《【書籍化】傲慢王でしたが心をれ替えたのでもう悪い事はしません、たぶん》5 侍の回想 (※侍視點)

私の名前はシエナと申します。

どこから間違えてしまったのでしょうか。

ただ、病気の弟を助けたかっただけなのに。

生まれつきの弱い弟は高額な治療を必要としていましたが、あまり裕福でない我が家ではそれを支払う事が出來ませんでした。そんなある日、遠縁にあたるモンドリア子爵がその支払いを肩代わりして下さいました。そして子爵は私に治療費を返済するために城で働くようにおっしゃり、紹介狀を書いてくださいました。私は家族の心配を押しきり、喜んで働きに行くことにしました。

しかし私は知らなかったのです、子爵がんでいた『返済』はお金などでは無かったことを。

最初は一枚のハンカチでした。掃除係だった私にリューク様の持ちを持ってくるように命令したのです。

盜みだなんて、ましてや主人のを盜むだなんてとても許されないことです。ですが病気の弟を面倒をみてくれている子爵様からの頼みでは斷りようがありませんでした。

それをどのように使われたのか、子爵の娘であるフローチェ様がリューク様のハンカチを持っていたという噂がご令嬢やメイド同士の間でまことしやかに囁かれることになりました。

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その後もリューク様のお好みを調べて報告したり、外出先を逐一報告させられたりしました。フローチェ様はたびたびリューク様の外出先に不自然ではない程度に『偶然』居合わせることが増えました。彼はこの近辺では數ない年頃の貴族令嬢です。お二人がかに逢引きをしていたという噂はメイド達の間では有名な話となりました。

その後先代の辺境伯夫妻がお亡くなりになり、急な當主代、周辺國との対立。リューク様は多忙を極め、とても政の隅々までは手が回らなくなっているようでした。それまでモンドリア子爵は何度もフローチェ様を婚約者として勧めてまいりました。毎回にべもなくお斷りしていたリューク様ですが、その日は初めて今は返答できないとだけお返事をされていました。

子爵はにんまりと笑っていました。

ところが事態は急変しました。なんと王家から姫君を降嫁させようという話が持ち上がったのです。子爵は長年の夢がようやく目的が葉うという直前でおあずけをくらいました。

私の方はというと順調に出世をしていて、なんと新しくいらっしゃる王様のお世話係に任命されました。それもまた子爵の手がまわっていたのでしょうか?私には確かめるすべもありません。だけど私にとってそれは不幸な出世でした。

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私はさも王様に同したフリでリューク様には長年想いあっている人がいるのだと耳打ちしました。その噓は、リューク様の淡白な態度も相まって相當真実味があったと思います。それに王様は大変お綺麗な方ですから、今まであんなに他人行儀に扱われた事はないのではないでしょうか。

様は表面的には平然としていましたが、骨にリューク様を避けるようになりました。城中の者はリューク様に絶対の忠誠を誓っているので、その姿はとてつもない反を買いました。

やる気を失った王様を裏で噓と悪口で塗り固め、悪者に仕立て上げるのは本當に簡単でした。

私は自分がとても汚くて卑しい人間になったように思えて、とても安眠出來なくなりました。

ところが王様はなかなか王都に帰るとは言わないし、リューク様も婚約破棄を言いだしません。

子爵は大変苛立って、弟への治療の援助を打ち切ると言いだしました。私はわざと自分で腕の服で隠れる場所に熱湯をかけ、王様に待をされているとかに侍長に訴えました。

ついにリューク様も黙っていられなくなったのか、王様を婚約破棄する事にしました。

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私は心大喜びでした。火傷の跡は一生殘るかもしれませんが弟の命には代えられません。これでようやく終わるのだと安堵した時、とんでもない事が起こりました。

「じ……慈悲深いリューク・バルテリンク様! どうか今一度だけ、愚かな私めにチャンスを下さいませ!!」

、何が起こったというのでしょうか???

は絶対に自分から謝罪するような人ではありませんでした。間違いなく喜んで王都に帰っていくと思っていたのに、意味が分かりません。しかも、想定外すぎる王様の行はこれで終わりではありませんでした。

「ユスティネ様は、思ったほど悪い方では無いのかもしれないわ」

同じ侍という仕事をしているアンがそんな事を言いだしました。貴方までどうしてしまったの? いつも通り王様の悪口を一緒に言いふらして、孤立させるのが貴方の役割なのに。それだけでなく他のメイド達といつものように王様の悪行を造しようとしたのに、なんだか上手く乗ってきません。

(何かがおかしい)

様はまるで別人のようにメイド達を味方につけてしまいました。それでも數日のうちに追い出されるに違いないと期待していたのに、今度はリューク様が部屋に訪れるようにまでなってしまいました。その時の私の恐怖を、どう言い表したらいいのでしょうか。

しかしそれは私の勘違いでした。リューク様はいよいよユスティネ王を追い出すためにかに再調査を始めていたのです。私の番が來た時、念りに詳しく、ほんのしだけ新たに腳を加えたものを調査者に伝えました。他の子だってまさか噓をついて王を陥れていましたなんていうはずがありませんから、れる心配もありません。皆、共犯なのです。

(きっとこれで、王もお終いです)

これでようやく安心できます。睡眠不足の毎日ともおさらばです。いつまで王が居るのだと子爵に毆られる事も、治療中の弟を追い出してやると脅される事もなくなるのです。嬉しいです。嬉しいはずなんです。なのに不眠癥はもっとひどくなり働くのもやっとなほどボロボロでした。

いけない、私がしっかりしなくては誰が弟を守ってあげられるのでしょう。

そうしてその日、一同が再び集められたのは當主の間でした。まるであの日の再現です。

ただ一點おかしいのは、その最も尊い當主の座に座っているのがリューク様ではなくユスティネ王であるという事でした。

皆その異様な景に揺しながらも、あまりにも當然に堂々と座する姿に質問をすることすらはばかられました。當のリューク様は王の後ろに控えるように立っています。私たちはそこで初めて勘違いに気が付きました。今バルテリンクで最も高い分なのはリューク様ではなく、ユスティネ王様だったのです。その當たり前の事実をここでようやく突きつけられました。

(私はもしやとんでもない事をしでかしてしまったのかもしれない)

「単刀直に言うわ」

ユスティネ王が口を開くと、全員に張が走ります。

決して大きな聲でもないのに凜ととおる強い意志の宿った言葉。誰が主でどちらがそれに仕える立場なのかをハッキリと意識させるような威厳のある聲でした。

「この城に無用な不和と偽りをばらまく不遜な輩がのさばっている。それを自覚する者は今すぐ自首しなさい」

ザワリと周囲が騒ぎました。まさか、王は私と子爵がやっていることに勘づいたのでしょうか。

(いや、まさか。それにもし気が付いたとしても何の証拠もないはず)

思わず子爵をみましたが、さすが貴族の端くれだけあってなんとか顔に出さずに済んでいるようです。私は心安堵し、高を括りました。いくら王といえども証拠もなく貴族を裁くことは出來ないでしょう。

シンと靜まり返った部屋を見回し、王は立ち上がりました。

「そうよね。やはりこの中にはそんな反逆者いるわけないわよね。だから賭けは私の勝ちよ、リューク。彼を連れてきなさい」

賭けとは、いったい何でしょう?王が合図するとドアが開き、誰かが両脇を抱えられながら引きずられるように出てきました。そうして連れてこられた人に一同はギョッとなりました。

子爵も思わず前に進み出ます。

「フローチェ、何故お前が……」

それは間違いなく子爵令嬢のフローチェ様でした。いつも明るく輝いていた顔は力なく萎れ、後ろ手にされた腕は拘束されているようでした。ああ、信じられない!なんという事を!!

「わ、私ではありません、ユスティネ王様……」

フローチェ様が弱々しく呟きました。

その頬にはすでに幾筋もの涙の後が流れています。お可哀そうに、お父上様とは違い、フローチェ様は本當に心の優しい純粋な方なのです。こんな目にあっていい方ではありません!

「いいえ。誰も違うというなら貴方しかいないわ。貴方は辺境伯夫人になりたかった。だから私を貶めるような噓を言いふらしたのね?」

「王様、そんな事は決して」

「この期に及んで見苦しい。真犯人はこのよ!」

殿下が合図すると、フローチェ様はひざまずかされ、大きな斧を掲げた王宮騎士がやってきました。

「ユスティネ王! お止め下さい!!」

の呪いのような威圧を振り切り、何人かの有力者達が我を忘れて立ち上がりました。しかし王が一瞥すると、またそれ以上その場をく事も出來ませんでした。

「それだけじゃないわ。城を訪れてかに部構造の詳細を探ったり、駐屯所に顔を出しては武の貯蔵量や兵の配置を調べたり。その報を一どこに売るつもりだったの?」

フローチェ様は本當に心優しい方です。

リューク様の多忙を知っている彼は、時折城や駐屯所などに食べを差しれたり、何か不都合がないか聞いて回ったりしていたのです。その善意の行をこんな形で利用して罪をなすりつけるなんて、なんという悪魔なのでしょうか! 私の中で王様に対する憎しみが燃え上がりました。

しかしそれも次の言葉を聞くまでです。

「私は王よ。子爵令嬢ごときの一人や二人殺したって罪に問われないわ」

(そんなはずありません!そんな事は……。)

心強く否定しながらも、王様のあまりの當然のような言いに不安が襲い掛かります。証拠もなしにそんな事。だけどそれが私の思い込みだとしたら?王家の特権がどこまで通用するかなんて、バルテリンクしか知らない私にはわかりません。もし王の言う通りなら、何の罪もないフローチェ様が殺される……?

駄目です、そんなこと。だって罪を犯したのは……

弟の笑顔が頭をよぎりました。

「まずはその忌々しい両腕から切り落としなさい」

「お待ち下さい! フローチェ様は何も知りません、全て私がやったのです!!」

気がついた時にはそうんでおりました。子爵が忌々し気に私を睨みつけております。弟と私はどうなってしまうのでしょう。だけど保のために、無垢なフローチェ様を犠牲にすることはどうしても出來ませんでした。

「この娘を庇うつもり? 忠義心かしら、そういうのは今要らないわ」

「違います!! フローチェ様は何も知りません!! 私が一人で実行した事だったのです!! 証拠も出せます! お願いします!! 切るのなら私を、私だけですから!!」

「私だけ? 違うでしょう、シエナ。告白するなら全部洗いざらい喋りなさい。出來ないならフローチェを切るわ」

「……し、子爵様が私に指示されました。証拠もきちんと取ってあります」

「き、貴様!! 噓だ、この娘の言うことはでたらめだ!!」

子爵が大聲でわめきだしましたが、すぐに王宮騎士たちに取り押さえられました。

ユスティネ王の前で膝をつき、全ての罪を告白すると、これからの処罰の恐ろしさに震えながらもどこかのつかえが取れたようです。私はもう隨分前から疲れ切っていたのだと、初めて思い知りました。

「お願いします。ですからフローチェ様のことはどうか……」

「んー、そうねぇ。でもそれだけじゃ私の言った事全部に説明がつかないんじゃない?」

先程言っていた、部構造を探っていたとか武がどうとかいう話はさすがに知りません。

「なら、疑わしきは罰しちゃおうかしら」

「ひっ、そんなぁ!」

この王ならやりかねない!

その場にいる全員がそう思った時でした。

「申し訳ございません! 私が子爵に報をらしたのです!どうかお許し下さい!」

「わ、私もです! 子爵にフローチェ様の警護上の問題で必要があると言われ、つい」

「私も子爵の質問に一度だけ答えてしまいました」

なんとつられる様にバタバタと何人もの使用人達が膝をつきました。

が言っていた事は本當だったのです。もちろんその犯人はフローチェ様ではなく子爵ですが。

しばらくして使用人のうちの一人が何かを耳打ちしました。

「どうやら今度は本當の事を言ってくれたみたいで嬉しいわ。確かにフローチェ嬢は関係無いのね。放してさしあげて」

様の言葉にようやく解放されたフローチェ様は、ふらふらと子爵の元に歩いていきました。

「お、お父様、ごめんなさい私……私……」

「ぐ、ぐくくくっ……こ、こんなはずでは……!」

「お父様。ごめんなさい、私、王様に頼まれたのです。せめてお父様の罪を軽くするために協力するように、と」

その時私はようやく気が付いたのです。

全ての茶番は、最初から子爵の罪を暴くためのものだったのでした。

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