《【書籍化】傲慢王でしたが心をれ替えたのでもう悪い事はしません、たぶん》伯母の來訪 ⑥

「認めないわ……。こんな、何かの間違いよ……」

夫人はまだ呟いていたが、その言葉はすっかり力を無くしていた。

それでもなんとか気を取り直した夫人は、どこか疲れた様子で客室へと案されていった。あんまりリュークを悪しざまに言うものだからちょっと意地になってしまった。

「リューク、しやりすぎたかしら?」

「いいえ、あの人の自業自得でしょう。……でも、貴方には嫌な思いをさせてしまいましたね」

「わたしは別になんとも思って無いわ。それに、ドリカ夫人は嫌いじゃないわ」

リュークは不可解気にわたしを見下ろした。まあ、ついさっきまで舌戦を繰り広げていたのだから無理も無いけれど。

「だって別に証拠を見せあうわけでもないじゃない。大抵の人はバレなければしぐらい話を盛ったり噓をついたりするものだけど、たぶん彼は正直に話してたから」

「何故噓をついてないと思うのですか」

「だったらあんなにショックはけないでしょう?」

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それに噓を吐くときは大抵どこか挙が不審になるものだ。あるいはものすごい大ウソつきだという可能もあるけど、王であるわたしにああも食って掛かってきた単純さを考えるとそれは考えにくい。

わたしはそう考え、てっきりリュークも同意してくれるものだと思っていた。しかし……。

「さあ……どうなのでしょうね」

彼らしくない曖昧な返答が返ってきた。その聲になんとなく苦いものが混じっているように思えて、アイスブルーの瞳の奧を探ろうとするけれど何のも読み取れない。

……なんだか、事態は思っていたよりも複雑なのかもしれない。

「あー! まだ夕方前なのに、なんだかすごく疲れたわ!」

自室に戻ったわたしはソファに倒れこんだ。

アンも今日ばかりはいたわってくれているようで、だらしなく寢そべっても注意してこない。わたしの好きな銘柄のお茶を淹れながら苦笑した。

「アン、あの二人は一いつからあんなじなの?」

「ドリカ様は長い間バルテリンクにいらっしゃいませんでした。わたしの知る限りで來られたのは先代辺境伯夫人であるソフィア様のご葬儀の時で、ご當主様とはその時が初対面です。ですが、その頃からお二人はあまり……」

「ふーん……。ほぼ初対面からいきなりあんなにあたりが強いのね」

最初からうまが合わなかった? しかしドリカ夫人はともかく、リュークは、なくとも初めのうちはよほどの事が無い限り慎重に対応したはず。なんせ、初対面でいきなり呼び捨てをしたわたしにも丁重だったぐらいだ。

「対面する前からリュークを嫌っていたのかしら。でも姉妹仲はそれほど悪く無かったはずなのよ? 例の鉄鉱石の取引量も、先代夫妻の結婚後はさらに増えているぐらいだし」

「ええ、ドリカ様はソフィア様をとても大切に思って下さっていたようですよ。この城の溫室はソフィア様が特に大切にしていた場所なのですが、ドリカ様はよくその溫室にいらして故人を偲んでいらっしゃるようです」

(ふーん。葬儀がリューク本人との初対面、姉妹の仲は良好か……)

それに気になっている點がもう一つある。

「殘念だけどリュークの弱點を聞き出す計畫は失敗ね。もし弱みを知っているなら、とっくに利用してそうだもの」

「ユスティネ様、また良からぬことを……」

アンがお茶を運びながら非難めいた視線を向けてくる。

知らん顔をして淹れたてのお茶を頂いた。ふんわりといい香りが広がり、ようやく気持ちが落ち著いてくる。そうしてしばらくのんびりしていると、部屋にノックの音が響いた。

「失禮致します。ユスティネ王殿下、遅ればせながらご挨拶の機會を頂き誠にありがとうございます」

執事に案され、數人の使用人を連れたし鼻の長い中年男が私の前に現れた。

(確か、ドリカ夫人と一緒にやってきた……小間使いだったかしら?)

「私、ドリカ様より専屬で取引のまとめ役を任されております、商人のルドルと申します」

違った、商人だった。

しかし商人には過ぎる程こまやかにドリカ夫人の世話を焼き、あれこれと周囲に命令を下していた。夫人もこのルドルという男を大層信頼しているようで、すっかり頼り切りという印象だったが、隨分と長い付き合いなのだろうか?

「まずはお近づきの品として、どうぞこちらをお納め下さい」

そう言ってルドルが後ろに控えていた使用人に聲をかけると、わたしの前にしい箱が差し出された。それだけでも充分に価値がありそうな箱を開ける。すると中から現れたのは驚くほど大きな寶石をあしらった首飾りだった。

大きさだけじゃない。その明度、まじりけのない輝き、素晴らしい技力のカット。

そこらの商人が手土産で持ってくるにはあまりに度が過ぎた品だった。

「すごい……」

思わずといった様子でアンが呟く。

ルドルの笑みが深まった。

「若くおしい王殿下にふさわしい首飾りでございましょう」

「これをわたしに? ……ドリカ夫人からの贈りなのかしら」

「いえ、こちらは私個人からの贈りでございます」

わたしの訝し気な表に気がついたのだろう、ルドルは慌てて言葉を重ねた。

「実はバルテリンクとの鉄鉱石の取引も私の管轄になっているのです。私達にとっては大切な上得意様、是非とも末永くよいお付き合いをさせて頂きたいと思っているのでございます」

どうやら先程のわたしとドリカ夫人のやり合いを見て、これはまずいと思ったらしい。わたしは別に彼に悪い印象は無いし、リュークはわたしがなんと言おうが領地にとって有益な取引をしていくのだろうが、そんなことはこの目の前の商人は知るよしもない。

「ふうん? ドリカ夫人の態度を見ていたらとてもそうは思えないけど?」

わざとそんな事を言ってみると、ルドルは大袈裟なくらいに首を橫に振った。

「滅相もない! 我々クライフ領にとってバルテリンクは最大のお得意様。無くてはならない生命線でございます」

「ふーん……。でも、乗ってきた馬車を見たらそんなにお金に困っているようには見えなかったけど」

「ははは、そうお見えになりましたか」

ルドルは薄く笑った。

なんだかし小馬鹿にしたような、嫌な笑いだった。

「ドリカ様は々見栄っ張りな所がございまして、こちらに伺うあの馬車だけは念りにお金をかけているのです。ですがここだけの話、実際は家計は火の車。伯爵家だなんて大層に聞こえますが、実は名ばかりもいいとこなのです」

「……」

「王殿下にあのような口をきくだなんて、私共としましても本當に恥ずかしく思っているかぎりでございまして……。ですからこの首飾りはお詫びも兼ねているのです。さあ、おけ取り下さいませ」

首飾りは妖しいほどの煌めきを放ち、メイド達もごくりとをならして食いるように見っている。

そして私は……。

(…………………………)

ふう、とため息をついた。

「いらないわ」

「え、ええ!?」

ルドルは、いや、その場にいた全員が呆気に取られた顔をした。

やがてルドルは狼狽を隠せない様子でわたしと首飾りを互に見た。おそらく彼の渾の逸品だったらしくとっさには口をきけないようだった。

ドリカ夫人を悪く言ったのは、彼個人の本音が出たというよりは、わたしに対するおもねりだろう。彼に対し悪いを持っていると思い込んだルドルは、夫人を共通の敵として扱い、一緒になって悪口を言ってみせようとしたのだ。

それは、場合によっては強烈な共を持たせるための有効な手段かもしれないけれど。

(わたしは……そういう誰かを貶めて歪な仲間意識を持たせるやり方が大っっっ嫌いなのよ!!!)

わたしは冷笑を浮かべ、傍らにあった扇子をバサリと開く。

「ふっ、このわたしを誰だと思っているの? この程度の品をよくもまあ、臆面もなくわたしの前に出してこれたわね! まったく地方の一商人だとはいえ、気が利かなすぎるわ。気分が悪い、早くこの末なものを持って部屋を出て行きなさい!」

ルドルは信じられないものを見るような目つきでわたしを見上げた。

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