《【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。》第三話 円卓の騎士団(ナイツオブザラウンド)
この世界は危機に瀕している……。
何気なく過ぎる日常、そして一見平和な世界。戦爭は遠い國で行われており人々は平和というぬるま湯の中に浸かり切っていた。しかしその平和の間に、しずつ猟奇的な事件が増えていることに人々はまだ気が付いていない。
『通學中の學生がバラバラにされて殺された』
『田舎で森にったまま帰って來なくなった父親』
『路地裏で何かに食われて死んだ會社員』
新聞では小さな扱いにされているそれらの猟奇的な事件は実は全て繋がっていた。……降魔被害(デーモンインシデント)、猟奇的かつ通常では説明できない事件。
降魔(デーモン)という存在が國際機構に認知されたのは一九八六年のことだった。とある國で起きた発電所事故、その後から世界各國に不思議な目撃証言が相次ぐようになった。
『竜が空を飛んで人を捕食した』
『を吸う吸鬼が現れた』
『牛の頭をした巨人が斧を振るって軍隊を壊滅させた』
『不思議な力を使うものが現れた』
そんなファンタジーにもありそうな事件が相次いだのだ。當初はUMAの出現か! とテレビやラジオで持て囃された事件だが、オカルトブームが終息するに従って興味を持つものがなくなっていった。
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オカルトブームに便乗したと言われたこれらの事件、國際社會が設立した特殊機関『円卓の騎士団(ナイツオブザラウンド)』通稱KoRが報の匿を目的として、デマとして意図的に隠蔽した報である。
インターネットの普及に伴って、完全な沈靜化は不可能であったものの、今では掲示板などに報がリークされても『デマ乙』『妄想キター!』などの言葉で片付けられるようになっていた。
しかし、これらの報は全て真実であった。降魔(デーモン)という存在が別の世界とこの世界をつなぐを辿って、この世界へとやってきているのである。そしてその降魔(デーモン)が振りまく魔素の力により、人間の中から數ではあるが先祖返りを果たし、魔法や呪の力を取り戻した人々が出現するようになった。所謂異能力者である。
ただ、人間が扱う魔法、呪はまだ拙い。そして力を顕現させた者は大半がKoRの捜査の網にかかり、スカウトされ降魔と日夜戦っている。
新居 燈も中學生の頃に素手で降魔(デーモン)を撃退したことでKoRのスカウトをけた。
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そして彼らは驚愕した……新居 燈はこの世界ではありえないレベルの能力、そして驚くべき戦闘能力を有していたのである。すぐにKoRは燈を説得、スカウトして新居 燈もそれに応える形で以來KoRのお世話になっている。
円卓の騎士団(ナイツオブザラウンド)日本支部=通稱KoRJは新居 燈を含めた能力者たちを主戦力とした超武闘派集団、そして日本の仮初の平和を守る戦士たちであった。
処は変わって、都心を走る電車の社。男子高校生折田 隆史(おりた たかし)が、神さまと崇めるを見つめて心の中で彼へのの詩を歌い上げていた。
『拝啓、麗しの君。
今僕は君の座っている席から、し遠くの席に座って君を想っています。
君は今、手作りのブックカバーをかけた小説を読んでいる。
そのらかな手でページを捲るたびに、僕の心は高鳴ります。
どんな小説を読んでいるのでしょうか? 頰にさす朱。
しい小説を読んでいるのでしょうか、桜のが深く吐息をらしていますね。
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同じ空間にいるだけで、同じ空気を吸っていると考えるだけで僕は幸せです。
どんなが好きなのでしょうか? 僕は君のブックカバーになりたい、ああ……なりたい。
麗しの君……君の名前も僕は知らない。青葉高等學園の制服を著た君。
教えてしい、しい神よ、いつか君のを僕にくれないか』
電車に隠れるように座る折田以外の男客たちも、一人のに釘付けだった。長い黒髪は夜の闇を凝したような輝きを、の神ですら嫉妬するであろうしい風貌、大き目の、らかな首筋、膝よりし短いスカートから覗く白い素足。小説のページを捲るたびにほぅ、と桜のかられる艶かしい吐息、ほんのり朱のさす頰にれる細い指。
ですらそのしさに嫉妬を忘れるようなしい、新居 燈が電車の席で小説を読んでいた。あまりの神々しさに彼の周りはし離れてしか座ることができなかったので、何を読んでいるかは判らず遠巻きに見つめるだけである。
「ああ、なんてしい……歳三様と同じ時代に生まれたかった……」
私は誰も聞こえないように小聲で獨り言をらす。
読んでいる小説は、とても子高生が読まないであろう幕末に生きた新選組副組長である土方歳三の生き様を書いた、私が最もお気にりの一冊だ。わざわざミカちゃんと一緒に選んだピンクの布で手作りしたブックカバーを使って、一見小説でも読んでいるような偽裝を施してある。
まあ、なぜかというとミカちゃんに『電車でそんな小説読んでる子高生いないから! 人格を疑われるからカバーをしなさい!』と怒られたから。別に私は気にしないんだけどなー、って話したらものすごい剣幕で叱られたので泣く泣くこのような工作をしている。
私のお気にりのシーンは歳三様が負け戦と知っても最後の突撃を敢行し、そして敢えなく討ち死にをするシーンだ。ここだけは何度も読んでしまう……戦士同士のシンパシーのようなものをじるのだ。
この時代ではなく歳三様と同じ時代に生まれて、彼とともに轡を並べて戦えたのならば。私は彼のために全力を盡くして新政府軍を打ち滅ぼすだろう。そうしたらこの世界は多変わっただろうか?
「どうしてこの時代に……生まれてしまったのだろう」
打ち震えるの高鳴りを抑えるように、ほぅ……とため息をつく私。そのため息ひとつで周りの男たちが同じようにため息をついている。なんでシンクロしてるんだ、この電車の人たちは。
正直に言えば私を見ての対象や、の眼差しを向けてくる男がたくさんいることはわかっている。でも前世が剣聖だった男なのだから、男から目を使われても困ってしまうのだ。そういう目で見ないでくれ、と心では願っている。
小學校、中學校でも何度も告白された記憶がある。
顔を真っ赤にして告白する男子を見て、ちょっと可いなって思ってた……全部斷ったけど。
ひどい時には強目的の拐未遂にすら出くわした……犯人は鉄拳制裁したけど。
みんな私のことを興味深そうに、好奇の目で見ている。それが本當に辛い時もある。
そりゃあこんな貌のが歩いていたら見ちゃうだろうなとは思うけどね……時折とても辛い。
だから小説を読んでいる時だけは周りの目を気にせず沒頭できる。通學に使っている電車で、思う存分小説を読んで過ごすのが私の日課だ。ページを捲り……次のシーンで再びし吐息をらす。
燈の吐く吐息に合わせて周りの男も同じようにドキッとする。不思議な景がそこでは繰り広げられていた。
KoRJは都心からし離れたとある駅の駅前にあるビルにっている。駅の周りにはこのビルほど高い建は無いため、かなり違和のある景に見える、らしい。この立地になったのは、首都高速の出り口が近く利便が高いのと、電車で一駅向かうとすぐに環狀鉄道のハブ駅に到著できるからだ、という話だった。
り口にり、付に向かう。ビルの來客にもジロジロとこちらを見てくる人がいるが、これは制服姿の子高生がなぜこんな場所に? という好奇の目だと思って我慢する。
KoRJ専用の付に著くとKoRJに雇われている付嬢、名前は確か……右の人が桐沢さん、左に座ってるのが益山さん、だったかな。
二人は私が付に歩いてくるのを見て、立ち上がって笑顔でお辭儀をする。
「燈ちゃん、今日もバイトなのね。うちも人使い結構荒いわねえ……」
「はは……大丈夫ですよ、館の付をお願いします」
そんな彼達に私も軽く頭を下げて、いつも使っているピンクのパスケースにっている私の館証を提示する。
「燈ちゃん、それ可いね、彼氏からのプレゼント?」
桐沢さんが私のパスケースを返してくれた時に、カバンについている黒い熊のキャラクターを見つけて笑顔を見せる。
あー……これはミカちゃんと一緒に買いへ行った時に買ったアクセサリーだったっけ……熊なんて前世だと、危険すぎて討伐対象になったようなレベルのものが多かったけど、現世ではなぜかキャラクター扱いだったりしてそのギャップにちょっとが沸いたのだけど、ものしそうな顔している私を見て、ミカちゃんがわざわざプレゼントしてくれたものだ。
「同級生がくれたんです、私の髪のに近いからって……彼氏からじゃ無いですよ、私彼氏なんていませんし」
苦笑しながら答えると桐沢さんはし驚いたような顔を見せる。なぜか彼の頰にも朱が差している。
驚くのも仕方ないだろうな、私結構無想な時期が多くって付嬢の間でも「鋼鉄の淑(アイアンメイデン)」とかってあだ名がついてたらしい……年相応に笑顔を見せるなんて最近からだし。
「三〇階の部長室へ向かってね、あまり無理はしないようにね」
益山さんは手元の端末を作すると私に笑いかける。
小さく手を振って、笑顔でありがとうございますと答えて私は三〇階へと向かうべく、専用エレベーターへと歩き出す。ふわりと長い黒髪が揺れ、まるで夜の闇を凝したベールのように見える。
「はー、燈ちゃんマジ可いわー」
「彼氏いないって本當なのかしらね? 狙ってる男子は多いと思うんだけどねえ……」
桐沢と益山は燈を前にした時の謎の張から解放されて、ため息と共にそんな獨り言をらした。
そんな二人を目に、黒髪を靡かせた新居 燈の後ろ姿が遠ざかっていく……。そんな新居 燈の後ろ姿を見ながら桐沢は呟く。
「最近本當にらしくなったよねぇ……みんな気になって仕方ないと思うんだけど……」
_(:3 」∠)_ 昔尖ってた僕はブックカバーなんか邪道だと思ってました(恥
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