《【書籍化】追放された公爵令嬢、ヴィルヘルミーナが幸せになるまで。》第88話:謁見の間・3

殿下が不快げに鼻を鳴らしました。

「そして余らへの復讐とでもするつもりか?」

「復讐するには甘すぎる、容赦するには苦すぎるのです。わたくしはただ自らが幸せになるためにいてますが、その道を塞ぐ石に慈をかける気にはなりませんの」

「余を路傍の石と申すか!」

ただ笑みを浮かべることで応えます。

陛下が咳払いをなさいました。宰相閣下が聲を上げられます。

「エリアス殿下、ペリクネン公。個人的な話ではなく、本題にらせて貰いたいが宜しいか」

彼らは不服そうではありますが、頷き一歩下がります。

「ペルトラ氏、あなたの発明した魔石製造裝置を現在稼働させているが、特に反応がない」

謁見に先立ち、持ってきた魔石製造裝置を侍従に預けました。商業ギルドに提出したそれと同じものを。

レクシーが発言します。

「商業ギルドでも説明していますが、あれは三日で0.1カラット程度の産出量のものです。先ほど渡してからすぐにという短時間で反応が見られるようなものではありませんね」

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「なるほど。しかしそれであるなら魔石の安定した供給にはほど遠い。商業ギルドが魔石の取引額を下げる理由にはならんな」

「ええ、それに幾度も改良を重ねたものを使用しておりますので」

「その改良したものを使えば魔石価格を大幅に下げられるほどの安定供給が可能だと?」

「機械一つでではありません、何臺も使用してですが」

わたくしも答えを追加いたします。

「閣下、魔石の価格を公定価格の下限に下げたのはギルドの判斷です。ただ、わたくしたちA&V社は現在王國で流通する魔石を全てわたくしたちのものに置換していただくことも可能ですわ」

「馬鹿な!」

ペリクネン公がびました。

ふふ、ペリクネン領の産出量を上回ると告げた訳ですからね。

宰相閣下が陛下へと頷き、陛下が口を開かれます。

「アレクシ・ペルトラよ。その技を國へと供與する名譽を與えよう」

「お斷りします」

レクシーは即答いたしました。

「無論、正當な対価は支払おう」

わたくしは腹の底から聲を出して謁見の間全てに屆けと高く笑います。

「……何がおかしい」

「あまりにも陛下が稽な臺詞を仰るからですわ。ねえ、陛下。わたくしの夫が開発したものの正當な対価として、王國は何を差し出してくれるのかしら?」

「ヴィルヘルミーナ! 不敬であるぞ!」

そう殿下の聲が響きます。

「黙ってくださる? わたくしは陛下に問うてますのよ? ちっぽけな勲章? 準男爵の位とどこか適當な領地? 金貨一袋?」

平民の研究を王家が買い上げることにより、平民側に利がある場合ももちろんありますわ。例えば、個人では実用化まで辿り著けないような開発費を王家が後援者として持ってくださる場合とかね。

でも今回のこれは違いますでしょう? わたくしたちはもう事業を軌道に載せたのです、これではただ果を掠め取ろうとしているだけですわ。

答えられぬ陛下に代わり、宰相閣下が仰います。

「仮に汝らの発明にそれほどの価値があると確認できたら、伯爵位まで渡しても良い」

「たかが伯爵ですか。隨分と見縊られたものですわね」

わたくしは鼻で笑い、そう即答します。

もちろん閣下の言うそれが王國にとって最大限の譲歩だというのは分かっています。平民から敘せられるのは騎士、準男爵、男爵の三位のみ。そこからり上がるとして最高で伯爵まで。公と侯は古くから國に仕えている家にしか與えられませんから。

最初から伯爵に陞爵《しょうしゃく》するという事例は聞いたことすらありませんもの。

「貴様……」

宰相閣下も憤りを見せました。

それでもわたくしにしてみれば、たかが伯爵なのです。

「あなたたち、わたくしが元々どのような地位にあったのか知らないとは言わせませんわよ。わたくしヴィルヘルミーナは公にして將來の王妃、將來の國母でありえたのですわ」

ペリクネン公を、エリアス殿下を、宰相を、王を見渡します。浮かぶ表は怒りか気まずさか。

「それをこともあろうに、たかが伯爵夫人の位をわたくしに與えて喜ぶとでもお思いですか? 冗談ではありませんわ。金貨を天まで積み上げられようと、王家の國寶を下賜されようとお斷りいたします」

陛下が口を開きます。

むならば改めてエリアス、あるいはパーヴァリーの婚約者として……」

「お斷りします。論外ですわ」

陛下の言葉を遮りました。そのような対価など最も不要。

わたくしは振り返るとレクシーの首っこを摑んで頭を下げさせます。

「どうした、ミーナ」

「ごめんなさいね」

周囲に聞こえぬよう、小聲で言葉をわします。

わたくしは踵を上げて、レクシーの頬にを寄せました。きの凍るレクシー。

たっぷり5秒ほどそうしてから、ゆっくりと振り返って宣言します。

「わたくしの隣に立つのは彼しかいませんから」

ξ˚⊿˚)ξ『モブ令嬢テサシア・ノーザランは理想のを追い求めない。』先週の金曜日あたりから購報告頂いておりますが、本日発売です!

みなさまお手にとっていただければ。よろしくお願いいたします。

また今作ヴィルヘルミーナですが、本日より完結まで毎日更新に戻す予定です!

こちらもよろしくお願いいたします。

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