多くの人がじない違和はいつも、普通の日常から始まる……そんな夜に浮かぶ月は変わらずとてもしい。

東京灣に浮かぶ人工島オダイバ……ショッピングモールや娯楽施設が立ち並ぶ人気の観スポットだ。

元々は古い時代この國が戦士の末裔だった頃に、外國からの脅威から首都を守るために建造された海上砲臺を設置するための防施設だった。

未曾有の大戦が終わりこの國に平和が訪れた後、大規模な都市開発の中で計畫された臨海副都心の一部として開発が進んだ地域でもある。

「この島の良いところは、侵経路が限られており防衛がしやすい點、一度人を閉じ込めた場合に出経路が限られているため管理がしやすい點ね」

荒野の魔(ウイッチ)ことアマラ・グランディは、二人の部下と共に黒のリムジンでオダイバを視察していた。彼が設置を進めていた『隠し球』はこの人工島の各地に設置されており、実行を待つだけになっている。

異世界とこの世界を強制的に繋ぐ門(ゲート)……使用可能な時間は短く、呼び出せる量はないのだがこの島を制圧するくらいの戦力は召喚できるだろう。

「荒野の魔(ウイッチ)よ……暴(ランペイジ)、いやあなたの呼び方は謝祭(カーニバル)でしたか……開始の下知をお願いします」

「そうよ……せっかくのお祭りですもの、皆さんに楽しんでもらいましょう」

目の前に座るスーツ姿……一見するとビジネスマンのようにも見える、かなりの悪い白いと赤い目をしている男がアマラへと頭を下げる。

アマラは靜かにニコリと笑うだけでその男の問いには答えずにいる。

現在アマラの部下は二名、目の前のビジネスマン風の男……吸鬼(ヴァンパイア)として転生したロバート・バリー、彼は契約者(コントラクター)となったアマラに仕える部下の一人。

もう一名はその隣にいる護衛(ガード)を務める寡黙な男……ドゥイリオ・ルビオという國籍も、出地すら不明な謎の剣士だ。

ぱっと見の外見は中東の男でありしのが濃く髭をきれいに整えた男だが、傍らにはその姿には不釣り合いな印象の鞘にった片手半剣(バスタードソード)が置かれている。

ロバートはし訝しげな顔を浮かべて自らが敬する荒野の魔(ウイッチ)の顔を見つめる。ドゥイリオは特に気にした様子もなく、押し黙ったまま座っている。

アマラが自由にかせる戦力のうち、強力な降魔(デーモン)は後二……人のでは倒すことのできない怪が存在している。

そのほか不死者(アンデッド)や幻獣、魔獣の類など複數の戦力を用意している。

「私たちの目的は一つ、このオダイバを制圧してＫｏＲＪの主要メンバーをこちらに引き付け殲滅すること。そのための準備はすでに終わっている。あとは確実にトドメを刺していくだけよ」

特にあの……ララインサルが言うところのミカガミ流の剣士は要注意だろう。戦闘能力が高すぎる……不確定要素として不安をじるが、大丈夫最悪私がいれば倒せるはずだ、あの方もそうんでいる。

「荒野の魔(ウイッチ)よ、あの剣士は私が相手をします」

ドゥイリオが久々に口を開いた……とロバートはし驚いたように側の仲間を見る。仲間とはいえドゥイリオはララインサルが連れてきた男……魔剣を使う剣士で、この世界では存在しない不思議な剣を使うと説明されている。

「お任せしますよ、この世界では剣士は貴重でしてね……あのを止められるものがいるとすれば、同じ剣士であるあなたでしょうね」

アマラはドゥイリオを見つめてし艶っぽく笑う。アンブロシオの命令でララインサルがどこから連れて來た男……アマラ本人の見立てでは明らかにこの世界の住人ではない、と思う。なんというか纏っている雰囲気が歴戦の戦士のようにも思えるのだ。

「お任せあれ……そのが使う剣が気になっておりまして、実際に手合わせをしたいと思っておりました」

ドゥイリオはアマラに不用な笑みを向ける……こういう表は嫌いではない。アマラは頷くと窓の外へと目を向ける。良い月夜だ、このような夜に見える月はしい。

「この國では月にウサギがいる、というのでしたっけね……」

銀の月を見ていると、昔彼のことをとても真剣な目で見つめてきたアーネストのことを思い出してしまう。今は関西で目撃されているというが、大丈夫……この謝祭(カーニバル)には間に合ってくれるだろう。

ああ、する……いや(・)し(・)て(・)い(・)た(・)アーネスト……私は本當のを手にれてしまったから、あとはあなたを殺すだけしかを表現する方法がないの。

「さあ、謝祭(カーニバル)を始めましょうか……この世界を震撼させる謝祭(カーニバル)を、……この世界の人たちに伝える言葉があれば、私はこう伝えるわ」

アマラは邪悪な笑みを浮かべながら、パチンと指を鳴らすと……ロバートとドゥイリオがそっと首を垂れ……闇に掻き消えるように姿を消していく。

リムジンを止めて、車を降りると夜風にそっと靡く髪を抑えながらアマラは笑みを浮かべたまま獨り言を呟いた。

「Ｗｅ　Ｗｉｌｌ(お前達をあっと)　Ｒｏｃｋ　Ｙｏｕ(いわせてやろう)とね……」

「ねえ、夜の海ってし怖いよね」

「そうだねえ、引き寄せられるような覚があるよねえ」

砂浜でを語らっていたが夜の東京灣を眺めながらする男へとつぶやく。男は頷くと彼のするをそっと抱き寄せて黒い、とても黒い夜の東京灣へと視線を向ける。

そこで彼らは違和に気が付く……彼らの目の前に海の中からゆっくりとを曬した金髪碧眼のが姿を現す。とてもかな房を曝け出したままのそのは、男の唖然とした視線に気がつくと優しく微笑む。

「バラー……ドゥジェルヴァゲルト」

何語だろう……不思議な言語で喋るのを前に困するカップルを目に、恥ずかしがる様子もなくのはゆっくりとこちらへと進んでくる。おかしい、彼は上半をほとんどかさずにどうやって海の中を進んでいるのだろう？　とカップルが気がついたその瞬間、海の中から狼の頭が姿を現す。

「狼？！　何あれ……」

カップルが息を呑むが、のはニコニコ笑いながらゆっくりと海の中からその姿を現していく……海から現れたの下半には足が存在せず、複數の狼の頭と、力強い狼の腳を生やした……人間では考えられないような冒涜的な姿をしているのだ。

オデュッセイアを知っているものであったなら、その姿が神話に登場する海魔(スキュラ)であったことに気がつくだろう。しいの上半に複數の狼の顔と、たくさんの狼の足を生やした奇怪な怪……。

「フデュルゥゴ……ジェマドゥルディ。バーダー！」

海魔(スキュラ)が聲を張り上げると次々と東京灣から、奇怪な怪がオダイバの砂浜へと上陸していく。カップルの橫を恐ろしく巨大なカニのような生や、翼の生えた蛇、そして剣や盾を持った骸骨が姿を現していく。

あまりの現実離れした景に、カップルが呆然とその景を眺めている中……海魔(スキュラ)が彼らにニコリと笑うと、彼の下半から突き出した狼の顔がカップルを見て、ニヤリと笑う。大きく開いた口から涎が流れ……視界を大きく覆っていく。飛沫と、斷末魔の悲鳴が砂浜にこだまする。

「ヴァラヴァラ……フェンルゥイ……グラドゥマフイル……」

海魔(スキュラ)のしい上半の顔は、飛び散ったを指で絡めて舐めると、次第に混を増していく娯楽施設へと歩を進めていく。本能のままに殺し喰らい、混を巻き起こす……これが彼たちに課せられた使命。海魔(スキュラ)は邪悪な笑みを浮かべて、目の前のり輝く施設へと複數の足をかして歩いていくのだった。

『オダイバに火の手が上がっています！　大変なことになっています！　決して近くに行かないようにお願いします！』

テレビ中継のアナウンサーが火の手と悲鳴、そして混の巻き起こる夜のオダイバをヘリコプターから撮影しながらぶ。あまりに現実のない景、この平和な國に混と破壊が巻きおこっている。発音が響くと、娯楽施設の一部が煙をあげて消失していく。

『今何が起きているのでしょうか？！　オダイバは今大変なことになっています！』

アナウンサーの悲鳴のようなび聲が、日本全國に生中継されている。本當に誰もが何が起きているかわからない。し前、この國を大災害が襲った。その時もこの國に住む人たちは『今何が起きているのか』全く理解できなかった、まさに今それと同じ景が繰り広げられている。

『スタジオです！　今オダイバで何が起きているのでしょうか？　中継の栗林さん！　何が見えますでしょうか？』

スタジオの音聲が割り込み、張と使命からか栗林と呼ばれたアナウンサーは再び口を開こうとして絶句のようなうめき聲をあげた。

『あぅ……』

テレビキャスターが次にカメラを向けた先に不気味すぎる蜥蜴のような鋭い歯を持った飛翔する生が口を開けて襲いかかってくる景が畫面いっぱいに広がると、映像が途切れる。

『栗林さん！？　栗林さん！？　申し訳ありません、現在映像が途切れております！　オダイバで大変なことが起きています！』

スタジオのアナウンサーが悲鳴のような絶で、繰り返し途切れた映像の先にいるであろうアナウンサーを呼び続けている、誰もが何が起きているのかわからない、そんな夜が始まろうとしていた。

「あかりん……何が起きてるんだろう……」

私は……その様子を、ミカちゃんと寄り道したあと帰宅の最中にあったのだが、家電総合販売店の店頭で映し出されているあまりに混したニュース映像を見て絶句していた。

ミカちゃんがあまりに現実のない映像を見て、不安そうにつぶやく。彼を見るとし肩が震えているのがわかる。私のスマホが震えてメッセージを著信する……わかっているこれはＫｏＲＪからの呼び出しだろう。

「ミカちゃん、家にすぐ戻って。絶対に外に出ないでね、約束だよ」

「あかりん？　待って！？」

「いいね！？　早く家に帰って！　私バイトだから！　また明日！」

私はミカちゃんに微笑むと、肩をポンと叩いてそのまま走り出す……混が起きているとはいえ、この國の通機関はそう簡単に止まってしまうことはない。今ならＫｏＲＪに向かうことはそう難しくはないだろう。

私は走りながらスマホを作してメッセージを確認すると、そのメッセージは八王子さんからだった。

『急招集だ、燈君』

私はスマホをカバンへ放り込むと改札を走り抜けて、ホームへと上がり……ドアが閉まる寸前の電車へとり込み、ホッと息を吐く。

電車ではあまりに混した狀況に、乗客も皆スマホを眺めたり友人たちと不安そうに話し込んでいる。いきなり走り込んできた私を気に留めるような様子もない。

「なんて……なんてことしてくれたのかしら……まさか強手段に出るなんて……」

_(:3 」∠)_ ここから第一章の山場になります〜、ぜひお付き合いください

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