《お月様はいつも雨降り》第五十二

何かを追い求めるようにマネキンに似た人形はこちらに押し寄せてくるが、僕たちの月影人形の攻撃でその殘骸を山のようにうず高く積み上げるだけだった。

時折、その頭部の口から悲鳴に近い金切り聲があふれ出た。あたかも我が子の死を目前に、何も手出しができない母親の嘆きの聲のように僕には聞こえてきた。

「どうして、こんなにまでなっても近付いて來るんだ」

「汚らしいのが私たちのを求めているのよ、蟲よりも醜い奴らが、何でそんな魂だけが殘っているのを相手にしなくちゃならないのよ、消えて!全部消えればいいのよ!」

僕の言葉に対し言葉を返してきたカエデの心は不安定になっているようにじた。彼はそう言いながら涙をずっと流している。

本當に壊されるだけの存在として産み出されこの世界から消えていく人形たちの姿は哀れだった。

それまで僕の肩の上で靜止していたシャンのが何かに反応するようにいた。

「上様、お月様の顔を思い出して」

僕はシャンの言うお月様の意味に首を傾げた。

「月に顔ってあるの?」

「空に浮かぶ無慈悲な月ではない、上様の絶対忘れてはならない人じゃ」

「ルナ……ルナのこと?」

「そうじゃ!早く!」

僕はシャンに言われるがまま、ずっと記憶の牢獄に押し込んでいた彼の顔を頭の中に思い描いた。記憶の中から引き出された最初の顔は明るく笑っているばかりのものだった。

初めて出會ったとき、教室、公園、森……そして別れてしまったとき……。

最後の顔は苦しそうにしながらも僕に笑顔を見せてくれていた。

「うわぁ!」

僕は大聲でばずにはいられなかった。地面に膝づくと鳥が全をおおい、いやな汗の吹き出る気持ち悪さが覚を支配した。

(ボウくん……)

僕の自覚していない心の奧底にルナの聲が突き刺さり、に激痛が駆け巡った。

「セバ!」

意!」

セバスチャンが遠くから大きな聲でシャンに応えた時、僕のび聲に呼応して、巨大な頭部から斷末魔のような悲鳴が同時に上がった。

校舎のチャイムが音を外して鳴り続ける。壁に取り付けられた下校の時にかかっていた旋律『遠き山に日は落ちて』が流れてきた。

もう帰らなくちゃ、妹を迎えに行かなくちゃいけない。

今日は面白いテレビが何もないなぁ。

俺なんて今日、すげぇ宿題出たんだよ、絶対に一日じゃ終わらないよぉ。

「お月様、見ぃつけた」

誰が言ったのか分からない。

誰も言っていないのかもしれない。

ただ最後に聞こえてきたの聲がこの空間に異変をもたらした。

巨大な人形の頭部から稲が上がると、校庭に地割れが起こり、その漆黒の裂け目へこの世界を形作っているすべてが吸い込まれるように消えていった。

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