《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫67.森島 蛍 ①

――10年前 地球(アース)界ヒイズル州吉備岡山郡

夕暮れの団地。その近くにある展臺の公園で、子どもたちは遊んでいた。そのうちの一人が振り向いて、指を差す。

「蛍(ほたる)がまたあんなところに!」

分子構造のように組み立てられたジャングルジムの中を、一人の子どもが素早く登っていった。大膽な所作ですぐにてっぺんへ辿り著くと、両手で棒を摑み、地獄回りをする。そして、まるで自分がジャングルジムの主だとでもいうように、どっかりと最上辺に座りこんだ。

「みんな見てよ!」

はTシャツに短パン、ボブよりも短く切りこんだ髪は右側にまとめ、小さく垂らしている。よく見なければの子に見えないその子は、このあたりではし目立つ子どもだった。

「蛍ちゃん、すごーい!」

「こんなこともできるんだから!」

蛍は背中を反らし、枝に吊られるコウモリさながらのアクロバットを見せる。難易度の高い技は繰り出すたびに加速し、しずつ低い場所へと降りていくと、選手のようなしなやかなきを保ったまま、地上3メートルの高さから一気に飛び降りた。地面に著地すると、両手を上げ、しいフォームで披を終える。

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「蛍ちゃん、忍者みたい!かっこいい!」

蛍は、周辺の子どもたちからの羨の眼差しと拍手喝采を浴び、楽しげな表を浮かべる。活発な彼の運能力は、七歳のの子はもちろん、近所に住む二つ上の男の子たちであっても真似ができないほどのものだった。そのため、彼は周りのの子たちから一目置かれ、頼りにされていた。

鬼ごっこをするときでも、時計をメンテナンスするために作った時計塔の管理部屋のように、ほかの人が登れない場所に隠れたし、石の水切りは誰もできない20回を突破した。遊びを通じて、蛍が同年代の誰よりも遙かに優れた能力に恵まれているということが明らかにわかった。

ある日、皆で山のふもとの公園で遊んでいると、イノシシが現れた。大きく、兇暴なイノシシを前に、男の子たちも怯えながら逃げた。だが、蛍と同い年の一人のが躓き、転んでしまった。

遊び仲間を守るため、蛍は足を止め、を庇うように両手を広げた。そして、近くに落ちていた石を投げる。石はイノシシの頭に當たり、そのままイノシシはかなくなった。

この事件は地方ニュースとなり、そしてそれからというもの、弱冠七歳にして、森島蛍は地域のガキ大將に認定された。

その後、小學校の健康診斷をけた蛍が、源(グラム)使いであることが判明した。報告書をけ、ローデントロプス機関のエージェントをえた話し合いが、擔任教諭と両親との間で行われた。

先の大戦により、人類の文明は一度、壊滅狀態になった。その後、アトランス界よりもたらされた源や錬工學の技が取りれられて以來、地球界にも源使いが次々と生まれた。とくに、フォーチュンベイビーブームと呼ばれた80、90年代には源気(グラムグラカ)使いが激増し、100人に一人は源使いが生まれる時代となっていた。蛍も、両親はごく普通の人間だ。

源使いの増加に合わせ、地球連邦政府をはじめ、各州でさまざまな政策が実行された。源使いは社會文明発展のため重要な人材であるとし、各州で10代の若い源気使いを対象とした、集中教室施設が設立されたのもその頃だ。それらの施設は聖學園(セントフェラストアカデミー)の教育方針を參考に、地球界でウィルターを育てるための學校として樹立した。このような學校が、最も多いときにはヒイズル州だけで16校もあった。

源使いたちは、アトランス界から導された新鋭の技を用い、地球界の社會を拓いていく先導的な人材であると考えられていた。そのため當時は、源使いの子どもが生まれれば、將來の出世の悩みは無用だと思われていた。

もちろん、源使いの才能に恵まれた子どもをどうれるかは親次第だった。子どもに辛く當たり、保護施設に送られる子どももいたが、蛍は運が良かった。

大切な一人娘の蛍が源使いであるということを、両親は喜んでれた。その背景には、ヒイズル州の法案により、源使いの子どもへの投資として毎月、いくらかの手當て金が下りたこともある。蛍の父は役所に勤めていたが、これまで以上に余裕のある暮らしができるというのは喜ばしかった。

両親は蛍に、大坂郡にある名門校・伊丹(いたみ)學園への進學をんでいた。

一方、源使いだと判明してからというもの、蛍は學校の先生や親から、同年代の子たちとの遊びを控えるように言われた。能力の差は、間違えば周囲の子どもたちを危険な目に遭わせるリスクを伴う。たとえ遊んでいても、蛍は以前のように大膽な遊び方はできなくなった。

ガキ大將として名を馳せていた蛍にとって、その日々は窮屈なものであったが、しばらくは我慢していた。

周囲の子どもたちも長期とはいえ、能力の差は開くばかり。男の子たちには「じゃじゃ馬」「姐兄(あねにご)」「忍々星人」などと揶揄されるようになり、一緒に遊んでいた子たちも徐々に離れていった。

い頃からガキ大將だった蛍は、その分メンタルも逞しく育っていたため、そうして周りにいた子たちが離れていっても、平気だった。一人っ子の蛍は、一人遊びもそれなりに得意だったのだ。この頃はまだ、我慢ができた。

學校での績はそこそこ良く、育が抜群にでき、強く、格的にも明るかった蛍は、よく風紀委員を任せられた。中學生の不良ですら蛍は相手にしたくないと思っていたほどだ。クラスメイトが上の學年からいじめられるのを拒むなど、相変わらず蛍は頼りにされていた。そんな扱いをけていた蛍にとって、小學校は決して退屈ではなかった。一喜一憂はあったが、それらは見過ごせる程度のものだった。

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