「……ちょ、ちょっと待って、がおかしいな……」

を震わせる低音にを委ねるようにリズムをとっていく、の奧から絞り出すように歌を奏でこめかみに流れる汗も、音楽にを任せながら揺らすも芯から熱くなって行く気がする……その時。唐突にに違和をじて軽く手を振って僕は音楽を止めてもらう。

軽くを押さえて咳き込むが、ユニットのメンバーは心配そうに僕の顔を見ている……軽く苦笑いをしてからテーブルに置いているドリンクを軽く口に含む。

調子は良い、というか良すぎてが痛みを発している気がする……それまでこんなに聲出てたっけな、僕。

「雅空、めっちゃ聲出てるじゃん、むしろ出過ぎてて心配なんだけど」

「うーん……なんでだろうね、久々のライブでテンション上がってんのかね」

プロデューサーの心配そうな顔に僕は笑顔で応える……でも確かにこの調子で聲を出すとライブの途中で簡単に潰れてしまうかもしれないからだ。

Ｗｏｒｄ　ｏｆ　ｔｈｅ　Ｕｎｄｅｒｗｏｒｌｄはアニメ主題歌を歌っていることでモノ扱いされがちだが、専門家からの評価も高く僕個人としては音楽で勝負をしたいと思っている。だからこそ、手が抜けない……全力で目の前のライブを功させたいのだ。

「よし……じゃ続きやろう……いけるよ」

軽く発聲練習を繰り返していくと、自分の思った通りの歌聲が出せるようになる。し抑えめに発生した方が調子が良くじる。

ドクン、と心臓が大きく鼓を上げる……テンション上がってきたな……僕はマイクの位置を調整すると再びライブに向けた練習を再開する。

先日きたあのおじさんが連れてたアルバイトの子高生、立川さんって言ったっけ、ちょっと可くてよかったな。僕のファンは子高生も多いけどちゃんと制服では來ないようにお知らせを出しているからなかなか見ない格好だなあと思って新鮮だった。

「う……ぐっ……」

あの子だけじゃなくて、ファンの子は皆可い子が多くて……みんな僕のことを見てくれているんだよなあ。再び心臓が高鳴るようにき始める……が熱くなる、まるで自分が自分自ではなくなるような……。

強く、強く自分の中に押し込めていたが熱風のように吹き荒れていく……他者よりも上の存在になりたい、誰もが僕を好きになってほしい、そして他人を支配したい。

そんなが強く吹き荒れていく……どうしたんだ？　僕は今までこれをしていたのだっけ？　強いに翻弄されるように僕は頭を押さえてその場に座り込む。

「お、おい……雅空？　どうした？」

「雅空！　お、おいまずいぞ！　救急車、救急車呼んで！」

僕は急にの自由が効かなくなるような覚に襲われて床へと倒れてしまう……が凄まじく熱い……まるで、熱が出ているような……視線の先に自分の手が見えているが、そこで異変に気がついてギョッとする。

まるでその手は人の手ではないかのように虹の鱗が出し、鋭く尖った爪のようなものが生えた、怪のような手に見えたからだ。

だが、何度か瞬きをしてから再び手を見ると自分の手がそこにはある……目も熱い……苦しむ僕を懸命に開放しながら、プロデューサーやユニットのメンバーがあわてて僕を揺りかしているのを、どこか遠くにいるような覚で見ながら、僕の意識は浮遊に包まれていく。

その時、暗闇の中で僕に語りかける聲が聞こえる。その聲はまるで神様のような……とても威厳のある聲で僕へと優しく話しかけてきた。

『……みを言うといい……君は私の象徴(シンボル)を手にしている。君の葉えたいを私が葉えてあげよう、みを言うといい、それが君と僕との約束事になるよ』

「Ｗｏｒ(ワー)様のってなんなんですか？」

リムジンの後部座席でアンブロシオと向かい合って座っている立川が唐突に口を開く……窓の外を眺めながら、アンブロシオは薄く笑みを浮かべると、そのままの姿勢を崩そうとはしていない。

無駄なことを聞いたな……と立川が手にしているスマートフォンの中から最近のＷｏＵに関するニュースをチェックし始めると、アンブロシオが窓の外を見たまま話し始める。

「人間のは深いものだ、食べること寢ることに代表されるは全ての人間が持っているものだ」

「は、はあ……」

急に話し始めたアンブロシオに驚いてスマートフォンをあわてて鞄へと詰め込むと、立川は姿勢を正して魔王様の次なる言葉を待つ。

急に話しかけないでほしいなあ、もう……立川が心の中で悪態をついていると、アンブロシオは再びくすくす笑う。まるで立川の仕草や考えが面白いとでも言わんばかりの反応で、彼は思わず心を読まれているかもしれないという恐怖に囚われて、背中が寒くじる。

まだ傷が完全に癒えているわけではないので、なんとなくだがその傷がちくちくと痛むような気がして顔を顰める。

「彼はあの象徴(シンボル)を言われるまでもなく自分で選んだ、特に虹大蛇(レインボウサーペント)は特別だ」

虹大蛇(レインボウサーペント)は異世界においてこの大蛇は神話の時代にとある神にされた小さな神の使い(セイクリッド)として生まれ出た一族だ。

神の使い(セイクリッド)として知られるものは牙豬(タスクボアー)や剣虎(サーベルタイガー)、大山貓(リュンクス)などもその分類に該當し、祖先となる個が神話時代から存在している。

さて、祖先となる最初の虹大蛇(レインボウサーペント)はしい鱗の紋様は見るものを魅了し、支配し、そしてる能力を有しており彼の飼い主であった神はまた従順なこの神の使い(セイクリッド)とその能力をこよなくした。

あの象徴(シンボル)はその最初の個(オリジナルワン)と繋がるための呪……彼のが虹大蛇(レインボウサーペント)をかすかどうか？　はまだわからない。

アンブロシオがまだキリアンと言う名前で活をしていた頃、別の神の使い(セイクリッド)たちと邂逅する経験が數回あった。神により生み出された神の使い(セイクリッド)は最初の個(オリジナルワン)でなくても人の手には余るレベルの戦闘能力を有しており、地方によっては信仰の対象となることすらあった。

あの絆の牙豬(タスクボアー)もその一族の中でも祖先に近い存在だったはずだ。それ故に普通の人間ではそう簡単に倒せるような代ではない。

この世界で顕現させた場合どうなるのか？　それはそれで興味深い結果をもたらすのだろう。

「……魔王様に文句を言うわけじゃないですけど、私本當にファンだったんですよ……幻滅してます……」

本當に傷ついた表で立川が頬を膨らませて抗議をし始める……アンブロシオが窓の外を見ることをやめて彼を見ると、ほんのしだけ目に涙を溜めている立川を前にして、彼は黙って彼の頭へと手を乗せてそっとでる。

驚いた立川がアンブロシオを見ると、その表は恐ろしく慈に満ち、まるで天使を目の前にしているのか？　と思うくらいの神々しさを放った笑顔を浮かべている。

立川は黙って彼の顔を見つめていると、アンブロシオはそっと彼の頭をでていた手を元に戻すと黙って窓の外へと再び視線をかす。

「……人のは限りない、それは私も同じだ。彼が支配を選ぶかどうかはまだわからんよ……ファンは続けてあげなさい」

『Ｗｏｒｄ　ｏｆ　ｔｈｅ　Ｕｎｄｅｒｗｏｒｌｄ、ボーカルＷｏｒ(ワー)様が倒れるも、復調へライブは開催予定』

「……あかりん、私たちの祈りが通じたね……無事だって」

「よかったねえ……これで私たちもちゃんと応援できるね！」

ネットニュースに流れたこの話題を見て、私とミカちゃんはほっと息をで下ろした……明日開催のライブが初日なのだが、私たちは翌々日のライブに行く予定なのだ。

嬉しさのあまり二人で騒いでいると心葉ちゃんがあまり興味のなさそうな顔で、スマホの畫面で同じニュースを見ているが、彼もほっとをで下ろすかのような、軽いため息のようなものをついたのを私は見逃さなかった。

「……心配だったでしょ？」

「いいえ、別に私はライブに行けなくても問題ないので」

私が彼へとニコニコと笑いかけるが、心葉ちゃんは黙って視線を外す……またまた、知ってるんですよぉ。授業中もしれっとスマートフォンにれてあるＷｏｒｄ　ｏｆ　ｔｈｅ　Ｕｎｄｅｒｗｏｒｌｄを聴いていることを！　彼は結構なんやかんやハマってるようで、通學中も完全ワイヤレスイヤフォンを耳に突っ込んでずっと聴いていると言うことも……。

軽く彼の肩を叩くと、私は自分のスマートフォンでそのニュースを開いて見てみる、いやあ尊いなあ……前世でもお気にりの遊詩人に街へ來たら歌いに來てくれ！　とキリアンとノエルはよく頼んでいたのだけど、それと同じような気分だな、うん。

『……お前が本當に前世がノエルなのか疑いたくなってきた……なんなんだこの音は……』

全て壊すもの(グランブレイカー)が思い切り呆れたような聲を響かせるが……いいの！　私はノエルの記憶や魂をけ継いでるけど、今は日本の子高生なんだから！

そう心で答えると、やれやれと言わんばかりのを浮かべて黙り込んでしまうが、それでも私がそういうや、趣味を持っていると言うことはノエルも実は素養はあると言うことだろうしね。

だがしかし、私はそのネットニュースを見てし疑問を持った……退院したＷｏｒ(ワー)様が手を振っている畫が流れているが、彼の後ろにどこかで見たようなスーツの男が笑顔で立っているのが見えたからだ。

『……どう言うことだ？』

それは私も聞きたい……このスーツ私は見覚えがあるぞ……私のが不安をじて大きく高鳴る。そのスーツと金の髪、そして背の高い東歐貴族風の外見。

し解像度が高くないので細かいパーツまでは見えていないが、紛れもない……これは。姿形は変わってしまったが、その姿はあの煉獄の花(ヴルトゥーム)でも出會った前世の仲間、そしてこの世界を侵略している異世界の魔王。

「アンブロシオ、いやキリアン・ウォーターズ……どうして……」

_(:3 」∠)_　音楽ユニット編の話はずっと書こうとしてなかなか手がつけれんかった部分なんで、ちょっと楽しみです。

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