《【書籍化】追放された公爵令嬢、ヴィルヘルミーナが幸せになるまで。》第98話:エリアス殿下の罪

レクシーは説明していきます。あの初めて出會った日の話から始まり、小さい家に押し込められたこと、魔石製作をする機構についてはぼかして話していましたけど、その製作と完、そしてそれを獻上するよう求められたこと、斷れば異端であるとの判斷を下されて捕らえられたこと。

「お疲れのところ長く語っていただき有難うございます。ペルトラ氏」

そう言った後、ナマドリウスⅣ世猊下はしばし考え込まれると、では順番にと言って語り出しました。

「そもそもの罪はエリアス王太子殿下が、既に結ばれていた當時のヴィルヘルミーナ嬢との婚約がなされている狀態でイーナ嬢と不義をなしたことと。エリアス殿下、異議はありますかな」

「……ヴィルヘルミーナはイーナ・ペリクネン、當時のマデトヤ嬢を殺そうとした」

わたくしは手を挙げ、発言の許可をいただきます。

「それは殿下がわたくしを公の場で貶め、平民へと落とし、アレクシ・ペルトラと婚姻させた理由ですわ。その行為の是非は別として、不義はそれよりも前の話です」

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殿下は諦めたように呟きます。

「そうだな。……余と汝の間にはが無かった」

わたくしは頷きます。

は雙方の力でし得るもの。その責はエリアス殿下のみならずわたくしにもあるでしょう。それを育もうという意志を早い段階で諦めてしまった」

わたくしと彼の間にあった関係は無味乾燥としたものになっていた。

教皇猊下は問われる。

「なぜですかな?」

「殿下に拒絶されるのが続いたこと、父に相談しても取り合ってはくれなかったこと。浮気が始まってからは特にですわね。殿下やイーナ嬢を口頭や文書にて何度もお諌めしましたが、結果は変わらず」

わたくしは々上を向いて考える素振りを見せます。

「だから殺そうというのは今思えば短絡的だったでしょう。冷靜に考えれば他にやりようもあったはずです。しかし、父と婚約者の殿下から拒絶されている當時の選択としては、そう問題があったとも思いませんわ」

「無償のを注ぎ続けるのは難しいものです。ペリクネン公はいかがですかな」

「……娘を拒絶など。ただ、靜観しているようにと伝えただけです」

「陛下はいかがですかな? 知らなかったとは言いますまい」

「學生時代の気の迷いだろうと、甘く見ていたのは事実です。ですが、外遊中にあのような婚約破棄を行うなどとは思っておりませんでした」

ペリクネン公のは噓、陛下のは事実ではあるでしょう。ただ、論點をずらして責任を回避しようとしているように思いますわね。

しかし教皇猊下はそこを追求せず、殿下に向き直ります。

「ではイーナ嬢は異論はございますかな」

「いえ、ありません。私は……ヴィルヘルミーナ様に申し訳ないことをいたしました」

は頭を下げます。

ふむ、認めますか。以前直接話したときからなんとなくそう言うであろう気もしていましたが、この場が一つの議論の場であると考えた時、彼の勝利條件とはなにで、そのために何を考えているのでしょう。

わたくしは問います。

「ねえ、イーナ様。王太子妃となるべき教育を一年以上してきたあなたに問いますわ。わたくしがあなたを殺そうとしたのはおかしな振る舞いだったかしら?」

「いいえ、當時のわたしの行いと立場、ヴィルヘルミーナ様の立場と狀況を思えば、それは當然考えられる選択肢であったかと」

「イーナ、余を裏切るか!」

「いいえ、殿下、わたしは決して裏切りません。ただ、正直に思うところを述べただけです」

イーナ嬢はエリアス殿下の袖を摑み、顔を近づけて瞳を覗き込むようにして言いました。

「イーナは、エリアス様の、味方です」

「イーナ……」

「そしてヴィルヘルミーナ様は恐らく……」

こほん。と小さく咳払いを一つ。

「わたくしの心を代弁する権利を差し上げたつもりはございませんわよ」

イーナ嬢がそっとエリアス殿下から手を離しました。

「さて、エリアス殿下。なぜ婚約者ヴィルヘルミーナをせませんでしたか? そうと努力なさいませんでしたか?」

「なぜ……」

エリアス殿下の額に苦悩の皺が浮かびます。

「ええ、経典にせと幾度も書かれているのはそれだけすることが難しいからに他なりません。しかしなぜせなかったのか、どうすればせるのか。どうしたらし続けられるのか。その答えは自らの魂の底に問いかけねばならないのです」

長い、長い沈黙が落ちました。そうして茶葉が開くほどの時間が経ち、ぽつりと聲がれました。

「……先生がヴィルヘルミーナを褒めたのだ。父も、母も」

王妃殿下が扇を取り落とします。

「従者たちも、友人も。奪われていく……気がした」

殿下がこちらを見ます。彼の碧眼が真っ直ぐと澄んで見えるのは隨分とい頃以來であるような気がしました。

「済まなかった。全ては10年の遅きに失しているが、余は汝を敵だと思っていたのだ。そんな筈はなかったのに、一番の味方であった筈なのにな」

わたくしは黙って頷きます。

エリアス殿下はおぼつかぬ足取りで立ち上がりました。

「陛下、教皇猊下。余は……私は王位継承権を放棄したい。その罪の全てを認め、罪人として裁かれることを待ち、その罰を全てれよう」

そして両の膝を床につきました。

「そしてもし許されるならイーナの助命を」

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