翳す。そして、軽やかに床を蹴ると、最後に殘した左側の的に向け飛びだした。
次の瞬間、著地と同時に左手に集めた源(グラム)で鞘を作り、のぞみはらかな手首のきで刀を派手に回す納刀で魅せた。カチリ、と刀が鞘に収まる音が聞こえたその時、最後の的の下半分が、ドスンと地面に落ちた。
ふっと一息ついたのぞみは、源で作った銀の太刀をに戻す。軽く禮をしてステージから退くと、周りにいた心苗(コディセミット)たちが目を丸くし、沈黙していた。教室にいるときは、授業をけることすらままならなかったのぞみの剣が、予想以上のものだったのだ。
しの間を置いて、ちらほらと、弱々しい拍手の音が聞こえはじめ、それはしずつ大きくなって武道館にこだました。
藍(ラン)やメリル、ヌティオス、ティフニーたちも拍手をしている。どの顔も、のぞみをクラスメイトとして認めているような、誇りに満ちた表をしている。
修二にいたっては、拍手だけでは足りないのか、片手を口に添え、大きな聲でのぞみにエールを送った。
「神崎!見事な剣捌きだったぜ!!」
クラスの中でも績上位の者たちが拍手している様子を見て、A組だけではなく、他の組の心苗たちものぞみを見ていた。そして、敵愾心(てきがいしん)を持っている人たちは、一連の試し斬りを見て息を止めた。
ステージから降り、気が楽になったのぞみは、ハイニオスに來てから褒められることがなかったために、頬を薄く染めた。その時、指導教諭が聲をかけてきた。
「神崎さん」
「イーコロ先生?」
黙然とした青年のような見た目のイーコロは、この剣法・剣基礎演習の指導教諭であるとともに、忍び流派の総師範でもある。アトランス界出のこの先生は、針のように細くらかな銀髪をたなびかせ、華奢なに、黒地に深紫のボディスーツを著ている。元、腕、腳の裏側にはらかな金屬が覗き、背中には80センチもある刀を背負う。
イーコロの表に嬉しそうな様子は見けられなかったが、落ち著きのある口調の中に、激の火が踴っているようだった。
「見事な斬り技だ」
「いえ、まだまだ未です」
つづく
のぞみは試し斬り回でした。
次回は、のぞみと蛍の宣言闘競の話を突です。
もし作品を読んで想、評価を送れば幸いです。
引き続き進致します。
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