《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫62.攻守代のはざま

のぞみの行が理解できず、蛍(ほたる)は笑った。

「悪あがき?さっさと負けを認めなさいよ!」

観覧席のマーヤも、困気味にクリアに話しかける。

「自ら海に飛びこむなんて、どういうつもりなんだろう?」

不安げなマーヤとは違い、クリアはのぞみのミスを指摘する。

「次の手がないだけでしょ?あんな無様な行して、戦闘センスなさすぎよ!ブースタータイプが相手ならもっとハイペースで攻めて力を消耗させなきゃ。あれじゃ、クールダウンしてくださいって言ってるようなもんじゃない」

次々と予想外の戦い方をするところを見て、ルルは気付いたことがあった。

「ううん、相手を舐めてるのはMs.モリジマの方だよ。Ms.カンザキはさっきからあれだけたくさんの弾を投げてるのに、淺瀬ですら水柱があがらなかった。さすがにあなたたちでも、その違和に気付かなかったわけじゃないよね?」

「それはあの弾が弱すぎるからでしょ?」

クリアもまた、のぞみのことを舐めてかかっていた。

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が釣れそうな、良い釣り場を見つけたとでもいうように、コミルは笑みを溢れさせ、ぼそりと呟く。

「そろそろ、真骨頂を見せるかね?カンザキ家のひな鳥」

フミンモントル陣営の席では、楊(ヨウ)が激したように聲をあげた。

「神崎さん、あの技を使うつもりか!」

ガリスも頷く。

「相手はまだ気付いていないようですね。殘り時間は10分を切っています。あの技を繰り出すタイミングとしてはし遅い気がするけど、何か特別な意味でもあるのかな?」

「さあな。俺だったら、闘士(ウォーリア)相手に本気で勝つ気なら、相手に技を出す暇も休む時間も與えないが。神崎さんはどうやってこの劣勢から、あのと対話する立場になるつもりなんだろうな?」

のぞみが水中に潛って90秒が経つ。

『水遊』は、環境に適応するためににつけるスキルの一つで、呼吸系の機能を強化し、水圧への耐をつける。源気(グラムグラカ)がより高くなれば、深さだけでなく、潛っている時間も延ばすことができる。

ステージ海域の最深部まで潛ると、蛍の投げる源(グラム)圧手裏剣は無効化され、謎の金屬で作られた実を持つ手裏剣も、スピード・威力ともに軽減された。

のぞみは両手にの玉を創っていた。10センチほどのその金の手毬は、表面に細い紋様をあしらっている。

水中に浮かぶ金の手毬を見ていると、のぞみはフミンモントルで一年の三學期にけた授業を思い出した。

実技訓練の教室は、大きな巖盤を基礎にした広い空間で、芝生が敷かれ、苔、滝、淵などの自然でデザインされた、ゆったりとした場所だった。その空間の中で、心苗(コディセミット)たちは自分の好きな場所を探し、課題に取りかかっていた。

課題はの回りのものを何か一つ、創ること。この世にまだないもので、一つの特を持ったもの、という條件がついていた。

一人のは水晶ガラスで薔薇を創り、一人の男の子は五つの首を持つドラゴンを創った。そのドラゴンのウロコは金屬でできており、を反する。屬を持つ刀剣アイテムを創った者もいれば、1/2000スケールの姫路城を黃金で創る者もおり、空気を吸うと明化する不思議な生きものを創る者までいた。

クラスメイトたちが奇想天外なものを次々と創りあげるなか、正しい答えのない課題を前に、のぞみは戸っていた。的なアイデアが浮かばず、心ばかり焦る。

気持ちが定まらず慌てているのぞみに、金髪のが聲をかけた。

「なかなか思いつきませんか?」

は、頭の両側に生やした白い羽をパタパタとかしている。

「ヘルミナ先生、本當に何を創ってもいいのでしょうか……?」

「ええ、何でも良いのよ。地球(アース)界のものでも構いません。のぞみちゃんにとって馴染みのある、好きなものを創ってみてくださいね」

「私にとって、馴染みがあるですか……」

ふっと、のぞみは生家での記憶を探りはじめた。

神の予言により『災厄の子』と呼ばれたのぞみは、奉仕をしている巫たちからも敬遠されており、祖母にいたっては、一度も彼を抱こうとしなかった。

ある日の記憶が蘇る。

(あい)が糸と針を手に、何かをっていた。のぞみは母の手元を覗きこむ。

「お母さん、何を作っているの?」

「てまりよ」

「おまつりのために作るの?」

「いいえ、飾りとしても使えるけど、こうして、ほら。トン、トンって、遊べるでしょう?」

はほかにいくつもの手毬を作っていて、それぞれ一本の糸で吊られていた。

「きれい~」

った手毬を手でつき、何度もバウンドさせる。手毬を止めてそっと手に持つと、天はのぞみに渡した。

「お母さんはのぞみちゃんのことが大好きだから、これをあげるわね」

「わぁ!ありがとうお母さん、大切にするね!」

おしむように笑みを浮かべ、のぞみの頭をでた。

両親ともに仕事で出かけてしまった時など、一人の時間がとても寂しくじられたのぞみにとって、天が一本一本、綺麗にいあげた手毬は、孤獨を忘れさせてくれる寶となった。

両手の間に出した源気を金糸のようにして、思い出の手毬を再現しようと、のぞみは躍起になっていた。5分間かけて、ようやく一つ、源気を使った手毬を、のぞみは創りあげた。

近くでほかの心苗たちの指導をしていたヘルミナがまた、のぞみのところへやってきた。

「素敵な手毬を創りましたね。これはのぞみちゃんの出地の工蕓品でしょう?」

「先生、よくご存じですね」

「ええ。地球界のことを調べましたから。次は同じものをもう一つ創って、何か特をつけてみましょうか?」

「はい。やってみます」

それ以來、のぞみは何度も訓練し、金と銀の刀のように、金の手毬をわずかな時間で創り出すことができるようになっていた。今ではその手毬に、雪の結晶のように緻な紋様を刻むこともできる。

のぞみの周りにはもちろん、海底のあちこちに多數の手毬が、金の大きな真珠のようにっている。それらはすべて、のぞみが撃ち出し、そして外した弾だった。

あちこちに沈む手毬を見て、のぞみは何かを確認すると、意を決したように上を見た。

(よし、準備は整った。……これで一気に、攻める)

蛍の源気から居場所をじ取ると、今度はあちこちの手毬を見て、意識を集中させる。手毬はスイッチがったように、猛スピードで水面から打ち上がった。

海底から一直線に飛び出す手毬の群れは、柱や石板の床を撃ち抜いた。思いがけない攻撃に、け止めた蛍も衝撃をけた。

「水面下からの狙撃?!」

時速130キロメートルで飛んできた手毬は、金槌に打たれたような痛みを伴った。かすり傷と思っていても、で火傷になるほどの高溫が出る。十もの金の手毬は、蛍に唸り聲をあげさせるほど、被弾のダメージを與えていた。

「くっ、やられた……?」

ダメージポイントは8920までびている。

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