《【書籍化】追放された公爵令嬢、ヴィルヘルミーナが幸せになるまで。》第85話:イーナの一手

ユルレミは眉を顰めます。

「そのサイズの魔石すら自由に作れるの?」

「そこそこ時間はかかるし、量産する気もないけど作れるわ。猊下をこの國へ呼ぶために、もう一つあの大きさの魔石を獻上するとお伝えしたし」

オリヴェル様の100カラット雷屬魔石獻上することになっていますからね。

「……生産量は?」

「今のところ、屑魔石での総重量で日産1000カラット強かしら。それに加えて1カラット以上のものを數點」

「あの簡易鑑定事務所が魔石製造のからくり?」

まあ、ここまでくれば想像はつきますわよね。

「ええ、それだけではないのだけど、あれが一番生産量が多いわね」

ユルレミはしばし黙って肘置きを指で叩きます。紅茶のおかわりが淹れられた頃、彼は口を開きました。

「しかし、危険では? この狀態では父もすぐに姉さんに辿り著くと思いますし」

「もう辿り著かれても大丈夫なようになったから特許を公開しているのよ」

「ここを攻められても大丈夫と?」

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「だってここに魔石を蓄えてるのよ? 王都全域を焦土と化すつもりで來るくらいならやられちゃうかもしれないわね」

「あー……、でも事務所の方は?」

わたくしはを乗り出します。

「いい、もし父が事務所に攻撃かけようとしたらできれば止めなさい。もし攻撃するとして、あなたは絶対にそれに関與していないと証明できるようにしなさいね」

「ん?」

ユルレミは首を傾げます。

「約束よ」

瞳を合わせ、彼が頷くのをしっかり見つめます。

「わかった。絶対に関わらない。……けどなんで?」

「この事業、後で教會に委託するからよ」

ユルレミは天を仰ぎました。教會の事業に敵対すれば一族郎黨処刑もあり得ますからね。

…………

ある日、エリアス様の元にお義父様であるペリクネン公より急で話をしたいとの書簡が屆いたとのことです。エリアス様は翌日のイーナとの午後のお茶會の時間にお義父様を招きました。

「ご機嫌よう、お義父様」

イーナは淑の禮をとります。

「久しいなペリクネン公、それとも將來の義父殿と呼んだ方が良いかな?」

どうもお義父様の顔が悪いように思います。お義父様はたまに短気な様子を見せることもありましたが、普段は余裕のある人です。今日はいつになく焦りが見え、挨拶もそこそこに、話したかったであろうことを語り出しました。

「本來は陛下に奏上したい儀があったのですが……」

それをエリアス様に直接言うとはあまり品が無いように思います。エリアス様の眉が一瞬顰められました。

「陛下は多忙だ。それでも公爵ともあればそう待たされずに面會できるはず。それすら待てぬ急の話であるか」

エリアス様がそう言うと、お義父様が話し始めたことには、商業ギルドが魔石の買取額を急に半分にするよう伝えてきたと言うのです。

半分ですか……。

「ふむ……」

エリアス様は顎に手を當てて考えこまれます。畳み掛けるようにお義父様は言いました。

「エリアス殿下にとっても他人事では座いませんぞ。我らはもはや一蓮托生。ギルドに圧をかけてやめさせねば」

「分かっている。だが問題はそこでは無いだろう。國がギルド主導で魔石の取引を認めているのは、安定した価格で商取引するという契約の上だ。つまりギルドはペリクネン公が魔石を卸さなくともその価格でなくとも一年以上は魔石を扱えると示したということになる」

「あり得ません!」

「いや、それ無しにその価格を提示することこそあり得ん。ギルド長の首というか、ギルドの存続に関わるからな。公こそギルドの手先に心當たりはないのか」

エリアス様とお義父様が議論されます。イーナは経済を何も分かりません。それでも一つ分かることがあります。

「ヴィルヘルミーナ様」

その呟きはお二人の言葉を止めました。

「あいつが……どうしたって?」

「いえ、何の拠もないですが、彼がなしたのだろうと」

「どうしてそう考えた?」

「あの方はかつてこう仰いました『一つの山に竜は二頭住めぬ』と」

お義父様が激昂されます。

「なんたる言いぐさか! やはりあの時殺しておくべきだった!」

「馬鹿を申すな。あそこで殺していたら余とイーナが認められる可能はなかっただろう」

ヴィルヘルミーナ様はイーナにエリアス様と同じ末路を辿らせてくれると言ってくださいました。そんな彼に弓引く行為は不義理でしょうか?

いいえ、あの方は仰るでしょう。イーナが王太子の婚約者である以上、全力でそれを全うすべきだと。

「ヴィルヘルミーナ様と商業ギルド、あるいは魔石や魔素、魔力、魔といったものとの関係について調べて下さい。それと商業ギルド長の呼び出しを。彼は魔石をその値段で売るようにするなら、その説明をする義務があるはずです」

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