《【書籍化】傲慢王でしたが心をれ替えたのでもう悪い事はしません、たぶん》私と王様 (メイド視點)
またしても名前しか出てない(1話)ちょい役の視點です。久しぶりの投稿なのにすみません……。
私はヒルデ。バルテリンク領の城のメイドをしている。
言っておくけど、お城の仕事はとても人気があってなかなかなれないの。の子達の中で一番の花形職、……つまり選ばれしエリートってわけ。すごいでしょ、えっへん。
なんたってあの第四王、ユスティネ様にお仕えしてるんだからね!
◇
「ぶふぇえええ~ん! どうしようアン、絶対大目玉くらうわ!」
バルテリンクを震撼させた大事件も済んだ平和な晝下がりの中庭。
私は仕事仲間のアンに泣きついていた。
「ああもう、そんなに泣かないでよ。よりによって庭師が一番大切にしている薔薇を折っちゃうだなんて。絶対バレるわよ。……新しい職場でも元気でね」
「もう退職確定なの!?」
王様の侍であり、面倒見がいいアンにすら匙を投げられた。
「だって……。なんとかしてあげたいのはやまやまだけど、あの偏屈じいさんがその薔薇をどれだけ大事にしているか知ってるでしょ? ごめんですまないわよ、絶対」
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アンは私の手元で神々しいほどにしく咲いている薔薇を指した。
どれほど丹込めて咲かせたのかが分かれば分かるほど、それを誤って手折ってしまった罪の重さをじわじわと伝えてくる。
「うえええん。もう食堂で毒見と稱してつまみ食いしたり、殘りを持ち帰ったり出來なくなるのは嫌ぁ!」
「……アン、それにヒルデ?」
鈴を転がしたような聲に振り向くと、黃金の髪にルビーを思わせる瞳の……ユスティネ王様と、バルテリンク領主であるリューク様が連れ立って歩いていた。
一時は不仲を噂されていたお二人だったが、その手がしっかりつながれているのを見るとそんな懸念はもう不要のようだ。……と、視線に気がついた王様はハッとしてその手を離した。
うふふ、恥ずかしがる事ないのにぃ。
「ちょっとヒルデ。なにを涙と鼻水だらけの顔でニヤついているのかしら? まさかと思うけど、またとんでもないドジをしたんじゃないでしょうね」
王は可らしく紅した顔をむくれさせる。
いつもなら冗談で済む軽口に、はたと現実に引き戻されて再び瞳に涙が溜まっていく。
「うええっ……王様、今までお世話になりましたぁ……」
「な、何? 本當にどうしたの?」
困する王様に、アンは事の詳細を説明した。
「なるほどね。庭師の薔薇を間違えて折ってしまったと」
「はい……ぐすっ」
「…………え? それだけ?」
王様がぽかんとしていると、今度は隣のご當主様が説明する。
「その庭師は、腕は確かなのですが々偏屈で怒りっぽい所があるんです。悪い人ではないのですが、若いメイド達には恐れられているんですよ」
そうそう。ほんのちょっと間違えただけで怒鳴り散らす、とってもこわ~いお爺ちゃんなんだ。
「でも、やってしまったものは仕方ないのだから、謝るしかないんじゃない?」
「それで済む相手じゃありません! うう、この間だって『お前は料と除草剤を何度間違えたら気がすむんだ! 今度やったらただじゃおかないぞ』ってすごく怖い聲で……!」
「何度も料と除草剤を間違えてそれなら優しい方じゃないかしら……!?」
王様は何故か庭師の肩を持つけど、それはあの剣幕で怒られた事がないからだ、たぶん。
「とにかく庭師さんが明日やってくるまでに何とか証拠隠滅できないと、本當にピンチなんです! 適當に捨てたいけど、ごみ焼卻擔當のおじさんはものすごく目ざとい上に庭師さんと仲良しだし……。はっ、いっそこのまま食べてしまえば……?」
手の中の折られた薔薇と睨みあっていると王様はうーんと考え込んだ。
「つまり、その庭師は薔薇を大事にしてるのよね。あの辺りに咲いているあれかしら」
王様は近くに咲いている同じ合いの花を見つけ、指さした。
「そうですけど……?」
「ふーん……。わかったわ、わたしに任せて! アン、ハサミをちょうだい」
「ハ、ハサミですか? あのう、ユスティネ様。嫌な予がするんですが大丈夫ですよね?」
私達がおろおろしている間に王様はトコトコと薔薇の前に進み……。
――バチン!
なんと、躊躇なく無事だった薔薇を切った!
「ユスティネ様ぁーー-っ!!?」
◇
「ああ! 何てことだ!」
庭師の大聲に、私は青い顔でうつむいた。
「玄関の正面の一番上等なあの花瓶に生けられるだなんて、なんて名譽なことだろう! この薔薇を品種改良した息子もさぞかし鼻が高いだろうよ!」
「許可もなく先に切ってしまったのは悪かったわね。お客様がいらっしゃるのに間に合わせたくて」
「なあに、たくさんある中の何本かです。構いやしませんよ! そうですか、息子の薔薇がそんなにお気に召しましたか!」
私とアンはかつてないほど喜満面の庭師を信じられない気持ちで眺めていた。
「……まったくもう、ユスティネ様は。薔薇を切り出した時には壽命がんだわよ」
本當にその通りだ。
まさか、切った薔薇を隠すのではなく、一番目立つ所に飾るとはね。
アンは呆れたフリをしたけれど、王の機転に謝しているのは言うまでもない。もちろん私はその何十倍も激している。
「とにかくヒルデ、これに懲りたらしはユスティネ様のご恩に報いなさいよ」
「うん、わかってる!」
「そうそう。もっと慎重に行してミスを……」
「――ちゃんと、ご恩に報いるようにこの武勇伝を城中に伝えるわ!」
私は強く決意しこぶしを握り締めた。
もうすぐ休憩時間、他のメイド達にもこの話を是非とも言いふらさなくては! それに、話題にしたい事はもう一つ……。
大喜びする庭師の後ろで、安心したように並び立つ王様と領主様。寄り添いあう二人の手は、やっぱりちゃんとつながれているのだった。
活報告でも告知しておりますが、7/1にビーンズ文庫様より書籍化します!
こちらの更新もしていきますのでよろしくお願いいたします。
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