《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》74.シェアハウス28番 ①
夜になり、シャビンアスタルト寮から見える夜空にはすでに二の月が昇っている。満天の星々がり、破れた水晶玉のようなルーンクツの郭は月のを反していた。
第28ハウスの転送臺の紋様にもが走る。一瞬、白晝のように明るくなったかと思うとは消え、中央ホールから転送されたのぞみが現れた。のぞみは電燈のついたハウスをじっと見る。
蛍(ほたる)と撃ちあった時の疲労はまだわずかに殘っていた。しばらくは超人的なきをすることもできないのぞみは、ゲートを抜けると前庭を通り、玄関扉の前まで歩く。センサー裝置に向かい、量の源気(グラムグラカ)を流すと、鍵が開いた。
「ただいま」
そこには、ミナリが立っていて、白い貓耳をかしている。
「のぞみちゃん!おかえりニャー!本日の闘競(バトル)、お疲れ様ニャー」
「ごめんね。せっかくミナリちゃんが応援に來てくれたのに、負けちゃった」
ミナリは首を橫に振る。
「ううん、ドンマイニャー。のぞみちゃんはよく頑張ったじゃにゃい?」
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「みんなは帰ってきた?」
「はいニャー、ヨウさんとガリスさんはお風呂にってて、イリアスちゃんはお部屋にいるニャ。みんな、夕食を待ってるところだニャー」
「そっか。早く夕食の用意するね」
のぞみが玄関から上がり、中にると、その後ろをミナリが付いてくる。
「ん?でも今晩の準備はミュラさんが代わってくれるらしいニャー」
「なら、し手伝ってくるね」
義毅(よしき)から伝言は聞いていたが、自分の都合で夕食當番を代わってもらうのは辛かった。
小走りでキッチンへとっていくのぞみの背中を振り向き、ミナリは心配そうな表になる。
「のぞみちゃん……」
キッチンでは、執事服を著たロロタスがオーブンから金に焼き上がったパイを取り出しているところだった。ミュラは白地にミントグリーンの服を著て、錬金士の帽子を被り、鍋の中のポタージュに味付けをしている。
石の臺にムルスで錬したフルン石が、オレンジのとろ火にしていても高溫を発しており、その上に置かれた鍋の中には、どろどろとした白いスープが沸いている。辺りにはバターがとろけたような甘く香ばしい香りが漂っていた。
のぞみが玄関扉を開けた音を聞いていたミュラは、のぞみがキッチンに踏みるのを気配でじ取っていた。すぐさま振り向き、聲をかける。
「おかえりなさい。あとしで夕ご飯ができるところですよ」
完間近の夕食を見て、のぞみはしょんぼりと頭を下げる。
「ミュラさん、申し訳ないです。今日の夕食は私が當番だったのに」
曇り顔ののぞみを見て、ミュラは優しく笑った。
「いいのよ。今日は宣言闘競(ディクレイションバトル)だったんだから、疲れたでしょう?」
「でも、ミュラさんも生徒會の仕事で忙しいはずなのに」
「ちょうど私の班は、午後のパトロールがお休みだったのよ。ホックムントの拠點で庶務係の手伝いをししただけ。こんな時は、ハウスメイトに頼ってもいいのよ?」
12のカレッジが権利を分散した番隊制を取るハイニオスとは違い、フミンモントル學院の生徒會は一つしかない。やる気のある者、有能な人材を學院全から選抜し、生徒會の中で部を分ける方式だ。たとえば巡査部では、120の班から編され、一班につき15~20人でパトロールを行う。
パトロールは朝、午後、夜、深夜、未明の五つの時間帯に分かれ、それぞれ10の班が、カレッジを問わずキャンパス全をランダムに回る。
巡査隊にはそれぞれのクラスの評価が上位10位までの者が選抜され、その者たちの中で、各カレッジの拠點長や班長が決められる。のぞみは戦闘能力を持つ士(ルーラー)であったため、もしも彼が今もフミンモントルに在籍していれば、今頃はおそらく班長か、それ以上の役職を務めていただろう。
パトロール隊は巡査していない時でも生徒會の別の仕事を任せられることもあり、それに加えて普通の授業もある。のぞみはミュラの多忙さを知っていた。
「しでもいいですから、一緒にやらせてください」
深刻な表ののぞみを見て、ミュラは微笑む。スープを小皿に取ると、のぞみに渡した。
「ふふ、なら、スープの味見をお願いできるかしら?」
皿を傾け、スープを飲むと、のぞみは目を伏せてし考える。
「う~ん。材を煮だしたまろやかな甘さがありますね。し香辛料をれて香りを増すと、もっと食をそそるかもしれません」
「みんなをもっと満足されられると良いわね。おすすめの組み合わせはあるかしら?」
のぞみは匙を持ち、鍋にれた材を見ると、し思案顔になった。そして、壁の棚に並ぶ60種類の香辛料ボタンの中から8種類を選び、それぞれの量をセットする。最後に決定ボタンを押すと、混ぜられた香辛料がけ皿に落ちた。
これはタヌーモンス人の家庭にはかならずある、調味料合機である。オリジナルとなるをスキャンすれば、それとまったく同じ分子合をした香辛料を複數生することができる。この機械は料理用のものだが、錬士の持っているものは、用途を限定せず、さまざまな素材を合することができた。
合された香辛料をスープにれて混ぜていると、ミュラが味見をした。香りの増したスープは、まるでしいシンフォニーを聴いているようで、ミュラは笑みをこぼす。
「なるほど、よく効いてますね。空腹に香りがガツンと來ます」
小皿では足りず、ミュラはスプーンに取ったスープをさらに一口飲む。
「ほかに、まだできていない料理はありますか?」
「後はパンが焼き上がるのを待つだけ、ほかはほとんど完していますよ。のぞみちゃんはそのパイをテーブルに持っていって、しお休みしてちょうだい。殘りは私に任せてね」
のぞみはキッチンを見渡したが、たしかにほかの料理はほとんど完しているようだ。手伝うほどのことがないと納得し、頷く。
「わかりました」
のぞみは大皿に載せたパイを持って、キッチンから出た。
食類のセットされた食卓にパイを置くと、のぞみはリビングにった。ソファーに腰かけ息を吐くと、リラックスした姿勢になる。やっとし、気持ちがくつろいだ。
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