《【書籍化】追放された公爵令嬢、ヴィルヘルミーナが幸せになるまで。》第101話:斷罪・前

「そしてこう続けようか、王家の資質に難ありと認めた、とね」

教皇猊下、神の地上での代理人が有する伝家の寶刀です。

この周辺の國は皆同じ宗教を奉じていますからその権威は絶大。東方の帝國より向こうは獨自の宗教ですが、それは教皇の権威を認めていないわけではない。互いの寶や文を定期的に換し、流が図られていますから。

これを言われたら王としてではなく、國家として終わりです。

つまり、自分で自分にわたくしたちの納得いくように引導を渡せと。さもなければこれを宣言するぞという強烈な脅しですわね。

陛下が押し黙っていると、ぽつりと聲が落ちました。

「陛下、もう取り繕うのは無理でございます」

ずっと黙ってこの話を聞いておられた王妃殿下です。

「わたしと陛下は件の事件の後、王位継承権を長男のエリアスではなく、次男のパーヴァリーに継がせるべきかと相談していたのです。ただ、エリアスとイーナ嬢は國民に人気があり、貴族の派閥も強かったことがあり、即斷できませんでした」

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第二王子の擁立、それも第一王子が國民に人気が出てしまっているとなると國をすというのは確かにとても良く理解できます。

わたくしは頷き、続きを促します。

「エリアスたちも最初は醜態を曬していました。ヴィルヘルミーナさんがいなくなって男爵家の令嬢であったイーナさんでは當然ですわ。それでも段々と改善され、陛下もわたしもこれならば大丈夫かと思っていたのです。それがあなたたちの犠牲の上にり立っていることを忘れて。いや、見ないようにして」

そうですわね。貴族の令息、令嬢の友人たちからもエリアス殿下たちの悪評は減っていることをじていました。

「本當に申し訳ないことをしたわ。そしてあなたたちの研究が果を上げたらそれを取り込もうだなんて蟲の良すぎる話というものよね。あなたたちにも心がある。ヴィルヘルミーナさんが貴族令嬢であればそれを命ずることができたとしても……」

「平民ゆえに軽であるのは事実ですわ」

つまり、土地と民を有していませんから。屋敷などの不産もあれど、別にそれくらい放棄してもすぐに稼げてしまいますしね。

「陛下に代わりて謝罪いたします。また、息子の分も、もちろんわたし個人としても、申し訳ございませんでした」

そう言って立ち上がり、額の寶冠を外すと深々と頭を下げられました。

王族としてはじられている頭の下げ方です。ですが、せめてもの誠意を盡くそうという気は伝わるものでした。

「……謝罪を、れますわ」

さて、陛下は自に引導を渡すか、破門されて國ごと破滅するか。

ゆっくりと陛下は口を開かれました。

「ヴァイナモⅢ世としての最後の命である。ペリクネン公を奪爵し、殘る生涯の蟄居を命ずる」

……どうやら前者を選ぶようです。

ペリクネン公が項垂れました。

「第一王子エリアスの王位継承権を剝奪し、第二王子のパーヴァリーを王位継承権一位とする。そして我自は年に王位を退き譲位するものとする。宰相、汝が王の職務についての仔細は補い、3年以に退陣するように。年明けに我らとエリアスらは自害することとする」

まあ、自死を選ぶと言っているのです。王として厳しく裁定したと言えるでしょう。

王は冠をぐと立ち上がり、椅子の上に冠を置きました。そして床に跪きます。

宰相閣下が「陛下!」と悲鳴のような聲を上げ、控えていた近衛たちも騒めきました。

「もはや王ではなくなるのだ。先に頭を下げても構わんだろう」

そう言って手を床に突きます。

「アレクシ・ペルトラよ。愚息が犯した罪、騙し討ちのような結婚をさせ、勝手に住居を移させ監視していたこと。親として謝罪する」

殿下もまたその場で叩頭《こうとう》しました。

「そしてそれを謝罪するでも補償するでもなく放置していたこと、研究所の腐敗に気付かなんだこと。汝が研究の果を取り上げんとしたこと」

陛下は先ほどまでヨハンネス樞機卿が座っていた空白の席に視線をやります。

「ヨハンネス樞機卿に異端の嫌疑を告発したのも我である。誠に申し訳なかった」

レクシーは頷きます。

「謝罪をれましょう」

そうして陛下はこちらを向きました。

「ヴィルヘルミーナ・ペルトラよ。愚息が犯した罪、親として謝罪する」

再び殿下もまたその場で叩頭します。

「そしてそれを謝罪するでも補償するでもなく放置していたこと、汝が名譽を傷つけ回復させなかったこと、汝の夫に無実の罪を著せて捕らえさせたこと。誠に申し訳なかった」

隨分と丁寧に謝罪いただけました。一國の王が地面に手を突き平民に謝罪するなどあり得ぬことであり、その真摯さが伝わるものであります。

むろん、陛下の心を見通せるわけではありませんし、この謝罪が猊下の脅しによるという側面はあるでしょう。ですが、その聲やそもそも猊下より前にわたくしたちに謝罪していることから、なからず本心からの謝意を示してくれていることは明らかではあります。

ふむ。

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