「コードネーム妖(ピクシー)及び、あら……違った、戰乙(ワルキューレ)行を開始します」

先輩がインカムに作戦開始のコールを送る……私は行開始前にあまりやらない行なのだが、彼は生真面目にきちんとこういったことを遂行できるところが素晴らしい。

先輩の妖(ピクシー)というコードネームは、彼の使う念力(サイコキネシス)が妖が悪戯をする様子に似ているから、と職員さんが話していた。

とはいえ彼と一緒に行した人からすれば、言葉から連想される優しいイメージではないそうで『もっと強そうな名前にしちゃえばいいじゃん』と提案されることが多い、と先輩は苦笑してたっけ。

「新居さん、捜索範囲を広げたい……まずは個別に行しよう」

先輩がスマホで地図を見せて、私たちの今いる場所を指し示す。私は時計回り、先輩は反時計回りに公園を一周するようなコースだ。

「この公園はランニングコースが併設されていて、それに従ってけば部を網羅できるね。このコースで回って、最後に反対側にあるレストハウス前で落ち合おう」

私は先輩のスマホを何気なく覗き込む。ほうほう……確かにコースに沿って歩けば網羅できるのだね。

彼のスマホを持つ手がし震えた気がして、なんでだろう？　と思って先輩を見ると、彼と私の顔の距離が思ったよりも近かった。

至近距離で私の目と先輩の目が合い……先輩はしだけたじろいだような表を浮かべて頬を赤くしている。

分かり易いくらい揺し続ける彼がしだけ可いな、と思い先日ミカちゃんが見せてくれた雑誌で『憧れのあの男(ひと)を落とすテクニック一〇選』という企畫に書かれていたポーズ……ちょっと首を傾げて髪をかき上げながら、彼の目を見つめる。

ふっふっふ、私はイタズラも大好きな小悪魔系子高生なのだ！　これをやっているのが前世が三〇代のおじさまだった私がやっていることにし悲しさをじるが……決して前世の姿を思い浮かべないようにしよう。

そんな私を見ながら……先輩は何度も口をパクパクさせたり、何かを言い淀んだりしている。

「あ、うっ……ち、近いっ……なんて良い匂い……はふー、はふー……行はそれで、い……良いかな？」

何度か先輩は深呼吸をして、ようやく絞り出すように口を開いた。

よしよし、よく言えました……可がっている弟子が新しい技を披できた時の師匠の気持ちのような、褒めてあげたくなる気持ちが芽生えて私は彼に微笑む。

「大丈夫ですよ。気をつけてくださいね、先輩」

顔の赤かった先輩はすぐに気を取り直して、じゃあと手を振って別の方向へとし小走りに走り出す。私も笑顔のまま先輩に軽く手を振るとのんびりと歩き始めた。

私は公園をゆっくりと歩いている。

いつでも腰の日本刀を抜けるように柄に手をかけたままだが、意識はどちらかというと周囲の微妙な音や、異変を察知するために覚を研ぎ澄ましている。

とても細かい……おそらく蟲がいたであろうれるような音や、夜風に吹かれて葉から落ちていく水滴が地面にぶつかる音が私の耳には聞こえている。

息遣い……これは貓だろうか？　歩いている私を見て張したのか、息を呑む音が聞こえる。

「今のところは……何もない、かな？」

歩きながら牛巨人(ミノタウロス)についてし思案を巡らせることにする。

前世の彼等は優秀かつ勇猛な戦士であるのだが、欠點として兇暴化(バーサーク)という特徴を持っていた。敵にすると非常に恐ろしい種族……だけなら良いが、兇暴化(バーサーク)狀態の牛巨人(ミノタウロス)は敵味方の區別がつかず、くものを殲滅するまでひたすらに武を振るい続けるという大変殘念な特徴があった。

かなくなるまで切り刻んで殺すか、鎮靜(カーム)の魔法をかけるかしないとダメだったな。

失敗談になるが牛巨人(ミノタウロス)の傭兵を味方にれて大規模な戦闘に臨んだところ、彼が兇暴化(バーサーク)してしまい、味方陣営にも大きな損害が出るという失態を冒した。

その時は仲間の魔法使いがすぐに鎮靜(カーム)をかけてくれて、牛巨人(ミノタウロス)は大人しくなりその場で昏倒して寢てしまった。

本人は悪気もなくいつものように翌日も明るく挨拶してきたのだが、流石に『次同じことが起きたら大損害じゃないのか？！』と仲間が萎してしまい……め事になるくらいなら、と最終的にはし多めの賃金を支払って離をお願いした、という記憶がある。

ちなみに兇暴化(バーサーク)発のトリガーは自分のが流れること、だったかな？　つまり怪我をしたら一〇〇パーセント暴れ出すのだ。めちゃくちゃ迷な生きである。

「はあ……またあれと戦うことになるのか……」

私は自の記憶を探っていき、本當に厄介な相手だな、と嘆息する。

牛巨人(ミノタウロス)の中でも上級の戦士は腕力だけでなく、技においても一流だったものが多く、兇暴化(バーサーク)するまでは剣聖ノエルと十分に渡り合えるレベルの実力者が存在した。

その時ふとそう遠くはない場所に軽い振をじ取り、私はその方向へと顔を向けると、確かにじる……そして振が今止まった。これだけの重量が歩いた気配……目的の場所だろう、と急いで走り出す。

目的の場所はすぐに見つかった……短めの草に覆われているし広めの広場、その中心に恐ろしく巨大な影が腰を下ろしていた。

巨大な二本の角、赤い目、雄牛の顔。そして三メートル近い筋質の。大戦斧(グレートアックス)の柄の先端に手を置き、その手の上に気だるそうな表で顎を乗せている。

何かの臺の上に腰を下ろしているが、巨の重さに耐えきれなかったのかそこにあったであろう造形はひしゃげてしまっている。

「——牛巨人(ミノタウロス)」

私は柄に手をかけたまま歩き、一定の距離をとって対峙する。

サラサラと頬をでる心地よい夜風に私の長い黒髪がたなびく。

こちらに気が付いた牛巨人(ミノタウロス)が、私を見て嬉しそうに口元を大きく歪めるのを見て、ああ……これは彼らの笑い方だ。と懐かしさを覚えて私はしだけ傷的な気持ちに心を支配されそうになる。

ゆっくりと牛巨人(ミノタウロス)が立ち上がり両手で大戦斧(グレートアックス)を力強く握りしめ、非常に無駄のないこちらが心するくらいの構えを見せたことで私は慌てて意識をれ替える。

腕力を生かして斧を力任せに振るうのかと思ったが、目のはとても理的で私の出方を油斷なく見つめている。

構えを道に行ったもので、私から見て何らかの武を習得しているであろうこ(・)い(・)つ(・)は(・)で(・)き(・)る(・)や(・)つ(・)だと思う。

私は日本刀を片手で持ち、し腰を落としていつでも飛び出せるような勢をとって相手の出方を伺う。

牛巨人(ミノタウロス)はジリジリと大戦斧(グレートアックス)を構えたまま間合いを詰める。お互いの間合いを探るべく、私もゆっくりとギリギリの距離を移していく。

一瞬の後……私と牛巨人(ミノタウロス)がほぼ同時に地面を蹴る。距離を詰め全力で縦切りで振われる大戦斧(グレートアックス)が視界いっぱいに広がる。その攻撃を當たるか當たらないかギリギリのラインを見極めて私はを躱し、カウンターで武を持つ手を狙って刀を薙ぐが、相手の攻撃を避けながらの攻撃は速度が落ちすぎた。

日本刀の軌道から狙いを察知したのか、斧から片手を離し回避する牛巨人(ミノタウロス)……日本刀の先端は空を切り、それと同時に地面へと大戦斧(グレートアックス)が食い込み、轟音と共に地面に大きな亀裂が走る。

結論として初撃は雙方當たらなかった……追撃を恐れてお互いが呼応したように、すぐに後方へと飛び退る。

私は最初からカウンター狙い、牛巨人(ミノタウロス)は腕力を生かした斬撃……お互いの狙いはこんなところか。

お互いの視線がぶつかり、ピリピリとした張が走る。牛巨人(ミノタウロス)の反神経はこちらの予想外の速度だ……単なる腕力任せではない、というのが理解できる。所謂達人ってやつだ。

彼自の絶対的な能力と、膨大な反復練習による訓練に裏打ちされた戦い方なのだろう、振り下ろす作に迷いというものをじられない。

一方で牛巨人(ミノタウロス)も私の剣を警戒している……カウンターの対応速度としては私の方が遙かに早い。

下手に手を出すとカウンターで斬られることが理解できているのか、そう簡単には手を出してこなくなり、ジリジリとお互いの間合いを探るように移している……よく見ると彼の息も荒く、口元から何度も涎が飛び散っている。

「はぁっ……はぁあっ……！」

私も変わらない……張しながらも大きく息を吐き、息を整える。

先程の牛巨人(ミノタウロス)の一撃、しでもれてしまったら……とふと恐怖で背筋が冷える。

前世で何度も戦い、何度も勝利し、幾多の敵を打ち破ってきた私とはいえ、確実に死ぬであろう攻撃を間近で見ると流石に怖いのだ。

経験上恐怖をじない戦士はすぐ死ぬ、怖いから生き殘るために必死になるのだ。それは剣聖(ソードマスター)とまで呼ばれたノエルの記憶からでもよくわかる……前世の剣聖(ソードマスター)ノエルはそれを知っていた。

再び日本刀を構えて……湧き上がる恐怖を押し殺し、目の前の狀況へと集中する。その姿を見て牛巨人(ミノタウロス)が武を擔ぐような半の構えになる。

ジリジリとじる牛巨人(ミノタウロス)の殺気、次で確実に仕留めようとする強い意志をじる。

「ーー次で決めるって顔ね」

次の瞬間相手が先にき、私はそのきに呼応して一気に距離を詰めていく。

凄まじい裂帛の気合とともに上段から大戦斧(グレートアックス)を振るう牛巨人(ミノタウロス)……私に向かって振り下ろされる一撃必殺の斬撃。

「ミカガミ流……幻影(ゲンエイ)ッ！」

私は相手の攻撃に対し紙一重でを回転させて避け切ると、電石火のカウンターを牛巨人(ミノタウロス)の肩口へと叩き込む……そして牛巨人(ミノタウロス)が放った力任せの一撃は私がそれまでいた地面に武をめり込ませる。

これぞミカガミ流剣のカウンター攻撃である幻影(ゲンエイ)……ほぼ完璧なまでに鎧のような筋を裂き、食い込んでいく私の攻撃。

追撃を避けるために食い込んだ日本刀を力任せに引き抜くと飛沫が上がり、痛みに悲鳴をあげて牛巨人(ミノタウロス)が後退する。

牛巨人(ミノタウロス)は片手で流れ出すを拭い……付著したを眺めていたが、何かの衝に襲われるかのようにが大きく震えた。

彼の目から理のが消えていき、不気味なまでに煌々としたへと変わっていく、狂気に満ちた眼だ。一度大きく吠えるように聲を上げると、私を睨みつける。

それまででも大きかったが、怒りと狂気でさらに大きく筋の鎧のように盛り上がっていく。

再び大きく吠え聲を上げると、兇暴化(バーサーク)した牛巨人(ミノタウロス)が地面を震わせながら一気に距離を詰めてきた。

_(:3 」∠)_ イタズラ好きな小悪魔系子高生　あかりん（前世はおっさん）

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