《【書籍化】追放された公爵令嬢、ヴィルヘルミーナが幸せになるまで。》第99話:研究員の引き抜き

エリアス殿下は続けます。

「余は民衆の前で首を落とされても構わぬ。それだけの罪を犯した。ただ、イーナは罪を犯していない」

わたくしはその言葉に鼻で笑って見せます。

「イーナ嬢とて人の婚約者に橫慕しているのですから、それは罪ですわよ。その相手が王太子で、略奪した相手が公爵の娘であるならその罪は軽くはないですわ」

エリアス殿下はこちらを見上げます。

「ただ彼がわたくしの失腳などの謀に関わっていないと判斷されるのであれば、それは死に値する罪ではないかもしれませんね」

別にわたくしは元よりイーナ嬢を殺したいほど憎んでいる訳ではありませんし。殿下たちだって正當に罰せられるべきですが、その首を刈って楽しむような趣味はありませんの。

でもこう言っておけば、ねえ?

殿下は床に膝をついたまま語り出しました。

「ペリクネン公とはヴィルヘルミーナとの婚約破棄を行う前から、彼を排除してイーナ嬢を養子とするよう話はついていた」

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「やめなさいエリアス殿下!」

「ペリクネン公、靜粛に」

「ペリクネン公と彼の執事によりヴィルヘルミーナが公の配下である暗殺者をかすように仕向けていたのだ。そしてそれを知っていれば、王太子派の騎士により適切な護衛ができる」

ああ、殿下とペリクネン公が約していたであろうことは想像できていましたが、なるほど。そこから導されていたのですか。確かに公爵家の暗殺者がイーナ嬢を殺せなかったのは不自然ではあったのです。

マッチポンプというやつですわね!

こうして彼の口からはペリクネン公とヨハンネス樞機卿の関與、それと王太子派の貴族や騎士の名が出されました。そして王家の影の私的な流用についても。

「國王陛下、王妃殿下についてはこの件に関與していません。無論他の王子王も。外遊から戻られて陛下に叱責され、王太子から外すことも示唆されましたが、結果としてはそのままでした」

「彼の相手に私を選んだのはなぜです?」

レクシーが問います。

「すまんが、平民なら誰でも良かったのだ。勲し、公爵家の問題ある姫を下賜するにはちょうど良い口実があり、商家など特に裕福な者でなく、気位の高い貴族令嬢を嫁がせて困するのであればな。我が派閥の貴族にかつて汝が勤めていた研究所の所長がいて、そこからの推薦であった」

教皇猊下が仰います。

「その貴族も審問するかね?」

「いや、構いません。彼はどうせ立ち行かない」

「ほう?」

「A&V社で平民の優秀な研究者を全部引き抜いていますから。貴族子弟の方が高度な學問をけやすいことは事実でしょうが、それについていける平民を冷遇していてはね」

教皇猊下は楽しそうに笑まれます。

「なるほど、特に罰さなくとも地位が失われるということかね」

「ええ、引き抜いた彼らは有能で、楽しそうに働いてくれますよ。國王陛下が研究容を掠め取ろうとしたのも分かる。魔石製作機を自國で開発しようとしてもできないのでしょうよ。研究の準備や地道な時間の掛かる研究、結果の纏めなど裏方の仕事をしていたものが研究所にいないのだから」

陛下は目を逸らしました。研究所の質の低下という側面。なるほど、レクシーは自分と同じ立場であった者たちを救うと同時に、こうして相手への打撃も與えていたのですね。

「國立研究所に大々的な引き抜きをかけるとは……」

「貴族と平民の分の差だけで待遇を大きく変えすぎだったのですよ。労働時間の平均は貴族の研究員の倍近く、給與は半分に満たない。その待遇がおかしいだけです。今のウチだって國立研究所の貴族の研究員ほどに金を渡している訳じゃあない」

わたくしも頷きます。

そうですわね。會計面の管理はわたくしが社の管轄ですが、今我が社で雇っている研究員たちは平民として明らかな高給取りですが、貴族の研究員よりは安い。勤務時間も元よりずっとなくしているのですが、無給でも良いからキリの良いところまでやらせてくれとよく陳が上がってきますから。

結局、給與には反映させませんが、魔素集積と結晶化のレクシー號、ミーナ號のバージョンが上がるたびに果給として與えています。……あら? それをれると貴族の研究員以上に稼いでいる気も。

「所長も貴族、研究所を監査していたのも貴族ですわ。その管轄は陛下や宰相閣下のものです。彼らが報告を改竄しているのに気づかなかったのか、報告はなされていたのに無視していたのかは存じません。ですが無能の責任転嫁は困りましてよ」

「無能とは何たる無禮を!」

「無能の責はここで問いません。ですが、アレクシ・ペルトラが研究所にるより前からそれは常態化していた筈です。國家の百年先を見據えて平民へ學問の門戸を開き、研究者として雇っていた國策が、このような有様で放置されていたのを無能と言わずしてなんと致しますか」

わたくしたちでなくとも、例えば隣國に引き抜かれる可能もあったのですから。

教皇猊下は頷きます。

「では良いかね? ペルトラ氏が異端の嫌疑を押し付けられた話に戻ろうか」

ξ˚⊿˚)ξ今話の投稿で20萬字を超えました!

おい作者、第一話の前書きで何て言ってたか覚えてるか……。と言われてしまう案件。

仕様仕様。

まあともあれ、クライマックスも佳境。完結も近いかなと。

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