《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》54.闘競を始まる10分間前 ②
普通の挑戦闘競(チャレンジバトル)で解決できる問題で宣言闘競までやったこと自が、あまりに大げさだと綾は思っていた。蛍たちが同じ地球(アース)界から來た下位の者の努力を踏みにじるような行為をするのは目に余ったが、勝ち目のないバトルを申し出たのぞみの愚かさもじていた。だから綾は、どちらにもポイントを賭けたくなかった。
「アホくさ。わざわざジャッジなんかせんでも、不適切な心苗はいつか消えるやろ」
制服を著ている綾は手を組んで言った。
「なるほどね。僕から見ると、神崎さんには勵ましが必要だと思うけど」
「煙に巻きたがるライにしては珍しいやん」
「投資だからね。彼には潛在的な能力が宿っていると思う。未來の長のために、今必要なのは応援だよ」
「そこまで言うんやったら直接ポイント贈ったらええやんか」
痛いところを突かれたというように、ライは遠くを眺めて言った。
「そうしたいが、生憎、僕の気持ちを伝えられるほどのEPポイントがなくてね」
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「投資なぁ……」
未來のことのように、不測のある話が綾は苦手だった。彼は今を直観的にじるだけだ。だから単純に、のぞみがどこまで爭えるのかしか考えない。
綾のようにこのゲームをパスする者も、もちろんいた。
ティフニーは、人間のギャンブルというものにまったく興味がなかった。だから、誰の闘競であってもポイントを賭けることは斷じてない。
と、その時、のぞみにれたポイントが一気に5,300も増えた。れたのは、モクトツ・コミルとジェニファー・ツィキー。
フォランが大聲でんだ。
「おい!コミルが3,000れたぞ!」
どこかから子心苗の聲が上がる。
「凄い……。あんなポイント、普通の心苗がどうやって稼ぐのかしら?」
「ヌティオスは別として、何でモクトツさんがカンザキさんをあんなに高評価してるんだろ?」
「モクトツ君のことだから、普通の人にはわからない何かに気付いたってこと……?」
A組の視線がコミルに集まる。席に著いている彼は足を高く組み、涼しい顔で笑っている。純粋にこの試合が楽しみだという側面もあるらしい。
コミルとジェニファーのポイントの高さに観客席が揺していると、のぞみのポイントがさらに40,000増えた。桁違いなポイントに、さすがのクラークも口が開いたままになっている。
「な、何が起こってんだ?このふざけたポイント……」
それを見てメリルが言う。
「こんなEPポイントを賭ける余裕があるのは先生くらいだヨン?」
メリルの推測どおり、記銘者の寫真映像に義毅(よしき)が映った。
「やっぱりそうだヨン!」
盛りあがるポイントの攻防に、マーヤが顔を曇らせる。
「クリア……、これ、ヤバいんじゃないか?」
クリアは実に不愉快げな表をしている。
心苗たちがなけなしのポイントでギャンブルを楽しんでいたところに、義毅が桁違いのポイントを投してしまったせいで、ゲーム自が白けてしまう。蛍に応援している心苗も多かったが、義毅の寫真映像を見て表に翳りが差す者もいた。
「トヨトヨ猿め。あいつ、一どういうつもりなのよ!」
各國の主要人やMVPなどのための來賓席も設けられ、ちらほらと姿を見せている。ポールやタロドス、アーサ、姚(よう)など教諭陣も多く、その中に、フミンモントル時代、のぞみの擔任教諭を務めていたヘルミナの姿もあった。彼の目印でもある、頭の両側に生えた白い羽と金髪を見つけると、義毅は飛びついた。
「オッス!ヘルミナちゃん!」
反対を向いていたヘルミナが、くるりと振り向く。
「あら、トヨトミ先生。席はもう取りましたか?」
「まだだぜ」
「ではご一緒にいかがでしょう?ここに空席がありますわ」
ヘルミナが自分の隣の席を示すと、義毅は頭を掻きながらそちらへ向かって歩き出した。
「アハハ、にわれるなんて、栄だぜ」
「とんでもないですわ。こちらこそ、英雄トヨトミとご一緒できるなんて栄です」
輝くほどのから褒められ、義毅は照れくさそうにヘルミナの隣に腰かける。
「ヘルミナちゃん、わざわざ神崎の闘競(バトル)を見に來てくれたのか?この時間、まだ授業だろ?」
「ええ、なので、クラスメイトたちを連れて見學に參りました。恒例闘競なども慣れてほしいですからね。それにみんな、のぞみちゃんの転學は寂しくじています」
「そうか、されてるんだな」
「そうですね、素直で優しい子ですから。転校からまだ一週間ほどだというのに、いじめっ子に宣言闘競(ディクレイションバトル)を申し出たと聞いて心配だったんです。対人の戦闘は苦手なはずなのに……」
言いながら、ヘルミナはしずつ心が苦しくなるのをじる。
「更室でのぞみちゃんを庇った子が暴力に遭ったというのも聞いて、きっとあの子は、自分のせいで周りの人が傷つくのが辛くて……」
「ヘルミナちゃん、まるで見てたみたいだな」
の顔は今や、哀愁のに染まっている。
「大事な心苗(コディセミット)ですから。私と契約している白いフクロウに、のぞみちゃんのことを見守るよう、指示を與えていたんです。ですから、この一週間のうちに神崎さんが経験したことは全て知っています。今日のバトルを経て、気の優しい彼が、し勇気を持てるようになれば幸いですね」
義毅はステージの方を向いて、爽やかに返した。
「神崎はただ優しいだけじゃなくて、芯の強さがあると思うぜ。教え子が選んだ道を信じるのは、教諭である俺たちの役割だろ?」
「トヨトミ先生、それで、あんなにポイントを……」
「バランスを取っただけだぜ。ほら!始まるぜ!」
両耳の後ろに小さな羽を生やした碧い髪のが、ステージの中央へとやってきた。セクシーなスーツを著ているそのは、このバトルの審判である。審判の登場に、観客席に集まった人々が沸きあがった。
つづく
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