《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》49.臣義毅
アテンネスカレッジ、事務棟―カウスティル。
ハイニオスの教諭陣のために設けられたこの棟は、いわば職員室だ。
吹き抜けのある広い空間に、いくつものが空いている。階段があり、深さ1.6メートルの楕円の個室はシークレットがある。それでいて、半開放式になったイグルーのようだ。このスペースが、教員たちに割り當てられている。
席の間は通路になっており、教諭たちが行きっていた。
あるスペースの中から、高いいびきが響いていた。
機の上には泡の殘ったビールジョッキや、何日も片付けていないのか、吸い殻だらけの灰皿が置かれている。
椅子をベッドのように橫倒しにし、義毅(よしき)は口からよだれを垂らしていた。片手で開いたままのエロ本が元から覗いている。ハイニオス學院の指導教諭としての自覚を疑うような姿勢で、義毅は仮眠を取っていた。
たまたま彼の席の橫を通過した姚(ヨウ)は、酷すぎる寢相を見て溜め息をつく。
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二十年前、種族千年戦爭に終止符が打たれた。その戦に関わった十二人の英雄はもはや伝説と化している。そのうちの一人、羅漢王と呼ばれた英雄こそが義毅だ。かつての栄を知っている者であれば、今のこのだらしない寢姿を見て嘆き悲しむに違いない。
「トヨちゃん!」
三度の呼びかけにも、義毅はまったく起きる様子がない。
姚はそのスペースにさっと飛び降りると、深呼吸し、源気(グラムグラカ)を丹田に集める。それを一気に聲帯へと移し、
「トヨトミ先生!!!!」
と、大聲でんだ。
凄まじい音と空振をけ、義毅は席から床に転げ落ちる。
「何?何だ!?地震か!」
義毅は飛び起き、辺りの様子を確認する。
眠気が一気に吹き飛び、周囲を一回りし、スペースにいる姚の姿に気付いた。
「寢ぼけてないで!」
「何だ、姚ちゃんかよ。そんな大きな聲出して。そんな獣吼拳繰り出されちゃ普通の人間なら臓破壊されて死ぬぜ?」
「何度呼びかけても起きないんだもの。この手しかないわ」
「おっ!すげえな!サンキュ~姚ちゃん」
義毅は胡座をかき、小指で耳を掻いていたが、耳垢が取れたといって喜んだ。
姚はまた溜め息をつき、呆れた顔で義毅の耳かきを見ている。
「トヨちゃん、指導教諭なんだから、もっとしっかりしてちょうだい?」
「おいおい、いこと言うなよ。俺はダイラウヌスの任務を終えて帰ってきたばっかりなんだぜ?APポイントもがっぽり稼いできたしな!」
フェイトアンファルス連邦には通貨システムがあるものの、タヌーモンス人が自ら使うためのものではなかった。それは、ハルオーズ人たちと資源流するためだけにある。ちなみにミーラティス人たちは通貨という概念を持たない。
APポイントは、実績を積むほど稼ぐことができる。タヌーモンス人で、労働力のある人は一定のAPポイントを稼ぐことで日常生活に必要なものを支給される。より多くのポイントを稼げば、ムルスなどの鉱や金屬など、高級な資源を手にれることもできる。
また、APポイントはハルオーズ人との貿易流の金貨に換金することもでき、罰稅を納めるときにも使える。
連邦國では國を問わず、子どもの生活にかかるすべての消費は無償だが、アトランス界に生きる人々にとって、APポイントを稼ぐのは重要なことだった。
義毅はハイニオス學院の指導教諭であるとともに、現役のマージスターでもある。たびたびの機関からの要請により、出することがよくあった。
「でも、平和な今の時代にそんな危険な任務ないでしょ?戦爭終結にまで一役買った英雄なら、朝飯前の任務ばっかりじゃないの?」
「どうだろうな。あの組織の連中は千年戦爭が終結し、首脳を討ち取ったときに無力化して散らばったが、いつか再び集結すると思うぜ。だからこそ、次世代を擔う心苗たちを教えることが大事だぜ」
両手で自分のをぎゅっと抱くようにして、姚は辛そうな表を浮かべる。
「人にがある限り、悪はまたいつか、息を吹き返すのかしら……?」
深刻そうな姚を見て、義毅は突如、にやりと笑った。
「で?わざわざ大聲で俺を起こしたのは、デートのおいか?」
「神崎さんのことよ。クラスメイトからいじめをけてるって聞いたけど?」
デートの話題を無視され、義毅はつまらなさげな表になった。
「ああ、それがどうした?」
「無條件に暴力を振る心苗がいるっていうのに、どうして止めにらないの?」
「あいつらももう十代だぜ。教諭って言ったって赤ん坊のケアをする母じゃねぇんだ。俺たちが止めにったところで素直に辭めるわけねえよ。それにここは優秀なウィルターが育つ學院だろ?自分たちでけじめをつけられないようで、能のあるウィルターになると思うか?」
義毅の言葉を聞いて、姚はしばらく考えてから口を開く。
「でもあの子、元々の素質は士(ルーラー)なんでしょう?この前、社會科のアンノヴァッツィ先生に聞いたけど、授業中に倒れたのよね。明らかに実力の差がある現狀で、さらにクラスメイトからいじめられて、かわいそうだと思わないの?」
「それは心配ないと思うぜ。始業式の日にアドバイスはしておいたが、森島に宣言闘競(ディクレイションバトル)を申し出るくらい、神崎は予想以上に芯の強い子だぜ」
「トヨちゃん……。ちゃんと見てるのね」
義毅は両手を頭の後ろで組み、姚と目を合わせる。
「姚ちゃん、俺はこの學院のシステムを信じてるぜ。年齢も境遇も違う心苗たちが集まり、刺激をけたり引っ張り合ったりしながらウィルターへと長していく。俺たちだって、そうやってきただろ?」
「ふふ。一理あるけど、トヨちゃんがまともなこと言うなんて、ガラに合わないわね」
義毅はショックをけたようにしくしくと噓泣きを始める。
「ひ、ひどい!姚ちゃんにいじめられた!」
「ちょっと!冗談よ!」
義毅はハハッと笑い、姚はやれやれという顔をしている。
姚が機の上に目線を移すと、ビールジョッキと灰皿の脇に畫面が投影されていた。そこにはのぞみと蛍(ほたる)の闘競を行う場所の報や図面、そして、2年A組が実技項目授業をけている映像がリアルタイムで流れている。
つづく
書籍・漫畫化/妹に婚約者を取られてこのたび醜悪公と押しつけられ婚する運びとなりました~楽しそうなので張り切っていましたが噂が大げさだっただけで全然苦境になりませんし、旦那様も真実の姿を取り戻してしまい
【書籍化・コミカライズ企畫進行中】 「私は父に疎まれておりました。妹に婚約者を取られても父は助けてくれないばかりか、『醜悪公』と呼ばれている評判最悪の男のところへ嫁ぐよう命じてきたのです。ああ、なんて――楽しそうなんでしょう!」 幼いころから虐げられすぎたルクレツィアは、これも愛ゆえの試練だと見當外れのポジティブ思考を発揮して、言われるまま醜悪公のもとへ旅立った。 しかし出迎えてくれた男は面白おかしく噂されているような人物とは全く違っており、様子がおかしい。 ――あら? この方、どこもお悪くないのでは? 楽しい試練が待っていると思っていたのに全然その兆しはなく、『醜悪公』も真の姿を取り戻し、幸せそのもの。 一方で、ルクレツィアを失った実家と元婚約者は、いなくなってから彼女がいかに重要な役割を果たしていたのかに気づくが、時すでに遅く、王國ごと破滅に向かっていくのだった。
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