《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫55.闘競が始まる10分間前 ③

審判のは、水著のようにボディラインのピッタリとした、黒白のスーツを著ている。が中央に浮かぶ臺に飛び乗ると、臺はそのまま10メートルほど宙に上がった。首についている雫型のダイヤのようなものにれる。彼が手を挙げて聲を出すと、その明るい聲は、闘技場に響き渡った。

「みなさ~ん!ヘムストロンにようこそ!わたくしは、この宣言闘競(ディクレイションバトル)の審判を務めます、ロードカルナー學院の第六カレッジ三年、ルンドストクラスに所屬する、レイニ・ホッボン・クリテームと申します!新學期初めの闘競にこんなにたくさんの方が観戦に來てくれて、わたくしもが熱くなってきていますよ!!」

恒例闘競(バトル)で10連勝しているとか、勝率が70%を超えるような心苗(コディセミット)たちの闘競や、公表された闘競には審判がいる。教諭が務めることもあるが、レイニように、三、四年生の心苗たちが仕事として依頼されることの方が多い。

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審判の仕事には、試合狀況を生実況するだけでなく、試合中のファイターが狂暴化したり、わざと相手を殺したりというような行為を止めることも含まれている。それなりの実力者でなければ務まらない仕事だ。

「それでは、本日のステージを生しましょう!!」

レイニは自分のお腹の前に、バレーボールほどの機元(ピュラト)を浮かべた。ここにはすでに設定されたステージが投影されている。彼が機元を作すると、會場に地鳴りが響いた。

三分と経たないうちに、空き地でしかなかった空間にステージが組み立てられた。砂地と水の面積比が4:6。淵の最も深い部分はおよそ4メートルの水深となっている。數十本の柱が聳え立ち、倒れた跡のように、いくつかの柱は傾斜した石板の床を支えていた。

バトルの出場者にとっては、作戦の応用が高いステージといえる。円形ステージの境界線に、セーフティー機能のある結界のが走った。

「本日のステージテーマは海です!それではスタート前に、今回のバトルを申し出た両者の経緯をご紹介します。バトルの対戦者であるモリジマ・ホタルさん、カンザキ・ノゾミさんは、両者ともハイニオス學院、アテンネスカレッジ、2年A組の所屬」

紹介されると、それぞれの応援団がさらに盛りあがりを見せた。レイニは二人が宣言闘競に至ったいきさつを続けて説明する。

「新學期が始まって間もなく、カンザキさんがモリジマさんの挑戦闘競(チャレンジバトル)に誤って介してしまい、モリジマさんは敗北しました。しかしその理由はカンザキさんにあるとして負けを認めておりません。怒りと恨みを買ったカンザキさんは、けじめをつけるために、モリジマさんに宣言闘競を申し出ました」

のぞみと蛍(ほたる)の個人報が宙に投影されている。

「モリジマさんの戦績は一學年の終わりまでで、20勝13敗6引き分け、計39場です。かつて地球(アース)界でヤングエージェントを務め、ハイニオス學院では神薙(かんなぎ)流門派に所屬。バトルフィールドを駆け回り、常に上位の績を修めている彼に、大きな期待がかけられています」

レイニの紹介に合わせ、公式に記録された蛍のバトル映像が放映される。その中には、真人との闘競や、のぞみが介した問題のカイムオスとの挑戦闘競の様子が含まれていた。蛍を応援しにきた心苗の中から歓聲が上がる。

「一方、本日の宣言闘競を申し出たカンザキさんは、地球界の名家の出。直系巫であり、フミンモントル學院時代には、教諭陣から高い評価を得ていました。ハイニオス學院に転校したばかりの彼には、なんと公式に記録のある闘競実績がありません!これから始まるバトルで、どんな作戦を繰り出してくれるのか、楽しみですね!」

のぞみの紹介を聞き、フミンモントルから來た大勢の心苗たちが黒波のようにく。圧倒的に多勢となる彼らの聲援が、蛍を応援する聲を抑えた。

「では、これにてEPポイントの付を終了します」

EPポイントによる賭けが締め切りになり、ボードにそれぞれの狀況が投影された。

森島 蛍 :神崎のぞみ

EPポイント 125927:119427

応援人數 5791:13710

「モリジマさんに、より多くのEPポイントが賭けられている一方で、応援人數ではカンザキさんが勝っています。予測不能のカンザキさんの実力に期待している方も多いということでしょうか?!」

EPポイントの數値が公表されると、観客席はさらに盛りあがった。場のボルテージが順調に上がったところで、レイニがすっと息を吸った。

「それでは、両者、場!」

闘技場の正面から見て、三時と九時の方向からそれぞれ、のぞみと蛍が現れた。二人はステージの地下からエレベーターのようなものに乗って地上へと姿を見せる。のぞみはハイニオスの制服を、蛍は忍びのスーツを著用していた。

歓聲と野次の混ざった聲が、沸騰した水のように沸きあがり、場のボルテージは頂點へと登りつめていく。

「両者、スタートポジションにお著きください!」

二人は出場臺からステージにジャンプした。結界のれた瞬間、宙に浮いた明ボードに、二人のライフゲージを示すグラフと、時間制限のタイマーが映される。二人とも、今は0の數字が表記されている。

二人は、重さが全くなく、明ののようににつけることのできるセンサーをまとっていた。それによって、勝敗の判定だけでなく、管理部システムによって戦闘中の二人の報が、このようにボードに示される。

のぞみが手の甲を見ると、そこには殘り時間である15:00という數字と、自分と蛍のライフゲージがっていた。

先にスタートポジションに著いた蛍は、のぞみを応援に來た人々の気勢が圧倒的に強いのを見ても、を張って涼しい顔を浮かべた。一秒遅く、のぞみもポジションに著く。

「神崎のぞみ!セントフェラストのあちこちで作した噂をばら撒くなんて、卑怯な手を打ったものね!どんなに大勢の応援団を呼んだところで、雑魚のあんたは私には勝てないわ!」

のぞみは蛍と同じ高さの柱の上に立った。そして、蛍の言葉にしっかりと向き合う。

「あの日、著替え室であなたたちが藍(ラン)さんに暴力を加えたことは事実です!でも、それをあちこちに流布したのは私ではありません!」

自分のやったことは棚に上げたい蛍は、悪のような微笑みを浮かべた。右手を腰に當て、余裕の表ぶ。

「ふん、事実なんてどうでもいいわ!ここでは勝った者が真実なのよ!戦う前に言うことなんて無意味だわ」

のぞみは眉を寄せ、真剣な表で蛍に進言する。

「森島さん、言ったはずです。今のままのあなたでは、私には勝てません。元ヤングエージェントでありながら、志を歪ませたあなたに、負けるわけにはいきません!」

「夢を見るのは自由だけど、あんたの大事なお友だちの目の前で、二度と立ち上がれないように叩き潰してやるわ!」

つづく

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