《HoodMaker:馴染と學生起業を始めたのはいいが、段々とオタサーになっていくのを僕は止められない。<第一章完>》変わった言い回しと遠回りが好き

倒れてしまったせいか、それとも強い日差しにやられてしまったのか、僕の口から思ったような言葉が出てこない。

「本當に大丈夫? 頭とか打ってない?」

の顔がぐっと近づく。すると風に乗ってらしい匂いが……。

「は、はい! もう全然!! これくらい大したことないですよ!!!」

慌てて立ち上がり、一歩彼から距離を置く。

「そう? ならいいんだけど……」

この心配そうな顔が目の前にあったかと思うと、呼吸が荒くなってしまう。

「えっと、その……ありがとうございます。今、同じやつ買ってきますので、近くで待っていてもらえませんか?」

「あ、いいよいいよ」

はにっこりと笑う。

「でも、悪いですし」

「いやいや、むしろこちらが買いに行かないといけないぐらいだよ」

そう言うと彼は持っていた麥わら帽子を元まで持ち上げた。

「……あ!」

そこで気づく。

「ありがとね。かぶってはなかったのだけれど、気を抜いた瞬間に……バッとね。飛んでいっちゃったから……」

「車道に出る前でよかったです!」

辺りには僕ら以外歩行者はいない。きっと僕が摑めていなければ無殘な姿になっていただろう。それに気づくと、先ほどよりも大きな満足が全に広がる。

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「……そうだ。君に何かお禮しなきゃね」

すると彼は自分の手持ちのバッグをまさぐりだした。

「別にお禮だなんて……」

遠慮しようと聲をかけるが、彼には僕の聲が屆いていないようで。

「これじゃない……これでもない……」

そうやって中から出てくるのは、財布やスマートフォン、文庫とポーチにカッターナイフ、分厚い封筒と白いった袋……。

「うーん。よさそうなはないなぁ。いや、私が持っているはずもないか……」

一瞬見てはいけないを見てしまった気が……。

「別にいいですよ。気にしないでください」

そこでもう一度聲をかける。

「でも……」

「大丈夫ですって。さっき、水貰いましたし。それにほら。よく言うじゃないですか。貸しは返してもらわない方が利益になるって。だから、その場のギブアンドテイクとかじゃなくて……」

そんな思いついただけの言葉の羅列を先にして、更にそれっぽい次の言葉を探す。

「だから気持ちだけで十分! むしろ話のネタを拾えてラッキーです。あ、なんなら面白い一言頂ければ最高なんですけど」

「…………」

黙ってしまった。僕は一何を言っているのだろうか。

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急いで訂正しようとすると、彼が先に口を開く。

「……君、面白いこと言うね」

じっとこちらを見てくる。

「そ、そうですか?」

「うん。普通そんなこと言わないし、考えもしないから……それでその利益ってどうやって回収するの?」

「うっ」

半分以上が口から先に出て來た言葉ばかり。どう返事すればいいのやら。

「えーと。それはなんか巡り巡って……みたいな?」

「それってスピリチュアルみたいなじ? なんとかの法則みたいな」

難しい顔で彼は聞いてくる。

「いや、ではないです……ただなんとなくそうなのかなって………」

その返事に彼は目を丸くして。

「あははは。なんだそりゃ」

そう言って笑いだした。

「ほんと、なんだそりゃなんです。なので気にしないでください」

笑って貰えるとは思わなかったが、こんな奇麗な人の笑顔を見られて悪い気はしない。

「ふーん。そうかそうか。面白い一言ねぇ……それじゃあ年、君は……こういったものが好きだったりする?」

そう言って出てきたそれは、手のひらサイズの『エナジードリンク』の形をしている玩だ。

「君(ヒーロー)には相応しいかなって」

手渡されたそれをまじまじと見つめる。真っ黒な塗裝に引っ掻かれたかのような赤い縦線。禍々しい目の形をしたセンサー。底の方には妙なくぼみが彫られていて、ここに何かがハマるようだ。裏面に商品報はなく、代わりに『小さなボタンが二つ』ついている。

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ポチ。

『シャキーン! エナジーパゥワァー♪ 始業ターイム! ごく・ごく・ごくっ! メガシャキ・マッザーイ!』

え? 今なんて?

良く聞こえなっかたが、始業が何とかって言っていたような…………気のせい?

「…………(じー)」

う僕に対し熱い目線をじる。

「…………えーと」

「変…………ですか?」

軽くそれっぽいポーズをする。

「おお~年は分かる口か!?」

嬉しそうに拍手する彼。だが。

「いや、さっぱりです」

僕は正直に答える。

「ありゃ……」

「一応………日曜の朝にやっているヒーローの変アイテムなんだろうなってことぐらいは、なんとなく分かりますけど……」

でもこんなにいかついデザインの玩初めて見た。

小さなころにれた玩の質を思い出す。角が削り取られた、安全を考慮したフォルム。

らかで艶やか。それでいて強く主張するデザイン。

これはどうなのだろうか。あの頃と比べてみると大人っぽいデザインに近づいている気もする。それにデザインのテーマは『仕事』と『飲料水』……? もしかするとサラリーマン×ビールとか、ボディビルダー×プロテインとか、そんな組み合わせで変したりするのだろうか。

「でもまぁ、嫌いではないですよ。一応僕も男の子だったので……」

手のひらで転がしてみる。よく見るとただ音が鳴るだけではないようで。

……うずうず。

ポチ。

『必殺・サービスタァァイム!!』

『殘業ッ! 持ち帰りッッ! 休日出勤ッッッ! アタマスパーキング!!』

ジャキンッ! ジャキンッ! ジャキジャキーン!

…………。

「どう!?」

はこの玩と同じように両目を輝かせながら聞いてくる。

「あ~う~ん。えーと………………お返しします」

「そうか……」

し殘念そうである。

きっとこの玩には僕の知らない良さがあるのだろう。彼はそれを知っていて、尚且つお禮にと選んでくれた訳で、ここで無下にするのは失禮だろう。

「そ、そう!これ結構高くありませんか?」

それで僕は前向き話をしつつ、遠慮する流れを選ぶ。

「ほう」

「なんというかですね。ほら、結構ずっしりしていて、中がしっかり作りこんであるじがしますし、子供頃に見たやつよりもボタンも押しやすい。それに多分……」

返す前にもうひとつのボタンを押してみる。するとエナジードリンクが変形。中に描かれている紋章が見えるようになる。そして。

『リミットブレェエェェェェェイク!』

『超必殺! ユウキュショウカ・コンプリィィィィィートッッッ!!』

今度はド派手なBGMまで流れ、辺り一帯に恥ずかしいセリフが響く。

…………。

「あぁ~……うん。思った以上に…………ヤバい玩ですね」

「うんうん。そこがいいんだよ!」

そこには満面の笑み。

ポチ。

『お家帰りたあああああああああああああああああああああああい!!』

「…………」

「…………」

無言。そこには風と波の音だけ。

から顔を上げると想を待つ彼の姿がある。

「あーすみません。これお返しします! 無理です。恥ずかしすぎます!」

もう耐えられない。痛い、痛すぎる。

「待って! ちょっと待って!!」

「いや、ほんと、そんな頭おかしい玩いらないんで!」

「で、でも、せめてその怪我くらいは!」

立ち去ろうとする僕を彼が必死に食い止める。

「怪我?」

「ほら、左のひじ」

「あっ……」

強く打った右ひじではなく、反対の肘に赤いが浮かび上がっている。まったく気がつかなかった。

「こ、これくらい大丈夫ですって」

殘っていたミネラルウォーターで洗い流す。

ちょっとだけヒリヒリする。これでよし、と思いきやしばらくすると再び赤くなる。

「そうだ。ちょっと待ってて」

そう言って彼がバックの中を探り中から取り出したのは小さなポーチ。更にその中から顔を出したのはピンクの絆創膏。

「ほらそこに座って」

そして促され低い塀に座らされる。

「また……変なのじゃないですよね?」

「ごめんごめん。さっきのは冗談だって」

「初対面に冗談も何もないと思うんですが……」

「あ、あはは……ちょっと、調子乗っちゃって」

「ええぇ」

「いや~だって君が『話のネタ』がしいっていうからさ。そう振る舞ってみただけなんだけれど……」

「あ~~~~」

確かにそんなことを言った気が……。

「ならこれぐらい刺激的な方が良いと思って」

「な、なるほど……」

「嫌だった?」

そう言われてしまうと急に申し訳なくなる。

自分の発言であんなことをさせてしまったのなら、一言謝罪を……。

「す、すみま……」

「やはり『ニート』×『自己啓発』怪人ぐらいのカオスアイテムじゃなきゃ刺激が足りないか」

何故そうなるっ!?

「うん? 何か言った?」

「いえ、なんでもないです」

「そう? ……あ、そうだそうだ。腕、出してもらっていいかな?」

「えっと、こうですか?」

言われるがまま腕を差し出す。

ぺたり、ペタペタペタ。

え? ええ!?

他にケガがないか探しているのか、彼が僕の腕にれる。

「自分でるのは難しいでしょう?」

出來ないことは無いが、肘に絆創膏をるのは々億劫かもしれない。

ただ、それ以上にこの……が。

「痛かったら言ってね」

「うう……お願いします」

自分よりもいくつか年上のが目の前にいる。互いの吐く息さえ聞こえる距離だ。彼は汗ばんだ僕のなんて気にする様子は無い。らかい手と腕が吸い付くようにれ合う。

ち、近い!

大きくはだけた元を見ないよう海岸へ目を向ける。しかしそれがいけない。どうしても彼と接している部分が気になってしまう。

「もう一枚っておくね」

「あ、はい」

もう一枚。肘以外にもが出ているのだろうか。すると彼は僕の短い袖を捲くり、腕をぐいっと持ち上げる。

「もうちょっと待ってね~」

側へるように手がびてくる。

「ひぃあっ!!」

「ごめんね! 痛かった?」

「いや、だい…じょうぶ…です」

今、僕は脇の下を見せ付けるような格好だ。

あぁ……だめ。駄目だって。

正直、々と気になってしまう。

ペリペリ……ペリペリ。

絆創膏のフィルムが剝がれる音が聞こえる。

「君、何かスポーツでもしているの?」

「と、特には」

「本當に~?」

は畳まれた二の腕が作る小山に目をやっている。

「時々走ったりするぐらいで特段何かしてるわけで………っ!?」

その小山をつんと指先でつつかれる。

「はひっ……一応護をならってました」

おかげで直ぐにゲロってしまう。

「くくくっ。やっぱりね。いかにもインドアって顔しているけれど、結構つきがいいからさ」

「むぅ……ありがとうございます……」

一応褒められたのでお禮を言う。

「それで今はやってないの?」

「一応、験生だったので」

「ほう。と言うことはもう大學生か」

「はい……學式は終わって、今は授業を選んでいます」

「キャンパスライフは楽しみ?」

「さあ……どうなんでしょう」

その質問に曖昧なまま返事をする。

「何か……不安だったりする?」

「不安というか……」

「あまり興味ない?」

「そんなことはないです、けど」

返答に困る。

「けど?」

「正直に答えると多分こんなもんなんだろうな……って」

別に不満があるわけじゃない。ただし増えた自由を持て余している。

それだけの事だ。きっとそこには……。

「平和な日常と辛い日常。楽しいことも面倒くさいこともあって、あっという間に時間が過ぎていく――」

そして獨り言のように僕だけが語り続ける。

「――途中、勉強するだけじゃだめなんだろうなって気づいて、人脈作りとか、大人になる準備をして……時には馬鹿して、それが出來るのも今のうちだとか言われて、自分のことを特別だと思ったり、凡人だって気づかされたり、真剣に努力したりして、時には躓いて、心が折れたり、その……つまり……」

―――――――。

「……よく分かんないです」

それっぽいことを繋げるだけ繋いで、あとは投げてしまう。

「ふふふ」

そんな脈絡のない言葉の連なりを、彼は馬鹿にせず優しく笑った。

「青春してるなぁ」

「別に青春なんて……」

そんな特別なものなんてしたことない。

努力も実績も個も誰かと比べるほどのものでもなく、強いて言えば親の顔を知らないぐらい……。

「はい。OK」

ようやく腕から手が離れる。しだけ名殘惜しい。

「ありがとうござい……!?」

よく見ると、絆創膏にプリティでキュアッキュアなイラストがプリントされている。

「ふふーん♪」

やられた。

「そういえばさ。君、名前は?」

「名前ですか?」

そう聞かれて自分の変わった名前を口に出してみる。

「新城禮夢(あらしろ らいむ)。禮儀の禮、寢るとき見る夢で禮夢。因みに果のライムは苦手です」

「新城禮夢くんね~じゃあ」

「私は雪代雨(ゆきしろ あめ)。『雪の代わりに雨』の三つ漢字で雪代雨。皆からは『ゆきねえ』と呼ばれている。そう呼んでくれて構わない。むしろゆきねえでよろしく!」

まさかの呼び名を強要されてしまう。

「いやです」

「え~~~~」

「まだ會ったばかりですよ。いくらなんでも」

「大丈夫。私は『年』もしくは『君』と呼ばせてもらうから」

「意味がわからない!」

「あはは。やっぱり年は面白いなぁ」

「なんで僕は初対面のにからかわれているのでしょうか?」

「私の帽子を拾ってくれたから?」

「理不盡!!」

初対面とは思えない掛け合いにマラソン以上の疲れをじる。

「おおーー! 段々ツッコミの切れが増してるね~」

「な……僕は一何をしているんだ……」

「漫才の練習?」

「違います!」

「じゃあ……夫婦漫才?」

「ええ!!!?」

「そ、そんな僕たちまだ出會ったばかりで」

「冗談だよ……?」

「わ、分かってます!!!」

「もう。年のノリのよさもいけないんじゃないか?」

「ううう……」

「すみません」

「次までに自己コントロール出來るように努めなさい」

「はい……」

「……って、次があるんですか」

「うん?」

その返しに彼は首を傾ける。

「そうだな。それはあるかもしれないし、無いのかもしれない。ただ人生いつどこで何があるか分からないだろう? だからいいじで伏線を張っておくと楽しく生きられる妄想・空想は人生をより良くしてくれるからね」

「でも、次に會う確率ってかなり低いですよ。僕がこの道を選んだのって単なる気まぐれですし」

「素晴らしいじゃないか」

そんな否定的な僕の意見に対して雪代さんは笑顔で応える。

「素晴らしい?」

「だってそうだろう? 確定していない未來。けれどゼロではない確率。名前を知り、歳を知る。人柄を知り、自分を知って貰う。それだけで細い糸が、千切れそうで千切れず、細く、薄く、繋がっていたら……それだけで面白いなって思うんだよ」

雪代さんが自分の深く黒い髪をで風に乗せる。すると髪は薄いカーテンを作り、より多くのを捕まえようとする。風に抗うこともあれば、従うものもある。纏まっていたはずのそれらが、はらはらと散るだけで目が離せなくなる。

「……ははは。雪代さんも結構面白い人ですね」

「だろう?」

「じゃあ。そろそろ……」

可笑しくておかしな人。

でも嫌いじゃないかな。

「絆創膏ありがとうございます」

僕は立ち上がり禮を言う。

「こちらこそありがとう」

「はい。今度は飛ばさないようちゃんと持ってて下さいね」

「もちろん」

「それじゃあ」

僕は雪代さんに背を向けその場を後に……。

年!!!」

大きな聲で呼び止められる。

「まだ何かありますか!?」

二人の距離は互いの影二つ分。しばかし聲を張らないと聞こえない場所。

「一つ聞きたいことがある!」

「なんでしょう!」

「もし! 今この瞬間! 何でも一つ、手にるなら何がしい!?」

「え、今なんでもって!」

「ボケはいらない!!」

「うっ」

「生まれも、育ちも、思想も、世界の不條理でさえも超えて! 何だっていい! 一つ、手にるなら何がいい!?」

「それこそネタっじゃ!」

「ちがーーーう! ………ああ、もう!」

「ごめんなさい。ちゃんと答えますって」

そう返事をし、目の前の地平線を眺め考えてみる。

何がしい?

そうだな。

味しいが食べたい。

昔食べたチョコカステラ。

それにA&Mのコニードッグとオレンジジュース。

ハブ食堂のカツどん。

あやぶ食堂のAランチ。

屋で腹いっぱいになるまで、味いいを頬張るってのもあり。

いやいや、知らない高級店で高級食材を死ぬほど味わうのもいい。

そうだ。旅行にも行きたい。

島から離れて本土に行く。

ぐるっと日本を一周して、々なものを見て、出來るなら雪が見たい。

ここじゃあ全く降らないから。

一度でいいから雪だるま作って、雪合戦したい。あ、スキーとか楽しそう。

それに海外に行くのもありかな。し怖い気もするけれど。

…………。

いや、待て待て。もっと良いがあるだろう。

誰だってしいもの。

そう、お金だ。

まとまったお金があればある程度のことは出來る。

程よく投資して、稅金対策して、リスク回避すれば面倒な仕事はしなくてい。

味い飯を食べることだって、旅行だって、何でも出來る。

うん。それがいい。

でも『何でも』なら、もっと別の角度から………。

それこそ、超能力とかいいのかもしれない。

時間を止めるとか、時間移とか、異世界に行く……とか。

そうだ。

もっとスケールを大きく

もっと自由に

そう。極限まで行くのなら

『神』になるとか……。

「どう? 決まった?」

「そうですね」

もし

「何でも手にるのなら」

きっと

「僕は……」

こう言うだろう。

「一日分の幸せがしいです」

この作品を見つけてくれてありがとうございます。

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よろしくお願いします!!!

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