「……ぐ……治癒(ヒール)……まさか見えないとはな……」

「治癒魔法……か」

アンブロシオの言葉と同時に彼の手のひらが軽くり、背中についたはずの傷が消滅していく、前世の仲間だったアナも使用していた治癒魔法、キリアンも彼から教えてもらった神聖魔法を使いこなしていたんだっけ。

しかし手応えは十分あったにもかかわらず、魔法一つで傷がなかったことに！　というのはすごくズルいぞ！　私なんか大怪我したら手したり、リヒターのスッゲー中途半端な治癒魔法しか使ってもらえないのに。

「いやいや、驚いた……ミカガミ流の技に一瞬で背後を取る技があるとは聞いていたけど、ちゃんと使いこなしているとは……」

「尾巻いて自分の世界に帰るなら今のうちよ？」

私が全て破壊するもの(グランブレイカー)の切っ先をアンブロシオに向けると、彼は片手で顔を覆うように笑い出す……なんだ？　何がおかしいんだ？

ひとしきり笑いを堪えるように震えていたが、その震えが止まるとアンブロシオが顔を上げる……その表にはそれまでも浮かんでいた笑みがまだ浮かんでおり、私を赤い目でじっと見つめる。

「尾巻いて帰れ、とは隨分だな……そもそもお前はまだ勝っていないではないか」

ま、そりゃそうか……とりあえず一撃れた、ってだけだもんな。私はその言葉には何も答えずに、一気に前へと出る……今押し込まないとなんかヤバい気がずっとしているからだ。

一気に向かってくる私を見て再びもたらすもの(ライトブリンガー)を構え直したアンブロシオは私の予想に反して、前に出てきた。なんだと……だが考える余裕はそれほどない、私は一気に技を繰り出すべく全て破壊するもの(グランブレイカー)を振るう。

「ミカガミ流……泡沫(ウタカタ)ッ！」

私の泡沫(ウタカタ)……以前は片手で繰り出していたけど、全て破壊するもの(グランブレイカー)のサイズが大きくなってしまったため両手を使って振るうようになっているが、ほぼノーモーションの橫斬撃は回避自が恐ろしく難しいはずだ。

だが、アンブロシオは片手で持ったもたらすもの(ライトブリンガー)を使ってその超高速の斬撃をけ止める……甲高い金屬音が鳴り響き、異世界最高の能を持つ二本の剣が衝突し火花を散らす。

「泡沫(ウタカタ)はノエルがよく使っていたからね、これはわかるよ」

「くっ……なら……蝶(アゲハ)ッ！」

私は刀を引くようにを回転させると、下から切り上げる。蝶(アゲハ)は下段から上段に向かって振り抜く技だが、これも単で出すよりかは技の中に組み込む形もノエルは得意だったっけな。

その蝶(アゲハ)もアンブロシオは余裕の表でロイド眼鏡を片手で直しながらをひくように回避する……私はそのまま距離を取るように後ろへとステップしつつ、背中に回していた鞘を腰の金へと差し替え、全て破壊するもの(グランブレイカー)を納刀し著地する。

「……クフフ、いいね。流れるようなきだ、ノエルよりも繊細で素早いな」

「ミカガミ流……閃(センコウ)ッ！」

鞘の中で加速させた全て破壊するもの(グランブレイカー)を一気に振り抜く……ミカガミ流といえば閃(センコウ)、閃(センコウ)といえばミカガミ流、とは言い過ぎかもしれないがともかく私も前世のノエルもこの技には絶対的な信頼を置いているのだ。

アンブロシオの反応が遅い……私の斬撃が彼の首筋へと迫る……ここで倒すッ！　だが彼は私を見てし殘念そうな目をしていた。

「そんなチンケな技で、俺の死を……期待したのか？　新居　燈……」

口元を歪めたかと思うと、凄まじい速度、抜き打ちをするかのような敏捷さでアンブロシオがもたらすもの(ライトブリンガー)で私の斬撃をけ止める。

そのきはまるで私が今使った閃(センコウ)のような軌道をとっている……なんだ？　これは構えや居合抜きではないにもかかわらず閃(センコウ)と同じ技？！

「な……これって閃(センコウ)？！　なんであんたが！」

「ご名答……ただ僕の技は君ほど攻撃に振っていない、僕なりの解釈を合わせた閃・改(センコウ　カイ)といったところか……」

両者の閃(センコウ)がぶつかり、火花と激しい衝突音が響く……だが大きく私の全て破壊するもの(グランブレイカー)が弾かれ、私は柄から手を離さないものの、衝撃の大きさから構えを崩してしまう。

なんだと……私の閃(センコウ)が？　ノエルからけ継いだ技の中でもこれだけは私も自信を持って振るっていた……絶対的に私が信じる技の一つ、それを片手で？！

驚愕に目を見開いたまま、私は揺から無防備な勢をアンブロシオに曝け出す……ま、まずい、剣を引き戻して防を……私の視線が弾かれた全て破壊するもの(グランブレイカー)へと向いてしまった次の瞬間。

「……え？」

まるで豆腐でも貫くように鋭いものが戦闘服を突き破り、腹部に熱い焼け焦げた鉄のようなものが突き刺さる覚と、し遅れて凄まじい痛みが加わる……視線をかして自分の腹部を見ると、そこに突き刺さったもたらすもの(ライトブリンガー)が見える……そしてアンブロシオの歪んだ笑みと赤い眼が……私は痛みにき聲をあげそうになるが、の奧から熱いものが迫り上がってくるのをじて軽く咳き込む……。

ずるり、ともたらすもの(ライトブリンガー)が引き抜かれ、私はその場に片膝をつきながら手で傷口を押さえてく。

「う、あああ……げふっ……う……」

「ダメじゃないか僕を見ていなければ……」

アンブロシオがもたらすもの(ライトブリンガー)に付著した私のを指先で絡め取って、舌で舐めとる……私はなんとか立ち上がるが、膝が震える……どろり、と腹部から足にかけてが流れ出している覚をじる。

まずい、まずい……痛みに歪む私の表を見て、アンブロシオが抜く手も見せずに私の頬に掌底を叩き込む……この攻撃は見えなかった……痛みで視界が狹まっているのか、私はそのまま吹き飛ばされて數メートル先の地面に倒れ伏す。

「あああ……こ、こんな……」

立ちあがろうとして視界の隅にぼたぼたと垂れる真っ赤ながり、私は急に背筋が寒くなるのをじた……怖い？　まさか……今まで降魔(デーモン)と戦っていた時ですらそこまで怖いと思ったことはないのに……目の前で歪んだ笑みを見せている魔王のことが怖い？

腕が震える……泣きたくなるような気持ちを抑えて必死に立ち上がろうと前を向いた瞬間、視界一杯に革の靴が見える……アンブロシオが容赦無く私へと蹴りを叩き込む。

「ひうっ……！」

「クハハ……いい聲で鳴くじゃないか、なあノエル！」

そのまま地面へと這いつくばった私に向かって猛烈な勢いで蹴りを叩き込む始めるアンブロシオ……私はなんとか顔とお腹の傷を庇おうとして防するが、彼は狂気に歪んだ笑顔を浮かべながら私にを蹴り続ける。

衝撃をけた傷口からが流れ、その度に気が遠くなりそうな痛みをじて私は悶絶をしている、頭や背中もアンブロシオの容赦ない蹴りで強い痛みを発している。

彼は私の肩に足を乗せるとそのまま踏みにじるような格好で力を加えてくる、私は目に涙を溜めながら必死に防を続ける。

「い、いやああ……痛い……痛いよ……」

「ああ、お前のそんな悲鳴が聞けるなんて、僕は幸せだ……もっといい聲で鳴き喚け、もっとだ、もっと悲鳴を上げろノエル！　絶と苦痛の悲鳴を聞かせておくれ、その聲がこの世界の鎮魂歌になるだろう」

容赦なく私に向かって蹴りを叩き込んだアンブロシオは興で息を切らせながらも、宙に舞うと必死に防を行なっている私の苦痛に歪む顔を見て満足そうに舌なめずりをしている。

牙を剝き出しにして笑うアンブロシオが私の腹部を思い切り蹴り上げ、私はさらに數メートルなすすべなく飛ばされ、地面に倒れたまま悶絶する……苦痛で私の思考が鈍っている。

次の瞬間、アンブロシオは笑顔を浮かべたまま私の髪のを暴に引っ張り、無理やり顔を上げさせると顎を摑んで空を見上げさせる。

「い、痛いッ！　や、やめ……やめて……」

「空を見ろよ、ノエルゥ……もう滅びの時間は近いぞ？　の柱を見るんだァ……私が異世界で育したものたちがもうすぐやってくる……クハハハッ！　お前はその景を見ながら俺に平伏すんだァ！」

私の頬を興した顔のまま舌でベロリと舐めるアンブロシオ……その歪んだ笑顔と、興したような息遣いに強烈な不快を覚えるががかない。

震える私を見て彼は満足そうな笑みを浮かべると、次の私の肢を観察するように上から下へと眺めていく……そしてある一點を見直すと笑みを浮かべた。

アンブロシオはそのまま私のを無造作に摑むと、軽くみしだくようにその大きさとを確かめ、下卑た笑みを浮かべて私の反応を見ている……悔しさと怒りで私の顔が紅する。

「や、やめ……」

「ああ？　隨分と恥ずかしがってるじゃないか、グフッ！」

なんとか反撃を……私はなんとか拳を握りしめると思いきり油斷しまくっている彼の顔面に叩き込む……それと同時に無理やり髪のを摑むアンブロシオの手を払って、距離を取る。

息を整え、口元を軽く拭うと口の端からが滴っていたのか、袖口に赤いものがつく……臓に傷がってるのか？　あんまり長く戦うと不味そうだな……私は軽く腕を振るい、取り落としてしまっていた全て破壊するもの(グランブレイカー)を呼び出して再び握り直し、息を軽く整える。

「はあっ……はあっ……このゲス野郎……勇者(ヒーロー)のくせにどこまで……」

「ヒハハハハッ！　お前はこの世界の人間になって脆くなったなぁ？　いやに転生したからか？　お前は黙って僕に殺されればいいんだヨォ！」

アンブロシオが流れ出た鼻を指で軽く拭うと、恐ろしく大雑把なきで剣を振るう……勝ったと思ったのだろう、痛めつけて、屈辱をじさせて、反撃も大したことがない、とタカを括ったのか。

だが私はこの局面において急速に頭の芯が冷えていくような、凄まじい集中力をじている……まるで全てのきが遅くなったかのように、時間の流れが遅くじる。

「……何ッ？」

前を向いた私の表が恐ろしく引き締まっていることに気がついたのか、アンブロシオの表が消える……だがはそううまく軌道修正できない、彼の斬撃は恐ろしく雑でわかりやすいもの……つまりはボクシングなどで言われるテレフォンパンチ、軌道やきなどがわかりやすい一撃だった。

私は本當にギリギリ、紙一重の距離でその攻撃を避けると、何千、何百、何萬という數を前世のにそして、時間があればずっと反復練習を行なってきたきそのままに、刀を振るった。

「ミガガミ流……絶技、叢霞(ムラガスミ)」

_(:3 」∠)_　勇者ってこんなんだっけ！？　と書きながら悩むw

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