《【書籍化】傲慢王でしたが心をれ替えたのでもう悪い事はしません、たぶん》7 【番外編】 END: typeB (※辺境伯視點)
本格的な冬が近づいてくる。
吐く息が白く染まり、普段から緑のない丘陵地帯はさらにを無くしていた。見回りの為に馬を走らせれば、その風の冷たさに震いする。
いつもと変わらぬ大地。
いつもと変わらぬ空。
それらがづいていたのは一年前のほんのわずかな時だけだった。
「まーたあの王様の事考えてるんですか。そんなに好きなら手放したりしなきゃいいのに!」
後ろをついてきていた數人の部下達のうちの一人が、無遠慮に指摘してきた。
「考えてない」
「いや絶対考えてたでしょ!まったくあんな人騒がせなじゃじゃ馬のどこがそんなによかったんだか……マジすんませんごめんなさい、そんな人殺しそうな目でみないで頂けないでしょうか」
「怒ってなどいない」
ユスティネ王が立ち去ってもう一年。
あの後お互い別の婚約者が立つこともなく、ただ日々が流れている。それでも彼を王都に返した事を後悔した事は無い。以前よりじていた不穏な気配は収まるどころか増す一方で、この地にまだ彼がいたらと思うと寒気がする。今日などは特別に嫌なじがしていた。
(これで良かったんだ。彼だけでも安全な場所にいるのだから)
部下には違うと言っておきながら、思考は彼が初めて城に來た日の事を思い出していた。
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◆◆◆
昔から朝は苦手だ。頭は重いし、気持ちを作り上げるのに時間がかかる。鬱な気持ちをさらに悪化させるのは窓の外で鬱蒼と生い茂る記念樹だった。これのせいで朝はろくにがらない。
(母上は々やりすぎるきらいがあったからな)
周囲がやんわり止めるのも聞かず、好き勝手に樹木を植え、さらに魔法薬まで持ち出して長させた結果がこれだ。しかも母上亡き今、誰も遠慮してこの木に手出しをすることが出來ない。
「おはようございます。本日は予定通りユスティネ王さまが到著する予定でございます」
「ああそうだったな。……やっぱり軍服のままお出迎えするのはまずいだろうなあ」
「リューク様、今日くらいは自ら見回りに出なくてもよろしいではないですか。毎日のように出ていらっしゃいますが、異常はないのでしょう?」
「そうなんだが、どうも気にかかる」
それにしてもユスティネ王か。あれほど溺している王をよくぞこんな僻地に遣わせてくれたものだ。しかし陛下のお気持ちはありがたいが、本人の意向ではない事を知っているとしては出迎えは々気の重い仕事だった。
念には念をれて、婚約を解消できるよう逃げ道は作っておいたが……。
(いや、この地の安全を守るためだ。どんな方であろうとなんとか辛抱して頂き、力をお借りできるようにしなければ。その為には自分のなど二の次だ)
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現れた王の姿を一言でいうなら、キラキラと輝く火花のようだった。たっぷりとしたしい黃金のような髪、白い。そしてなにより特筆すべきは燃えるような大きな赤い瞳。目が合えば火花のような瞳が煌めき、なるほど國王陛下の最と言われるだけのある、醜だけに収まらない魅力を放っていた。
「へえ、貴方がリュークね。よろしく頼むわ」
いきなりのタメ口と呼び捨てに閉口しそうになったが、表面には表さず想笑いをり付けてその手に口づけた。……陛下、いくらなんでも甘やかし過ぎです。
「はい、リューク・バルテリンクと申します。こちらにいる間はなんなりと私にお申し付け下さい」
白くきめ細かな、そして労働など知らぬしい。こんな苦労など何も知らないような方を、私の何を犠牲にすれば引き留められるだろうか?
じっと私を見つめていた王は、不機嫌そうに言い放った。
「ところでリューク、この地はもう冬なの?道中ずいぶんと寒くて難儀したわ。道端に花の一つも咲いてないし、あるのはい巖ばかり。ずいぶん無想な土地ね、領主に似たのかしら」
王族らしからぬ、侮辱ともとれるような言いに絶句した。
この王は王都のプライドの高い貴族連中相手に、こんな調子でいて大丈夫なのだろうか。いつか後ろから刺されやしないだろうか。ところが私が何も言い返さないのをみると、王はにやっと笑った。
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悪戯っ子のようなからかいじりの笑みだった。
「久しぶりの遠出で、はしゃぎすぎてしまったようね。し言葉が過ぎたわ。気を悪くしないでね」
どうやら雑な言いはわざとだったようだ。
相手の予想外の行をとってとっさの反応を見る。過度なお世辭や気遣いをされるばかりの彼ならではの処世なのだろうか。第一印象ほどに何も考えてないわけでは無いのかもしれない。
(それにしたって、もうちょっと他のやりようがあるのではないか?……いや、私には関係ない)
私に必要なのはバルテリンク領を守る力。余計な助言や注意をして嫌われるようなことなど絶対に出來ない。彼がどんな人格であろうが関係ない。こちらはただけれるだけだ。
関係ない、関係ないのだが……。
「ねえ、この木すっごい邪魔なんだけど。なんで切らないの?」
どのような方でも、と心に決めたその數時間後。
「切っていい?絶対に無い方がいいわよね、この木」
「ユスティネ様、その、申し訳ありませんがその記念樹は亡き辺境伯夫人が手ずから植えられていて……」
移の際に通りかかった中庭で、王と庭師達が何か言い爭っていた。原因はどうやら、例の記念樹のようだった。やれやれ、初日くらい部屋でのんびり休んでいてくれればいいものを。
「その話は聞いたわよ。でも夫人がご健在だった時は腰位の高さだったんでしょ?彼だってまさかこんな巨木に育つとは思ってらっしゃらなかったわよ」
「それはそうなのですが……」
「部屋の窓の半分をこのおいしげった枝が埋めてるのよ?手をれにくいのは分かるけれど、たかが木の一本じゃない!」
王の言葉に、庭師達はにわかに気ばむ。……まずいな。彼等はこの城の庭、特に母上が植えた草木をなによりも大切にしている。それこそ葉の一枚たりとも枯らせはしまいと心を注いでくれているのだ。
(それをたかがなどと、愚かな)
先程はそれなりに考えがあって行しているのかと思ったが、見込み違いだったようだ。
他者を尊重できない者に人の上に立つことなど出來ない。
(いや、変に期待をもったこちらが淺はかだったのだ。婚姻後はそれとなく別荘や別邸を與え、可能なかぎり遠ざけた方が良いのかもしれないな)
そう思った時だった。
「あのねえ。この庭をもっとよく見てみなさいよ。どれだけの樹木を夫人が植えられたと思っているの?植の育ちにくいこの土地で、これほど緑を茂らせるなんて執念すらじるわ。その真意は何?なんで夫人はこうも緑を必死に植えられたのかしら。そんなの、この城に住む皆に、しでも緑で癒されてしいって思ってたからじゃない!
なのに自分が植えた記念樹が予想外に長したせいで、肝心の中庭が見てもらえないなんて本末転倒よ!」
(……えっ……!?)
「まあ確かに、洗練された配置とまでは言い難いけどね。だけど彼が特に力をれて植を植えているのは、息子であるリュークの部屋から見える位置ばかりよ。ふふっさぞかし家族思いな方だったんでしょうね」
ふいに、生前の母の記憶が蘇った。
もういい加減にしたらどうかと呆れまじりに笑う父の言葉に、いつも母はそうねえ、でもあとちょっとだけと手を休めなかった。だってお花や植ってとっても癒されるもの、植が育ちにくい土地だけど、せめてこの中庭だけは緑で一杯にしてあげたいの、と。
子どもだった私は、単に母上は草花が好きなのだなと思っていた。言われてみれば、肝心の母の部屋からは見えにくいような場所ばかりだったのに。母を尊重している気でいたのに、そんな事にも気が付いていなかった。
いや気づいてなかったどころか、部屋の窓を覆い隠し年々大きくなる一方の記念樹に鬱陶しさすらじていたかもしれない。それでも母上が植えられたものなのだから、自分が我慢すればいいと。母上を思いやっているつもりにすらなっていた。
彼の本當の想いがなんだったのか、考えることもなく。
(私は今まで、どこかで自分の考えは正しいものなのだと信じ込んでいた。だけどそれは……)
「お、王様!!お止め下さい、危険です!」
「せええのおおお!」
思いから目覚め、はっと顔をあげるととんでもない景が繰り広げられていた。
斧を振りかぶった王を周囲が必死になって止めている。
正気だろうか。
私の存在に気が付いた庭師が、激しく目配せをしてくるが、手をあげてゆるく首を振った。庭師達の泣きそうな顔が見えた後、カコーン!という快音が空に響いた。その後に聞こえた「ああ」とか「はあ」というき聲達の中に、ほんのしだけ重荷から解放されほっとしたようなが混じっていたような気がした。
到著してたった一日で、全くなんという王様だろう。
こんな僅かな時間で、己の未さを痛させられるなど思いもよらなかった。そしてまたユスティネ王自もまだまだ足りていない部分が多そうだ。主に常識とか。そんな事実に私はつい笑いたくなった。
多分最初は、それがきっかけだったように思う。
◆◆◆
鼻先に冷たいをじて上を向く。
「ああクソ、降ってきましたね。どうりで寒いはずだ」
部下の言葉に空を見上げるとはらはらと雪が舞い降りてくる。雪が降れば、王都までの道のりは閉ざされ行き來は完全に不可能になる。
(やはり返事は來なかったな)
ふと湧きあがった考えに自分で呆れた。書いた手紙に返事が來たとして、その先になにか未來があるわけではないのに何を期待しているのだ。
彼はずっと帰りたがっていた。
言い出したらすぐに返してやろうと思っていたが、責任が強いのか中々向こうからはいいださず、三週間近くを滯在した。結局雪の季節が來たら帰れなくなると、仕方なくこちら側から破談にした。適當な理由をつけてそれを言い渡した時、本當はそうしたくないという本心が顔を不機嫌そうにしてしまったかもしれない。
この先どれほど平和になろうとも、一度手放した彼は二度と手にる事は無い。よく理解した上で決斷したことなのに。
(いや、これで良かったんだ。過去を振り返るな)
湧きあがりそうになるを奧深くに沈ませる。大丈夫、ずっとそうやってきた。
これから先もきっと。
「早く帰りましょう。これはあっという間に積もりそうですよ」
「ああ、行こう」
馬を翻す直前、一瞬だけ振り返る。この場所はひらけた景と壯大な山々、降りそそぐ滝が一できるしい景観が楽しめる場所の一つだった。だけどその雄大な景を見ても何もじない。自分はここまで無な人間だっただろうか?
雪が降る。
あれから隨分時間も経った。
々なものがしずつ隔てていく。
領主として間違っているのは分かっていたが、帰りたがっている彼をこの地に縛りつける事はどうしても出來なかった。
(こんな事はきっと、人生で一度きりだな)
最初で最後の我儘だった。その埋めの為に、殘りの人生はこの地の安寧の為に捧げよう。こうして心から幸せを祈ることができる相手がいるのなら、それもまた幸せなのだと思う。
……だけど、もし。
婚約の白紙を言い渡したあの日、もし王がしでも拒否する様子をみせていたら、それでも自分は彼を手放せていただろうか。
(もちろん、そんな事は絶対にあり得ないのだけれど)
思わず苦笑し、今度こそ城に戻るための道に向かった。この場所を守り抜く事が王國を、ひいては彼を守ることだと信じて。
そしてバルテリンクに最後の雪が降った。
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カーテンの隙間かられるがらかく部屋を照らす。
あの記念樹が無くなってから、部屋が本當に明るくなり見違えるように景観も良くなった。そのおかげだろうか、ほんのしだけ朝が苦手ではなくなったかもしれない。
(なんだか……妙な夢を見ていた気がする)
思い出そうとしてもあっという間に霧散して影も形もない。まあいい。今の問題はそんな些末な事ではない。
ガバアッ!!!!
「うひぁふ!寒い!」
「人の布団にり込むの止めろって何回言わせるのですかいい加減にして下さい寢巻のまま外に放り出しますよ」
「ひえぇ。私、王なのに扱いがヒドイよ」
まったくこの王様は。……陛下、本っ當に教育を間違えましたね。
「寒いならもっと布団を運ばせます。誤解されたくないんでとっとと帰ってください」
「あっ、まだ足だから!せめてスリッパ!履かせてぇ!」
「無理です。一秒でも早くここから消え失せて下さい」
部屋の出口にぐいぐい押し返す。例のの通路はすぐに釘打ちしてやっと安眠できると思ったのに、當主の私さえ知らなかった別の抜け道ルートを探し出してきやがりましたね。いずれどんな手を使っても吐かす所存。
「さ、寒いだけじゃないんだって!私だって人の部屋に勝手にるのがどれだけ無禮で悪い事かって分かってるけど、でもさ」
「いえ、無禮とか悪い事とか、そういう次元の問題じゃないんで。さようなら」
「……夜中に急に不安になるんだよ。ちゃんとリュークが生きてるかどうか」
突然、なんでしょうか。
彼は時々、普段の勝気な態度からは想像が出來ないほど不安定になることがあります。そしてそれはどうも、私自に関係があるように思えます。何故でしょう。自分で言うのもなんですがそれなりに武には長けている方ですし、何かあれば最優先で守られる立場です。心配をすることはあっても、されるような覚えはありません。
だけどその顔は、噓や誤魔化しで言っているようにはとても見えなくて。
「ご、ごめん。訳がわからないよね、あはは!大丈夫、もうしない……」
「いいですよ」
「え?」
「もしどうしても、一人でいるのが無理だったら、構いませんよ」
「い、いいの!?」
「そんな風に無理して笑われる方が辛いです」
「む、無理してないし!」
そう強がるけれど、明らかにホッとした顔をしていますよね?まあ今日は指摘しないでおいてあげましょう。はあ、結局私も同じのムジナ。陛下の事を言えないくらい大甘だってことでしょうね。
「來るのは構いませんが、次はそれ相応の覚悟はしてきてくださいね」
「覚悟?」
「全部がせます」
「そんなの想像だけで寒くて風邪ひいちゃうよ!鬼!悪魔!!………………え、今なんて言った」
「風邪だけで済むといいですね?」
扉を閉めた途端、罵聲やら怒號が鳴りひびいた。
貴方は高慢で我儘なくらいが、丁度いいんです。
最後までお読みいただき本當にありがとうございました。
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ブックマークもいただけると本當にうれしいです。
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